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2017年7月28日 (金)

会計監査人交代事例にみる監査法人改革の本気度

もうすでに会計士の方々のブログ等では話題になっておりますが、証券コード9788社(東証1部)におきまして、7月26日付けで「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」が公表されています。今年6月の定時総会で会計監査人に選任(継続)された新日本監査法人さんが、7月26日付けでコード9788社との監査契約を合意解約した、とのこと(後任の一時会計監査人は仰星監査法人さんだそうです)。理由はといいますと、

平成26年3月期の第2四半期に行った株式会社●●●取得時の会計処理に、発生頻度の少ない非定形的な処理があったため、会計上の「二重責任の原則」は承知しつつ、新日本有限責任監査法人からの助言に基づき処理を行い、無限定適正意見をいただきました。その後も、当社は同様の会計処理を継続し、無限定適正意見をいただいています。しかし、平成 29年6月中旬に、新日本有限責監査法人において業務執行社員変更に伴う引継時に当該 会計処理の誤りが発見され、同法人より指摘を受け修正するに至りました←(9788社 6月28日付け訂正・数値データ訂正)「平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」 の一部訂正に関するお知らせ」より引用

だそうです。つまり、従前の新日本さんの業務執行社員からの指摘によって会計処理を行っていたのに、その処理はおかしいと引き継いだ業務執行社員から指摘されて、決算修正のうえ、内部統制には重大な不備があると開示せざるをえなくなったわけです。リリース上では「合意解約」とありますが(たぶん)会社としては「あんたとはやってられまへんわ!」ということで、新日本さんは事実上解任をされたのではないかと推測されます(会計監査人の意見は付記されていないので、あくまでも「推測」ですが・・・)。

たしかに、日本を代表する監査法人の珍しい事例を「トホホニュース」として取り上げるのは簡単です。 ただ、これまで同一監査法人内での引き継ぎ時に、同様の状況というのは時折発生していたのではないでしょうか?同じ監査法人内のことなので「なんとなくグレーな状況だけど、まあ、監査先企業は失いたくないし、会社もよくわかってないみたいだから、穏便に、穏便に」といったことで済まされてきたこともあったのではないかと。

今回、おそらく会社側から解任されることを覚悟のうえで、同じ監査法人内で業務執行社員が他の業務執行社員の誤りを堂々と指摘した、というのは、むしろ監査法人さんの姿勢としては健全な方向に動いているのではないでしょうか(誤りを指摘したら、実は前任者の指摘した内容だったことが後でわかった、といった更なるトホホはないと信じております)。かつて大きな監査法人の偉い方から「監査法人の品質とは、個々の会計士の品質と同時に、組織としての監査法人の品質も大事なのだ」と教えていただきましたが、なぜこのような事態となったのか、(会社側だけでなく)監査法人側の説明もお聴きしてみたいものです。

(追記 7月28日正午)一老さんから有益なコメントをいただきました。ご参考にしてください。

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コメント

結論すれば、監査法人は何らかの説明責任を果たしたほうが良いでしょう。一つのの会計事実について、同一監査法人内で責任者が変わったからと言って監査判断が異なるという事は有り得ません。前任者の判断ミス(=監査法人の判断ミス)か、会社の隠蔽、以前とは異なる説明資料の発見が無ければそうはなりません。この場合は、いずれにせよ過去決算の修正が生じる事になります。監査法人の担当責任者が変われば、自ずとその判断もその都度、変更されます・・や、その監査法人(独自)の判断基準が変化すれば意見も変わってきます・・では、会社は対応出来ませんから、怒って当然でしょう。・・しかし、将来の予測や見積もり等に関係する会計処理ならば、その期その時の状況変化において会計事実を評価しますから、判断が前期と異なっても、それを以って不当とする事は出来ません。同時にまた、監査人が変更されて、会社の言い分が認められることも有りえますね。

投稿: 一老 | 2017年7月28日 (金) 11時24分

どうもありがとうございます。やっぱり一老さんのコメントを拝見しているうちに、なおさら会計監査人からの説明が聴きたくなりました。投資家からみても、どういった理由で監査人の交代に至ったのか、本件はいろいろと(私のように)邪推してしまう人も出てくるでしょうから、むしろ説明しなければならない状況にあるように思えます。社会全体で会計監査への期待が高まれば高まるほど、そういった説明義務の履行も求められるように感じます。
先日、監査研究学会で発表させていただいた機会がありましたが、「あんまり監査に関心が集まると、我々も仕事がしにくくなる」といった意見を専門家の方が話していました。でも、やっぱりそれでは困りますねぇ。

投稿: toshi | 2017年7月28日 (金) 12時06分

 監査法人が自らの意思で沈黙しているのか、それとも某当局のご意向で沈黙しているのか、どちらでしょうか。

投稿: Kazu | 2017年7月28日 (金) 22時13分

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