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2017年6月22日 (木)

企業による学術・文化への貢献寄付と取締役の善管注意義務

日経ビジネスの来週号では富士フイルムさんの子会社会計不正事件の続報が詳細に報じられています(有料会員のみ事前閲覧可能)。社債発行との関係で「有価証券虚偽記載」の疑惑があることやキヤノンさんとの東芝メディカル争奪戦との関係など、(真実かどうかはわかりませんが)野次馬的には興味をそそられる内容です。-以下、本題です。

6月19日の日経朝刊(関西地域版)に、「万博誘致活動が本格化」という特集記事が掲載されています。経済団体が大阪への万博誘致に積極的ですが、いざ「資金ねん出」となりますと、個々の企業が前向きではないために、なかなか困難な状況に陥っているそうです。大阪の大手企業経営者の方は「自社に明確なリターンがあることを株主に説明できなければ、巨額の寄付はむずかしい」とのこと。関経連会長さんも「ほとんどの企業が(資金拠出に)ノーと言っている」と回答されています。

たしかに「巨額」の寄付はむずかしいとしても、会社法上の法的責任という視点からいえば、会社の規模、経営実績、相手方等を考慮して「応分の金額」のものであるならば、「明確なリターン」など気にせずとも取締役の善管注意義務違反になることはないと思います(たとえば江頭憲治郎「株式会社法 第6版」23~24頁参照)。たしかに「モノ言う投資家」の力が強くなったことは事実ですが、企業が地域の活性化や学術研究の向上を目的とした事業に資金支援をすることは、たとえ個々の会社のリターンに直接的に結びつかなくても問題はない(役員の法的責任は発生しない)と考えています。

むしろ、万博誘致については、なんらかの別の理由があって「見返りのない社会貢献では株主への説明がつかない」といった言い訳が活用されているのかもしれません。大阪本社の大企業でも、実質的な本社機能は東京に移転してしまったところが多いので、いまひとつ企業側でも「盛り上がりに欠ける」のかもしれません。

逆に、「なんでこんなに社会貢献に積極的なの?」と不思議に思えるのが上場会社による非営利団体(学術・研究を目的とした非営利の一般財団法人)への自己株式の拠出ですね。時価3000円程度の自己株を(自ら設置した)学術・研究財団に1株1円で譲渡して、その配当原資を財団運営費用に充当するというもので、これも実質的には社会貢献寄付に該当します。財団の保有する株式は無議決権化するのかと思いきや、議決権は(信託されているものの)存在します。「巧妙な経営陣の保身手段ではないか」とマスコミ報道もされていますが、ここのところ多くの上場会社で活用されていますね。株式の希薄化を招かないように、会社資金によって自己株式を市場から取得して、これを第三者割当によって有利発行するわけですが、企業は「業界の技術水準を高めることへの貢献であり適法です」とのこと。

私からみれば、こちらは「社会貢献寄付」にしてはずいぶんと寄付金額は高額ではないかな・・・と思うのですが、絶対に企業は「いやいや、社会貢献です!!」とおっしゃる。しかし財団が保有する議決権の割合は、「経営者の保身」に影響が及ぶほど多くはないのでして、実はこちらも企業に「それなりの」ホンネのおいしい理由があるようです(また、そのあたりは別のエントリーで書きたいと思います)。

ということで、「企業のCSR活動と取締役の法的責任論」というものは、どうも会社にとって都合の良いように活用されている気がしているのは私だけでしょうか。先日のエントリーで「会社法など、ごくごく一部の人たちのマニアックな話題にすぎない」と自戒しております、と書きましたが、このような局面をみても「一般の方々は、それほど会社法への関心は高くないから、会社は『やり放題』だろうなあ・・・」と感じるところです。私のような場末の弁護士には「法化社会」など論じる資格も能力もありませんが、このような論点こそ、(会社と機関投資家が「呉越同舟」ということでないかぎり)会社と株主との建設的な対話によって会社の真意が明らかにされるべきだと思います。

6月 22, 2017 商事系 |

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コメント

財団法人への自己株式の拠出は建前の理屈を聞いても納得はいかず、かといってどんな「うまみ」があるのかインセンティブも含めていまいちイメージできず、頭の中が疑問符でいっぱいでした。別エントリー楽しみにしています。

投稿: ty | 2017年6月26日 (月) 17時46分

トヨタが最初に行ったスキームです。トヨタが自己株の半分ぐらいを財団に1円譲渡したので、他の企業も次から次へとやり始めました。

トヨタ自動車の有利発行株式の資産価値は 3千万株×6000円=1800億円。株主総会の特別決議で通したので、株主が訴訟を起こしても公益の建前と合わせれば、裁判上は勝てると考えてやってきたのでしょう。常識的に考えて、商事事件でトヨタを負けさせる裁判官が日本にいるとも思えません。

しかし、株式の有利発行制度の目的は、時価では資金調達できない企業がディスカウントして株式を発行するためのもので、贈与を目的としたものは制度の目的を大きく逸脱している気がします。

贈与であれば、株主総会決議は始めから必要なく、巨額の贈与をしたことについて役員の善管注意義務が問題になります。(総株主の同意があれば免責ですが)トヨタのやり方が汚いのは、本来は役員の責任で贈与としてやるべき所を、株式有利発行として株主総会の責任に摩り替えて責任追及できないように画策しているところです。

差し止め訴訟や総会決議取消訴訟などを起こす株主がいれば良いのですが、社会的正義を目的とする奇特な投資家でなければ全くメリットはありません。高い金を払って弁護士を雇うよりも、市場で売却した方がお利口です。長期間資金凍結されてまで訴えるメリットが投資家側にはありません。会社法のさまざまな株主保護制度は殆どは経済的に見合わない意味の無い制度といえると思います。関心のある人たちですら、無駄なのでやらないのです。

創業者一族の影響力確保という馬鹿馬鹿しい目的のために、株主の資産が巨額流出しているように見えるのですが、世界のトヨタがやり始めたスキームですし、本当に日本の証券市場は絶望的です。

投稿: 傍観者 | 2017年6月30日 (金) 13時42分

傍観者さん、いつもコメントありがとうございます。私がブログではなかなかホンネで申し上げにくいところをズバッとコメントいただいてありがたいです。たいへん参考になる視点なので、傍観者さんのコメントを本文のほうへ掲載させていただきたいと思います(一部、本文掲載にあたっては字句の修正をさせていただくこともありますがご容赦ください)。ご迷惑であれば、その旨、またお知らせください。

投稿: toshi | 2017年7月 5日 (水) 18時19分

先生に参考にしていただけるなら、とても光栄です。もちろん、使っていただいて問題ありません。

投稿: 傍観者 | 2017年7月 8日 (土) 13時05分

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