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2017年8月30日 (水)

ダンロップスポーツ社(東証1部)の第三者委員会委員長を務めました。

本日(8月29日)15時にリリースされましたが、住友ゴム(吸収合併存続会社)とダンロップスポーツ(同消滅会社)との吸収合併手続きにあたり、ダンロップスポーツ側の第三者委員会委員長を務めさせていただきました。他の委員の方々(会計士の方と、ダンロップスポーツ社の社外取締役の方)と3カ月間、真摯に取組みました(本業なのであたりまえといえばあたりまえですが・・・)。

M&Aにおける第三者委員会の委員長はこれが2回目です。前回は日経さんのフライングニュースで冷や汗モノでしたが、今回は開示されるまで報じられることもなく、またインサイダーを疑わせるような株価の動きもなかったようなので、少し安心しております。個別案件の中身については守秘義務があるので何も申し上げられませんが、構造的な利益相反状況にある親子上場解消例では、第三者委員会が設置されるのはもはや「あたりまえ」になっているのではないでしょうか。

企業不祥事対応の第三者委員会も同様ですが、案件は100あれば100とも様相が異なりますので、マニュアルがないところでの仕事です。どんな案件でも、ファイナンスとガバナンスの知見は欠かせませんし、組織力や人財といった財務諸表に表れない無形資産への関心(興味?)も必要だなぁと思います。さらに、近時は相手方企業にも複数の社外取締役さんがおられる、ということを常に意識しておいたほうが良いですね。

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2017年8月29日 (火)

大塚家具事例から取締役会の「頑張りドコロ」を考える

最近、大塚家具さんが「かなりピンチ」といった記事が増えています(たとえば東洋経済オンラインの26日付こちらの記事など)。なかでも8月28日の日経WEB「ガバナンスの掟-大塚家具、親子対決制した末の監督機能不全」では、監査等委員会設置会社に移行した大塚家具さんにおいて、社外取締役による監督機能の不全が厳しく指摘されています(有識者の方々のご意見もなかなかキビシイですね)。

監督機能の不全を指摘するのであれば、取締役会の構成員全員についての批判がスジではないかと思うのですが、ここではとりわけ監査等委員会を構成する社外取締役さんが批判の的になっています。いつもはほとんどマスコミで取り上げられない「監査等職務」・・・つまり監査等委員会には社長人選や報酬への意見形成(意見陳述)機能があるにもかかわらず、監査等委員である社外取締役さんは、なんら権限を行使していないではないか、といったところですね。

でも、大塚家具さんに限らず、2期連続赤字で、あと現金が21億円しか残っていないような状況では監督機能を発揮できるような段階ではないと思うのです(銀行の新たな融資枠が設定されたとしても厳しい状況は同じかと)。取締役会の監督機能というのは、業績が好調な時期か、あるいはピークをやや超えた時期(ビジネスモデルの転換が必要ではないか、といった漠然とした不安が生じる時期)だからこそ発揮できるのではないでしょうか。即効薬のようなガバナンスなどありえないと思います。2期連続赤字といった状況では、社長交代ということよりも、とりあえず出血を止めるためのファイナンス、もしくはMBOや企業買収(再編)といった緊急対応にこそ社外役員も注力することが大切かと。

「どこと組むか?」といったことに社外取締役さんが活躍することもありますが、やはり緊急対応の主役は社長さんです。そして現在の大塚家具の状況を考えますと、この段階での社外取締役の頑張りドコロとしては、社長交代や報酬意見、といったことよりも、どんな場面になったとしても少数株主(一般株主)が一方的に不利益を被らないように目を光らせることだと思います。シャルレのMBO頓挫事件の地裁・高裁判決では、取締役さんには利益相反を疑われないような公正手続きに配慮すべき義務(会社に対する)が問われました。たとえ公正価値移転義務に違反せずとも、一般株主に不信感を抱かせるような企業行動にこそ、社外取締役が待ったをかけなければならない、ということですね。

ここからどうやって復活されるのか、いまこそ大塚家具さんの次の一手に期待が寄せられます。

 

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2017年8月27日 (日)

退任社長は「相談役」にならずに「常勤監査役」になるという選択肢

今週は火曜日(8月22日)から金曜日(25日)まで、毎年恒例の日本監査役協会の新任監査役等研修(合宿)に講師として参加してまいりました。ご参加された企業はA日程・B日程合計250社ということで、皆様お疲れ様でした。風光明媚な滋賀県長浜のホテルでの研修ですが、湖上からやってくるゲリラ豪雨にはたいへんな恐怖を感じました(^^; ミサイルカトオモッタ・・・

今年も多くの新任監査役、監査等委員、監査委員の方々と意見交換ができて、たいへん有意義な時間を過ごしました。経営執行部の知り合いの方が数名、監査役に就任されておられてビックリしました。また、規模の大きな上場会社や金融機関を中心に、内部監査部門の改革が進んでいる会社が増えていることも初めて知りました(この話はまた別エントリーにてご紹介したいと思います)。

ここ数年、私は事例を通しての監査役等の有事対応に関する研修(双方向のグループ研修)を担当しているのですが、なかなか社長にモノが言えない監査役等の悩みを感じていただけそうな事例をかならずひとつ取り上げております。今年も、そういった悩ましい事例をみなさんでお考えいただいていたのですが、受講された監査役さんのおひとりが、とても立派な対応について自信をもって回答されたことに少し感動をおぼえました。

「素晴らしい回答です!監査役のカガミといえそうな神対応ですね!でも、ホントにそのような対応を社長を目の前にしてできますか?」

と、私はその監査役さんに対してすこしイジワルに質問したのですが、その方は少しムッとされて「はい、もちろん社長に向かって、今と同じ意見を堂々と述べます!」とのお答え。

「いやいや実に立派な会社ですね。おそらく社長さんが監査業務をリスペクトしている雰囲気を持った会社さんなのでしょうね。監査役さんが大事にされている会社を知ってうれしく思いました」

と、私は(監査役さんの人格・識見を褒めることはせずに)その会社の監査環境を褒めるようなことを申し上げました。

その後、懇親会で、この新任監査役さんとお話する機会があったのですが、先の新任監査役さんから

「先生、さきほどは偉そうな物言いで失礼しました。実はね、先生。私、前職はこの会社の代表取締役社長だったんですよ(笑)。●年ほど社長でした。いや、これは正直にお話しておかないと先生に失礼じゃないかと思いましてね(笑)」

(私)「エエ!?ほんまですか!?Σ( ̄□ ̄lll) ・・・でも、それって究極の自己監査ですよね・・・笑」

「はい、先日、子会社監査に行って、子会社の社長に『おまえ、これなっとらんやないか!』と指摘したら、子会社の社長から『いや、これは親会社の前の社長から指示されたことですよ!』と反論されて往生しました(笑)」

・・・・・なるほど。ということは親会社の現社長さんは元部下ということですね。だから、厳しいことも平気で社長に要求できる、と。しかし(かなり大きな上場会社さんですが)元社長が退任後に常勤監査役に就任する、というケースはさすがに日本の上場企業では珍しいのではないでしょうか。

そういえば以前、三菱重工業さんが監査等委員会設置会社に移行する際に、退任される副社長さんが、初代の常勤監査等委員に就任する、という話題を当ブログでも取り上げまして、あるガバナンスに詳しい方から「自己監査は監査不全の温床、最悪!」としてご異論をいただきました。また、東芝さんの第三者委員会報告書においても、東芝の元CFOだった監査委員長の方の「いまさら騒いでも執行部は困るだけだから、見なかったことにしましょう」といった発言が記されていたことにも残念な気持ちになりました。

たしかに「自己監査」(自分が決定した業務執行を自分で客観的に監視・検証できるか)によって監査機能が低下してしまう、というのは実例もあるので(ガバナンスの実効性という意味では)問題はあることは認めざるをえません。ただ、ここぞという場面で社長が監査役の意見を飲むかどうかは、平時における監査環境に依拠するところが大きいと思います。そういった意味では、退任した社長さんが監査役に就任する、というのは究極の監査環境ではないかと。とくに、社外取締役や社外監査役と組むことで、絶大な監査権限を行使できるような気がします。

最近、相談役制度の功罪といったことがよく話題になり、相談役を廃止して退任社長さんは他社の社外取締役になるべき、といった議論が展開されています。でも、ここは大いに異論が出るところですが、いっそのこと退任された社長さんは監査役に就任してみるという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか?社内において監査役をみる目が大きく変わるかもしれません(もちろん会計監査人との連携にも影響が出そうですね)。

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2017年8月22日 (火)

ESG投資のキモとなる「非財務情報」の役割を考える

東芝さんの有価証券報告書に「限定付適正意見」を表明したPwCあらた監査法人の代表者インタビュー記事が掲載されていますね(ロイターさんの記事はこちらです)。個別の案件について監査法人の代表者の方がマスコミで説明する、というのも異例ではないかと。当ブログで盛り上がっている話題にも少しだけ触れられています(以下本題です)。

先週金曜日(8月18日)の日経朝刊の特集記事「ESG指数 米英算出会社に聞く」を読みましたが、予備知識が乏しいせいか、あまり内容を理解できませんでした。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資に乗り出し、銘柄の選別にあたって3つのESG指数を採用した、とのことですが、財務情報とは全く別個に非財務情報の開示も重要になりつつあるのかな・・・と考えておりました。

しかし企業会計9月号の特集「株価を動かす!非財務情報のチカラ」を読みますと、ようやく上記記事の内容を少しばかり認識することができました。また、非財務情報の取扱いについても、財務情報の延長線上にある、つまり財務諸表に乗らない企業価値をどう財務情報のように取扱うべきか・・・といった意識で議論されていることにも気づきました。統合報告書などにみる「非財務情報の取扱い」は、財務情報とは全く異なる考え方で議論されている・・・というわけではないのですね。

スチュワードシップ・コードが改訂される中で、①これまでの企業会計の考え方では把握しきれない無形資産の存在や、その将来的な見積もりといったことが企業価値を把握するにあたっては重要になりつつあることや、②社会問題の解決力や環境適応能力といった「ほんの少しの優越的地位が、グローバルネットワークが発達した時代においては独り勝ちを収める」といった時代背景からすると、ESGへの企業の取組に大きな関心が寄せられていることも当然かもしれません。

なかでも、時々お世話になっているニッセイアセットマネジメントの井口譲二さんの「非財務情報が将来業績予測・投資判断に与える影響」は、非財務情報がどのように企業価値と結びつく(と考えられる)のか、その道筋がとてもよくわかりました。コーポレート・ガバナンスが良好と判断されると、投資家にとってどのような安心感を生むのか、という点も(井口氏の個人的な意見も含みますが)とても参考になります。

また、青山学院大学の北川教授の「非財務情報の先進的開示例-アニュアル・サスティナビリティ・レポートの重要性高まる」も、投資家への説明に必要なKPIについて、先進企業の工夫が感じられて参考になりました(味の素さんの開示事例では、先の日経記事でも取り上げられていたESG指数算出会社の基準などにも言及されています)。先進企業の開示事例を読むと、ESGに力を入れて将来的にどう企業価値を向上させていくか、そのストーリーを描くだけでなく、その前提としてのファクトをどれだけ投資家に見せることができるか、現実問題として真剣に取り組まないと説得力は出てこないだろうな・・・と感じました。

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2017年8月18日 (金)

西武vsサーベラスの攻防とガバナンス改革への教訓

8月16日の報道によりますと、米国の投資ファンドのサーベラス・グループが、西武HDの株式をすべて売却したことが判明したそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。西武さんが出資を受けて11年半。西武さんは、ようやくサーベラスさんの影響力から完全に脱することができたといえます。西武さんが再上場を果たす2013年ころは、両社で経営方針を巡り激しく対立していました。私も夜のニュース番組でテレビ出演を果たしたり(もう二度とテレビ出演はしませんが・・・笑)、いろいろと記憶に残る事件でした。

あの西武vsサーベラスが盛り上がっていた2013年当時、サーベラス側が主張していた「西武のガバナンスと内部統制に問題あり!ガバナンスと内部統制を糾す」という言葉は、新聞やニュースで繰り返し紹介されました(おそらく私が当時いろいろとマスコミから取材を受けたのも、このようなサーベラス側の主張によるところが大きかったと思います)。アベノミクスが語られ始めたころでしたが、「中長期の企業価値向上のための株主との対話」「株主を含むすべてのステイクホルダーへの説明責任の実践」という言葉も、サーベラス側から主張されていたように記憶しています。

最終的にはサーベラスさんの株主提案は株主総会では通らなかったわけですが、けっこうサーベラスさんも当時は的確な指摘をされていたと思うのですね。とりわけ内部統制については、①上場申請年度において業績予想数値の下方修正を行う、②中期事業計画の公表から1年あまりで目標水準を1年先延ばしにする、といった西武さんの経営姿勢を批判したうえで、「内部統制の在り方に重大な懸念がある」と主張しておられました。これは、内部統制=不正予防、コンプライアンスと受け止められていた日本的な考え方ではなく、内部統制=事業戦略の確実な執行と捉えるアメリカの経営者の考え方に親和性をもつ主張でした。ただ、あまりそこまでの議論が当時の日本ではなされなかったと思います。

ガバナンスについても同様です。いまのように「攻めのガバナンス」「健全なリスクテイクのためのガバナンス」「執行と監督の分離(モニタリングモデル)を意識した取締役会改革」といった議論がまだそれほど企業社会に浸透していませんでした。いまなら、ガバナンスのどこに問題があるのか、「ガバナンスが良好」と評価するのであれば、それは企業価値の向上とどう結びつくのか、サーベラスの推奨する取締役候補者が、その目指すべきガバナンスにふさわしいか、といった議論が深まったのではないかと想像します。当時のサーベラスの質問状などを読み返してみても、西武に設置されていた「ガバナンス推進有識者会議」が、西武さんの取締役会をどのように評価しているのか?と聞いたりもしています。

上場後の西武さんが、ホテル事業を中心に業績を回復させておられることはご承知のとおりです。サーベラスさんも、それなりに収益を上げることができたと思われますので、いまとなってはあのバトルを思い出す人も少ないかもしれません。ただ、あの時のサーベラスさんの主張に違和感を感じていた機関投資家も、ひょっとするとスチュワードシップ・コードが浸透している現時点であればそれなりに賛同するところも出てくるのではないか、と思うところです。

 

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2017年8月17日 (木)

海外子会社不正とコード・オブ・コンダクト(行動準則)の活用

東芝さんの有報に付された「限定付き適正意見」の意義について、コメント欄がたいへん盛り上がっておりますが(笑)、昨日も東京衡機さんの訂正有報に会計監査人から「限定付き適正意見」が付されました(東芝事件をきっかけに今後流行の兆しでしょうか?)。いずれにしても海外子会社不正の防止や実態把握というのは上場企業にとっての重大な課題です。

今朝(8月16日)の日経「私見卓見」では清原健弁護士による「企業不正、実践的な行動準則で防げ」なる見出しの小稿が掲載されており、海外子会社不正対策に関する渉外弁護士らしい一次情報満載のご意見を拝読できました。ACFE(米国公認不正検査士協会)の調査結果も紹介されており、効果的な行動準則を整備・運用している企業は、そうでない企業よりも不正を早期に発見しており、また不正による業績への影響も軽微とのこと(この点は私もきちんと調べておきたいと思います)。

富士フイルムさん、ユニ・チャームさん、東京衡機さんなど、このところ相次いで海外不正(不適切会計)案件が開示されていますが、海外企業が活用しているコード・オブ・コンダクト(行動準則」を日本企業も活用すべき、と清原弁護士が提言されておられます。同氏が指摘しておられるように、日本企業の行動規範はどうも倫理規定の域を超えておらず、したがって規範の実効性を評価するところまではまったく考えられていないのが日本企業の実態かと。

実際に海外企業の行動準則を読むとおわかりのとおり、カルテルや贈賄・汚職、労働法、開示規制や偽造文書作成防止など、かなり具体的かつ明確な規定ぶりが目立ちます。清原弁護士によれば、これらは法的な裏付け(たとえば違反行為への罰則を定める連邦量刑基準)が背景にあるからだそうです。たしかに日本企業の場合には「そういえばうちの会社って行動規範はどんなものだったかな」といったレベル、つまり「置物」「飾り物」のような存在になってしまっています。ところが海外企業の場合には、行動準則の実効性を一定期間ごとに自社で評価をするわけで、そこでは「整備」よりも「運用」に光が当たっているものと思われます。当然のことながら、全役職員が、ビジネスの現場において常に行動準則を意識することになります。

私も、いままで行動準則の実効性をきちんと評価している企業にお招きいただいた経験がありますが、そのすべての企業に共通しているのが「過去にカルテルもしくはFCPAで巨額の制裁金、損害賠償金を支払った企業」です。痛い目に遭ったときの社長さんはすでに退任していたとしても、その社長さんの「肝いり」で始まったカルテル、海外贈賄防止ガイドラインの実践が、法務担当者を中心に脈々と受け継がれているというものです。どうしても(必要に迫られて)社員が不正リスクに遭遇してしまうことを前提として、「自分がいま遭遇しているのかどうか、わからないときにはどうすべきか」「遭遇してしまった場合には、何をすればよいのか」、二層、三層のガイドラインによって詳細に行動準則が示されています。

「痛い目に遭ってはじめてわかる」というのも理解できるのですが、具体的な法令違反行為を防止するためだけではなく、むしろ誠実な企業としての組織風土を醸成するための具体的なツールとして、コード・オブ・コンダクトの実効性を高める工夫が必要ではないでしょうか。

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2017年8月16日 (水)

監査報告書の透明化(長文化)に監査役等はどう向き合うか?

旬刊商事法務の最新号(8月5日、15日合併号)の巻頭座談会は「会計監査の実効性確保と監査役の役割」というテーマでして、かなり長いのですが当該特集記事を一気に拝読いたしました。学者(弥永教授)、企業実務家(三井物産常勤監査役)、会計実務家(あずさ監査法人の会計士)に司会が弁護士・公認会計士の資格を保有された方の合計4名の座談会です。不正リスク対応基準、会社法改正、CGコード、監査法人版ガバナンス・コードといった制度改正の流れの中で、「監査役と会計監査人の連携」がどう変わってきたか、変わるべきか、といった論点について語り合うというもので、「監査のいま」を確認するためにとても有益でした。

ただ、長い対談の中で、私的に一番関心を抱いたのは、タイトルのとおり「監査報告書の透明化(長文化)に監査役はいかに対応すべきか」といった、「監査のこれから」の課題についての議論でした。金商法上の制度と会社法上の制度という、大きな違いはありますが、私自身も監査報告書の長文化が施行されますと、監査役制度には大きな影響が出るものと考えていましたので、やはりご専門家の方々も同様に感じておられることに少し安堵いたしました。ただ、監査役や会計監査人の法的責任を論じることで、「長文化、透明化といっても、結局は金太郎飴の文章が無難ではないか」といった議論に進展してしまい、制度の趣旨が没却されてしまうおそれもありそうで、注意が必要かもしれません。

今回のテーマが「会計監査の実効性確保・・・」ということなので、ターゲットは大規模上場会社の監査役等の方々ということになりそうです。監査役等と会計監査人がいかにコミュニケーションを図るか、という課題はもうずいぶん長い間議論されてきましたが、あまり世間の話題にはなりません。たとえば東芝とPwCあらた監査法人との「意見不表明」「結論不表明」の話題はとても大きく報じれましたが、東芝の監査委員会とPwCとの間でどのようなやりとりがあったのかはあまり報じられませんでした(記者会見の様子をみると、監査委員会はほぼ会社の利益を代弁していたかのように映りました)。もし、監査報告書の長文化と監査役等の関与が制度化された場合には、もう少し平時からのリスク管理が見える化される(その結果として有事には証拠化される)ことになるでしょうね。

コミュニケーションの取り方について、三井物産常勤監査役の方が「どんな情報が欲しいのかは、自分からこれが欲しいと言わなければ相手はわからない。相手に提供すべき情報も同じである」とおっしゃるのはまことにその通りかと。私も非上場会社ではありますが、監査役として、会計監査人との意見交換ではギブ&テイクに徹するようにしています(その際、経営執行部の行動を客観的に評価する姿勢は不可欠です)。できれば「業務監査」の課題が「会計監査」にどのような影響を及ぼすのか、そのあたりも説明するようにしています。そのためには監査役にも会計的知見が求められますし、会計監査人にも業務監査の知見が求められます。来るべき監査報告書の長文化の時代に備えて、いまから会計監査人と監査役等との適切なコミュニケーションの取り方を習慣とする必要がありそうですね。

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2017年8月15日 (火)

DeNA社「MERY」再開-誠実な企業は早期によみがえる

皆様、お盆休みをいかがお過ごしでしょうか。本日(8月14日)の日経WEBニュースでは、富士フイルムさんの取締役の方が「会計不祥事によるグループ業績への影響は一時的なものに過ぎない」と回答しておられました。グループの業績は好調ですし、ゼロックス社豪州子会社のガバナンスも一新されたそうで、そのようなご発言になるものと思います。ただ、果たして不祥事を再発させない組織風土が短期間に構築できるかどうかは別問題ですね。

先週木曜日(8月10日)の日経朝刊14面に「女性向けサイトMERY再開へ-DeNA見切り発車」と題する記事が掲載されており、DeNAさんのキュレーション事業のひとつである「MERY」が小学館さんとの共同事業で再開することが報じられています。記事では、キュレーションサイト事業への社会的批判が残るものの、若い女性から早く再開してほしいとの要望が強かったことが再開の要因と記されています。しかし私は別の見方をしています。今年3月21日、私は「DeNAキュレーション問題-この不祥事を事前に止めることはできたか?」なるエントリーにて、第三者委員会報告書の全文を読んだ感想として、以下のように述べておりました。

今回、報告書全文を読んで、他社のコンプライアンス経営に最も参考になると思われるのが、DeNAグループの運営する10のキュレーションサイトのビジネスモデル、管理体制に関する比較です。ペロリ社が運営するサイト「MERY」の社長さんはDeNAの経営トップの意見を聞かず、グループ内で独自路線を貫いたからこそ高収益を上げていたのですね。もし親会社の経営トップの指示に従っていたら、おそらく業績は上がっていなかったと思われます(私個人の意見としては、この「MERY」だけはキュレーションサイトとして今後早めに再開されるのではないか、と予想しています)。調査報告書を読むと、「MERY」に対する解説部分が一番わかりやすいのです。おそらくこれはMERYの責任者の第三者委員会に対する協力姿勢が報告書の解説記述に反映されているものと推測されます。これはグループ企業の内部統制を考えるにあたり、また、今後のキュレーション事業の展開を考えるにあたり、とても示唆に富む比較です。なお、上記図表は私なりのイメージで比較したものであり、作成責任は私にあります。

Dna02

参考のために、作図についても再掲しております。

やはりMERYを担当しておられたDeNA買収以前の経営者の方(ペロリ社の創業者)が、組織作りをしっかりされていたことが一番の再開要因ではないかと思います。小学館さんも「この人が責任者なら信頼できる」といった確信があるからこそ共同事業に乗り出すのではないでしょうか。つまり、企業不祥事から早期に立ち直れるかどうかは、有事の危機対応による「付け焼刃」的なリスク管理ではなく、不祥事発覚までの平時の組織風土次第ではないかと思います(先日ご紹介したペッパーランチ社の例とよく似ています)。コンプライアンスも事業戦略と一体ですね。

富士フイルムさんでも、競争社会における株式会社である以上、これからも間違いなく一次不祥事は発生します。ただ、その一次不祥事を(マスコミが大好きな)二次不祥事に発展させないためにはどうすべきか・・・、その二次不祥事を防止するための組織風土をどのように構築すべきかが、「業績に対する不祥事の影響」を軽微にするためのポイントです。

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2017年8月12日 (土)

東芝の内部統制報告書に「不適正意見」が付された意味は重い

今朝の朝日新聞(東京版、大阪版とも)に、東芝決算問題に関する私のコメントが掲載されておりますが(数日前にブログで書いた「三方よし」の見解です)、実際に財務諸表監査、内部統制監査の結果が公表されたことに関連して、内部統制報告制度の原則論から、私なりの意見を述べたいと思います。なお、内部統制報告書は、マスコミ報道にあるような「有価証券報告書に付随した」報告書ではなく、あくまでも独立した報告書です(金融庁立案担当者が著者とされている「総合解説内部統制報告制度」税務研究会出版局2007年 59頁)。

昨日(8月10日)、東芝さんの2017年3月31日現在の内部統制報告書について、会計監査人であるPwCあらた監査法人さんは「不適正」との意見を表明しました。私も、あらためて昨日EDNETにリリースされた内部統制監査報告書を読んでみました。マスコミでは、同社の3月期連結財務諸表の監査において「限定付き適正意見」が付されたことに関心が向けられていますが、今年3月末時点においても、東芝さんが提出した内部統制報告書は「報告書全体として虚偽の表示に当たる」と会計監査人が意見表明した意味はとても大きいと考えています。

上場会社の提出する内部統制報告書に、会計監査人が「意見を表明しない(意見不表明)」とする例はときどきみられます(たとえば今年はタカタ社のケース等)。しかし、2008年の制度施行以来、「不適正意見」を出された内部統制報告書は記憶にありません(もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただけますでしょうか)。ちなみに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準、Ⅲ(財務報告に係る内部統制の監査)4.監査人の報告(4) 意見に関する除外」では、監査人が不適正意見を表明する要件として、以下のように規定されています。

② 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、 及び評価結果に関して不適切なものがあり、その影響が内部統制報告書全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、内部統制報 告書が不適正である旨の意見を表明しなければならない。この場合には、別に区 分を設けて、内部統制報告書が不適正である旨及びその理由、並びに財務諸表監 査に及ぼす影響を記載しなければならない(下線部分は筆者作成)。

ここで強調しておきたいことは、内部統制報告書の「不適正意見」は決して過去の会計上のミスに対するペナルティではない、ということです。今年3月末時点でも、東芝さんの内部統制は有効ではない、財務報告の信頼性はない、投資家の皆様にはこれからも注意してください、ということをレッド・フラッグとして発信している点が重要です(だからこそ、内部統制報告制度は金融商品取引法上の開示規制として位置づけられています)。内部統制報告制度は、投資家保護のために「財務報告の信頼性に関する将来の危険」を経営者および監査人が発信する点に重要な意義があります。

財務諸表については「限定付き適正意見」だが、内部統制については「不適正」とした意味は、WH(ウェスチングハウス)社は連結から外れてしまったのだから、すでに東芝さんの内部統制上の不備は解消されたではないか、といった単純な問題ではなく、財務諸表の重要な虚偽表示を解消する機会があったにもかかわらず、あえてやろうとしなかった東芝全体のガバナンスに今でも問題がある(統制環境という内部統制に重大な不備がある)というのが監査人の意見の本旨ではないでしょうか。

昨日の朝日新聞WEB版(有料会員)記事「東芝と監査法人、信頼関係はなぜ崩壊したのか」に、驚くべき新事実が掲載されていました。東芝さんの内部文書を精査した後の監査人と東芝さんとの協議の場で、会計監査人は金商法193条の3(法令違反行為の是正通知制度)の発動をちらつかせたそうです(やはり当初は「会計不正」を問題としていたようです)。この時点でがぜん両社の関係が険悪になったとのこと(おそらく、会計監査人のところへは、表に出ていないような内部告発もあったのではないかと推測します)。このような先鋭的な対立があったということは、やはり今でも会計監査人としては、東芝さんのガバナンス(全社的内部統制)に信頼を置いていないのではないかと思います。

半導体事業を高値で売却しなければならない東芝さんにとって、ステイクホルダーに対するリリースの信用性は重要ですが、「そのリリースには十分気を付けてください」との警鐘が鳴らされた意味は大きいですし、また内部管理体制の健全化が確認されなければ上場廃止とされてしまうという意味で、東証さんの審査にも大きな影響が生じると考えています。昨日の社長さんの会見で「内部統制には全く問題なし」と述べておられるのはあくまでも東芝さんの立場からの意見であって、監査人の立場から別の意見が出されていることにも注意が必要です。

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2017年8月10日 (木)

究極の危機管理-平時の信頼関係と共助の精神が危機を救う

上場会社の取締役さんの個別報酬はいったい誰が決めているのか・・・。もし社長さんが決めているのであれば、それは「ガバナンス改革」が要請している取締役会の監督機能強化に反するのではないか・・・、といった議論が法制審で真剣に交わされているようですね(実務でもインセンティブ報酬の設計を巡って、とても盛り上がっている論点です)。社長への再一任の開示規制問題も含めて、おそらく監査等委員会や任意の報酬諮問委員会の役割といったことが、今後真剣に上場会社で検討される時代が来るように思われます(以下、本題です)。

日経ビジネスの最新号(8月7日、14日合併号)の特集「挫折力-実録8社の復活劇」は力作の特集記事に仕上がっていて、たいへん読み応えのあるものでした。三菱自動車のCEO益子修氏への単独インタビュー記事も、何度も不祥事を繰り返していた企業の経営トップが何を考えておられたのか、という点に光を当てて、とても興味深いところです。

企業不祥事からの復活をかけて奮闘した企業のなかで、私がとても感銘を受けたのはペッパーランチさんとゼンショーさんでした。私は(関西には店舗も少ないということからか)「いきなり!ステーキ」で食事をしたことはありませんが、ペッパーランチさんの運営店舗とは知りませんでした。いずれの企業の不祥事も、過去にこのブログでも取り上げたことがあります。

ペッパーランチさんは、あの「鬼畜企業」とまで評された女性暴行事件とその後の食中毒事件が会社の危機を招きました。同じ食中毒事件でも、なぜ大きく取り上げられる企業とそうでない企業があるかと言えば、その「前振り」になる別の不祥事が世間から消えないから・・・ということだと思います。ただ、倒産直前まで落ち込んだペッパー社が回復できたのは、多くの取引先が「あの社長なら復活させることができる」として、取引を継続してくれたからとのことで、まさに平時の信頼関係があったからだそうです。平時の信頼関係こそ究極の危機管理ですね。

そしてゼンショーさんの例では、同社のビジネスモデルだった「ワンオペ」を捨てて、「ツーオペ」を断行したときに、組織が変わったそうです。地域ごとに店舗間での関係が緊密になり、困ったときには「助けて」と言える組織に変わったそうです。私はパワハラを発生させない組織として「共助の精神」が不可欠と考えていますが、組織において「共助の精神」があれば、たとえ不祥事が発生したとしても自浄能力は発揮でき、大きな危機を回避できる場合が多いと思います。

これらの企業にはカリスマ経営者が存在し、カリスマ経営者が動くことによって、社員も本気で復活に取組むことができたのかもしれません。ただ、このような復活劇の背景には組織の頑張りがあったはずで、その頑張りを喚起したストーリーがあります。ペッパーランチ社の場合は社長自らが取引先一軒一軒に頭を下げて回ったということであり、ゼンショーさんの場合は久保利弁護士を委員長とする第三者委員会の設置(とその結果としての驚愕の報告書)です。いずれも組織を変えたいという経営者の意思が明確に社員に伝わるストーリー性があります。

このようなストーリーを企業不祥事という「修羅場、土壇場、正念場」において、どのように従業員の方々に発信できるのか・・・、これはカリスマ経営者ではなくても、危機に臨んだ経営トップが示すことはできるのではないでしょうか。

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2017年8月 9日 (水)

東芝の会計監査(意見表明)問題は「三方よし」で終結するか?

今年4月12日の当ブログにて「東芝四半期報告書-なぜ『限定付適正意見(結論)』がもらえなかったのか?」と題するエントリーを書きましたが、なんだか最近のマスコミ報道によりますと、ホントにそんなところで終結しそうな雰囲気になってきたような気がいたします。ただ、当時は東芝さんの四半期報告書が問題視されていましたが、現在は有価証券報告書への意見表明が問題になっていますので、当時よりもさらに当事者の方々には深刻な問題ですね。さらにロイターさんが報じているように有価証券報告書は「限定付き適正」だが内部統制報告書は「不適正」という意見が出された場合、東芝さんとしては特設注意市場銘柄からの解除が困難になる可能性もあるため、予断を許さないように思います。

さて、またまた大手町や内幸町あたりの会計専門家の方々から怒られそうな(実際、怒られてます-笑)話題で恐縮ですが、どうも素朴な疑問が湧いてきてしかたがありません。東芝さんの元会計監査人である新日本監査法人さんと、現会計監査人であるPwCあらた監査法人さんとで、WHの61億ドルに上る損失を17年3月期に計上すべきだったのか、16年3月期までに計上すべきだったのか、壮絶なバトルが繰り広げられているとのニュースが報じられています。

つまり、新日本さんが正しければPwCさんが間違っていて、PwCさんが正しければ新日本さんが間違っている、もし新日本さんが間違っている場合には会計不正の共犯か、もしくは監査見逃し責任を問われる、PwCさんが間違っていたら監査放棄の責任を問われる・・・といった構図になるのでしょうか。しかしどうもこの構図は解せません。

たしかに東芝さんが「不正とわかっていて隠した」のであれば、会計事実の存否を巡ってこのような構図が語られることもナットクするのですが、会計処理に関する見解の相違というところの問題であれば、会計上のミスというところはあったとしても少し違った構図になるような気がいたします。会計基準は法律ではないので、基準の解釈に相違があったとしても法的責任には直結しません。つまり、新日本さんも正しいけど、PwCさんも正しい、という結論はありうるだろうなぁと。いくら投資家に迷惑をかけたとしても、一定の時間内に、一定の報酬で、つまりリスクアプローチを所与の前提として相対的真実を追求するわけですから、会計監査の性(さが)としてやれることには限界があるだろうなぁと。

そのように考えておりましたところ、7月25日の朝日新聞さんの記事あたりから最近にかけて、PwCさんが「これは会計上の誤謬だ」と主張を少し変えていることが気になりっております。これまではPwCさんが「不正会計」と主張されていたのが「会計上の誤謬(ミス)」と指摘するように変わったのは、とりあえず限定付き適正意見を表明する余地を残しているという意味合いだと推測されます(ただ投資家側からみて61億ドルという巨額の損失計上の可能性が「そこさえ注意して開示情報をご覧になっていただければ安心ですよ」と言えるものなのかどうか、これはかなり微妙な気がしますが・・・)。

ただ、ここからは会計素人の素朴な意見ですが、会計不正を主張してしまうと(法的責任を問われる可能性のある)新日本さんも「引っ込みがつかなくなる」ので、PwCも正しい、新日本も(当時の東芝の状況からすれば)正しい、といった着地点を当事者が模索しているのではないかと推測(邪推?)しております。会計処理方法の誤り(会計上の誤謬)ということであれば、今後はどっちからでも「相手が誤っている」と主張しておけば(とりあえずは)済む話であり、法律上は注意義務違反を問われる可能性も極めて低い、というところに着地できるからです。

これでPwCさんが「限定付き適正意見」を表明することになれば、東芝さんも(内部統制報告書問題は残るものの)とりあえずは上場廃止を免れることになりますし、PwCさんも新日本さんも、当局や業界内での裁定は別として、世間的に法的責任を追及されるリスクは極めて低くなりますし、まさに「三方よし」ですね(こういうことを言うから怒られるのですよね・・・笑)。ただ、これはあくまでも日本人的感覚であり、「俺が会計基準だ」と言って憚らない欧米の会計監査人もこの理屈にナットクされるかどうかはわかりません。いずれにしても8月10日にはどのような意見が表明されるのか、またまた世間の関心が高まるところです(両方の監査法人さんからはふだん、アドバイザリー業務を含めてとてもお世話になっているにもかかわらず、ブログネタにしてしまってゴメンナサイ・・・<(_ _)>)。

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2017年8月 7日 (月)

最高裁で問われるか?-企業の個人情報保護体制の不備

弁護士ドットコムさんのニュースで知りましたが、ベネッセ社の個人情報漏えい事件に関連して被害者が損害賠償請求を求めている裁判について、9月に最高裁弁論が開かれることが決まったそうです。集団訴訟で提訴されているほうではなく、別の被害者の方が個人で提訴しているほうの裁判のようですね(いや、これは実に興味深いです)。

地裁、高裁では被害者原告が敗訴しており、企業側の過失、因果関係のある被害額とも争点となっているようなので、このあたりに関して最高裁が下級審と別の判断を示す可能性が高まりましたね。ニュースでも述べられているように、この最高裁判断は、別の集団訴訟の判断に重要な影響を及ぼすだけでなく、個人情報漏えい事件を「甘くみている」企業にとっても警鐘を鳴らす判決になるのではないかと(もちろん、最高裁の判断の射程距離を厳密に分析する必要はありますが)。

ベネッセの事件では、故意に情報漏えいが発生した事案なので、どのような法律構成によって企業側の責任が根拠付けられるのかはわかりませんが、おそらく情報管理に関する内部統制の不備が問われることになると思います。また、ベネッセは被害者ひとりあたり500円の被害弁償を済ませていますが、ひょっとするとプライバシー侵害の代償は重い・・・ということで、さらなる高額賠償金額が適正と判断される可能性もあります。

改正個人情報保護法の施行、来年5月に控えたEU一般データ保護規則の施行など、企業側の情報管理体制の構築が喫緊の課題とされていますが、そのような社会の流れの中で、さらに情報漏えいに関する司法判断が示される意義はとても大きいはずです。本日は自分用の備忘録程度のエントリーですが、この9月末の最高裁判断には内部統制の視点から注目をしておきたいと思います。

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2017年8月 3日 (木)

社長が孤独であればあるほど相談役・顧問は活きる!

私が長く住み続けている場所(堺市百舌鳥界隈)が世界遺産に登録される可能性が出てきました。大小多数の古墳群は毎日眺めている「あたりまえの風景」なので、あまり実感が湧きませんが、登録されれば経済効果は1000億だとか(?・・・ほんまかいな)。ということで(?)、本日は世界遺産ならぬ「負の遺産」などと揶揄されている相談役、顧問制度のお話です。

日本取引所さんが「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」と題してコーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂されましたね。経産省の研究会報告や政府の未来投資戦略でも提言されておりましたので既定路線のようです。私も(週刊エコノミストの拙稿で述べておりますように)相談役・顧問制度には長所も短所もあるので、できれば各社において職務内容等を開示すればよいのではないかと思っておりました(方向性としては賛成です)。企業の対外的活動や社会貢献など、相談役が担っている企業も多いですし、相談役制度があるからこそ社長交代が促進される(かつてのように高額所得税が80%の時代ではなくなり、また役員退職金制度も廃止されるとなると、相談役のようなクッションがないといつまでも社長の座にしがみつく)、実績のある方ほど「相談役」として引き留めておいて中国や韓国等の競業他社で活躍していただかない、といったところも考慮すると、このあたりがオトシドコロではないかと思われます。

ただ、相談役や顧問の方について「職務はほとんどありません」と書かれていたとしても、また、相談役制度は廃止しました、と開示したとしても、元代表取締役社長、元CFOといった方々の影響力が全くないかといいますと、そんなことはないですね。とりわけ元カリスマ経営者や元カリスマ経営者を支えた元CFOといった方々が、たとえ会社には一切来なくなったとしても、毎日のように「●●チルドレン」と言われている現経営陣の方が御自宅に相談に伺う・・・というのはよく聞くところです。会社に在籍せず、対外的な活動もしないので無報酬ですが、影響力だけは社内で残している、まさに「影の相談役」ですね。

現役の社長さんだって、孤独であればあるほど、かつての上司だった「影の相談役」しかホンネを言わないということはあります。ご自身の弱みを墓場まで持って行ってもらえる方、ご自身のややグレーな部分を代わりに背負っていただいている方だからこそ、現役社長さんはホンネでお話できるのではないでしょうか。そのことを社長を取り巻く経営陣もよくわかっているので(相談役を退任した後も)「社長を動かせる人」のところへ日参するわけでして、「院政」は相談役(元相談役)が敷くのではなく、むしろ現役の経営陣が「院政」を活用する、というのもかなり見てきました(まぁ、人間力学として当然といえば当然かと)。

改訂された上記要領「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を読みますと、相談役のCSR(車、秘書、個室)の有無や現経営陣と同じフロアにそのまま在籍するのかどうか、といった本当の影響力を示すモノサシまで開示する必要はなさそうです(これらは株主との建設的な対話の中で開示する、といったことでしょうか)。スチュワードシップ・コードや国連の責任投資原則の浸透によってガバナンス改革はいよいよ形式から実質へと動き出しているようですが、この相談役・顧問制度の持つガバナンスへの影響については、「経営技能」よりも「実務技能」を重視する日本の社長養成・選抜システムが続く限りは変わりようがないと思っています(参考:江頭憲治郎「会社法改正によって日本の会社は変わらない」法律時報2014年10月号60頁)。ちなみに現在のところ、他社から経営のプロと呼ばれる方を社長に招聘するといった上場会社はそれほど多くはないですね。

★ところで安倍政権の趨勢からみて、ガバナンス改革はこの先どうなるのでしょうかね?中長期の企業価値の向上に資する・・・とありますので、検証するにも相当長期の施策続行が不可欠なのですが。。。

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2017年8月 1日 (火)

内部告発者に朗報-地方公共団体向け通報対応ガイドラインの公表

先日、横浜市が内部告発者の氏名を誤って企業側に漏えいしてしまった事件が発覚し、告発者に謝罪したことが報じられていました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。このような「地方公共団体による労働者通報への不適切な対応」が後を絶たないため、結果として行政機関への内部告発を萎縮させている点が大きな課題とされています。しかし、地方公共団体へ内部告発を検討している方への朗報となるべきガイドラインが策定されました。

今年3月、公益通報者保護法の趣旨を踏まえた国の行政機関向け(労働者通報に関する)通報対応ガイドライン改訂版が公表されましたが、これに続き、消費者庁より本日(7月31日)、地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(労働者通報への対応を含む)が公表されました(消費者庁HPに掲載されています)。こちらも公益通報者保護制度実効性検討会の報告書提言に基づいて新たに策定されたものです。

企業不正を内部告発される方にとってはぜひ内容をご理解いただきたいところですし、内部通報制度の整備・運用が適切とはいえない企業にとっては、不正発覚リスクを高める要因ともなり、注意が必要です。不正リスクの中身についての詳細は、別途研修や講演等で解説させていただきますが、労働者通報に関して、(地方公共団体の対応が求められる)労働者の範囲はかなり広いですし、国の機関と同様「準公益通報」についての対応も要求されています(匿名通報についても基本的に受け付けることになりそうです)。また、これまで自治体が通報を拒絶したり放置する原因となっていた「真実相当性」の要件について、その解釈指針を示し、さらには個人の生命、身体、財産に重大な影響を及ぼし得るような通報事実の場合には、この要件該当性に疑問があっても通報対応すべき、としています。

たとえば公益通報者保護法上の「通報事実」に該当しないような法令違反行為についての取引先従業員からの通報でも、真実相当性の要件が認められる限りは、各自治体がこれを誠実に受領して調査を開始する、ということになります。もちろん国の機関事務ではありませんので、ガイドラインの実施についてはそれぞれの自治体の自主性を尊重することになりますが、法令上の根拠は地方自治法245条の2、第1項に基づく「地方自治事務に関する技術的助言・勧告」となります。公益通報者保護法の改正(ハードロー)は未了ですが、改正に向けての立法趣旨(公益通報者保護制度の実効性の向上)は、ガイドライン(ソフトロー)によって企業実務に浸透していくことが期待されます。

今後は各地方公共団体において、本ガイドラインを踏まえた内部規程の策定、改正等を行うことになりますが、各地方公共団体から消費者庁へは数百に及ぶ意見や質問が寄せられたそうで、消費者庁としてはすでに丁寧に回答を終えたそうです。したがって、今後は各自治体で速やかに制度の整備、改善、職員の皆様の研修が進むものと予想されますので、企業のコンプライアンス経営実践への影響も、かなり大きいはずです。

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