M&A第三者委員会に求められるのは「攻め」か「守り」か
土曜日(6月3日)の日経朝刊(投資情報)に、「買収『お目付け役』設置増-第三者委員会、初の5割超」と題する特集記事が掲載されています。買収される企業で、少数株主の利益を守るお目付け役である第三者委員会を設置する例が増えており、社外取締役や外部有識者で構成される第三者委員会の設置率が、公開買付け事例の5割を超えたそうです。また、支配株主やMBOに限れば、最近はほとんどの事例で買収される側の上場会社が第三者委員会を設定している、とのこと。
昨年、このような第三者委員会の委員長を務めた経験や、第三者委員会の支援を務めた経験からひとこと申し上げますと、上記日経記事で紹介されているような第三者委員会(いわゆるM&A第三者委員会)は、支配株主による買収、MBO(マネジメント・バイアウト)の場面では、買収される側の上場会社(そしてその会社の少数株主)にとって不可欠と言ってもよいのではないでしょうか。ただ、その第三者委員会が、最近は事案によって「攻めの委員会」と「守りの委員会」に二極化する傾向が進んでいるように感じています。
上記日経記事に登場する第三者委員会は、いずれも積極的に第三者委員会が買収交渉の前面に出ているパターンです。いわゆる「攻めの第三者委員会」です。買収価格にノーをつきつけ、取締役会といえども、この第三者委員会の意見に拘束されるといったものや、支配株主以外の対抗TOBの相手方を探したり、さらには直接、買収提案先との価格交渉に乗り出す、というものです。少数株主にとっては、少数株主保護の姿勢が「見える化」しますので、とても独立性・公正性のある第三者委員会のように見えます。ただ、実際には業界のことをよくわからない有識者が、ここまでM&Aの交渉の中心に出てきて、本当に買収による企業価値判断ができるのか、といった疑問が生じます。
いっぽう、数の上では多いと思われるのが「守りの第三者委員会」です。交渉主体はあくまでも買収企業と買収対象企業の取締役会ですが、その交渉過程に問題がないか、同時並行的に詳細にチェックを行うという姿勢で臨みます。もちろん「チェック」に必要な範囲において、買収企業側の経営陣と第三者委員会との交渉、面談は行います。ただ、それはあくまでも少数株主の利益保護のために買収される側で公正な手続きが行われているかどうかを監督するために行われるものです。第三者委員会がオモテに出ない分、外部の株主からみれば「本当に公正・中立な第三者委員会なのか」と疑惑の目を向けられる可能性が高くなります。
攻めであろうと、守りであろうと、M&A第三者委員会の活動にとって最も重要なのは、審議するための十分な時間が確保されているかどうか、という点です。つまりM&Aが適時開示されるどれくらい前に委員会が設置されるか、ということです。十分な時間が確保されていれば、「守りの第三者委員会」であったとしても、実質的には「攻め」に近い活動ができますね。なお、昨年7月のJCOM(ジュピターテレコム)価格決定申立事件に関する最高裁決定以降、経営判断過程への司法判断の傾向が「プロセス重視」に向いていることから、「守りの第三者委員会」に徹するのも一理あるかな、と思ったりしております。もちろん、最終的には会社側と委員との諮問事項に関する協議次第、ということになるかとは思いますが。
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コメント
お説に賛成です。本邦企業のm and aは失敗が多く最近では郵政のトールなど。熟議すればリスクが減ると思われますので、十分な態勢で時間をかけ、株主はじめステークホルダーに賛同される案件に絞り込み慣れない分野に突撃しないでほしいと思います。六月で株主総会が多い時期時宜を得たテーマですね。
投稿: 星の王子様 | 2017年6月 5日 (月) 06時22分
六日の日経 経済教室に宮島さんの海外M&Aを問う① 分権と集権の最適化カギ 買収判断独立役員の目を が掲載されましたね。
投稿: 星の王子様 | 2017年6月 6日 (火) 07時53分
コメントとしてふさわしくないと思われる内容がありましたので、ある方のコメントは非公開とさせていただきました(^^;あしからず。。
投稿: toshi | 2017年6月 6日 (火) 16時31分