実質株主に総会出席の機会を付与する上場会社は増えるか?
(5月24日午後 追記)
先週「7月開催の株主総会は増えるか?」といったエントリーに対して、杉山さんから「過去の成績総括はスピーディーにやるべき。7月総会は攻めのガバナンスに逆行する」といった有益なご意見をいただきました。7月総会問題だけでなく、ガバナンス・コードを真剣に実施しようとすると、「これってホントに企業価値向上に結び付くのか、他のコードを実施する趣旨と矛盾することが起こらないか」といった疑問も湧いてくると思うのです。だからこそ、「実施よりも説明」することが必要となる場面も出てくるのでしょうね。
さて、総会シーズンなので、もうひとつ話題のネタを取り上げます。明日(5月25日)はJフロント・リテイリング社の定時株主総会が開催されるようですが、「定款の一部変更の件」として、実質株主(機関投資家)が定時株主総会で議決権を行使できるよう、定款の一部を変更する議案が上程されます。実質株主の議決権行使を正面から認める定款変更は日本で初めてのようです(経産省関係者)。なお、実質株主とは、名義株主(株主名簿上の株主)ではなく、その背後で企業に資金を投下している機関投資家のことを、ここでは表現しています。
ところで、コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2⑤は
信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会において、信託銀行等に代わって自ら議決権の行使等を行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。
と規定しています。また、東証の調査結果(昨年末現在)によると、本則市場に上場している会社のうち93%はこの補充原則1-2⑤を「実施する」と報告しています。したがって、多くの上場会社は、名義株主(信託銀行等)から代理権を得た実質株主(機関投資家)が、総会に出席して議決権行使できる環境を整備する必要があると思われます(ここまで言い切れると思うのですが、これは私が言い過ぎですかね?「なんちゃってコンプライ」の典型がこの1-2⑤に如実に表れているように思うのですが・・・)。
(お詳しい方はご承知のとおり)もちろん、定款変更を経ずとも、実質株主から総会出席の要望がある場合に、実質株主が(名義株主から)委任状や「実質株主証明書」をとりつけて、実質株主(法人)の従業員が現実出席する方法も例外的には認められています(このあたりは全株懇ガイドラインをご参照ください)。ただ、なんといっても「株主でない者が株主総会で権利行使をした場合には、決議取消事由に該当する」といった会社法解釈がありますので、会社としても法的安定性を強く求めたいところです。したがって、今回のJフロント・リテイリング社の定款変更議案は多くの会社の参考となるところかと思います。
ちなみに、上程議案が承認可決されることを条件として変更される定款規定の文言は、
第18条 株主は、当会社の議決権を有する他の株主1名を代理人として、その議決権を行使することができる。
前項の規定にかかわらず、取締役会において 定める株式取扱規程に定めるところにより、信託銀行等の名義で株式を保有し自己名義で保有していない機関投資家は、株主総会に出席してその議決権を代理行使することができる。
ただし、株主または代理人は、株主総会ごと に代理権を証明する書面を当会社に提出しなければならない。
というもので、全株懇モデルとほぼ同じ文言のようです。文言からはハッキリしませんが(Jフロントさんの株式取扱規程を確認しないとわかりませんが)、実質株主が総会に出席するためには、委任状のほかに、実質株主証明書も必要ということではないかと思われます(受付での混乱を避けるためにも、実質といえども「代理人は株主に限る」という趣旨で、たとえば機関投資家の代理人弁護士では出席不可、あらかじめ伝えられている従業員のみ可、ということになるのでしょうね)。他にも、どの範囲を「機関投資家」とするのか等、この「株式取扱規程」の中身にも興味が湧きますね。
なんか「横並び」したくてウズウズしている上場会社、とりわけ外国人保有比率が高い会社がたくさん存在するような気がしてなりません。
追記:「実質株主の株主出席問題のむずかしさ」については、旬刊商事法務2068号(2015年5月25日号)の巻末「スクランブル」に問題点が要領よくまとまっている、とのご連絡をいただきました。そちらもご参考にしてください。
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