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2017年4月12日 (水)

東芝四半期報告書-なぜ「限定付適正意見(結論)」がもらえなかったのか?

皆様方すでにご承知のとおり、4月11日、東芝さんが3Qの四半期報告書を開示しました。業績が好調に推移しているセグメントもありますが、やはり記者さん方が注目しているのは監査人による適正意見が付かない報告書が出された、という点です(正確には「結論不表明」とするレビュー報告が付いた四半期報告書が開示された、ということです)。東芝さんのリリースには一般の人が読むと誤解を招く表現もみられますが、(EDNETで確認したところ)これまで1Q、2Qの四半期報告書に関するPwCさんのレビュー報告書には適正意見(※)はついていましたが、今回は意見不表明(レビューの結論不表明)ということになりました。ニコニコ動画で記者会見の様子を拝見しておりましたが、マスコミ関係の皆様の質問はやはり「これからもPwC監査法人から適正意見はもらえない、と考えているのか?意見がもらえない場合、監査法人を交代させるのか?」といったあたりに集中していたようです。

※・・・四半期報告書へのレビューなので「適正意見」といっても期末監査の場合よりも消極的な心証で足ります。正確には「無限定結論」「限定付結論」」「否定的結論」「結論不表明」と言いますが、ややこしくなるので期末監査の監査意見に合わせて、なるべく「適正意見」という言葉を使います。

私は会計や監査の専門家ではないので、全くの素人としての素朴な疑問ですが、東芝の社長さんは「上場廃止を避けるために全力を尽くす」と記者会見でおっしゃってましたが、ではなぜ限定付適正意見(限定付結論)をもらう努力をしないのでしょうかね?無限定適正意見(無限定結論)はもらえないとしても、ウエスティングハウス関連以外のところに限定して適正意見をもらう(適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められないとの結論をもらう)、というのはできなかったのでしょうか?そのほうが上場廃止の是非を判断する東証さんにとってもありがたかったと思うのです。

2013年の(上場廃止基準に関する)制度変更前のお話ですが、東証マザーズ上場第1号だったインターネット総研さんが(上場子会社だった)アイ・エックス・アイの粉飾決算に遭遇してしまって監査人から意見をもらえず、最終的には上場廃止になったことがありました。そのときに「こんな事情で当社が廃止になるのはおかしい!」と抵抗していたインターネット総研の社長さんのお話では、東証から「せめて限定付適正意見は監査法人からもらえないか」と示唆されたそうです(私は一部事件に関与しておりますので、詳しい内容は控えますが、この話は今でもネット上に社長さんのインタビュー記事として掲載されています)。また「三洋減損ルール」が話題となった三洋電機さんの会計不正事件が発覚した際には、監査人であるあずさ監査法人さんが2007年3月期の決算書に限定付適正意見を出しておられたものと記憶しております。

今回の東芝さんも、PwCさんと意見の一致がみられずに平行線なのであれば、それぞれ折り合いをつけて「限定付き適正意見(限定付結論)」を出すということで妥協することも考えられたのではないでしょうか。これだけ多くのステイクホルダーが存在するわけですから、東芝さんもPwCさんも自分の意見に固執している、ということはどう考えてもおかしいと思うのです。それともPwCさんとしては、限定付きでも適正意見(結論)は出せないほどに「ウエスチングハウスを除外してしまってはレビューの意味がなくなるほど重大問題」と判断したのでしょうか?もしくはレビュー報告書にも「強調事項」として記載されているように、継続企業としての注記を付したことで、もはや限定付きでも「投資家の誤解を招く」として限定付結論は出せなくなってしまったのでしょうか?

確定した証拠を前提として、監査人と会社との「会計処理方法に関する意見の不一致」が原因であれば「結論不表明」もやむをえませんが、レビューに必要な消極的な心証形成のための証拠の不足(レビュー手続きに関する不満足事項)ということが原因であれば現行の監査基準ものとでも限定付適正意見(結論)は出せるのではないかと、素人ながらに疑問を感じました。昨日のエントリーの続きになってしまいそうですが、余程の事情がないかぎり限定付適正意見は出せない(やはり監査法人さんも責任問題には巻き込まれたくない・・・)という発想が強いのでしょうか。

しかし、四半期レビューは通期の監査よりも適正性判断のハードルが低い(監査人の心証は合理的保証ではなく限定的保証で足りる)わけですから、そこで意見(結論)が表明されないとなりますと、5月に予定されている有価証券報告書の監査ではさらに適正意見をもらえる可能性が乏しくなりそうです。5月にはさらに厳しい監査が東芝さんに待ち受けているわけでして、これをどうやってクリアされるか、ぜひとも会計専門家の方々のご意見をお聴きしてみたいところです。小さな上場会社さんだったらオピニオン・ショッピングということもありますが、東芝さんとなるとそんなこともできないでしょうし。。。

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コメント

出るの出ないのと、前評判の騒がしかった監査意見が、やっと公表されました。案の定と言うか、漏れ伝わっていた結論近似の・・、そのものでした。しかし、その内容は、昔、監査業界?に身を置いていた小生も理解するに苦しく、ましてや、世間の利害関係者におかれては、「こりゃ、なんのこっちゃ?!」となりかねないのではと、懸念いたします。①第三四半期決算に際してのWEC経営陣からの圧力の存在調査②工事損失認識の時期に関して第二四半期決算時の判断とは異なり、トコトン過去に遡る調査必要③その他の△X◎?項目で評価未了調査事項の存在。これらが今回の意見不表明の理由ですが、その理由がこちらの読解力不足の為か、「う~ん。難しい!奥が深い。判決文のようでもある。」「この際だから、長文式報告書形式として、監査人の言いたいことを全部書いたほうが・・・」と、思いました。

投稿: 一老 | 2017年4月12日 (水) 19時17分

一老さんほどの会計実務家の方でも、やはり難しい・・とのご意見をいただき、本当に世間を混乱させてしまうほどのレビュー報告書ということがわかりました(どうもありがとうございます)。
なお、昨日ニコニコ動画で記者会見をみておりましたが、レビュー報告書の趣旨と監査委員会の(レビュー報告書に関する)解説内容がやや離れていたように感じました。おっしゃるとおり、こういった場合にこそ長文式報告書にしていただきたいと思います。
麻生大臣が「監査人にもどういった経緯でこうなったのか説明をしていただきたい」と委員会で回答していましたが、それはちょっと難しいのではないかと。

投稿: toshi | 2017年4月12日 (水) 21時10分

限定付適正意見(結論)について、記者会見で質問された方はいなかったようですね。
限定付適正意見(結論)を出すには、影響額の上限が見えてないといけないので、今回のような、監査(レビュー)範囲の制約の場合は、意見に関する除外に比べて、限定付適正意見は出しづらいとは言えます。
また、このような教科書的議論以外に、監査法人のリスク管理の観点からは、限定付適正意見という中途半端なものは出しづらいということもあるように思います。無限定適正意見を出した場合は、財務諸表がバツだった場合のリスクがあり、不適正意見の場合は逆のリスクがあります。限定付適正意見の場合は、両方のリスクが残るわけですから。
なお、会計処理方法に関して不一致がある場合は、意見(結論) 不表明とすることはできませんので、念のため。

投稿: Beaver | 2017年4月13日 (木) 00時35分

記者会見の中で、監査委員長が質問に答えて、2016年3月期の決算に影響することはない、割と明確に言われてました。ということは、損失をどの四半期に計上するかという問題なので、年度監査上は、全く問題にならないように思います。
だとすると、今回の結論不表明のままの四半期報告書の提出は、いい判断だったと思います。そもそも、損失をどの四半期に計上すべきであったか、は現在のマーケットの主要関心事ではありません。
ただ、そのわりには、年度監査での適正意見をもらえる可能性に関しては 、口を濁していた印象です。また、そもそも、監査範囲の制約なのに、2016年3月期には影響しないと断言できるものなのか?

投稿: Beaver | 2017年4月13日 (木) 00時58分

Beaverさんご指摘ありがとうございました。エントリーを一部修正させていただきました。

投稿: toshi | 2017年4月13日 (木) 22時04分

「ED(I)NET)で確認したところ、これまで1Q,2Qの四半期報告書に関するPwCさんのレビュー報告書には適正意見はついていました」
⇒4月11日付けリリース「結論不表明に関するお知らせ」には「1Q,2Qの四半期報告書について、同様の理由で結論不表明のレビュー報告書をそれぞれ受領しています」となっていますから、多分、工事損失認識の時期に関して監査委員会の調査(3Q)を評価しきれないということですね。

それにしてもWECはS&Wを買収する際にデューディリジェンスをしなかったのでしょうか?

投稿: skydog | 2017年4月16日 (日) 17時20分

2017年2月14日付けリリース「原子力事業における損失発生の概要」を見ると、S&Wの買収にあたっては「2015年8月~9月にDDレポート作成,買収リスクへの対策検討、同年10月に東芝取締役会にて承認、同年12月に買収完了」とありますから、恐らく根本は善管注意義務の問題ですね。

投稿: skydog | 2017年4月19日 (水) 17時36分

適正意見ではない監査意見(除外事項付意見)には2つの系統があります(年度と四半期では用語が異なりますが考え方は同じなので、年度の用語で説明します)。

1つは「財務諸表に重要な虚偽表示がある」場合で、この場合は「①限定付適正意見」または「②不適正意見」となります。もう一つは「十分かつ適切な監査証拠が入手できず(監査範囲の制約)、重要な虚偽表示の可能性がある」場合(今回の東芝はこちらです)で、この場合には「③限定付適正意見」または「④意見不表明」となります。

ここで、①or②あるいは③or④の分かれ目は、いずれも「財務諸表に及ぼす影響の範囲、又は及ぼす可能性のある影響の範囲が広範なものかどうかという監査人の判断」によることになります。専門的には「広範性」と言われています。

東芝の監査人は、「結論の不表明の根拠」に記載した事項が財務諸表に及ぼす(可能性のある)「影響の範囲が広範」なものと判断したため、③限定付ではなく④不表明としたということになります。

なお、継続企業の前提に関する注記がなされていますが、こちらは通常のパターンの通り「強調事項」として記載しているのみで、「結論の不表明の根拠」では触れられていません。したがって、少なくとも「結論不表明」の原因にはなっていないと解されます。

投稿: nanashi | 2017年4月20日 (木) 08時08分

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