「見えざる改革」-フィデューシャリー・デューティーは資産運用を変えるか
5月28日の日経ヴェリタスセレクト(WEB版)記事によりますと、最近、投資信託の売れ行きが低調だそうです。2016年度は14年ぶりに資金流出となり、とりわけ「毎月分配型」が売れなくなった今、次なる魅力商品を現場が模索している、とのこと。3月末に金融庁が公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づいて、金融業界に対してフィデューシャリー・デューティーへの取組み強化を要請したことが大きな影響を与えていることは間違いないと思います。
私のようなド素人が今さらご紹介するまでもないベストセラーですが、話題の「捨てられる銀行2 非産運用」(橋本卓典著講談社現代新書800円税別)を読みました。さすがベストセラーです。金融行政の「いま」を理解するうえで、とてもトクした気分になりました。森長官といえば(たいへん失礼ながら)「地銀泣かせ」のイメージしかありませんでしたが、市場改革への並々ならぬ決意があることを知り、さらにコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードとフィデューシャリー・デューティーとの関係理解も深まりました。
以前、当ブログでも「フィデューシャリー・デューティー」については触れたことがありますが、私個人としては学術的な関心(法的な位置づけ等)に注目していました。本書は(法的な位置づけ、といったことよりも)なぜ金融業界にフィデューシャリー・デューティーの強化が提唱されるに至ったのか、また実現のために、具体的に何をすればよいのか、といった実務的な面に対する理解を深めるには最適な一冊です。先日、野村アセット・マネジメントさんが「いの一番」で議決権行使結果の個別開示に踏み切りましたが、本書を読みますと「なるほど」とナットクいたしました。(私の「なるほど」は、著者ご自身も5月26日付けのこちらのニュースでご論稿を書いておられますので、そちらをご覧いただけばおわかりになるかと)。さらには議決権行使結果の個別開示が進むことによって、ISSさん、グラスルイスさんのような議決権行使助言会社自身の「利益相反管理」⇒行政規制の必要性も課題になることがわかります。
私的に最も興味があったのは第3章「フィデューシャリー・デューティーとは何か」ですが、著者が読者に一番読んでほしいのは第4章「年金制度の変化と資産運用改革」ではないかな・・・と推測します。アメリカの市場改革(見えざる改革)の歴史をたどり「アメリカ市民だって最初は今の日本と同じように資産運用にそれほど関心を持たなかった、失敗もした、しかし、20年で家計金融資産がなぜ3倍以上も増えたのか(なぜ日本とこれほど差がついてしまったのか)」を丁寧に解説しておられます。この第4章で語られているところが、少子高齢化を迎える日本に残された「伸びしろ」を活用できるかどうか、そのポイント(分岐点)になるのでしょうね。松下幸之助氏が50年前に証券市場の在り方として目標としていた政策を、皮肉にもアメリカが実行し、その成果を遂げているというのも、皮肉に聞こえてきます。
著者の意見にわたる部分には異論・批判もあるかもしれませんが、取り上げられたファクトの部分については素直に学ぶべきところが多いと考えます。ガバナンス・コードと同様、フィデューシャリー・デューティーへの取組も、アリバイ作りのための「外向け工作」ではなく、顧客との信頼関係を形成するための「内向きの構築」が大切ですね。そして顧客本位の事業活動の「見える化」が進んだときに、これを評価する金融リテラシーを我々がどれだけ備えることができるか、その具体的な実践方法も議論すべき点だと思います(私は、この著者に代表されるような「紐付きでない通訳」をされる方がたくさん増える必要があると考えています)。
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