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2017年7月26日 (水)

JALの公募増資手続きにNOを突き付けた監査役の方々

日経朝刊「出光、合併への賭け(上)」で、さっそく出光さんが公募増資に動いた内幕が描かれています。7月4日付けエントリーで私が想定したシナリオにかなり近いものだったようです。定時株主総会における現経営陣への賛成票比率を知って「これならいける!」って、それじゃやっぱり公募増資とはいえ実質は「第三者割当」と同じような気もしますが・・・(^^; ただ出光事件の内幕といえば雑誌「選択」7月号が一番核心に迫っていますよね(創業家側のキーマンとされる方がやはり別にいらっしゃるわけでして。今朝の日経記事も、この「選択」記事を事前に読んでおりますと、経営陣の覚悟や相談役の退任の経緯等、すんなりと頭に入ります)。

さて、出光興産公募増資事例に関する裁判所の判断については、今後いろいろと法律家の方々による意見が出てくると思うのですが、実は(ご承知の方もいらっしゃると思いますが)公募増資に対する差止仮処分が争われた事例というのは過去にも2006年の日航による公募増資事例がありますね。ただ、支配権争いの局面ではなく、既存株主の持ち分希薄化が問題とされた事例です。

一般株主が申立人(債権者)となって、日航さんの公募増資の差止を仮処分として争ったのですが、(新株発行の権限を取締役会に認めている会社法の下では)38%の希薄化は会社法が予定している株主の不利益の範囲内であって、被保全権利は認められないとして却下されました。ただ、この裁判では、そもそも公募増資を決議した取締役会に手続き違反があることも申立人が主張したそうですが、これも差止の理由にはならないとされたそうです(詳細な決定理由はわかりませんが・・・)。

ところで、この日航さんの公募増資を決定した取締役会の手続きは「大いに問題だ」と主張しておられたのが当時の日航の監査役であった3名の方々でした(日経ビジネス「JAL増資手続きは非常に問題」)。経営陣は2006年6月、臨時取締役会開催日に監査役に招集の連絡を入れ、電話では「議題については言えない」とのことで、結局は監査役3名とも欠席のまま公募増資が決まったそうです。次の取締役会では、監査役3名が連名で抗議文を社長に提出したとのこと。

監査役全員に(すでに決まている)取締役会の議題も伝えることなく、開催当日の朝に招集して事実上欠席を余儀なくさせるというのは、いくら監査役に議決権がないとしても、果たして「取締役会の決議の効力に影響を及ぼさない軽微な瑕疵」と言えるのでしょうかね?これでは監査役が善管注意義務を果たすことを事実上不可能にしてしまっているわけで、最近の取締役会改革(モニタリングモデル、監督機能の発揮)の流れからすると、招集通知の不発送に匹敵するほどの手続き違背があるように思います。このような内幕をマスコミに堂々と公表する監査役の気持ちも理解できます。

ただ、これだけ明確な監査役の意思を社長やマスコミに示すことができるのも、この監査役の方々が、経済団体の元会長さんだったり、メガバンクの元頭取さん、巨大企業の元社長さんだったりしたからでしょうね(やはり経営経験からくる自信、プライドはすごいなぁと)。社長OBの方々が相談役ではなく、他社の社外役員に就任すべきと言われていますが、このようなモノ言う監査役さんがたくさん登場するのでしたら、これはこれで歓迎すべきかもしれませんね。

 

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