出光興産経営陣の公募増資決定に創業家株主は対抗できるか
(7月4日午後2時50分追記あり)
既報のとおり、出光興産さんは7月3日の取締役会で、公募による新株発行を決定したそうです。4800万株発行し、約1385億円を上限に資金を調達を行うとのこと。調達目的は、借入金の返済、海外事業の運転資金や成長投資に充てるためと説明していますが、経済紙等では昭和シェル石油との合併に反対する出光創業家の持ち株比率を希薄化し、早期の合併実現を図る狙いがあると報じられています。
これに対し、創業家側は同日、「創業家の議決権比率を希薄化する目的は明らか」(代理人弁護士)とのコメントを発表し、裁判所に増資差し止めの仮処分を申し立てるそうです。膠着状態に陥っていた出光合併問題が、いよいよ動き出しましたね(私には素直に出光側が「強行突破」に出たものと映りますが・・・)。
※・・・会社法210条2号は、会社が新株発行が「著しく不公正な方法」によって行われた場合には、株主が不利益を受けるおそれがある場合に発行を止めることができる、とされています。なお、早く止めないと、この210条2号の請求ができなくなる場合には、民事保全手続きを活用することも認められています。本件で問題となっているのは、この差止の仮処分のほうです(以上、追記しました)。
日経ニュースでは、すでに著名な法律家の方々が、創業家が不公正発行として差止仮処分を申し立てた場合、どちらが優勢か・・・といったコメントを出されています。私はというと、「匿名の弁護士」の方がおっしゃるように、本件が「第三者割当」ではなく「公募増資」であるところがポイントではないかな・・・と思っています。支配権争いが顕在化している会社について、新株発行の公正性への裁判所の対応が近年かなり会社側に厳しくなっていますが、「経営陣が株主構成を決める(だから不公正なのだ)」という点で第三者割当増資の事案が議論の中心です。2014年12月に公表された日本取引所(自主規制法人)さんの「エクイティにおけるプリンシプル」でも、第三者割当による支配権維持目的でのエクイティが問題とされています(出光さんはすでに事前相談に行かれてOKをもらっているのでは?)。
ただ、「公募増資」といっても、引受証券会社は「企業価値が上がる」と推奨して投資家に転売するわけですから、(創業家が買い増さないかぎり)現経営陣の経営に賛同する投資家が応募するわけで、応募した株主が創業家の方針に賛同するとは思えません。つまり公募増資といっても、効果からみれば現経営陣が自分たちに賛同してくれる株主を増やすことになるわけですから、どれだけ第三者割当と異なるのでしょうかね?(^^;;「総会直後の公募増資決定」というのは、一面において支配権目的を希薄化させる効果がありそうですが、別の一面においては公募増資としての意味を減少させる効果があるように思います。
会社法が予定している範囲での株式価値の毀損・・・という意味では、公募増資による資金調達は(何ら不公正な発行とは思えないので)差し止められないと思うのですが、「創業家支配の希薄化」という意味では、単純に「公募増資だから」という理由だけで「不公正ではない」とは言い切れず、差止が認められる可能性が残るような気がします(でも会社側にとって一番オソロシイのは、創業家と歩調を合わせる金主が登場して買い増しに動くことではないでしょうかー「仁義なき戦い」の引き金を引いたのは会社側だから・・・ということで)。
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コメント
先生のお見立て通り、公募増資の資金調達は差し止められなかった判決が出たのですが、高裁でも同様の判決がでると考えていいのでしょうか。
投稿: 傍観者 | 2017年7月18日 (火) 21時10分