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2017年4月10日 (月)

アスクル消防法違反疑惑-事前潜伏型二次不祥事への警鐘

(倉庫火災事故のために遅れていた)連結決算の発表を終えたばかりのアスクル社(東証1部)ですが、その公表直後に消防法違反の疑いで本社や子会社に警察の家宅捜索が入りました。消防法で規制されている危険物を倉庫内に保管していたにもかかわらず、同社において届出や許可申請を怠っていたことや、危険物の保管場所が指定されていたにもかかわらず、指定場所にはほとんど保管されていなかったことが容疑事実として報じられています。

エタノールを含む商品が通常どのように保管されているのか(同業他社でも、ホントのところどこでもこの程度の保管状況なのか)、この「法令違反」によって莫大な保険金支払いに影響が出るのかどうか、といったことはわかりません。ただ、アスクルさんの不祥事は、典型的な「やぶへびコンプライアンス」(事前潜伏型二次不祥事)に該当します。たとえ消防法違反による制裁が軽微であったとしても、「目に見えないコンプライアンスよりもお客様の要望(早く届ける)に応えることが大切」といった日ごろのコンプライアンス経営への姿勢が世間から評価されることになりますので、その点は上場会社としてかなり大きな痛手かと思われます。

毎度申し上げるところですが、企業不祥事など、どこの企業でも発生します。残念ながら完全に防ぐことは不可能です。しかしマスコミや世間に騒がれる「二次不祥事」だけは防がねばなりません。二次不祥事には「事後隠ぺい型二次不祥事」と「事前潜伏型二次不祥事」があります。企業不祥事発生後にこれを隠す、証拠を破棄する、虚偽報告をする、見て見ぬふりをする(放置する)というのが事後型二次不祥事です。これは比較的わかりやすい二次不祥事です。

いっぽう事前潜伏型二次不祥事とは、その不祥事だけを捉えれば軽微な不正、他社でもやっている不正かもしれませんが、たとえば別の事故や事件が発生することによって、事前の軽微な不祥事にスポットがあたるというものです。事後型と同じく、その会社の組織的なコンプライアンス経営への姿勢が問われる、という意味において業績や株価への影響度が大きいとされています。

事前潜伏型二次不祥事(やぶへびコンプライアンス)の事例は、このブログでも過去何度も紹介して警鐘を鳴らしてきました。ご商売に熱心で、誠実な社員が多い企業ほど留意しなければならない二次不祥事です。だからこそ各社におけるコンプライアンス経営の実力差がはっきりと出る領域でもあります。警察はアスクル本社の捜索も行っている、ということなので同社の法令順守体制(内部統制)の状況にも関心を寄せているものと思われます。東芝事件でもおわかりのとおり、内部統制上の問題は、その影響がどの範囲に及ぶのか、明確になるまで非常に時間を要します。今回の件も「単なる一倉庫における消防法違反」で済むのか、それとも更に全社的な安全配慮義務違反の調査にまで捜査が及ぶのか、今後の展開が気になるところです。

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