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2017年5月12日 (金)

労働関連法違反企業名の公表とサプライチェーン・コンプライアンス

4月3日の日経法務面で、ANAさんや伊藤園さんのCSR活動の一環として、人権デューデリジェンス(人権DD)への熱心な取組みが紹介されていました。とりわけANAさんの「取引先企業の労務コンプライアンスに関する法令遵守体制の整備等に協力する具体的な取組み」が印象的でした。

ところで5月10日から、厚労省では労基法違反、労働安全衛生法違反等で書類送検された企業名の公表を開始したそうで、過去1年間の全国監督署で送検された330件に関する企業名が閲覧できるようになりました。監督署の取扱いとして、重大事故につながらなければ送検されないのが原則です。したがって、社名を公表された企業は、重大な法令違反が認められた企業のうちのごく一部ということになります(また、法令違反状況が是正された企業さんは社名が削除されるそうです)。

メディアでは、厚労省による「ブラック企業の公表」と報じられていますが、年間の件数でおわかりのとおり、全国の監督署において毎日のように送検されており、企業名も労働新聞社のこちらのHPで毎日閲覧可能になっていますので、公表することがどれほど法令遵守への意識向上に役立つのかは不明です。他の監督官庁とは異なり、労働基準監督署は、いくらブラックといえども事業を停止させる権限はなく、むしろ送検後にも法令遵守体制の整備に向けて更なる監督を行うわけです。労働者の安全確保に向けた労使の取組みを実現するためには、監督署の監督体制を整備することのほうが重要ではないかと。

さらに、このような痛ましい労災事故を少しでも減らすためには、先の日経法務面でも紹介されていた人権DDの取組みが必要ではないでしょうか。労働力不足に悩む日本企業にとって、サプライチェーンにおいて重大な労災事故を発生させてしまった企業と取引を継続するわけですから(エシックス・コード違反で契約解消になるような悪質な場合は別ですが)、取引先企業の人権侵害状況に目をつぶるわけにもいかないと思うのです。

今回の厚労省HPでの重大事故を発生させた企業の公表は、世間に対して「さらし者にして制裁を加える」ということではなく、公表された企業を必要とするサプライチェーンの関係会社が、当該企業の状況を知り、そのコンプライアンス経営を一緒に支える、というところに意義があるのではないでしょうか(公表された事案には、ほんの少しの単純ミスを防止すれば重大事故を回避しえた事案がたくさんあるのです)。

以前このブログでも書きましたが、電通さんの過労自死社員の方が担当していた過酷な作業を、「これではうちがブラックになってしまう」とのリスク感覚から下請会社に丸投げして「うちは関係ない」と知らぬ顔をされている広告代理店さんもあるのです。それはそれで経営戦略のひとつの選択肢かもしれません。しかし、「当社はCSRに熱心です」と宣言しながらグレーな部分をサプライチェーンに押し付けてしまう、という姿勢は海外ではとくに批判の的になります。

人権DDを通じてサプライチェーンでコンプライアンスを考える、といった姿勢を、多くの企業が示すことも(実際にはなかなか外から見えないかもしれませんが)、持続的成長につながる立派なCSR活動ではないかと考えます。

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