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2017年4月27日 (木)

東芝監査人交代問題-窮地を救うホワイトナイトは何処に?

多くのマスコミで「東芝が会計監査人の交代に向けて最終調整」と報じています。朝日新聞ニュースではすでに準大手の具体的なお名前も出ています(太●監査法人さん?)。東芝さんは先日、3Qの四半期報告書を開示しましたが、監査人であるPwCあらた監査法人さんは、意見(結論)を表明しない(結論不表明)とのレビュー報告書を出しました。東芝さんとしては、このままだと上場廃止になってしまうので、やむをえず監査人の交代を検討せざるをえない、ということですね。

マスコミ報道を読むかぎり、東芝さん主導で会計監査人を交代させる印象ですが、PwCの関係者の方々からすれば複雑な心境ではないでしょうか(守秘義務があるので取材に応じることはできない・・・)。

私は真相はまったく逆だと思います。2Qの決算が終了して「やれやれ」というところでいきなり「海外子会社で7000億の減損事由あり。社長が発表予定」と言われて、なぜ監査法人が「ああ、そうですか」と言えるでしょうか。現場の担当会計士の方々は耳を疑い、おそらく「生き地獄」に落ちて行ったと想像できます。PwCの上層部及び海外事務所は「契約破棄」「東芝へ損害賠償」と主張するのが筋で、それをなんとか「結論不表明」というところで妥協したのではないかと。PwCのほうから「もう、アンタとはやってられまへんわ!」ということでしょう。私はもう少し政治的判断で「限定付き適正結論」あたりがオトシドコロだと思いましたが、私の予想はかなり甘すぎたようでして、PwCの経営陣及び海外事務所の意見は相当に厳しかったと推測しています。

ご承知の方も多いと思いますが、監査人が「意見不表明」の報告書を提出するのは、財務諸表に対する意見表明ができないほど、会計記録が不十分であったり、監査証拠が入手困難である場合に限られています。この監査報告がなされると、「不適正意見」と同様に「その決算書は信用できない」ということになり、上場会社は上場廃止基準に抵触することになります(四半期レビューの結論不表明もほぼ同じ意味です)。上場廃止基準とは関係ありませんが、今後東芝さんが提出する内部統制報告書にも意見は出せないと思います。

東芝さんは「意見不表明というのは天災地変や監査書類の紛失など、物理的に監査に必要なものが出せない場合だけに限られる報告だが、うちは必要なものをすべて出しているのだからPwCはルール違反だ。けしからん」といった申し開きをされるのでしょうか。一方のPwCさんは「いえいえ、監査報告は監査法人の自主的判断で出せます。もっと必要な監査資料を出せといっているのに出さないのであれば、意見は表明できませんし、そのような会社側との見解の相違ある場合にも適用されます」と回答されるかもしれません。いずれにしましても、東芝の役員さんも、会計監査人であるPwCさんも、株主代表訴訟のリスクを負っているので「別れ際」には細心の注意が求められます。

会社法監査と金商法監査を担当する公認会計士は統一せよ、といった東証ルールがあるので(有価証券上場規程438条)、簡単には株主総会を開けない東芝さんの場合、交代後はとりあえず会社法監査のための「一時会計監査人」の選任を裁判所に申し立てることになると思います。ただ一時会計監査人の方は、期中の交代、しかも東芝さんのような大会社の計算書類の監査をどうやっておやりになるのでしょうか?元金融庁長官の方が顧問をされ、会計士協会の現会長さんの出身母体でもあるPwCさんが「これでは到底意見は出せない」と太鼓判(?)を押した企業の監査について「いやいや、PwCさんのほうが間違っている、東芝さんは現状で監査意見は出せますよ」と言い切って監査意見を出すホワイトナイト的な監査法人さんは出現するのでしょうか?(ちなみに法律の世界とは異なり、会計監査の世界では「セカンドオピニオン」はありません。意見不表明から意見表明というのが「セカンドオピニオンとは言えない」との言い訳はありそうですが・・・・・)

報道では「準大手の監査法人を軸に交代を検討中」「太●有限監査法人か?」とありましたが、私は多少の利益相反に目をつぶってでも、大手監査法人への交代しかないと思います(具体的にはK●M●さんと提携しているあ●●監査法人さん以外にはないのでは?--もちろん私の個人的な推測にすぎません)。ただ大手監査法人さんにも受ける、受けないの自由はもちろんありますので、どうコロぶのかはわかりません。

この東芝監査人交代は、東芝さんにとっての最大のピンチと考えているのですが、それにしても相変わらず時価総額は9000億以上、社債は2000億以上・・・・。なにか世間とは別の風がメガバンクと政府中枢あたりのインサイダーで吹いているのでしょうかね。。。せっかく監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)事務局が日本に設置されたのですから、監査の品質を悪化させるようなことだけは避けていただきたいと願う(上申する)ばかりでございます<m(__)m>

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コメント

私は、T監査法人に行くなんて、考え難いので、日経朝刊で記事が出た時には、「そんな馬鹿な事させるわけにはいかない」と考えた内部者がリークした記事だと思いました。でも、午後くらいには他の新聞も追いかけて報道し始めたので、どうなっているんだろうかと思っております。T監査法人の全社員が東芝チームにならないと監査は引き受けられないはず。もしかして、この2017年3月期だけT監査法人で乗り切って、2018年3月期に向けて、大手のA監査法人?などと考えたりもしますが、それもT監査法人を馬鹿にした話です。というか、そもそも東芝側の判断で監査法人を変更するような立場でも局面でもないだろうという思いが。そういう部分の裏を取ったうえでの報道なのだろうかと、新聞社の常識まで疑いたくなる気持ちです。

投稿: ひろ | 2017年4月27日 (木) 16時53分

>それにしても相変わらず時価総額は9000億以上、社債は2000億以上・・・・。なにか世間とは別の風がメガバンクと政府中枢あたりのインサイダーで吹いているのでしょうかね

東芝をインデックス銘柄に採用しているところは簡単に組み替えられません。GPIFも保有しています。おまけにアクティブファンドが買い支えしているような状況なので、200円くらいで張り付いているのではないでしょうか。とくにメガバンクや政府の思惑とは関係ないと思います。

投稿: 優駿 | 2017年4月27日 (木) 17時02分

以前、別の記事へのコメントで私は以下のように書いたのですが、新聞報道によると、それとは全然別の展開のようですね(笑)。
>記者会見の中で、監査委員長が質問に答えて、2016年3月期の決算に影響することはない、割と明確に言われてました。ということは、損失をどの四半期に計上するかという問題なので、年度監査上は、全く問題にならないように思います。

監査人が意見(結論)不表明、不適正意見(否定的結論)を出すことによる上場廃止は制度上、当然に予定されていることであり、それが機能するのは一般論としては良いことだと思います。
また、監査人が見つからずに上場廃止になる企業がある、ということは、まさに市場によるディシプリンであり、そういうことがあってもよいと思います。どこかが、無理に監査を引き受けて上場を継続するより、上場するに値しない企業が、監査人が見つからないことによって、市場から退出を迫られることは、市場の健全性を保つために必要なことと思います。

粉飾決算等による上場廃止の議論になると、責任のない株主にペナルティを与えるのがおかしいという議論が起きますが、現在の東芝の株価は、上場廃止リスクを織り込んでいるはずです。株主は現在の価格で市場で株を売ることもできますし、あえてそれをしないということは、そのリスクを取って投資をしていることですので、それは自己責任でしょう。

投稿: Beaver | 2017年4月28日 (金) 00時36分

ひろさん、優駿さん、私の思考が至らないところを解説いただき、ありがとうございます。
何人かの会計専門家の方のご意見を伺いましたが、ひろさんとほぼ同じ趣旨の見解でした。Tさんは立派な監査法人ですが、それでもやっぱり東芝クラスを監査するための人員派遣は困難ではないか、と。
M&A監査に関わり「利害相反にある」とはいえ、私はあ●●さんしかないのでは、と思うのですが。。。

投稿: toshi | 2017年4月28日 (金) 00時44分

Beaverさん、ちょうどコメントがかぶってしまいました。そういったご意見が出ると監査の重要性を説く当ブログとしては勇気が出ますし、そうでなければ監査制度の存在感はなくなってしまうのではないかと思います。日本の技術の流出防止問題は別の観点で解決すべきですし、上場にこだわるのは「株主の利益問題」に絞られてきたのではないでしょうか。
いまこそ監査人が「市場の番人」としての主導権を発揮していただきたい。

投稿: toshi | 2017年4月28日 (金) 00時55分

四半期決算の結論不表明なので、上場廃止にはならないが、年度末決算で適正意見を得られないと上場廃止になるので、監査人交代を検討、ということかと思っていましたが、東証の上場規程を見ると少し違うようです。
上場規定上は、四半期レビューにおける結論不表明(あるいは否定的結論)と年度監査における意見不表明(あるいは不適正意見)との間に取り扱い上の差はなく、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」は上場廃止になることになります。
もっとも、上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合も「直ちに・・・明らかであると当取引所が認めるとき」には上場廃止になる規定もあり、東芝は当然この規定にもひっかかっています。(だから特設注意銘柄になっている)
すなわち、東芝が上場廃止になるかどうかは、東証が「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである」と判断するかどうかにかかっており、監査人がどういう監査(レビュー)意見を出すかには、直接的には関係ないはずです。(既にトリガーはひかれており、ボールは東証にある。)
そう考えると、監査人を期中交代させるメリットはほとんどなく、監査人を交代するとしても2018年3月期からの交代にすればよいように思います。だとしても、新任監査人を探すまでの期間が短いことはには変わりないですが。
一体、東芝は何をあせっているのか?一連の報道は東芝への取材(リーク?)によるものだと思います。リーク報道により、あらた監査法人を揺さぶろうとしているのか?それとも、東証から東芝に何かプレッシャーがかかっているのか?まさか東証が上場企業にオピニオン・ショッピングを奨励することはないと信じたいですが。

投稿: Beaver | 2017年4月28日 (金) 01時19分

連続投稿、失礼します。
報道では、太陽監査法人の名前が挙がっていますが、それが事実なのかどうかさておき・・・、長年、監査業界に身を置いた人間の実感です。
こういう問題に対して、「リスクの高い業務を回避し、実施しないのが、公認会計士全体の信頼を保つ手段であり、公認会計士が採るべき正しい態度」と考える公認会計士と、「リスクを見極め、リスクがある程度制御可能ならば、あえてリスクの高い業務でも受嘱することが公認会計士の責任」と考える公認会計士とに分かれます。
おまえはどうかと問われれば、自分が個人としてどういう考えかは脇においておき、両者の考えの人間がバランスよく存在するのが、監査業界の好ましい姿だと思っています。
なお、太陽監査法人は、過去、「不適切会計」問題で揺れ、「監査難民」となった三洋電機の監査を引き受けたこともあり、おそらく経営陣の中に後者の考え方を採る方が多いのではないかと思います。だから、真偽はともかくとして、観測報道で名前が挙がるのかなと思った次第です。
また、今回の問題に関連して、「監査人が変わって判断が異なるのはおかしい」との意見も目にしましたが、違う人間がやる以上、微妙な問題で判断が異なることがあり得るのは当然ですし、異なりうるからこそ、監査という公共性の高い業務を民間契約で実施する意義があるのだと思います。

投稿: Beaver | 2017年4月28日 (金) 01時55分

三洋電機(懐かしい社名です)の場合とは事情が異なります。その説明は不要でしょう。東芝の現況に照らし、仮にT監査法人が引き受けるとするならば、・・の前提すら成り立たないのではないでしょうか。通常環境でも100名以上のスタッフが会社に貼りついて監査業務を実施できる体制が必要です。それほどのマンパワーを投入できる監査法人は4大法人以外にはありません。監査意見の表明において、どの様な意見を出そうが経済社会からは疑問や批判が監査人に対して投げられると思いますが、監査制度が社会インフラの主要な機能を担っている事を示す絶好の機会です。形式に問われない意見書を勇気を持って提出する事を強く希望し、期待します。会計士業界、とりわけ大監査法人が有事に際して「見ざる、言わざる・・」で、逃げ回るとなれば・・?。
なお、監査人は自己の判断により、自由に意見表明を行う事が出来ます。監査基準はこれに一応の指針を示したに過ぎません。東芝の監査報告書提出は公認会計士業界にとって最大の勝負場であり、実は何十万(以上?)の人々の生活に影響を及ぼす事案であると思っています。

投稿: 一老 | 2017年4月28日 (金) 11時57分

Beaverさんの書かれた「東証から東芝に何かプレッシャーがかかっているのか?まさか東証が上場企業にオピニオン・ショッピングを奨励することはないと信じたいですが。」ですが、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」の判断を東証がしたくない場合には、「なんとか意見不表明は避けてもらうてはないんですか?」と言ったという可能性はあるかと。それを受けた東芝は、意見不表明を回避すれば、上場廃止にならないと東証は判断していると考えて、監査法人を変えようと考えた。しかし、当初の粉飾決算についてガバナンス、内部統制に問題があったことの改善報告を出すどころか、次なるガバナンス、内部統制の問題が子会社で発生してしまったわけで、2017年3月期の監査意見に関わらず、上場廃止が相当なのではないかと思ったりします。甘い監査をした新日本監査法人が金融庁の公認会計士・監査審査会の検査を受け、4月14日報道では、意見不表明をしたあらた監査法人にも調査が入るそうで、甘くても厳しくても面倒な仕事、誰が引き受けるんでしょうか。東芝は、もう少し、謙虚になってほしいものです。また、東証も自分がすべき判断から逃げないでほしいものです。とはいえ、上記の東証のくだりは、憶測によるものだと言われれば、そうなんですが。

投稿: ひろ | 2017年4月28日 (金) 11時58分

日本取引所がこちらのコメント欄を読まれていたわけではないとは思いますが、東芝の監査法人変更は望ましくないというコメントをCEOが出されたようですね。当然のことではありますが、その当然のことを東芝が理解していなかったことが理解しがたいし、そのまま報道する新聞社も理解しがたいです。という意味では、一部の役員が「そんな監査法人、首にして、もっと理解のあるところに変えろ」とか言い出したのを見て、新聞各社に内部リークした記事なのではないかなと最初の想像に戻った次第です。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD28H81_Y7A420C1TJ2000/

投稿: ひろ | 2017年4月29日 (土) 10時59分

財務諸表が的確に財務状況を表示しているなら、過去に粉飾があろうとなかろうと適正意見を出すべきだと思うのですが、監査法人は世間の空気を読みすぎてる気がします。

WH株式を減損して、保証債務への引き当てさえ積めば、財務状況は正しく表示できるわけですし。

内部統制の問題も、財務諸表が的確に作れないほどに酷いとは思えませんし、監査の役割を理解していないアホな監査法人をクビにしたい東芝の気持ちもわかります。

投稿: 傍観者 | 2017年5月20日 (土) 19時39分

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