会社側上程議案への「相当数の反対票」というのは何割くらい?
(7月5日午後 追記あり)
6月30日の日経電子版ニュース「株主総会、社外役員の独立性に厳しい目」では、今年の株主総会の総括として、会社側上程議案への株主の賛成票の低下が目立ったことが挙げられています。社外役員に限った話ではなく「一般的に、取締役選任議案に対する賛成は9割を切ると低いとみなされることが多い。今年、株主総会を終えて企業が提出した臨時報告書では、その9割に届かないケースが少なくなかった」と報じられています。
ところで、本則市場に上場する会社に適用されるコーポレートガバナンス・コード補充原則1-1①では、(取締役会に対して)「株主総会において可決には至ったものの、相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認められるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべき」とされています。では、この「相当数の反対票」とは、どのくらいの賛成比率を下回ることを指しているのでしょうか?ちなみにコード策定者(金融庁)の解説では、「相当数の反対票の具体的な解釈は、各取締役会の合理的な判断に委ねられる」としています。では、どの程度の賛成比率であれば「合理的な判断」の範疇になるのでしょうか?
上記の日経記事を参考にしますと、賛成比率が9割に届かなかった取締役選任議案については、相当数の反対票が集まったものと考えるのが、いちおう合理性がありそうです。取締役選任議案への反対というのは、単純に候補者の能力・資質への批判だけでなく、その会社の戦略、政策への反対という意味も含むことが多いので、10%以上の反対票が集まったということであれば、来るべき株主との建設的な対話に向けて、何らかの分析・対応が求められても良いのかもしれません。
しかし、スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家も中長期的な企業価値向上への真摯な意見が求められる中で、会社の中長期的な政策に対する株主の意見もますます多様化するのではないでしょうか。三越伊勢丹HDの社長交代が企業価値に及ぼす影響は、野村證券とみずほ証券ではアナリストさんの意見が異なりましたし(3月12日付け日経ヴェリタス参照)、先日の黒田電気への株主提案の可決事例についても、野村證券とニッセイ基礎研究所のアナリストさんの意見も分かれました(6月30日付け朝日朝刊関西経済版)。議決権行使の助言を行うISSさんとグラス・ルイスさんの推奨意見もいくつか分れたものがありました。そうなりますと、そもそもガバナンス改革が進むにつれて、とりわけ取締役選任議案への賛成比率は、株主の意見が多様化することにより、次第に低下するのが当然ではないかと。
そうしますと、「相当数の反対票」という概念も、たとえば賛成比率が8割を割るようような議案とみるのが合理的なようにも思えます。8割を切るというような場面においては、政策への批判や不満というものが一定傾向として出ているものと判断できるのかもしれません。コード1-1①の実施率(コンプライすると宣言した会社の比率)はほぼ100%ですが、要は対話促進のための施策ということで、対話の必要性との兼ね合いによって個々の企業で判断すべきであり、とくに「横並び」は必要ないと思います。
(7月5日午後6時30分追記)tyさんがコメント欄にとても有益なご意見を述べておられ、「なるほど・・・そのとおりかも」と思いましたので本文でもご紹介いたします(どっかで使わせてもらおうかな・・・笑)。私の単純な思考回路よりも、かなり説得力のあるご意見です。
株主構成によって賛成比率の意味合いは相当変わってくるので、株主構成によって「相当数の反対票」も変わってくるのではないかと思います。平均的な企業で考えると、安定株主比率が平均で50%、議決権行使比率が平均で75%ですので、賛成率が90%を下回った場合というのは、平均的な企業では非安定株主の賛成率が70%を下回った場合を意味します。80%を下回った場合だと、平均的な企業では非安定株主の賛成率が40%を下回った場合を意味します。平均的な企業で考えると80%を下回った場合というのは、少数株主から見るとかなり問題があると認識されたケースかなぁと感じます。
「相当数の反対票」は個々の企業が自社の非安定株主の賛成率を見ながら考えるのが良いのではないでしょうか。
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コメント
株主構成によって賛成比率の意味合いは相当変わってくるので、株主構成によって「相当数の反対票」も変わってくるのではないかと思います。平均的な企業で考えると、安定株主比率が平均で50%、議決権行使比率が平均で75%ですので、賛成率が90%を下回った場合というのは、平均的な企業では非安定株主の賛成率が70%を下回った場合を意味します。80%を下回った場合だと、平均的な企業では非安定株主の賛成率が40%を下回った場合を意味します。平均的な企業で考えると80%を下回った場合というのは、少数株主から見るとかなり問題があると認識されたケースかなぁと感じます。
「相当数の反対票」は個々の企業が自社の非安定株主の賛成率を見ながら考えるのが良いのではないでしょうか。
投稿: ty | 2017年7月 5日 (水) 11時05分
TYさん、ありがとうございます。
本当は、そこまで考察すべきと思いましたが、時間の関係で書けなかったところです。要領よくおまとめいただいておりますので、本文中に追記させていただきます。
投稿: toshi | 2017年7月 5日 (水) 11時56分