今週は火曜日(8月22日)から金曜日(25日)まで、毎年恒例の日本監査役協会の新任監査役等研修(合宿)に講師として参加してまいりました。ご参加された企業はA日程・B日程合計250社ということで、皆様お疲れ様でした。風光明媚な滋賀県長浜のホテルでの研修ですが、湖上からやってくるゲリラ豪雨にはたいへんな恐怖を感じました(^^; ミサイルカトオモッタ・・・
今年も多くの新任監査役、監査等委員、監査委員の方々と意見交換ができて、たいへん有意義な時間を過ごしました。経営執行部の知り合いの方が数名、監査役に就任されておられてビックリしました。また、規模の大きな上場会社や金融機関を中心に、内部監査部門の改革が進んでいる会社が増えていることも初めて知りました(この話はまた別エントリーにてご紹介したいと思います)。
ここ数年、私は事例を通しての監査役等の有事対応に関する研修(双方向のグループ研修)を担当しているのですが、なかなか社長にモノが言えない監査役等の悩みを感じていただけそうな事例をかならずひとつ取り上げております。今年も、そういった悩ましい事例をみなさんでお考えいただいていたのですが、受講された監査役さんのおひとりが、とても立派な対応について自信をもって回答されたことに少し感動をおぼえました。
「素晴らしい回答です!監査役のカガミといえそうな神対応ですね!でも、ホントにそのような対応を社長を目の前にしてできますか?」
と、私はその監査役さんに対してすこしイジワルに質問したのですが、その方は少しムッとされて「はい、もちろん社長に向かって、今と同じ意見を堂々と述べます!」とのお答え。
「いやいや実に立派な会社ですね。おそらく社長さんが監査業務をリスペクトしている雰囲気を持った会社さんなのでしょうね。監査役さんが大事にされている会社を知ってうれしく思いました」
と、私は(監査役さんの人格・識見を褒めることはせずに)その会社の監査環境を褒めるようなことを申し上げました。
その後、懇親会で、この新任監査役さんとお話する機会があったのですが、先の新任監査役さんから
「先生、さきほどは偉そうな物言いで失礼しました。実はね、先生。私、前職はこの会社の代表取締役社長だったんですよ(笑)。●年ほど社長でした。いや、これは正直にお話しておかないと先生に失礼じゃないかと思いましてね(笑)」
(私)「エエ!?ほんまですか!?Σ( ̄□ ̄lll) ・・・でも、それって究極の自己監査ですよね・・・笑」
「はい、先日、子会社監査に行って、子会社の社長に『おまえ、これなっとらんやないか!』と指摘したら、子会社の社長から『いや、これは親会社の前の社長から指示されたことですよ!』と反論されて往生しました(笑)」
・・・・・なるほど。ということは親会社の現社長さんは元部下ということですね。だから、厳しいことも平気で社長に要求できる、と。しかし(かなり大きな上場会社さんですが)元社長が退任後に常勤監査役に就任する、というケースはさすがに日本の上場企業では珍しいのではないでしょうか。
そういえば以前、三菱重工業さんが監査等委員会設置会社に移行する際に、退任される副社長さんが、初代の常勤監査等委員に就任する、という話題を当ブログでも取り上げまして、あるガバナンスに詳しい方から「自己監査は監査不全の温床、最悪!」としてご異論をいただきました。また、東芝さんの第三者委員会報告書においても、東芝の元CFOだった監査委員長の方の「いまさら騒いでも執行部は困るだけだから、見なかったことにしましょう」といった発言が記されていたことにも残念な気持ちになりました。
たしかに「自己監査」(自分が決定した業務執行を自分で客観的に監視・検証できるか)によって監査機能が低下してしまう、というのは実例もあるので(ガバナンスの実効性という意味では)問題はあることは認めざるをえません。ただ、ここぞという場面で社長が監査役の意見を飲むかどうかは、平時における監査環境に依拠するところが大きいと思います。そういった意味では、退任した社長さんが監査役に就任する、というのは究極の監査環境ではないかと。とくに、社外取締役や社外監査役と組むことで、絶大な監査権限を行使できるような気がします。
最近、相談役制度の功罪といったことがよく話題になり、相談役を廃止して退任社長さんは他社の社外取締役になるべき、といった議論が展開されています。でも、ここは大いに異論が出るところですが、いっそのこと退任された社長さんは監査役に就任してみるという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか?社内において監査役をみる目が大きく変わるかもしれません(もちろん会計監査人との連携にも影響が出そうですね)。