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2017年6月15日 (木)

コーポレート・ガバナンスは最低限のリスク管理の手段である

一昨日のエントリーはココログブログ記事ランキング12位(6月14日過去最高)となりまして、たいへん多くの方にお読みいただきました。企業不祥事への関心の高さをあらためて認識いたしました。

さて、今週号の日経ヴェリタスは、時節柄「株主総会特集」が組まれていまして、「パッシブ運用の機関投資家も株主と積極的に対話を行う」とするアセットマネジメントoneの社長さんの記事が印象的でした。しかし、ガバナンスに関心を持つ者として、もっとも興味深かったのが議決権行使助言会社ISSの石田氏(日本法人代表)の小稿(インタビュー記事?)です。金融庁の有識者会議でも議決権行使助言会社の役割が審議の対象とされていますが、日本企業のガバナンス改革に、もっとも責任と影響力を持つ方の発言はたいへん重い。以下要旨をご紹介しますと、

日本企業のガバナンス改革は、CGコードの導入によってめざましい変化を遂げている。しかし、海外と比べると周回遅れだ。役員の女性比率も低いし、社外取締役の人数も少ない。最近よく「攻めのガバナンス」という言葉を耳にするが、疑問を感じる。企業が能動的にガバナンス改革を進めたからといって、すぐに業績が好転するわけではない。あくまでも、最低限度のリスク管理の手段のひとつと捉えるべきだ。(以下、役員報酬制度、相談役・顧問制度への考え方など詳細に語られていますが省略)

この特集記事の中でも「ガバナンス・コード3年目、社外取締役の実効性に課題がある」とされていますが、そもそも社外取締役さんが何らかの役割を果たしているとしても、その効果を実感できるのは、その社外取締役さんが退任して何年も経過してから、ということだと思うのです(そもそも社外取締役を導入する目的が中長期の企業価値の向上を目指している、ということであれば当然かと)。導入後2,3年で「社外取締役が導入されて、当社はこんなに変わった」というのは信用性に乏しい発言のような気がします。「攻めのガバナンスは疑問だ」とISSの代表者の方が発言されることには大きな意味があると思います。

また、「ガバナンスは最低限のリスク管理の手段である」と言い切る点には共感を覚えます。石田氏は相談役・顧問制度については厳しい意見をお持ちですが、ここまで言い切ることが前提であれば納得できるところかと思います(なお、私は、相談役・顧問制度にもそれなりの長所がある、もし短所が長所を上回るようなことがあれば、それこそ社外取締役が廃止を訴えるべきであると考えています)。「監査等委員会設置会社への移行には懐疑的だが、今しばらく様子をみてみよう」との気持ちで、監査等委員会設置会社への4名以上の社外取締役導入推奨をペンディングにされたあたりの感覚も納得できます。

スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家の議決権行使結果の個別開示が進む中で、ますます議決権行使助言会社の発言の影響力は高まるわけですが、誰かが「王様は裸だ」と叫ばなければならない時期に来ていると思います(先日ご紹介した関経連の提言も、そのひとつだと認識しています)。海外から投資資金を呼び込むための政府施策に企業が協力すべき、ということは理解できるのですが、ガバナンスのベストプラクティスは「コード」へのコンプライではなく、個々の企業が(置かれた経営環境の中で)独自に考えるべきものです。「ガバナンスは最低限度のリスク管理の手段のひとつにすぎない」と割り切ることによって、ようやくガバナンスに関する話題が株主との建設的な対話の俎上に上ることになるものと考えます。

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コメント

「攻めのガバナンス」という言葉は短期的な業績の向上を強調するような印象もありますが、CGコードの英訳は"growth-oriented governance"となっており、英語の方がコード本来の意図(会社の持続的成長・中長期の企業価値向上)をよく表している気がします。ガバナンスと企業の成長を結びつける考え方は、日本のコードの土台になっているOECD原則にも見られるので、「リスク管理の手段のひとつ」と言い切ってしまうのも、個人的にはどうなのかなと感じるところです。

投稿: yuna | 2017年6月15日 (木) 14時32分

yunaさん、コメントありがとうございます。やや極端な意見に聞こえたかもしれません。リスク管理と成長戦略とを分断するのではなく、「トライアル&エラー」の発想からの意見と捉えていただければ幸いです。いずれにしても、その運用面を注視する必要があると思いますね。

投稿: toshi | 2017年6月23日 (金) 10時00分

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