« 株主総会7月開催困難→進む株主総会手続きの電子化 | トップページ | 事件の広がりを予感させる東芝インサイダー取引事件の調査 »

2017年5月19日 (金)

労働基準監督業務に関する民間委託の実効性について

9784532263355 当ブログでは政治の話はしないつもりですが、どうも「ロシアゲート事件」は深刻な事件になりつつありますね。ただ、トランプ氏が辞任しても、かつてニクソンさんが辞任したときほどのショックはないだろう・・・との見方が強いようなので、リスク管理の面からも、日本企業としては静観するところが多いのではないでしょうか。

さて、政府の規制改革推進会議の作業部会が、労働基準監督官の業務を補う役割を民間の社労士さんに委託するよう求める提言をまとめたそうで、厚労省もこれを受け入れる方針と報じられています(たとえばこちらの朝日新聞ニュース)。監督業務に民間人を活用することは、ILO条約違反ではないかと指摘されていますが、働き方改革が推進される中で、「正直者が馬鹿をみない」ためにも、監督官不足を補うことは喫緊の課題ということのようです。

「労働基準監督官の仕事って、いったいどんなものなのだろうか?」・・・・

こういった素朴な疑問を抱く方にお勧めしたいのが「労基署は見ている」(原論著 日経プレミアシリーズ 850円+税)です。本のタイトルには「労基署」なる用語が使われていますが、これは一般の方のために使用されているものであり、専門家の方は「労基署」とは言わないそうです。「監督署」「監督官(労働基準監督官」というのが通例とのこと。

上記民間委託の実効性を考えるにあたっても、この本を読むといろいろと理解が進みます。監督官の仕事として(電通事件に代表されるような)労基法違反の摘発に光があたっていますが、実際には労働安全衛生法違反事件の調査が多いこと(労災事故現場の立会等)、つまり警察や消防など公務員間の信頼関係・守秘義務が前提となる業務が多いことがわかります。

また、民間に業務を委託するにしても、監督官のどのような仕事であれば可能なのか。労働時間調査といったことが、民間委託の対象になるのでは、とマスコミでは報じられていますが、実際にたいへんなのは行政処分後の指導業務なので、おそらくそのあたりが委託の対象になるのではないかと思われます。この指導業務を民間委託できれば、監督官は多くの時間を臨検に割くことが可能となり、調査対象の事業所も増えるのではないでしょうか。

さらに民間委託反対論者の方々から、「監督官が不足しているのであれば増員すればよい」との意見が出されていますが、本書をお読みになるとおわかりのとおり、熱意がないと摘発はできないようです。筆者自身が、命の危険を感じながらもなんとか摘発に至った事例が紹介されており、失礼ながら、このような身の危険を承知のうえで事業者摘発に尽力する方がどれほどいるのだろうか・・・と。労災事故の現場で家族が悲しむ姿をみて、次第に「許せない」という気持ちが涵養されていくのかもしれません。

監督官を退職された筆者が(本書の末尾で)提唱されていますが、監督官不足を補い、監督業務の実効性を上げるためには、そもそも事業者が労務コンプライアンスの体制を構築することが大切だそうで、この点は私も共感するところです。いわば厳格な事後規制ではなく、事業所を活用した事前規制的手法です。どうすれば監督署から目をつけられない事業所になるのか、事業所自身が真剣に考える。そのためには現場の常識と労務行政の常識をつなぐ「通訳」が必要なのでしょうね。大切な人的資源を劣悪な労働環境から守るためには、この「通訳」をどう育てるかがポイントになるものと個人的には考えています。

あと、「民間委託」といっても、もちろん社労士さんだって「費用対効果」ですよね(当然といえば当然ですが)。そのあたりの議論は全くされていないようですが、ホンネで考えますと、委託料こそ実効性を考えるうえで一番大きな課題のような気がいたします。

5月 19, 2017 行政系 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/65296762

この記事へのトラックバック一覧です: 労働基準監督業務に関する民間委託の実効性について:

コメント

コメントを書く