リコー役員賞与議案の賛成比率にみる報酬ガバナンスへの教訓
出ましたね。「東芝の遺言」(日経ビジネス来週号)。とくにパート2はまた、いろいろと話題になるものと思いますが、また来週コメントさせていただきます。
リコーさんが6月22日に関東財務局に提出した臨時報告書によりますと、16日に開催した同社定時株主総会で、取締役の賞与支給に関する議案の賛成比率が51.94%、かろうじて承認可決されたようです。昨年の同議案は87%の賛成比率だったそうですから、日経新聞の分析では「業績不振に対する株主の不満が低い賛成比率につながったとみられる」とのこと。7名の取締役で合計3800万円ということですが、私的にはかなり衝撃的な出来事です。
もちろん、役員賞与も(平成17年改正会社法以降)「報酬」ですから、すでに株主総会によって「報酬枠」「役員賞与枠」について承認をもらっている範囲内であれば、とくに株主総会議案として上程する法的義務はありません。したがって、役員賞与議案を上程するかどうかは個々の会社の判断によります。しかし、リコーさんの議案賛成比率をみますと、いくら日本企業の役員報酬が(海外諸国と比べて)低いといっても、業績との関係において株主の関心が高い傾向にあることがうかがわれます。
このリコーさんの株主総会決議の教訓として、①インセンティブ報酬を拡大すること、②取締役会、または独立社外取締役による役員報酬への監督機能を高めること、のいずれか、もしくは両方の検討が必要だといえそうです。いずれもコーポレートガバナンス・コードによる要請事項ですが、やはり取締役会による監督機能、社外役員による監督機能の強化が喫緊の課題ではないでしょうか。役員報酬の決定に関する実務は、ガバナンス・コードの理想とは大きくかい離しているのが現実だと思います。(社長さんではなく)一部の担当役員さんが、コンサルタント会社と相談しながらインセンティブ報酬制度を設計して導入する・・・ということは、なんとか実現可能だとしても、「取締役全員で、社長を含めた個々の取締役の具体的な報酬額を決める」という実務を運用することには(社長さん自身の関与が不可欠なので)かなり抵抗があるはずです。
個々の取締役の具体的な報酬金額は、株主総会において「取締役会に一任する」という承認をとりつけ、さらに取締役会では「社長に一任する」(再一任)といった承認をとりつける方法が適法なものとして実務慣行になっているようです。しかし、最近は「たとえ報酬枠の範囲であったとしても、『社長一任』による報酬額決定方法は、取締役間の利益相反状況にあることから、取締役会の監督職務を阻害するものとして違法」との見解も有力に出されています。ましてや、経営トップの指名と報酬決定は「取締役会改革」の目玉とされており、投資家の関心の高いところです。独立社外取締役の「報酬決定過程への関与」も含め、取締役会や指名・報酬委員会が、報酬決定過程にどのように関与しているのか、その具体的な方針を開示する必要性は高いものと思います。
このたびのリコーさんの賛成比率をみて、報酬決定過程をできるだけ透明にするのか、それとも批判が出ないようにできるだけ見えないようにするのか、各社の対応は分かれるかもしれません。いくら中長期の価値向上を目指す「業績連動型報酬制度」を設計したとしても、短期的な業績に連動する部分も含んでいるわけですから、ここは大きな「取締役会改革」が断行されるかどうかの試金石になりそうですね。
| 固定リンク
コメント
リコーさんは22日に「2012年3月期と14年3月期の単体決算で、1080億円の特別損失を、適切な時期に開示していなかった」「4月に経営陣が交代し、過去の情報開示を洗い直す過程で発覚した」と発表しました。
過去に遡って不適切な事象を公表する姿勢を、発表通りに受け取れば、新経営陣が自浄作用について「トライアル&エラー」の格闘をしたと思われます。
一方、東芝さんは23日に「8月1日に東京証券取引所1部から2部に降格することが決まった」と発表しました。
もう試行錯誤する余裕、自動車で言えば「アクセルとブレーキのあそび」が無い状態での運転ですので、8月10日の有報提出、半導体事業売却と綱渡りが続く中で最良の判断ができるかどうか心配(私が心配することではないのですが。。。)です。
投稿: 試行錯誤者 | 2017年6月24日 (土) 14時47分