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2017年7月19日 (水)

出光興産公募増資差止却下決定-どうなる即時抗告の行方?

(午後5時に即時抗告の決定-公募増資を認める決定-が出たようなので、以下の文章をお読みになるにはご注意ください)

某社役員の方の御紹介で、初めて経営法友会の月例講演会でお話をさせていただきました(ホテルモントレ大阪)。法務部の方が集まる勉強会でお話をするのは一面において話しやすいのですが(前提のお話をとばしても理解してもらえる安心感!)、一面においては話しづらい(私よりも法務のスキルが豊富!)というものでして、かなり緊張いたしました。ただ、私のような弁護士でも、「どうしたら御社の法務部と社長の部屋を近づけることができるか」「どうすれば法務出身の役員を増やすことができるか」と、その方策を真剣に考えているのです。単に法務部の地位を向上させるというものではなく、「法務を大切にする企業こそ事業価値を上げることができる」と確信をしておりますので、法化社会の実現のために今後も法務部の方々とコミュニケーションをとれる機会がありましたら積極的に参加したいと思っております(と、こういったことを申し上げると、当ブログの常連の方々からはご異論が出てくるのですよね・・・笑)。

さて、マスコミで既報のとおり、本日(7月18日)出光興産の公募増資の差止を求める仮処分申立事件の東京地裁決定が告知されまして、申立人(債権者)である創業家ら6名の申立ては却下されました。私の予想は7月4日付けのこちらのエントリーで書かせていただいておりましたが、「取材に協力していただきたい」とのことで、マスコミの方から「決定要旨」を見せていただきましたので、事実及び理由の要旨を読みました。素直な感想として、東京地裁の却下理由は、私が予想していた以上に「どっちに転んでもおかしくないほどギリギリの判断」から産まれたような印象です。

このブログでもご紹介していた2014年11月のアルファクス・フード・システム事件、当ブログでは名前を伏せながらご紹介していた2017年1月のデジタル・デザイン事件の増資差止仮処分申立て事件では、差止認容決定が続いておりました。両事件とも、出光興産事例と希釈化率はそれほど変わりません。したがって「どうも最近の裁判所は『主要目的ルール』(増資差止の判断に用いる裁判所のモノサシ)を厳格に適用する傾向が強い、だから本件でも差止が認められる可能性が高いのではないか、最後は第三者割当ではなく公募増資を会社側が選択した点を裁判所がどうみるか、という点で勝負が決まるのではないか」と私自身は考えておりました(詳細は前掲7月4日のエントリーをご覧ください)。

この点、このたびの東京地裁は、最近の主要目的ルールの厳格適用の傾向を踏襲している、つまり両当事者にとって公平な立場でモノサシを適用をしているものと思います。「本件新株発行については、債務者経営陣が自らを有利な立場に置くとの目的と資金調達目的とが併存するというべきである」「ベトナムへの戦略的投資なる資金調達目的は、経営権争いの中での会社側主張としては合理性がない」といった決定理由の内容は、かなり裁判所としても悩ましい判断過程だったことをうかがわせます。公募増資事案だから、第三者割当増資のように支配権確保目的での増資とは推定できない、といった荒っぽい枠組みを採用するのではなく、公募増資であったとしても支配権確保の目的は経営者側に一応認められるとして、ただ「増資の主要目的は何か」という判断の一要素として取り上げているにすぎないのです。

本件増資の主要な目的は何か・・・、という点を判断するにあたり、裁判所は①公募増資は第三者割当増資よりも取締役に反対する株主の支配権を減弱させる確実性は弱いこと、②本件新株発行後、直ちに株主総会が開かれる見込みはなく、創業家の反対を押し切ってまで昭和シェルとの合併承認決議を目的とする臨時株主総会を招集するなどの行動に出るおそれが高いとも認められないこと、他方③債務者には借金返済という資金調達の必要性は客観的に認められる、として、最終的には「主要な目的が、客観的な資金調達目的ではなく、債務者経営陣らが自らの有利な立場に置くとの目的であるとまで断定することはできない」と結論付けています。主要目的ルールに関する既存の判断枠組みを相当厳格に踏襲した分、①~③まで、結論に至る判断理由には裁判官の主観的な価値判断が色濃く出ておりますので、創業家側としては合理的な反論は十分可能ではないかと(とくに③の理由は、会社側の情報開示の姿勢と大きく関わります)。

となりますと、まだ明日、明後日の即時抗告の決定の行方が気になるところです。ライブドア事件では、東京地裁決定よりも、東京高裁の抗告審決定のほうが大きな話題となりましたが、今回も、地裁判断とは少し内容の異なる判断が出てくる可能性はありそうです。過半数を争う支配権争いではなく、会社の根幹に関わる決定権限(3分の1)を排除するような支配権争いについて、もっと明確なモノサシがあったほうが良いのではないか、いやそもそも2分の1ではなく3分の1を排除するほうが、さらに機関における権限分配法理は貫徹されるべきではないのか、といったあたり、高裁としても今後の別事件を想定した判断がなされる可能性もあると思います(ただ、実質審理を行うにはあまりにも時間が少ない、という点はありますが・・・)。

12年前のライブドア事件の新株予約権差止仮処分事件でも、その後の学説や実務に大きな影響を及ぼしたのは保全抗告の判断(高裁判断)でした。今回は「創業家vs会社」という図式でしたが、これが最近順風が吹いている「モノ言う機関投資家vs会社」という図式でも成り立つのでしょうか?うるさい機関投資家が株を買い上げたら、今回の手法で現経営陣は支配権を維持できるのでしょうか?あまり外に情報を出したがらない企業ほど裁判では有利になるのでしょうか?そういったケースではマスコミや世間はどちらを応援するのでしょうか?そう考えますと、高裁は(たとえ結論は変わらないにしても)少し地裁とは異なる論理構成で決定を出す可能性はありますし、また今回の地裁判断で創業家側も「まだまだ」といった気持ちで臨んでおられるのではないかと推測いたします(この地裁決定理由からすると、たとえ公募増資が行われても、株主総会開催禁止の仮処分とか、合併差止の仮処分とか、創業家側としてもいろいろと手はありそうですね。なお、以上は場末の弁護士による野次馬的即興コメントなので、株式の売買は自己責任にてお願いいたします)。

7月 19, 2017 商事系 |

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コメント

裁判所で増資を止めることはできないという当たり前のことが確認されましたね。会社法の本音と建前でいえば、増資差し止めができるという建前ですが、よほど酷いケースを除いては、私的自治には介入しないという本音が常に勝ちます。会社法は、機能しない条文が羅列されているだけで、実質的には無法地帯なのです。

会社側がストーリーをきちんと用意しておけば、まず止まらない。せいぜい、不当な目的も多少あるかもしれないね、と認定してもらえるだけで増資はそのまま認められてしまいます。

会社法で取締役会に増資の権限を与えてしまっていますから、大株主は支配権があるうちに定款で増資権限を株主総会決議事項に変えるなどしておくしかないのです。

ついでに、発行可能株式数の上限を予め小さくしておくことも重要です。そういう手法を取っておけば、いきなり酷いことは行われません。

投稿: 傍観者 | 2017年7月19日 (水) 15時23分

本文で書きましたが、高裁はよりわかりやすい論理で公募増資を認める決定を出したようですね。

投稿: toshi | 2017年7月19日 (水) 17時04分

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