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2017年6月19日 (月)

会社法改正審議と中小会社への改正法適用問題について

4月から始まった法制審議会会社法制部会の審議につきまして、先週末、第1回会議の議事録が公開されました。第1回は審議事項に関する論点の頭出し、各団体からの改正要望などが中心ですが、学者委員の方々の個別意見なども垣間見えて勉強になりますね(ちなみに日弁連提案も、第3回会議には提出されるものと思います)。

個別意見の中で、個人的にとても重要だなぁと思いましたのは、上智大学の松井智予先生、京都大学(大学院)の斎藤真紀先生(いずれも幹事)のご意見。このたびの会社法改正は、政府のガバナンス改革をバックアップする形で進むはずで、上場会社や非上場の大企業のガバナンスにはそれなりの影響が及ぶものと予想しています。しかし、そういった大企業向けの法改正が、中小企業にとってどのような影響が及ぶのか、中小企業にも適用を強制することがそもそも適切なのか、そのあたりもきちんと議論すべき、とのご意見を述べておられます。

たしかに委員の方々の御意見は、(改正審議の趣旨を忖度すればそうなるのでしょうが)大企業における企業統治のあり方を念頭に置いたものがほとんどを占めています。しかし、従業員がほとんどいないような家族経営の会社、大企業を実質的に支配する創業家の資産管理会社、大企業のグループ会社(M&A、分社化、等いろいろ)、他の大企業と株式を共同保有するJVなど、会社法の改正によって、それらの中小会社にどのような影響が及ぶのか、これは実務家にとっては興味のあるところです。

大塚家具さんや出光興産さんのように、資産管理会社のガバナンスの在り方が、上場会社の支配権を決定してしまうケースもありますし、松井(智予)先生が懸念されているように、上場会社向けのシステムを小規模会社が活用することで、少数株主を株式会社の経営から排除してしまう(会社経営の実態を見えなくしてしまう)ような「会社法の合法的悪用(濫用?)」も可能になります。また「働き方改革」は中小企業にも待ったなしで適用される時代であるにもかかわらず、人的資源に乏しい中小企業に、大企業と同等の会社法上のデュープロセスを要求することはとてもできないでしょう。

企業法務に関わる者としていつも自戒しているところですが、「100年ぶりの民法大改正!!」といっても、実際にはごくごく一部の人たちだけが関心を寄せているのが現状です。ましてや会社法改正というものは、さらにごくごく一部のマニアックな人たちの話題にすぎません(残念ながら「法化社会」という視点からいえばこれが現実かと)。中小企業の経営者の方々、少数株主の方々に、会社法改正の趣旨を伝えていかなければ、最高裁上告件数の半分が本人訴訟という現実、そしてそこに由来する最高裁の法形成機能の低下を是正することはむずかしいのではないかと。

その現実を踏まえたうえでの話として、(日本の株式会社の)わずか0.3%にしかすぎない会社法上の大会社(上場会社を含む)だけを念頭に置き、99.7%を占める中小会社への影響を考えないような会社法改正はありえないと思います。とくに最近は「裁判所におけるめんどうな実質判断を増やす方向での改正」には難色を示す最高裁の姿勢をみると、「誠実に経営をしているにもかかわらず、法律に無知だったために支配権を失ってしまった」といった中小会社関係者が増えることを危惧します。

上記第1回会議の議事録において、斎藤幹事が「法改正を必要とする(強制する)のであれば、これを受け入れる社会インフラの整備にまで目を向けるべき」とのご意見は、まことに正鵠を得ているものと思います。会社法の国策支援機能も大事ではありますが、やはり基本は会社関係者の利害調整機能なので、そのあたりを学者委員(幹事)の方々にぜひ頑張っていただきたいと思うところです。

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