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2017年6月26日 (月)

敗軍の弁護士、急増する監査等委員会設置会社を語る

いよいよ日本でも監査報告の長文化が実現するようですね(監査基準の改正作業が始まるそうです)。情報開示や「株主との対話」における会計監査人の責任が重大となるだけでなく、連携を図るべき監査役や監査委員の方々の役割にも光があたることになります。

さて、すでにご承知の方も多いかもしれませんが、6月24日の日経夕刊一面に「監査等委員会設置会社、3割増-企業統治を強化、社外取締役確保」と題する記事が掲載されていました。監査役という制度が海外からわかりにくいこと、監査を担当する社外取締役を増やすべきとの投資家の要望が強いことから、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した(移行予定を表明した)会社が800社程度に上ったと解説されています。

平成26年改正会社法が施行された頃から、私は「監査等委員会設置会社への移行なんて、役員の責任が怖くて、とても500社なんて増えないですよ(笑)。まぁ、移行にあたって監査委員の社外取締役の報酬を(社外監査役と比べて)2倍くらいにしてくれたら増えるかもしれませんけどね(笑)」と(いろんなところで)話まくっておりました。その間、東京の大手法律事務所の先生方は「けっこう、監査等委員会設置会社は使い勝手が良いのではないか。おそらく700~800社程度は移行するものと思われる」と予想を立てておられました。そして結果として、私の予想は当たらず、東京の先生方の予想がズバリ的中ということになりました。とりあえず、私なりの敗因を以下のように分析してみました。

ひとつは、なんといってもコーポレートガバナンス・コードへの上場会社の実施率が極めて高いという点です。とりわけ複数の社外取締役を選任すべき、との原則を多くの上場会社が遵守することになり、結果として社外監査役さんが「横滑り」によって社外取締役さんに就任されることが急増しました。ただ、これは担当役員さんの一存で決定できるものではなく、社長さん自身が決定したものと思われますので、ガバナンス改革への上場会社の本気度を高めるという意味ではかなり効果があったものと評価できます。

ふたつめは、これはかなり私の「負け犬の遠吠え」的な言い訳になりますが、議決権行使助言会社が「監査等委員会設置会社では、社外取締役を4名以上選任しなければ、取締役の選任議案について反対を推奨する」といった方針を先送り(様子見)したことが大きいと思います。たしかISSさんは、日本法人代表の方が、このあたりを旬刊商事法務の論文でも説明されていたようです。社外取締役4名以上もしくは取締役会構成員の3分の1以上という条件を方針として決定していれば、移行を検討していた上場会社さんも断念されていたのではないかと思います。

そして最後が「攻めのガバナンス」というガバナンス改革の流れです。成長戦略を推進するためのガバナンス改革ということで、監査等委員会設置会社のメリットとされる迅速な意思決定、モニタリングモデルの推進(執行と監督の分離)という点だけが強調され、デメリットである監査機能の衰退の懸念という点がほとんど語られてこなかった点です。日本監査役協会のアンケートでも、「監査等委員会の意見によって取締役会の意見が変更されたことはあるか」「株主総会において、取締役の選任議案や報酬議案について、監査等委員が(株主から)質問を受けたことがあるか」との質問に対して、「はい」との回答は0または1でした。リスク管理の面で、監査等委員会の適切な運用がなされている形跡はほとんど見受けられないといえます。

以上のとおり、私の読みが甘かったといえばそれまでですが、ただ「監査等委員会設置会社の不正リスクへの脆弱さ」という点では、3年前と今とでは全く意見は変わっておりません、といいますか(相談案件などを通じて)ますます確信を強めております。ガバナンス構築に熱心な企業が増えることによって1000社を超える上場企業が監査等委員会設置会社に移行するのであれば、それは好ましい傾向だと思います。ただ、そうであるならば、監査等委員会設置会社に移行した800社のうちの80社程度はすでに指名委員会等設置会社に移行しているはずです。しかし、800社のうちの1社も指名委員会等設置会社へ移行する企業がないということは、やはり「ガバナンスは実質よりも形式」という企業が多数を占めていることの証左ではないか・・・と思うところです。

6月 26, 2017 監査等委員会設置会社 |

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コメント

社外取締役の機能強化、その実効性発揮の為の制度進展がジワジワと進みつつある現状は(押し寄せる資本の波動に対して、遅きに過ぎるとしても)歓迎すべきでしょう。制度の確立は形式整備を経て実質機能、実効、企業文化の醸成、そして社会インフラとして企業自律の慣行となるものと期待します。しかしその過程においては、具体的業務、責任、報酬などの実務が現実的に議論され、改善される必要があるのでしょう。社外役員が10年以上の期間において居座るのは好ましい事か、監査報告書の裏づけとなる調書や資料への株主閲覧権は無いのか、法律事務所や監査法人の関与する会社にそのOBや勤務者が社外役員になるのは、(最高裁判断とは別にして)歓迎すべき事か、株主総会で質問されない限り、積極的に意見表明する場が無いのはどうか、・・・制度の導入と同時並行的に課題を解決する方策が出されなければ、新たな制度改革は、むしろ社会の失望とニヒリズムを招くだけの事になる?・・のかな、と。

投稿: 一老 | 2017年6月26日 (月) 12時36分

東証マザーズ上場のアークンの監査役会の監査報告が興味深いです。

投稿: 金融関係 | 2017年6月27日 (火) 10時28分

GEの新しいCEOが誕生しましたが、新CEOを選抜するために、社外取締役が中心になって6年前から後継者選抜計画を立てていた話が報じられていますね。また別エントリーでご紹介しようと思っていますが、さすがにここまでは日本の企業ではむずかしいのではないかと。ただ、一老さんのおっしゃるように、じわじわと制度が浸透しておくことは、私としても日本企業にとって好ましい(日本の経済発展にとって好ましい?)ように思います。

投稿: toshi | 2017年6月27日 (火) 23時43分

山口先生「敗軍」とご謙遜されていますが、山口先生は、「形式的コンプライ」の会社が少ないという期待をされていたのではないかと思います。
 そうしますと、山口先生のご期待に沿わず、多くの上場会社が「形式的コンプライ」のために監査等委員会設置会社に移行してしまった、ということで考えております。
 こんな考え方であっていますか?

投稿: KAZU | 2017年7月 5日 (水) 14時23分

KAZUさん、ご意見ありがとうございます。ご指摘のとおりかと(控えめに?)申し上げておきます。やはり形式的コンプライの傾向はかなり強いのではないでしょうか。どうも「形式的コンプライで様子を見ておこう」という、ある意味、企業の逞しさのようなものを感じる今日この頃です。これは社外取締役の選任についても同じことを感じています。

投稿: toshi | 2017年7月11日 (火) 12時57分

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