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2017年7月31日 (月)

なぜか第三者委員会報告書で触れられない監査人の不適切な行動

諸事情ございまして、先週から平成27年~28年にかけて公表された(企業不祥事対応としての)第三者委員会報告書をいくつも精読しております。以前にも書きましたが、社外役員が増加していることや東証の不祥事対応のプリンシプルが公表されたこともあり、第三者委員会報告書よりも社内調査委員会報告書のほうが公表ベースでは数が増えてきていることを改めて認識しています。また、会計監査人からの要請で、社内調査委員会による調査を、途中から第三者委員会による調査に変更する事例も増えているようです。

ところで、「これはかなり秀逸な第三者委員会報告書かも」と思うものを読んでおりましても、どうしても不満に感じるのが「監査役、会計監査人が不祥事発覚の前後において、どの程度のリスクを感じていたのか、またどんな行動をとっていたのか」という点がまったく明らかにされていないという点です。先日もフタバ産業さんの「モノ言う監査役」の事例をご紹介しましたが、その内容(社長とのバトルの内容)が判明したのは、会社が元代表取締役さんを訴えた裁判の判決が公表されたからです。

フタバ産業さんの会計不正事案では、いくつかの第三者委員会報告書が公表されていましたが、当時の報告書を読んでも、そのあたりは記述がありませんでした。しかし、そのような「モノ言う監査役」が存在したからこそ、事件後6年半もかけて会社を代表して元取締役の方々の責任を追及する裁判を遂行できたのです。企業不祥事を発生させた企業が、将来的に再発防止策を履行し、自浄能力ある企業として立ち直るためにはどのような監査風土があるのか、とても重要です。監査人がどのように振る舞っていたか、という点は投資家にとっても大切な情報だと思うのです。

第三者委員に就任される有識者の方々も、監査役や会計監査人、内部監査人などの「有事におけるあるべき行動規範」のようなものがあまり自信をもって述べることができないのかもしれません。かつては、「そもそも監査人など、社長にモノが言えないのがあたりまえなので、そんなところに力点を置いても報告書に説得力がない」といった意見もありました。しかし、これだけガバナンスが重要と言われ、そこそこ会計監査人や監査役の役割も世間的に認知されてきたのですから、「このような状況において、監査役、会計監査人としてはこのような行動をとるべきだったのに、そのような行動をとった証跡は認められない」といった評価がなされてもよいのではないかと思います。もちろん「原因分析」の中で、監査機能不全といったことが列記されていることは多いのですが、では具体的な監査役、会計監査人(およびその連携において)どのような行動がとられたのか詳細に事実を調査したものは皆無であるため、再発防止策にも納得感が出てこないのです。

東芝事件、富士フイルム事件をはじめ、多くの不祥事発覚事例では、内部通報や内部告発が発覚の端緒とされていますが、こういった事例では、事件の早期の段階で会計監査人や監査役に不正リスクの兆候が伝えられることが多いのです。では、そのリスクを把握した監査人が、どのような行動に出たのか、そこは経営陣や会計監査人の法的責任の有無を判断するにあたっても、たいへん重要なポイントだと思います。なぜ、多くの第三者委員会報告書において、そのあたりの経緯が明らかにされないのか、とても不思議に思うところです。第三者委員会の調査には、監査人らの協力が不可欠であり、誠実に協力していただいた方々の責任を追及することはたいへん難しい面もあるとは思います。ただ、当該企業に自浄能力があるのかどうか、投資家にとってはとても知りたいところである、ということは調査を担当する者としては認識しておくべきではないでしょうか。

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2017年7月28日 (金)

会計監査人交代事例にみる監査法人改革の本気度

もうすでに会計士の方々のブログ等では話題になっておりますが、証券コード9788社(東証1部)におきまして、7月26日付けで「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」が公表されています。今年6月の定時総会で会計監査人に選任(継続)された新日本監査法人さんが、7月26日付けでコード9788社との監査契約を合意解約した、とのこと(後任の一時会計監査人は仰星監査法人さんだそうです)。理由はといいますと、

平成26年3月期の第2四半期に行った株式会社●●●取得時の会計処理に、発生頻度の少ない非定形的な処理があったため、会計上の「二重責任の原則」は承知しつつ、新日本有限責任監査法人からの助言に基づき処理を行い、無限定適正意見をいただきました。その後も、当社は同様の会計処理を継続し、無限定適正意見をいただいています。しかし、平成 29年6月中旬に、新日本有限責監査法人において業務執行社員変更に伴う引継時に当該 会計処理の誤りが発見され、同法人より指摘を受け修正するに至りました←(9788社 6月28日付け訂正・数値データ訂正)「平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」 の一部訂正に関するお知らせ」より引用

だそうです。つまり、従前の新日本さんの業務執行社員からの指摘によって会計処理を行っていたのに、その処理はおかしいと引き継いだ業務執行社員から指摘されて、決算修正のうえ、内部統制には重大な不備があると開示せざるをえなくなったわけです。リリース上では「合意解約」とありますが(たぶん)会社としては「あんたとはやってられまへんわ!」ということで、新日本さんは事実上解任をされたのではないかと推測されます(会計監査人の意見は付記されていないので、あくまでも「推測」ですが・・・)。

たしかに、日本を代表する監査法人の珍しい事例を「トホホニュース」として取り上げるのは簡単です。 ただ、これまで同一監査法人内での引き継ぎ時に、同様の状況というのは時折発生していたのではないでしょうか?同じ監査法人内のことなので「なんとなくグレーな状況だけど、まあ、監査先企業は失いたくないし、会社もよくわかってないみたいだから、穏便に、穏便に」といったことで済まされてきたこともあったのではないかと。

今回、おそらく会社側から解任されることを覚悟のうえで、同じ監査法人内で業務執行社員が他の業務執行社員の誤りを堂々と指摘した、というのは、むしろ監査法人さんの姿勢としては健全な方向に動いているのではないでしょうか(誤りを指摘したら、実は前任者の指摘した内容だったことが後でわかった、といった更なるトホホはないと信じております)。かつて大きな監査法人の偉い方から「監査法人の品質とは、個々の会計士の品質と同時に、組織としての監査法人の品質も大事なのだ」と教えていただきましたが、なぜこのような事態となったのか、(会社側だけでなく)監査法人側の説明もお聴きしてみたいものです。

(追記 7月28日正午)一老さんから有益なコメントをいただきました。ご参考にしてください。

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2017年7月26日 (水)

JALの公募増資手続きにNOを突き付けた監査役の方々

日経朝刊「出光、合併への賭け(上)」で、さっそく出光さんが公募増資に動いた内幕が描かれています。7月4日付けエントリーで私が想定したシナリオにかなり近いものだったようです。定時株主総会における現経営陣への賛成票比率を知って「これならいける!」って、それじゃやっぱり公募増資とはいえ実質は「第三者割当」と同じような気もしますが・・・(^^; ただ出光事件の内幕といえば雑誌「選択」7月号が一番核心に迫っていますよね(創業家側のキーマンとされる方がやはり別にいらっしゃるわけでして。今朝の日経記事も、この「選択」記事を事前に読んでおりますと、経営陣の覚悟や相談役の退任の経緯等、すんなりと頭に入ります)。

さて、出光興産公募増資事例に関する裁判所の判断については、今後いろいろと法律家の方々による意見が出てくると思うのですが、実は(ご承知の方もいらっしゃると思いますが)公募増資に対する差止仮処分が争われた事例というのは過去にも2006年の日航による公募増資事例がありますね。ただ、支配権争いの局面ではなく、既存株主の持ち分希薄化が問題とされた事例です。

一般株主が申立人(債権者)となって、日航さんの公募増資の差止を仮処分として争ったのですが、(新株発行の権限を取締役会に認めている会社法の下では)38%の希薄化は会社法が予定している株主の不利益の範囲内であって、被保全権利は認められないとして却下されました。ただ、この裁判では、そもそも公募増資を決議した取締役会に手続き違反があることも申立人が主張したそうですが、これも差止の理由にはならないとされたそうです(詳細な決定理由はわかりませんが・・・)。

ところで、この日航さんの公募増資を決定した取締役会の手続きは「大いに問題だ」と主張しておられたのが当時の日航の監査役であった3名の方々でした(日経ビジネス「JAL増資手続きは非常に問題」)。経営陣は2006年6月、臨時取締役会開催日に監査役に招集の連絡を入れ、電話では「議題については言えない」とのことで、結局は監査役3名とも欠席のまま公募増資が決まったそうです。次の取締役会では、監査役3名が連名で抗議文を社長に提出したとのこと。

監査役全員に(すでに決まている)取締役会の議題も伝えることなく、開催当日の朝に招集して事実上欠席を余儀なくさせるというのは、いくら監査役に議決権がないとしても、果たして「取締役会の決議の効力に影響を及ぼさない軽微な瑕疵」と言えるのでしょうかね?これでは監査役が善管注意義務を果たすことを事実上不可能にしてしまっているわけで、最近の取締役会改革(モニタリングモデル、監督機能の発揮)の流れからすると、招集通知の不発送に匹敵するほどの手続き違背があるように思います。このような内幕をマスコミに堂々と公表する監査役の気持ちも理解できます。

ただ、これだけ明確な監査役の意思を社長やマスコミに示すことができるのも、この監査役の方々が、経済団体の元会長さんだったり、メガバンクの元頭取さん、巨大企業の元社長さんだったりしたからでしょうね(やはり経営経験からくる自信、プライドはすごいなぁと)。社長OBの方々が相談役ではなく、他社の社外役員に就任すべきと言われていますが、このようなモノ言う監査役さんがたくさん登場するのでしたら、これはこれで歓迎すべきかもしれませんね。

 

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2017年7月25日 (火)

監査法人のローテーション制度導入のために必要な前提条件

いつも私が愛用しているRSSリーダーLive Dwango Reader(LDR)が、8月末をもって閉鎖するそうです。「この数年で利用者も大幅に減少しており、サービスとしての役割を終えたと考え、終了という判断に至りました」とのこと。たしかにブログという媒体自体、多くのSNS興隆の中で魅力が薄れてきたのは事実ですね。ひとつの転換時期かなぁと感じます。

先週木曜日(7月20日)に金融庁HPで公表された「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を読みました。現在導入されている「パートナーローテーション制度」がうまく機能していない、企業による自主的な監査法人の交代が進まない、諸外国はすでにローテーション制度を導入している、といった内容からしますと、「強制導入は時間の問題?」とも思われますが、まだ第一次報告ということで、今後さらに導入の可否について検討を加えるそうです。

導入に向けた課題については、監査の専門職の方々が議論すべきことですが、ひとつだけ調査報告を読んで気づいたことがあります。それは、監査法人の社会的責任の明確化、品質保証、そして報酬低額化防止にとって重要なのは被監査会社の監査委員会の機能強化という点です(日本でいえば監査役制度の機能強化といえばよいのでしょうか)。監査権限を有する機関が「公益の番人的な地位」を当然に有していることが監査法人のローテーション制度の実効性確保のために不可欠では?といった感想です。2014年に出版した拙著「法の世界から見た会計監査」の中でも述べておりますが、監査法人はどこまで監査役さん(監査等委員である取締役さん)を信頼しているか・・・といったところの「連携」の課題です。

会計監査人と監査役等との「連携」の重要性が指摘されて10年以上が経過していますが、この「連携」というのも、実際にはよくわからないところがあります。いろんな会社の「連携」例をみておりますと、報告会の開催、意見交換、リスクアプローチによる問題点の指摘といったことが挙げられます。でも、連携の本気度を上げるためには、実質的に監査法人の選定権限や報酬決定権限が監査役会や監査委員会に存在しなければ(監査法人さんが監査役さんのほうに真剣に顔を向けないので)無理ではないかと。また、会計監査で得られた情報と業務監査で得られた情報を「ギブ&テイク」で双方が活用する気持ちがないと形骸化してしまうような気がします。

「何かとくに留意すべき点はありますか?」「今年は何か監査のキーになる項目はありますか?」といったやりとりが監査役さんと会計監査人との間で交わされることがありますが、これでは「連携」にはならないと思うのです。監査役と会計監査人が相互に「こういった情報が欲しい」、「こういった宿題をやっておいてほしい」と「知りたい情報」とその知りたい理由をわかりやすく説明しなければ、そもそも連携の相手方には伝えるべき情報の価値がわかりません。つまり情報共有などできないはずです。そして、そのためには相手の職務に関する一定程度の相互理解が求められます(そういった面において、会計的知見を有した社外役員さんは相互理解のためにも有益かと)。

ときには社長から嫌な顔をされることがあったとしても、会計監査人の希望を受け入れ、ときには会計監査人から嫌な顔をされても、会社の方針の正当性を説明して会計監査人に受け入れてもらう、といった「対話」こそ連携には必要ですが、そのような連携を可能とする監査環境が日本企業でも形成されることが不可欠です。このたびの監査法人のローテーション制度の実効性を高めるためには、まずこの監査役制度(監査委員会、監査等委員会制度)の機能が発揮できる環境作りが前提条件となるはずです。

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2017年7月20日 (木)

満身創痍で社長と闘い続けた監査役の姿勢が垣間見える判決

出光興産公募増資差止仮処分事件の即時抗告決定が告知されたようで、地裁決定と結論も理由もほぼ同じだったようです。理由では本件が「公募増資」である点を地裁よりも重視されていたようですが、やはり実質審理という面いおいて時間切れの感は否めません。さて、第1ラウンドはこれで終わりましたが、次は何が出てくるでしょうか。ところで全く本件とは関係ありませんが、出光興産さんでは、相談役制度を廃止して、指名報酬委員会の諮問を踏まえて今後は顧問制度を作るとか(なかなか最先端を行っていますね)。

(ここからが本題ですが)判例時報の最新号(2331号)に、フタバ産業さんが元社長、元事業部門担当取締役を被告として損害賠償請求訴訟を提起し、14億ほどの賠償判決を得た事件の判決全文が掲載されました。関連会社への不正融資で損害が出たとして、同社と個人株主らが訴えていたもので、昨年3月ニュースでも取り上げられました(たとえば時事通信ニュースはこちら)。

判決では「融資先の経営状態などを確認しなかったのは、代表取締役として無責任」と元社長を批判し、また融資先の非常勤取締役だった元取締役についても「実情を調査し、報告すべき義務があったのに果たさなかった」と指摘しています。ちなみに、フタバ産業さんが2007~08年、グループ外の会社を経由するなどして、ロボット開発会社へ金融支援を実施し、その結果として多額の資金が回収できなくなった事件です。元社長さんは、真剣に会社の次世代の柱事業としてロボット開発を推進していました。他の取締役の方々も、その元社長さんの熱意を忖度して、なんとか成功させたいとの思いで不正に走ったり、これを見逃していたようです。今風に言えば「攻めのガバナンス」の典型例です。

この事件は元監査役さんが6年半かけて、会社を代表して元社長の責任を追及しつづけたもので、ご自身も株主代表訴訟の被告になりながらも、会社の損害回復のために闘った裁判です。たいへんなご苦労だったと思います。その裁判の判決全文がようやく読めるようになりました。

判決全文を読んで(たいへん長いので、流し読みもありますが)、ようやく元監査役の方が株主代表訴訟で負けなかった理由がわかりました。常勤監査役、社外監査役とも、社長に何も言えない取締役会において、毅然とした対応を何度もとっておられました(裁判所も「どうやら社長に対してモノが言えない雰囲気だった」と取締役会を評価しています)。取締役会で事前の承認を得ていない取引先への緊急支援について、監査役は内部統制に関する取締役会決議違反を主張して、すぐに取引先への対応を検討するよう社長に指示するのですが、社長さんは「とりあえず事後承認」ということで不正を黙認してしまいます(他の取締役さんも、なにも文句は言わず賛成しています)。ちなみに監査役の方々が経理担当取締役による無断不正融資に気づくきっかけは、会計監査人との連携(会計監査人が気づき、その対応を監査役に求める)でした。

監査役から「無断融資が実行された件、担当者だけでなく融資責任者も処罰しないのか」と指摘されても、社長さんは「検討する」といっただけで何ら対策はとられませんでした。監査役の方々が「無断融資が行われた経緯についてきちんと取締役会に報告し、再発防止策をすぐに示すべきである」と提言しても、その場では元社長さんも了解しているものの、何らの調査・防止策検討はなされませんでした。つまり、完全に監査役の意見は長い間にわたり無視され続けたことから、この執念の裁判が始まったようです。

フタバ産業さんといえば、昨年から自動車部品業界の中でも業績は好調です。ここ10年ほど、いくつかの不祥事が続きましたが、トヨタさんとの関係強化もあり、健全なガバナンスが構築されつつあるのではないでしょうか。もしそこに功労者がいるとすれば、何名もの裁判官が変わる中で、判決をもらうことにこだわり、「俺は知らない」と責任を否定する元社長さんに責任追及の手を緩めなかったこの元監査役さんではないかと。

最近は「監査役など、何もしていないのに『退職慰労金』を出すというのはいかがなものか」とよく話題になります。ただ、外から見て不祥事が発生(発覚)していないように見えるのは、その裏で常識的な監査役さんの並々ならぬ尽力があるからこそ・・・という企業も存在すると思います。あまり表に出ていない事例だけに、「自己保身に走りたい状況の中で、それでも会社と株主の利益を思って満身創痍で会社を救おうとされた監査役」がいらっしゃったことを少しでも多くの方に知っていただけたらと思い、ご紹介しました。

 

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2017年7月19日 (水)

出光興産公募増資差止却下決定-どうなる即時抗告の行方?

(午後5時に即時抗告の決定-公募増資を認める決定-が出たようなので、以下の文章をお読みになるにはご注意ください)

某社役員の方の御紹介で、初めて経営法友会の月例講演会でお話をさせていただきました(ホテルモントレ大阪)。法務部の方が集まる勉強会でお話をするのは一面において話しやすいのですが(前提のお話をとばしても理解してもらえる安心感!)、一面においては話しづらい(私よりも法務のスキルが豊富!)というものでして、かなり緊張いたしました。ただ、私のような弁護士でも、「どうしたら御社の法務部と社長の部屋を近づけることができるか」「どうすれば法務出身の役員を増やすことができるか」と、その方策を真剣に考えているのです。単に法務部の地位を向上させるというものではなく、「法務を大切にする企業こそ事業価値を上げることができる」と確信をしておりますので、法化社会の実現のために今後も法務部の方々とコミュニケーションをとれる機会がありましたら積極的に参加したいと思っております(と、こういったことを申し上げると、当ブログの常連の方々からはご異論が出てくるのですよね・・・笑)。

さて、マスコミで既報のとおり、本日(7月18日)出光興産の公募増資の差止を求める仮処分申立事件の東京地裁決定が告知されまして、申立人(債権者)である創業家ら6名の申立ては却下されました。私の予想は7月4日付けのこちらのエントリーで書かせていただいておりましたが、「取材に協力していただきたい」とのことで、マスコミの方から「決定要旨」を見せていただきましたので、事実及び理由の要旨を読みました。素直な感想として、東京地裁の却下理由は、私が予想していた以上に「どっちに転んでもおかしくないほどギリギリの判断」から産まれたような印象です。

このブログでもご紹介していた2014年11月のアルファクス・フード・システム事件、当ブログでは名前を伏せながらご紹介していた2017年1月のデジタル・デザイン事件の増資差止仮処分申立て事件では、差止認容決定が続いておりました。両事件とも、出光興産事例と希釈化率はそれほど変わりません。したがって「どうも最近の裁判所は『主要目的ルール』(増資差止の判断に用いる裁判所のモノサシ)を厳格に適用する傾向が強い、だから本件でも差止が認められる可能性が高いのではないか、最後は第三者割当ではなく公募増資を会社側が選択した点を裁判所がどうみるか、という点で勝負が決まるのではないか」と私自身は考えておりました(詳細は前掲7月4日のエントリーをご覧ください)。

この点、このたびの東京地裁は、最近の主要目的ルールの厳格適用の傾向を踏襲している、つまり両当事者にとって公平な立場でモノサシを適用をしているものと思います。「本件新株発行については、債務者経営陣が自らを有利な立場に置くとの目的と資金調達目的とが併存するというべきである」「ベトナムへの戦略的投資なる資金調達目的は、経営権争いの中での会社側主張としては合理性がない」といった決定理由の内容は、かなり裁判所としても悩ましい判断過程だったことをうかがわせます。公募増資事案だから、第三者割当増資のように支配権確保目的での増資とは推定できない、といった荒っぽい枠組みを採用するのではなく、公募増資であったとしても支配権確保の目的は経営者側に一応認められるとして、ただ「増資の主要目的は何か」という判断の一要素として取り上げているにすぎないのです。

本件増資の主要な目的は何か・・・、という点を判断するにあたり、裁判所は①公募増資は第三者割当増資よりも取締役に反対する株主の支配権を減弱させる確実性は弱いこと、②本件新株発行後、直ちに株主総会が開かれる見込みはなく、創業家の反対を押し切ってまで昭和シェルとの合併承認決議を目的とする臨時株主総会を招集するなどの行動に出るおそれが高いとも認められないこと、他方③債務者には借金返済という資金調達の必要性は客観的に認められる、として、最終的には「主要な目的が、客観的な資金調達目的ではなく、債務者経営陣らが自らの有利な立場に置くとの目的であるとまで断定することはできない」と結論付けています。主要目的ルールに関する既存の判断枠組みを相当厳格に踏襲した分、①~③まで、結論に至る判断理由には裁判官の主観的な価値判断が色濃く出ておりますので、創業家側としては合理的な反論は十分可能ではないかと(とくに③の理由は、会社側の情報開示の姿勢と大きく関わります)。

となりますと、まだ明日、明後日の即時抗告の決定の行方が気になるところです。ライブドア事件では、東京地裁決定よりも、東京高裁の抗告審決定のほうが大きな話題となりましたが、今回も、地裁判断とは少し内容の異なる判断が出てくる可能性はありそうです。過半数を争う支配権争いではなく、会社の根幹に関わる決定権限(3分の1)を排除するような支配権争いについて、もっと明確なモノサシがあったほうが良いのではないか、いやそもそも2分の1ではなく3分の1を排除するほうが、さらに機関における権限分配法理は貫徹されるべきではないのか、といったあたり、高裁としても今後の別事件を想定した判断がなされる可能性もあると思います(ただ、実質審理を行うにはあまりにも時間が少ない、という点はありますが・・・)。

12年前のライブドア事件の新株予約権差止仮処分事件でも、その後の学説や実務に大きな影響を及ぼしたのは保全抗告の判断(高裁判断)でした。今回は「創業家vs会社」という図式でしたが、これが最近順風が吹いている「モノ言う機関投資家vs会社」という図式でも成り立つのでしょうか?うるさい機関投資家が株を買い上げたら、今回の手法で現経営陣は支配権を維持できるのでしょうか?あまり外に情報を出したがらない企業ほど裁判では有利になるのでしょうか?そういったケースではマスコミや世間はどちらを応援するのでしょうか?そう考えますと、高裁は(たとえ結論は変わらないにしても)少し地裁とは異なる論理構成で決定を出す可能性はありますし、また今回の地裁判断で創業家側も「まだまだ」といった気持ちで臨んでおられるのではないかと推測いたします(この地裁決定理由からすると、たとえ公募増資が行われても、株主総会開催禁止の仮処分とか、合併差止の仮処分とか、創業家側としてもいろいろと手はありそうですね。なお、以上は場末の弁護士による野次馬的即興コメントなので、株式の売買は自己責任にてお願いいたします)。

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2017年7月18日 (火)

「これからの内部通報システム」を考える

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今年前半は改正個人情報保護法の解説本がたくさん出版されましたが、後半は内部通報制度・公益通報者保護制度に関する解説本がいくつか出版されるようですね。公益通報者保護法の改正審議はまだまだこれからですが、11年ぶりに民間事業者向けガイドライン、(労働者通報に関する)行政機関向けガイドラインが改訂されたこともありまして、こちらもたいへんタイムリーな解説書に仕上がっています。

これからの内部通報システム(2017年7月 中原・結城・横瀬著 金融財政事情研究会 2,600円税別)

ちなみにジュンク堂さんの「おすすめ」コメントによりますと、

「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を詳細に解説。通報窓口を受託している民間事業者や先進的企業の取組も紹介し、これからの内部通報システムの在り方を提言。民間事業者必読の1冊。

だそうであります。以下はご献本いただいた私の感想です。

これまでの内部通報制度に関する解説書で何度も解説されているところは思い切って簡素化し、その分を民間事業者向けガイドラインの解説、そして関係者からのインタビュー記事に重点を置いているのが本書の第1の特徴です。この類の共著の解説書は、机上で情報を収集することに重きを置きたくなるのですが、多くの有識者、コンサルタント会社、民間事業者から直接ヒアリングをして、その結果を丁寧にまとめ上げるという、かなり「しんどい」作業が行われています(ヒアリングや録取内容のまとめ、構成は3名で分担されたものと思われます)。したがって、読者もおそらく新鮮な情報に触れることができるはずです。

不肖私も、本書では有識者(?)のひとりとしてヒアリングを受けまして、「山口利昭弁護士に聞く(74頁以下)」として私のインタビュー記事が掲載されています(民間事業者ガイドラインの解説部分に、何度かこのインタビュー記事が引用されていますので、責任重大ですね・・・(^^; )。作業の一端を垣間見ておりますので、上記のようなご苦労も推察できます。個人的にはやはり民間事業者の方々のインタビュー記事がとても参考になりました。

さてもうひとつの特徴は、タイトルどおり「これからの内部通報システム」を読者の皆様へ提案している点です。私も「いつかやっておこう」と思っていたのですが(結局、まだやらないうちに先を越されたわけですが)、改訂された民間事業者ガイドラインの各項目と、消費者庁が示したレベル感(やっておくべき⇒やったほうがいい⇒やってみてもいいかも)を上手に整理した図表を活用して、それぞれの事業者の規模に合わせて内部通報システムの適切な導入・運用を提案しておられます。これは正直フリーライドしたくなりますし(笑)、私自身の通報窓口業務にもそのまま参考になりそうですね。

「異論のあるところだが、内部通報義務を規程に明記することも検討すべき」といった積極的な提案も、その理由を含めて示されています(ちなみに、私は通報義務についてはやや懐疑的ですが・・・笑)。こういった専門家の積極的な意見による提案は企業実務家の皆様にもウケるのではないでしょうか。

諸事情ございまして(笑)、当ブログでは加計学園問題へのコメントは控えておりましたが、文部科学省の一連の文書提出により、公益通報者保護制度への国民的関心が(良い意味でも悪い意味でも)高まったのは間違いないところかと。 行政のことですから、関係各省庁の人事異動で公益通報者保護法の改正審議がどうなるのかやや未知数なところもありますが、私も様々な意見発信を通して法改正に向けた審議に何らかの形で関与していければ、と思っております。そのためにもぜひ本書を参考にさせていただきます。

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2017年7月13日 (木)

世間で話題の相談役・顧問の方々がこだわるCSRとは?

今週月曜日に、こちらのエントリー「電通労基法違反事件はこのまま略式命令で終結するのか?」にて、電通さんの法人起訴事件は正式裁判で審理すべきと述べましたが、やはり東京簡裁は正式裁判を行うことを決定したそうです。ご遺族の方々にも、また電通の社員の方々にとっても、私は経営者が法廷に立たれて「電通は本気で労基法を順守する」という宣誓をされるほうが良いと考えます(傍聴席はスゴイことになりそうですが・・・)。

本日は、とても大きな会社の現役相談役(元代表取締役)の方とお話する機会がありまして、せっかくの機会なので経済団体でのお仕事や政府委員としてのお仕事など、「相談役」であることのメリット・デメリットをいろいろと聞かせていただきました。その方が社長をされた会社では、社長経験者が「相談役」、それ以外の役員だった方が「顧問」に就任されるそうですが、「顧問」については役員退任後65歳まで、と決まっているそうです。「相談役」も、社長退任後3年と内規で決まっているとのこと。

お話の中で「相談役はやっぱりCSRには特別のこだわりがありますね」とおっしゃるので、「そうか、社長経験者ともなると、ステイクホルダーと企業とのつながりには格別の配慮を考えているのだなぁ。地位が人を作る・・・ということか。世間ではいろいろと騒がれている『相談役制度』も、社会にとってはけっこう有益なのかも・・・」と思いました。しかし、話の途中から、どうもCSRの意味がちょっと違うような気がしてきました。

「山口さん、私が言ってるCSRは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)という意味ではありませんよ。車(Car)、秘書(Secretary)、個室(Room)のことですよ。私の場合は秘書は専属ではありませんが、やっぱりこのCSRは手放せないですよねぇ。」

私 「・・・・・・・・(;^ω^)アアナルホド

もちろん、その方は「私はホントに相談されたら乗る、というもので、自身から経営に口出しすることはありません」とおっしゃっていました。でも社長OBの方々が「普通に」CSRという言葉をお使いになっておられるご様子だったので、相談役・顧問制度というのは、企業実務に深く根付いているのだろうな・・・と想像いたしました。当ブログに本日コメントをいただいているベネシュさんがお読みになったら、また💢っとさせてしまう内容になってしまいました(^^,

 

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2017年7月12日 (水)

コーポレートガバナンス改革の実効性の検証方法について考える

先日のエフ・オー・アイ事件のときもそうでしたが、このたびの出光興産さんの公募増資に係る差止仮処分事件には、ほとんどの東京の大手法律事務所がどこかの関係当事者の代理人を務めておられるので、なんとも情報が出てきませんね(笑)。裁判の審理はいまどのあたりでしょうかね?(^^;; 要急案件なので、創業家側が申立をしたらすぐに審理(審尋手続き)は開始されていると思うので、双方の即時抗告、保全抗告の機会を考えますと、今週後半には決定が出てもおかしくないと思うのですが(東京地裁の商事専門部が審理をしますので、もう実質的にはそこで一発勝負ということであれば来週18日ころ、ということも考えられますが・・・、どうなんでしょう?)。

ところで最近、監査等委員会設置会社の急増だけでなく、取締役に選任されていない「社長執行役員」やインセンティブ報酬に関する議論などもされるようになり、ガバナンス改革の具体的な実践例などもよく話題になります。そうなると、やはり気になるのが「ガバナンス改革は成功した、と判断する検証方法ってどんなものなんだろうか?」という点です。

たとえばガバナンス・コードを実施することで、株主目線で経営するようになり、その結果として業績が向上した、もしくはROE向上を意識したことで株価が上がり、時価総額が上がったということが検証されるということが考えられます。つまり、ガバナンス・コードという「上場会社すべてにおいて『こうすれば業績が上がる』という魔法の指針があって、これを実施すれば業績も上がる」というストーリーの検証をすることが必要なのでしょうか?本家本元のOECD原則だと、こういった検証になるのでしょうか?

しかし、取締役会改革の流れをみてみると、ダイバーシティや執行と監督の分離、といった主題があって、その流れをつきつめていくと、同じ経営環境でも成功する企業も出て来れば失敗する企業も出てくる、最終的に成功した企業がその業界でたくましく成長して、失敗した企業を統合していって最終的には国際的に競争できる企業に成長する、ということを目指しているようにも思えます。つまりミクロ的に見れば、ガバナンス・コードを実施した結果として業績が下がってしまう企業が多く出てきたとしても、業界全体をマクロとして日本企業の業績が上がっていれば成功とみる、という検証方法もありかな・・・と。

いろんな経営者の方とガバナンス改革のお話をしていて、行き着く先への思いが前者として考えておられる方と、後者として考えておられる方と分かれているように思いました。まぁ、そんなことどうでもいい、といった「なんちゃってコンプライ」の上場会社の社長さんもけっこういらっしゃるようではありますが・・・(^^;

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2017年7月11日 (火)

監査の品質向上と会計士の「公務員化」について考える

7月8日(土)の日経朝刊特集記事「揺れる監査法人」に、あずさ監査法人さんの社外役員をされていらっしゃる阪田雅祐氏(元内閣法制局長官)のお話(監査法人の改革案)が掲載されていまして、とても興味深く読ませていただきました。監査の実効性を高めるための「交代制導入」のお話の中で、監査人の報酬を証券取引所が支払う、つまり「会計監査人の公務員化」に関する提案をされています(とりあえず会社法監査など、非上場会社を含む監査の話は置いておきます)。

私も当ブログで過去に「監査のねじれ」こそ不正監査の根源的問題であり、監査報酬のプール制(上場会社が規模に応じて監査報酬金を取引所に拠出する制度)を導入することが良いのではないか・・・と勝手に述べたことがあります。ただ、英国や米国をはじめ、諸外国の監査制度の実態を教えてもらったり、会社と監査人との監査に関するコミュニケーションの現場に立ち会ったりするなかで、単純な「公務員化」で監査の品質が上がるというのは現実的ではないかも・・・と思い直しております。会社と同じ方向に寄り添いながらも、監査人が職業的懐疑心を発揮して、最終的には投資家のための財務報告の二重責任を地道に果たす、ということが(やはり)監査の品質向上の近道ではないでしょうか。

金融検査を担当する人たちが公務員なんだから、監査人の公務員化も可能ではないか・・・といった議論は私の経験上、かなり乱暴に聞こえます。金融検査を担当する人たち(金融庁職員)は、若いころから「権力は抑制的に行使しなければならない」といった思想を植え付けられて、世間から常に批判のまなざしを向けられて、そこに「国民の公僕」としての姿勢があるからこそ権力を適正に行使しうると思います(ときどきそうでない人もいらっしゃいますが)。今まで権力を行使したことがない人が、いきなり権力を握ることほどろくなことはありません。最初は良くても、最終的にはご自身も国民も不幸にしてしまうのは、弁護士率いる整理回収機構の歴史が物語っています。おそらく私でも「明日からこの強大な権力を国民のために使っていいですよ」と言われたら、(いろんな誘惑に負けてしまって)使い方がわからないままに、まちがいなく濫用してしまうと思います。

当ブログで、ここ数年で一番読まれているのが「オオカミ少年待望論」に関するエントリーですが、監査の品質(会計監査も監査役監査も)を向上させるためには、私はこれに尽きると思います。つまり優秀なオオカミ少年を歓迎する企業社会です。「この会計処理はおかしい」「社長の行動は会社法違反の疑いがある」と合理的な理由を示して株主や投資家に警告を鳴らす人たちを投資家も企業もリスペクトすることができるかどうか。監査の失敗が発生したときだけ「だから監査は機能しないのだ」と批判されるのではなく、リスクを背負って警鐘を鳴らした(結果として不正が認定できなかった)監査法人、監査役に対して称賛の声を上げる社会です。監査人のプラスの面もマイナスの面も評価対象として、優秀な会計士が監査を担当していることで企業価値が上がればそれも良いと思います。

どんなに立派な監査を行い、その結果として会計不正を未然に防止できても、どこからも称賛されないのはやっぱりつらい作業です。「新日本の●●会計士のクルーは、なかなか評判がいいみたいだね」と言われたり、「トーマツの●●会計士が首を縦に振らなかったら、そんときは腹くくって修正に応じよう」みたいなことになれば、と思ったりします。新規上場企業に関わって、あぶない橋を渡った会計士さんほど、上場企業に求められるリスク感覚がすぐれているようにも思います。「オオカミ少年」の出現で多少株価が低下することがあるかもしれません。しかし、企業社会にこれを歓迎するムードが存在しなければ、会計士さんや監査役さんの職業的懐疑心を適切に発揮することは無理ではないでしょうか。

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2017年7月10日 (月)

電通労基法違反事件はこのまま略式命令で終結するのか?

先週末、マスコミで報じられておりますとおり、電通さんの違法残業事件(労基法違反事件)におきまして、検察当局は労働基準法違反罪の両罰規定を適用して、法人としての電通さんを略式起訴しました。一方で、注目されていた幹部個人についてはいずれも不起訴とされています(ただし違法行為を認定して「起訴猶予」とのこと)。電通さんでは、企業体質として違法残業が根付いていたため、個人の責任が大きいとは言えない、と当局は判断したそうです。

これで電通事件も終結したと報じられていますが、果たしてそうなるのでしょうか。たしかに電通さんの場合、略式命令の請求先は東京簡裁であり、これまで(東京簡裁では)略式裁判によって手続きが進行するのが慣例です。しかし大阪簡裁では、昨年11月から今年にかけて、法人の労基法違反事件が4件、略式命令を「不相当」と判断し、正式裁判による審理が行われています(根拠は刑訴法463条1項)。裁判所も労務事件に対して厳しい姿勢をとるようになりました。なかでも上場会社であるサトレストランシステムズさんの事件では、正式裁判に移行し、法廷での謝罪(経営トップによる)などが報じられ、関西のニュースでも大きくとりあげられました(たとえば産経新聞ニュースはこちらです)。

検察当局が「企業体質として違法残業が根付いていたこと」を個人責任追及断念の理由とするのであれば、本当に今度こそ企業体質を変える意思があるのかどうか、経営トップから裁判官が直接話を聞きたいと思うのは当然ではないかと。また、全社的内部統制(統制環境)をどのように変えるつもりなのか、そのコミットメントをきちんと法廷での証言として残しておくべきだと思われます。過去にも同様の問題が発生している電通さんだからこそ、書面審理だけでなく、直接口頭主義によって経営トップに法廷で約束をしてもらう意味があるように思います。

労務コンプライアンスへの対応の変化は、厚労省(労働基準監督署)だけでなく、おそらく今後は司法判断にも及ぶのではないでしょうか。これまでは大阪簡裁が中心でしたが、今後は東京簡裁でも労基法違反、安衛法違反事件に対する公判審理が増えるような気がします。ただし、内部通報窓口の仕事の中で気づくことですが、労務コンプライアンスが叫ばれる一方で、今度は新たな問題が店長、支店長といった労組組合員の少し上にいらっしゃる従業員の方々の間で発生しています(それはまた別途エントリーにてお話ししたいと思います)。

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2017年7月 7日 (金)

産地米偽装問題-週刊ダイヤモンドに「大逆転」はあるのか?

京都の米卸業者が中国産の米を「南魚沼産」として販売しているとして、週刊ダイヤモンド誌が実名報道を行った件で、ついに農水省の調査結果が公表されました(JA京都中央会のHPに掲載されています)。中国産米が混入した形跡はないとのことで、ようやく米卸業者としては風評被害から脱することができそうです(おそらく従前の取引先との取引も再開することになると思います)。

ダイヤモンド誌がスクープを報じたときは、あれだけ「とんでもない業者がいたぞ!」と(瞬間的に)話題になりましたが、こうやって農水省の調査結果が出たにもかかわらず、どこも米卸業者の名誉を回復していただけるような報道をしてくれるマスコミが出てこないのはなんとも寂しいところです。結局のところ、社会不安をあおるほどの記事にはなりえず、小さな米卸会社の信用毀損をもたらすにとどまった、ということかと。企業不祥事報道のおそろしい現実を垣間見ました。

民事裁判が係属していますので、ダイヤモンド誌側は「記事内容には自信がある。真実だと確信している」との主張を繰り返されるのでしょうが、自ら依頼した鑑定研究所が「以前の鑑定結果とは違った結果が出た」との再鑑定結果を出し、さらに農水省の調査結果まで出ましたので、かなり苦しい立場に立たされたものと思います。私は公平な立場でこの問題を取り扱っていますので、これ以上、ダイヤモンド誌を批判するつもりはありません。ただ、米卸業者さんの「泣き寝入り」状況をみるにつけ、どこかで不祥事報道の出し方を間違ってしまったのではないか、裁判で決着をつけるだけの問題では済まないのではないだろうか、と疑問を抱かざるをえません。

そして、私がこのブログで言い続けてきた「不祥事を取り扱った雑誌スクープは、他紙(他誌)の後追い記事が掲載されないかぎりは大きな不祥事にはなりえない」という事実については、さらに確信するものになりました。ときどき内部告発を本業で取り扱う者として、事実を基礎付ける確固たる証拠がなければ多くのマスコミに取り上げてもらうことはできない、かえって企業の信用を毀損するだけでなく、いたずらに社会不安をあおることになってしまいかねない、と自戒するところです。また、マスコミのスクープネタへの対応としては、今回のJA京都中央会側の冷静なマネジメントがとても参考になります。

公益通報者保護法の改正審議がこれから続きますが、本件の一連の騒動は、法改正推進派にとっては有利にも不利にも働きそうな立法事実が詰まっています。

 

 

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2017年7月 5日 (水)

会社側上程議案への「相当数の反対票」というのは何割くらい?

(7月5日午後 追記あり)

6月30日の日経電子版ニュース「株主総会、社外役員の独立性に厳しい目」では、今年の株主総会の総括として、会社側上程議案への株主の賛成票の低下が目立ったことが挙げられています。社外役員に限った話ではなく「一般的に、取締役選任議案に対する賛成は9割を切ると低いとみなされることが多い。今年、株主総会を終えて企業が提出した臨時報告書では、その9割に届かないケースが少なくなかった」と報じられています。

ところで、本則市場に上場する会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①では、(取締役会に対して)「株主総会において可決には至ったものの、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認められるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべき」とされています。では、この「相当数の反対票」とは、どのくらいの賛成比率を下回ることを指しているのでしょうか?ちなみにコード策定者(金融庁)の解説では、「相当数の反対票の具体的な解釈は、各取締役会の合理的な判断に委ねられる」としています。では、どの程度の賛成比率であれば「合理的な判断」の範疇になるのでしょうか?

上記の日経記事を参考にしますと、賛成比率が9割に届かなかった取締役選任議案については、相当数の反対票が集まったものと考えるのが、いちおう合理性がありそうです。取締役選任議案への反対というのは、単純に候補者の能力・資質への批判だけでなく、その会社の戦略、政策への反対という意味も含むことが多いので、10%以上の反対票が集まったということであれば、来るべき株主との建設的な対話に向けて、何らかの分析・対応が求められても良いのかもしれません。

しかし、スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家も中長期的な企業価値向上への真摯な意見が求められる中で、会社の中長期的な政策に対する株主の意見もますます多様化するのではないでしょうか。三越伊勢丹HDの社長交代が企業価値に及ぼす影響は、野村證券とみずほ証券ではアナリストさんの意見が異なりましたし(3月12日付け日経ヴェリタス参照)、先日の黒田電気への株主提案の可決事例についても、野村證券とニッセイ基礎研究所のアナリストさんの意見も分かれました(6月30日付け朝日朝刊関西経済版)。議決権行使の助言を行うISSさんとグラス・ルイスさんの推奨意見もいくつか分れたものがありました。そうなりますと、そもそもガバナンス改革が進むにつれて、とりわけ取締役選任議案への賛成比率は、株主の意見が多様化することにより、次第に低下するのが当然ではないかと。

そうしますと、「相当数の反対票」という概念も、たとえば賛成比率が8割を割るようような議案とみるのが合理的なようにも思えます。8割を切るというような場面においては、政策への批判や不満というものが一定傾向として出ているものと判断できるのかもしれません。コード1-1①の実施率(コンプライすると宣言した会社の比率)はほぼ100%ですが、要は対話促進のための施策ということで、対話の必要性との兼ね合いによって個々の企業で判断すべきであり、とくに「横並び」は必要ないと思います。

(7月5日午後6時30分追記)tyさんがコメント欄にとても有益なご意見を述べておられ、「なるほど・・・そのとおりかも」と思いましたので本文でもご紹介いたします(どっかで使わせてもらおうかな・・・笑)。私の単純な思考回路よりも、かなり説得力のあるご意見です。

株主構成によって賛成比率の意味合いは相当変わってくるので、株主構成によって「相当数の反対票」も変わってくるのではないかと思います。平均的な企業で考えると、安定株主比率が平均で50%、議決権行使比率が平均で75%ですので、賛成率が90%を下回った場合というのは、平均的な企業では非安定株主の賛成率が70%を下回った場合を意味します。80%を下回った場合だと、平均的な企業では非安定株主の賛成率が40%を下回った場合を意味します。平均的な企業で考えると80%を下回った場合というのは、少数株主から見るとかなり問題があると認識されたケースかなぁと感じます。
「相当数の反対票」は個々の企業が自社の非安定株主の賛成率を見ながら考えるのが良いのではないでしょうか。

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2017年7月 4日 (火)

出光興産経営陣の公募増資決定に創業家株主は対抗できるか

(7月4日午後2時50分追記あり)

既報のとおり、出光興産さんは7月3日の取締役会で、公募による新株発行を決定したそうです。4800万株発行し、約1385億円を上限に資金を調達を行うとのこと。調達目的は、借入金の返済、海外事業の運転資金や成長投資に充てるためと説明していますが、経済紙等では昭和シェル石油との合併に反対する出光創業家の持ち株比率を希薄化し、早期の合併実現を図る狙いがあると報じられています。

これに対し、創業家側は同日、「創業家の議決権比率を希薄化する目的は明らか」(代理人弁護士)とのコメントを発表し、裁判所に増資差し止めの仮処分を申し立てるそうです。膠着状態に陥っていた出光合併問題が、いよいよ動き出しましたね(私には素直に出光側が「強行突破」に出たものと映りますが・・・)。

※・・・会社法210条2号は、会社が新株発行が「著しく不公正な方法」によって行われた場合には、株主が不利益を受けるおそれがある場合に発行を止めることができる、とされています。なお、早く止めないと、この210条2号の請求ができなくなる場合には、民事保全手続きを活用することも認められています。本件で問題となっているのは、この差止の仮処分のほうです(以上、追記しました)。

日経ニュースでは、すでに著名な法律家の方々が、創業家が不公正発行として差止仮処分を申し立てた場合、どちらが優勢か・・・といったコメントを出されています。私はというと、「匿名の弁護士」の方がおっしゃるように、本件が「第三者割当」ではなく「公募増資」であるところがポイントではないかな・・・と思っています。支配権争いが顕在化している会社について、新株発行の公正性への裁判所の対応が近年かなり会社側に厳しくなっていますが、「経営陣が株主構成を決める(だから不公正なのだ)」という点で第三者割当増資の事案が議論の中心です。2014年12月に公表された日本取引所(自主規制法人)さんの「エクイティにおけるプリンシプル」でも、第三者割当による支配権維持目的でのエクイティが問題とされています(出光さんはすでに事前相談に行かれてOKをもらっているのでは?)。

ただ、「公募増資」といっても、引受証券会社は「企業価値が上がる」と推奨して投資家に転売するわけですから、(創業家が買い増さないかぎり)現経営陣の経営に賛同する投資家が応募するわけで、応募した株主が創業家の方針に賛同するとは思えません。つまり公募増資といっても、効果からみれば現経営陣が自分たちに賛同してくれる株主を増やすことになるわけですから、どれだけ第三者割当と異なるのでしょうかね?(^^;;「総会直後の公募増資決定」というのは、一面において支配権目的を希薄化させる効果がありそうですが、別の一面においては公募増資としての意味を減少させる効果があるように思います。

会社法が予定している範囲での株式価値の毀損・・・という意味では、公募増資による資金調達は(何ら不公正な発行とは思えないので)差し止められないと思うのですが、「創業家支配の希薄化」という意味では、単純に「公募増資だから」という理由だけで「不公正ではない」とは言い切れず、差止が認められる可能性が残るような気がします(でも会社側にとって一番オソロシイのは、創業家と歩調を合わせる金主が登場して買い増しに動くことではないでしょうかー「仁義なき戦い」の引き金を引いたのは会社側だから・・・ということで)。

 

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2017年7月 3日 (月)

どっちが日本で主流になるの?-KAM(カム)とCAMs(キャム)

7月1日(土曜日)、日本監査研究学会西日本部会にお招きいただき、「財務報告の適正性判断への司法の関与」なるテーマで講演をさせていただきました(私の講演がやや短かったので、30分ほど質疑応答もさせていただきました)。学会関係者の皆様、どうもお世話になりました<m(__)m>。

講演の前に統一論題に関する討論&会場との質疑応答が開催されておりましたので、(専門外の私にはかなり難しい議論でしたが)一生懸命拝聴しておりました。そして監査報告書の透明化に関する質疑を拝聴しておりましたところ、学者の皆様が「重要な監査上の課題」のことを「きゃむ」と発音されていることに気づきました。ほぼ全ての大学の先生が『きゃむ』と発音されていました。

「え?『きゃむ』?、『かむ』じゃないの?」(私の素朴な疑問)

日本監査研究学会は8年ぶりにお招きいただいたのですが、8年前も「あぐりあぽん」という言葉が統一論題の質疑応答で飛び交っているのを聴いていて「『あぐりあぽん』って何?」と近くにおられた大学の先生にお尋ねしたことがありました(笑)。⇒合意された手続(Agreed upon procedures)「なんや、そんなことも知らんのかいな?」と思われても「知ったかぶり」だけは自分で許せない性格なのです。

討論の司会をされていた学会の先生に、(討論終了後)尋ねたところ、「うーーーん、学者の世界では『きゃむ』ですかねぇ・・・アメリカでは『きゃむ』だから・・・、欧州だと『かむ』なんだけどねぇ・・・」とのお答え。私の周囲の会計士さん方は、普通に『かむ』と発言しています。たしか金融庁のHPでもKAM(監査上の主要な事項:Key Audit Matters)となっていました。米国PCAOBの提言に登場する重要な監査上の課題(CAMs:critical audit matters)と「監査報告書の透明化・長文化」を議論する中では同じ意味ですよね?(それとも若干意味が違うのでしょうか?)

いずれにしても、①東芝さんの監査意見未受領問題、②ガバナンス改革における企業と機関投資家との建設的な対話の促進、③監査の品質向上への社会的要請といった時代背景において、監査報告書の透明化は(監査という専門領域を超えて)世間の関心を集めることは間違いありません。たしかIFRSのときもいろんな読み方がありましたけど、会計監査における「期待ギャップ」を埋めるためにも、対外的な読み方をどっちかに統一したほうが良いのではないかと、老婆心ながら思った次第であります。

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