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2017年8月17日 (木)

海外子会社不正とコード・オブ・コンダクト(行動準則)の活用

東芝さんの有報に付された「限定付き適正意見」の意義について、コメント欄がたいへん盛り上がっておりますが(笑)、昨日も東京衡機さんの訂正有報に会計監査人から「限定付き適正意見」が付されました(東芝事件をきっかけに今後流行の兆しでしょうか?)。いずれにしても海外子会社不正の防止や実態把握というのは上場企業にとっての重大な課題です。

今朝(8月16日)の日経「私見卓見」では清原健弁護士による「企業不正、実践的な行動準則で防げ」なる見出しの小稿が掲載されており、海外子会社不正対策に関する渉外弁護士らしい一次情報満載のご意見を拝読できました。ACFE(米国公認不正検査士協会)の調査結果も紹介されており、効果的な行動準則を整備・運用している企業は、そうでない企業よりも不正を早期に発見しており、また不正による業績への影響も軽微とのこと(この点は私もきちんと調べておきたいと思います)。

富士フイルムさん、ユニ・チャームさん、東京衡機さんなど、このところ相次いで海外不正(不適切会計)案件が開示されていますが、海外企業が活用しているコード・オブ・コンダクト(行動準則」を日本企業も活用すべき、と清原弁護士が提言されておられます。同氏が指摘しておられるように、日本企業の行動規範はどうも倫理規定の域を超えておらず、したがって規範の実効性を評価するところまではまったく考えられていないのが日本企業の実態かと。

実際に海外企業の行動準則を読むとおわかりのとおり、カルテルや贈賄・汚職、労働法、開示規制や偽造文書作成防止など、かなり具体的かつ明確な規定ぶりが目立ちます。清原弁護士によれば、これらは法的な裏付け(たとえば違反行為への罰則を定める連邦量刑基準)が背景にあるからだそうです。たしかに日本企業の場合には「そういえばうちの会社って行動規範はどんなものだったかな」といったレベル、つまり「置物」「飾り物」のような存在になってしまっています。ところが海外企業の場合には、行動準則の実効性を一定期間ごとに自社で評価をするわけで、そこでは「整備」よりも「運用」に光が当たっているものと思われます。当然のことながら、全役職員が、ビジネスの現場において常に行動準則を意識することになります。

私も、いままで行動準則の実効性をきちんと評価している企業にお招きいただいた経験がありますが、そのすべての企業に共通しているのが「過去にカルテルもしくはFCPAで巨額の制裁金、損害賠償金を支払った企業」です。痛い目に遭ったときの社長さんはすでに退任していたとしても、その社長さんの「肝いり」で始まったカルテル、海外贈賄防止ガイドラインの実践が、法務担当者を中心に脈々と受け継がれているというものです。どうしても(必要に迫られて)社員が不正リスクに遭遇してしまうことを前提として、「自分がいま遭遇しているのかどうか、わからないときにはどうすべきか」「遭遇してしまった場合には、何をすればよいのか」、二層、三層のガイドラインによって詳細に行動準則が示されています。

「痛い目に遭ってはじめてわかる」というのも理解できるのですが、具体的な法令違反行為を防止するためだけではなく、むしろ誠実な企業としての組織風土を醸成するための具体的なツールとして、コード・オブ・コンダクトの実効性を高める工夫が必要ではないでしょうか。

8月 17, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月16日 (水)

監査報告書の透明化(長文化)に監査役等はどう向き合うか?

旬刊商事法務の最新号(8月5日、15日合併号)の巻頭座談会は「会計監査の実効性確保と監査役の役割」というテーマでして、かなり長いのですが当該特集記事を一気に拝読いたしました。学者(弥永教授)、企業実務家(三井物産常勤監査役)、会計実務家(あずさ監査法人の会計士)に司会が弁護士・公認会計士の資格を保有された方の合計4名の座談会です。不正リスク対応基準、会社法改正、CGコード、監査法人版ガバナンス・コードといった制度改正の流れの中で、「監査役と会計監査人の連携」がどう変わってきたか、変わるべきか、といった論点について語り合うというもので、「監査のいま」を確認するためにとても有益でした。

ただ、長い対談の中で、私的に一番関心を抱いたのは、タイトルのとおり「監査報告書の透明化(長文化)に監査役はいかに対応すべきか」といった、「監査のこれから」の課題についての議論でした。金商法上の制度と会社法上の制度という、大きな違いはありますが、私自身も監査報告書の長文化が施行されますと、監査役制度には大きな影響が出るものと考えていましたので、やはりご専門家の方々も同様に感じておられることに少し安堵いたしました。ただ、監査役や会計監査人の法的責任を論じることで、「長文化、透明化といっても、結局は金太郎飴の文章が無難ではないか」といった議論に進展してしまい、制度の趣旨が没却されてしまうおそれもありそうで、注意が必要かもしれません。

今回のテーマが「会計監査の実効性確保・・・」ということなので、ターゲットは大規模上場会社の監査役等の方々ということになりそうです。監査役等と会計監査人がいかにコミュニケーションを図るか、という課題はもうずいぶん長い間議論されてきましたが、あまり世間の話題にはなりません。たとえば東芝とPwCあらた監査法人との「意見不表明」「結論不表明」の話題はとても大きく報じれましたが、東芝の監査委員会とPwCとの間でどのようなやりとりがあったのかはあまり報じられませんでした(記者会見の様子をみると、監査委員会はほぼ会社の利益を代弁していたかのように映りました)。もし、監査報告書の長文化と監査役等の関与が制度化された場合には、もう少し平時からのリスク管理が見える化される(その結果として有事には証拠化される)ことになるでしょうね。

コミュニケーションの取り方について、三井物産常勤監査役の方が「どんな情報が欲しいのかは、自分からこれが欲しいと言わなければ相手はわからない。相手に提供すべき情報も同じである」とおっしゃるのはまことにその通りかと。私も非上場会社ではありますが、監査役として、会計監査人との意見交換ではギブ&テイクに徹するようにしています(その際、経営執行部の行動を客観的に評価する姿勢は不可欠です)。できれば「業務監査」の課題が「会計監査」にどのような影響を及ぼすのか、そのあたりも説明するようにしています。そのためには監査役にも会計的知見が求められますし、会計監査人にも業務監査の知見が求められます。来るべき監査報告書の長文化の時代に備えて、いまから会計監査人と監査役等との適切なコミュニケーションの取り方を習慣とする必要がありそうですね。

8月 16, 2017 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月15日 (火)

DeNA社「MERY」再開-誠実な企業は早期によみがえる

皆様、お盆休みをいかがお過ごしでしょうか。本日(8月14日)の日経WEBニュースでは、富士フイルムさんの取締役の方が「会計不祥事によるグループ業績への影響は一時的なものに過ぎない」と回答しておられました。グループの業績は好調ですし、ゼロックス社豪州子会社のガバナンスも一新されたそうで、そのようなご発言になるものと思います。ただ、果たして不祥事を再発させない組織風土が短期間に構築できるかどうかは別問題ですね。

先週木曜日(8月10日)の日経朝刊14面に「女性向けサイトMERY再開へ-DeNA見切り発車」と題する記事が掲載されており、DeNAさんのキュレーション事業のひとつである「MERY」が小学館さんとの共同事業で再開することが報じられています。記事では、キュレーションサイト事業への社会的批判が残るものの、若い女性から早く再開してほしいとの要望が強かったことが再開の要因と記されています。しかし私は別の見方をしています。今年3月21日、私は「DeNAキュレーション問題-この不祥事を事前に止めることはできたか?」なるエントリーにて、第三者委員会報告書の全文を読んだ感想として、以下のように述べておりました。

今回、報告書全文を読んで、他社のコンプライアンス経営に最も参考になると思われるのが、DeNAグループの運営する10のキュレーションサイトのビジネスモデル、管理体制に関する比較です。ペロリ社が運営するサイト「MERY」の社長さんはDeNAの経営トップの意見を聞かず、グループ内で独自路線を貫いたからこそ高収益を上げていたのですね。もし親会社の経営トップの指示に従っていたら、おそらく業績は上がっていなかったと思われます(私個人の意見としては、この「MERY」だけはキュレーションサイトとして今後早めに再開されるのではないか、と予想しています)。調査報告書を読むと、「MERY」に対する解説部分が一番わかりやすいのです。おそらくこれはMERYの責任者の第三者委員会に対する協力姿勢が報告書の解説記述に反映されているものと推測されます。これはグループ企業の内部統制を考えるにあたり、また、今後のキュレーション事業の展開を考えるにあたり、とても示唆に富む比較です。なお、上記図表は私なりのイメージで比較したものであり、作成責任は私にあります。

Dna02

参考のために、作図についても再掲しております。

やはりMERYを担当しておられたDeNA買収以前の経営者の方(ペロリ社の創業者)が、組織作りをしっかりされていたことが一番の再開要因ではないかと思います。小学館さんも「この人が責任者なら信頼できる」といった確信があるからこそ共同事業に乗り出すのではないでしょうか。つまり、企業不祥事から早期に立ち直れるかどうかは、有事の危機対応による「付け焼刃」的なリスク管理ではなく、不祥事発覚までの平時の組織風土次第ではないかと思います(先日ご紹介したペッパーランチ社の例とよく似ています)。コンプライアンスも事業戦略と一体ですね。

富士フイルムさんでも、競争社会における株式会社である以上、これからも間違いなく一次不祥事は発生します。ただ、その一次不祥事を(マスコミが大好きな)二次不祥事に発展させないためにはどうすべきか・・・、その二次不祥事を防止するための組織風土をどのように構築すべきかが、「業績に対する不祥事の影響」を軽微にするためのポイントです。

8月 15, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月12日 (土)

東芝の内部統制報告書に「不適正意見」が付された意味は重い

今朝の朝日新聞(東京版、大阪版とも)に、東芝決算問題に関する私のコメントが掲載されておりますが(数日前にブログで書いた「三方よし」の見解です)、実際に財務諸表監査、内部統制監査の結果が公表されたことに関連して、内部統制報告制度の原則論から、私なりの意見を述べたいと思います。なお、内部統制報告書は、マスコミ報道にあるような「有価証券報告書に付随した」報告書ではなく、あくまでも独立した報告書です(金融庁立案担当者が著者とされている「総合解説内部統制報告制度」税務研究会出版局2007年 59頁)。

昨日(8月10日)、東芝さんの2017年3月31日現在の内部統制報告書について、会計監査人であるPwCあらた監査法人さんは「不適正」との意見を表明しました。私も、あらためて昨日EDNETにリリースされた内部統制監査報告書を読んでみました。マスコミでは、同社の3月期連結財務諸表の監査において「限定付き適正意見」が付されたことに関心が向けられていますが、今年3月末時点においても、東芝さんが提出した内部統制報告書は「報告書全体として虚偽の表示に当たる」と会計監査人が意見表明した意味はとても大きいと考えています。

上場会社の提出する内部統制報告書に、会計監査人が「意見を表明しない(意見不表明)」とする例はときどきみられます(たとえば今年はタカタ社のケース等)。しかし、2008年の制度施行以来、「不適正意見」を出された内部統制報告書は記憶にありません(もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただけますでしょうか)。ちなみに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準、Ⅲ(財務報告に係る内部統制の監査)4.監査人の報告(4) 意見に関する除外」では、監査人が不適正意見を表明する要件として、以下のように規定されています。

② 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、 及び評価結果に関して不適切なものがあり、その影響が内部統制報告書全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、内部統制報 告書が不適正である旨の意見を表明しなければならない。この場合には、別に区 分を設けて、内部統制報告書が不適正である旨及びその理由、並びに財務諸表監 査に及ぼす影響を記載しなければならない(下線部分は筆者作成)。

ここで強調しておきたいことは、内部統制報告書の「不適正意見」は決して過去の会計上のミスに対するペナルティではない、ということです。今年3月末時点でも、東芝さんの内部統制は有効ではない、財務報告の信頼性はない、投資家の皆様にはこれからも注意してください、ということをレッド・フラッグとして発信している点が重要です(だからこそ、内部統制報告制度は金融商品取引法上の開示規制として位置づけられています)。内部統制報告制度は、投資家保護のために「財務報告の信頼性に関する将来の危険」を経営者および監査人が発信する点に重要な意義があります。

財務諸表については「限定付き適正意見」だが、内部統制については「不適正」とした意味は、WH(ウェスチングハウス)社は連結から外れてしまったのだから、すでに東芝さんの内部統制上の不備は解消されたではないか、といった単純な問題ではなく、財務諸表の重要な虚偽表示を解消する機会があったにもかかわらず、あえてやろうとしなかった東芝全体のガバナンスに今でも問題がある(統制環境という内部統制に重大な不備がある)というのが監査人の意見の本旨ではないでしょうか。

昨日の朝日新聞WEB版(有料会員)記事「東芝と監査法人、信頼関係はなぜ崩壊したのか」に、驚くべき新事実が掲載されていました。東芝さんの内部文書を精査した後の監査人と東芝さんとの協議の場で、会計監査人は金商法193条の3(法令違反行為の是正通知制度)の発動をちらつかせたそうです(やはり当初は「会計不正」を問題としていたようです)。この時点でがぜん両社の関係が険悪になったとのこと(おそらく、会計監査人のところへは、表に出ていないような内部告発もあったのではないかと推測します)。このような先鋭的な対立があったということは、やはり今でも会計監査人としては、東芝さんのガバナンス(全社的内部統制)に信頼を置いていないのではないかと思います。

半導体事業を高値で売却しなければならない東芝さんにとって、ステイクホルダーに対するリリースの信用性は重要ですが、「そのリリースには十分気を付けてください」との警鐘が鳴らされた意味は大きいですし、また内部管理体制の健全化が確認されなければ上場廃止とされてしまうという意味で、東証さんの審査にも大きな影響が生じると考えています。昨日の社長さんの会見で「内部統制には全く問題なし」と述べておられるのはあくまでも東芝さんの立場からの意見であって、監査人の立場から別の意見が出されていることにも注意が必要です。

8月 12, 2017 内部統制を法律家が議論する理由 | | コメント (11) | トラックバック (0)

2017年8月10日 (木)

究極の危機管理-平時の信頼関係と共助の精神が危機を救う

上場会社の取締役さんの個別報酬はいったい誰が決めているのか・・・。もし社長さんが決めているのであれば、それは「ガバナンス改革」が要請している取締役会の監督機能強化に反するのではないか・・・、といった議論が法制審で真剣に交わされているようですね(実務でもインセンティブ報酬の設計を巡って、とても盛り上がっている論点です)。社長への再一任の開示規制問題も含めて、おそらく監査等委員会や任意の報酬諮問委員会の役割といったことが、今後真剣に上場会社で検討される時代が来るように思われます(以下、本題です)。

日経ビジネスの最新号(8月7日、14日合併号)の特集「挫折力-実録8社の復活劇」は力作の特集記事に仕上がっていて、たいへん読み応えのあるものでした。三菱自動車のCEO益子修氏への単独インタビュー記事も、何度も不祥事を繰り返していた企業の経営トップが何を考えておられたのか、という点に光を当てて、とても興味深いところです。

企業不祥事からの復活をかけて奮闘した企業のなかで、私がとても感銘を受けたのはペッパーランチさんとゼンショーさんでした。私は(関西には店舗も少ないということからか)「いきなり!ステーキ」で食事をしたことはありませんが、ペッパーランチさんの運営店舗とは知りませんでした。いずれの企業の不祥事も、過去にこのブログでも取り上げたことがあります。

ペッパーランチさんは、あの「鬼畜企業」とまで評された女性暴行事件とその後の食中毒事件が会社の危機を招きました。同じ食中毒事件でも、なぜ大きく取り上げられる企業とそうでない企業があるかと言えば、その「前振り」になる別の不祥事が世間から消えないから・・・ということだと思います。ただ、倒産直前まで落ち込んだペッパー社が回復できたのは、多くの取引先が「あの社長なら復活させることができる」として、取引を継続してくれたからとのことで、まさに平時の信頼関係があったからだそうです。平時の信頼関係こそ究極の危機管理ですね。

そしてゼンショーさんの例では、同社のビジネスモデルだった「ワンオペ」を捨てて、「ツーオペ」を断行したときに、組織が変わったそうです。地域ごとに店舗間での関係が緊密になり、困ったときには「助けて」と言える組織に変わったそうです。私はパワハラを発生させない組織として「共助の精神」が不可欠と考えていますが、組織において「共助の精神」があれば、たとえ不祥事が発生したとしても自浄能力は発揮でき、大きな危機を回避できる場合が多いと思います。

これらの企業にはカリスマ経営者が存在し、カリスマ経営者が動くことによって、社員も本気で復活に取組むことができたのかもしれません。ただ、このような復活劇の背景には組織の頑張りがあったはずで、その頑張りを喚起したストーリーがあります。ペッパーランチ社の場合は社長自らが取引先一軒一軒に頭を下げて回ったということであり、ゼンショーさんの場合は久保利弁護士を委員長とする第三者委員会の設置(とその結果としての驚愕の報告書)です。いずれも組織を変えたいという経営者の意思が明確に社員に伝わるストーリー性があります。

このようなストーリーを企業不祥事という「修羅場、土壇場、正念場」において、どのように従業員の方々に発信できるのか・・・、これはカリスマ経営者ではなくても、危機に臨んだ経営トップが示すことはできるのではないでしょうか。

8月 10, 2017 コンプライアンス経営 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 9日 (水)

東芝の会計監査(意見表明)問題は「三方よし」で終結するか?

今年4月12日の当ブログにて「東芝四半期報告書-なぜ『限定付適正意見(結論)』がもらえなかったのか?」と題するエントリーを書きましたが、なんだか最近のマスコミ報道によりますと、ホントにそんなところで終結しそうな雰囲気になってきたような気がいたします。ただ、当時は東芝さんの四半期報告書が問題視されていましたが、現在は有価証券報告書への意見表明が問題になっていますので、当時よりもさらに当事者の方々には深刻な問題ですね。さらにロイターさんが報じているように有価証券報告書は「限定付き適正」だが内部統制報告書は「不適正」という意見が出された場合、東芝さんとしては特設注意市場銘柄からの解除が困難になる可能性もあるため、予断を許さないように思います。

さて、またまた大手町や内幸町あたりの会計専門家の方々から怒られそうな(実際、怒られてます-笑)話題で恐縮ですが、どうも素朴な疑問が湧いてきてしかたがありません。東芝さんの元会計監査人である新日本監査法人さんと、現会計監査人であるPwCあらた監査法人さんとで、WHの61億ドルに上る損失を17年3月期に計上すべきだったのか、16年3月期までに計上すべきだったのか、壮絶なバトルが繰り広げられているとのニュースが報じられています。

つまり、新日本さんが正しければPwCさんが間違っていて、PwCさんが正しければ新日本さんが間違っている、もし新日本さんが間違っている場合には会計不正の共犯か、もしくは監査見逃し責任を問われる、PwCさんが間違っていたら監査放棄の責任を問われる・・・といった構図になるのでしょうか。しかしどうもこの構図は解せません。

たしかに東芝さんが「不正とわかっていて隠した」のであれば、会計事実の存否を巡ってこのような構図が語られることもナットクするのですが、会計処理に関する見解の相違というところの問題であれば、会計上のミスというところはあったとしても少し違った構図になるような気がいたします。会計基準は法律ではないので、基準の解釈に相違があったとしても法的責任には直結しません。つまり、新日本さんも正しいけど、PwCさんも正しい、という結論はありうるだろうなぁと。いくら投資家に迷惑をかけたとしても、一定の時間内に、一定の報酬で、つまりリスクアプローチを所与の前提として相対的真実を追求するわけですから、会計監査の性(さが)としてやれることには限界があるだろうなぁと。

そのように考えておりましたところ、7月25日の朝日新聞さんの記事あたりから最近にかけて、PwCさんが「これは会計上の誤謬だ」と主張を少し変えていることが気になりっております。これまではPwCさんが「不正会計」と主張されていたのが「会計上の誤謬(ミス)」と指摘するように変わったのは、とりあえず限定付き適正意見を表明する余地を残しているという意味合いだと推測されます(ただ投資家側からみて61億ドルという巨額の損失計上の可能性が「そこさえ注意して開示情報をご覧になっていただければ安心ですよ」と言えるものなのかどうか、これはかなり微妙な気がしますが・・・)。

ただ、ここからは会計素人の素朴な意見ですが、会計不正を主張してしまうと(法的責任を問われる可能性のある)新日本さんも「引っ込みがつかなくなる」ので、PwCも正しい、新日本も(当時の東芝の状況からすれば)正しい、といった着地点を当事者が模索しているのではないかと推測(邪推?)しております。会計処理方法の誤り(会計上の誤謬)ということであれば、今後はどっちからでも「相手が誤っている」と主張しておけば(とりあえずは)済む話であり、法律上は注意義務違反を問われる可能性も極めて低い、というところに着地できるからです。

これでPwCさんが「限定付き適正意見」を表明することになれば、東芝さんも(内部統制報告書問題は残るものの)とりあえずは上場廃止を免れることになりますし、PwCさんも新日本さんも、当局や業界内での裁定は別として、世間的に法的責任を追及されるリスクは極めて低くなりますし、まさに「三方よし」ですね(こういうことを言うから怒られるのですよね・・・笑)。ただ、これはあくまでも日本人的感覚であり、「俺が会計基準だ」と言って憚らない欧米の会計監査人もこの理屈にナットクされるかどうかはわかりません。いずれにしても8月10日にはどのような意見が表明されるのか、またまた世間の関心が高まるところです(両方の監査法人さんからはふだん、アドバイザリー業務を含めてとてもお世話になっているにもかかわらず、ブログネタにしてしまってゴメンナサイ・・・<(_ _)>)。

8月 9, 2017 不正を許さない監査 | | コメント (8) | トラックバック (0)

2017年8月 7日 (月)

最高裁で問われるか?-企業の個人情報保護体制の不備

弁護士ドットコムさんのニュースで知りましたが、ベネッセ社の個人情報漏えい事件に関連して被害者が損害賠償請求を求めている裁判について、9月に最高裁弁論が開かれることが決まったそうです。集団訴訟で提訴されているほうではなく、別の被害者の方が個人で提訴しているほうの裁判のようですね(いや、これは実に興味深いです)。

地裁、高裁では被害者原告が敗訴しており、企業側の過失、因果関係のある被害額とも争点となっているようなので、このあたりに関して最高裁が下級審と別の判断を示す可能性が高まりましたね。ニュースでも述べられているように、この最高裁判断は、別の集団訴訟の判断に重要な影響を及ぼすだけでなく、個人情報漏えい事件を「甘くみている」企業にとっても警鐘を鳴らす判決になるのではないかと(もちろん、最高裁の判断の射程距離を厳密に分析する必要はありますが)。

ベネッセの事件では、故意に情報漏えいが発生した事案なので、どのような法律構成によって企業側の責任が根拠付けられるのかはわかりませんが、おそらく情報管理に関する内部統制の不備が問われることになると思います。また、ベネッセは被害者ひとりあたり500円の被害弁償を済ませていますが、ひょっとするとプライバシー侵害の代償は重い・・・ということで、さらなる高額賠償金額が適正と判断される可能性もあります。

改正個人情報保護法の施行、来年5月に控えたEU一般データ保護規則の施行など、企業側の情報管理体制の構築が喫緊の課題とされていますが、そのような社会の流れの中で、さらに情報漏えいに関する司法判断が示される意義はとても大きいはずです。本日は自分用の備忘録程度のエントリーですが、この9月末の最高裁判断には内部統制の視点から注目をしておきたいと思います。

8月 7, 2017 内部統制の事例検証 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年8月 3日 (木)

社長が孤独であればあるほど相談役・顧問は活きる!

私が長く住み続けている場所(堺市百舌鳥界隈)が世界遺産に登録される可能性が出てきました。大小多数の古墳群は毎日眺めている「あたりまえの風景」なので、あまり実感が湧きませんが、登録されれば経済効果は1000億だとか(?・・・ほんまかいな)。ということで(?)、本日は世界遺産ならぬ「負の遺産」などと揶揄されている相談役、顧問制度のお話です。

日本取引所さんが「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」と題してコーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂されましたね。経産省の研究会報告や政府の未来投資戦略でも提言されておりましたので既定路線のようです。私も(週刊エコノミストの拙稿で述べておりますように)相談役・顧問制度には長所も短所もあるので、できれば各社において職務内容等を開示すればよいのではないかと思っておりました(方向性としては賛成です)。企業の対外的活動や社会貢献など、相談役が担っている企業も多いですし、相談役制度があるからこそ社長交代が促進される(かつてのように高額所得税が80%の時代ではなくなり、また役員退職金制度も廃止されるとなると、相談役のようなクッションがないといつまでも社長の座にしがみつく)、実績のある方ほど「相談役」として引き留めておいて中国や韓国等の競業他社で活躍していただかない、といったところも考慮すると、このあたりがオトシドコロではないかと思われます。

ただ、相談役や顧問の方について「職務はほとんどありません」と書かれていたとしても、また、相談役制度は廃止しました、と開示したとしても、元代表取締役社長、元CFOといった方々の影響力が全くないかといいますと、そんなことはないですね。とりわけ元カリスマ経営者や元カリスマ経営者を支えた元CFOといった方々が、たとえ会社には一切来なくなったとしても、毎日のように「●●チルドレン」と言われている現経営陣の方が御自宅に相談に伺う・・・というのはよく聞くところです。会社に在籍せず、対外的な活動もしないので無報酬ですが、影響力だけは社内で残している、まさに「影の相談役」ですね。

現役の社長さんだって、孤独であればあるほど、かつての上司だった「影の相談役」しかホンネを言わないということはあります。ご自身の弱みを墓場まで持って行ってもらえる方、ご自身のややグレーな部分を代わりに背負っていただいている方だからこそ、現役社長さんはホンネでお話できるのではないでしょうか。そのことを社長を取り巻く経営陣もよくわかっているので(相談役を退任した後も)「社長を動かせる人」のところへ日参するわけでして、「院政」は相談役(元相談役)が敷くのではなく、むしろ現役の経営陣が「院政」を活用する、というのもかなり見てきました(まぁ、人間力学として当然といえば当然かと)。

改訂された上記要領「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を読みますと、相談役のCSR(車、秘書、個室)の有無や現経営陣と同じフロアにそのまま在籍するのかどうか、といった本当の影響力を示すモノサシまで開示する必要はなさそうです(これらは株主との建設的な対話の中で開示する、といったことでしょうか)。スチュワードシップ・コードや国連の責任投資原則の浸透によってガバナンス改革はいよいよ形式から実質へと動き出しているようですが、この相談役・顧問制度の持つガバナンスへの影響については、「経営技能」よりも「実務技能」を重視する日本の社長養成・選抜システムが続く限りは変わりようがないと思っています(参考:江頭憲治郎「会社法改正によって日本の会社は変わらない」法律時報2014年10月号60頁)。ちなみに現在のところ、他社から経営のプロと呼ばれる方を社長に招聘するといった上場会社はそれほど多くはないですね。

★ところで安倍政権の趨勢からみて、ガバナンス改革はこの先どうなるのでしょうかね?中長期の企業価値の向上に資する・・・とありますので、検証するにも相当長期の施策続行が不可欠なのですが。。。

8月 3, 2017 コーポレートガバナンス関連 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2017年8月 1日 (火)

内部告発者に朗報-地方公共団体向け通報対応ガイドラインの公表

先日、横浜市が内部告発者の氏名を誤って企業側に漏えいしてしまった事件が発覚し、告発者に謝罪したことが報じられていました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。このような「地方公共団体による労働者通報への不適切な対応」が後を絶たないため、結果として行政機関への内部告発を萎縮させている点が大きな課題とされています。しかし、地方公共団体へ内部告発を検討している方への朗報となるべきガイドラインが策定されました。

今年3月、公益通報者保護法の趣旨を踏まえた国の行政機関向け(労働者通報に関する)通報対応ガイドライン改訂版が公表されましたが、これに続き、消費者庁より本日(7月31日)、地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(労働者通報への対応を含む)が公表されました(消費者庁HPに掲載されています)。こちらも公益通報者保護制度実効性検討会の報告書提言に基づいて新たに策定されたものです。

企業不正を内部告発される方にとってはぜひ内容をご理解いただきたいところですし、内部通報制度の整備・運用が適切とはいえない企業にとっては、不正発覚リスクを高める要因ともなり、注意が必要です。不正リスクの中身についての詳細は、別途研修や講演等で解説させていただきますが、労働者通報に関して、(地方公共団体の対応が求められる)労働者の範囲はかなり広いですし、国の機関と同様「準公益通報」についての対応も要求されています(匿名通報についても基本的に受け付けることになりそうです)。また、これまで自治体が通報を拒絶したり放置する原因となっていた「真実相当性」の要件について、その解釈指針を示し、さらには個人の生命、身体、財産に重大な影響を及ぼし得るような通報事実の場合には、この要件該当性に疑問があっても通報対応すべき、としています。

たとえば公益通報者保護法上の「通報事実」に該当しないような法令違反行為についての取引先従業員からの通報でも、真実相当性の要件が認められる限りは、各自治体がこれを誠実に受領して調査を開始する、ということになります。もちろん国の機関事務ではありませんので、ガイドラインの実施についてはそれぞれの自治体の自主性を尊重することになりますが、法令上の根拠は地方自治法245条の2、第1項に基づく「地方自治事務に関する技術的助言・勧告」となります。公益通報者保護法の改正(ハードロー)は未了ですが、改正に向けての立法趣旨(公益通報者保護制度の実効性の向上)は、ガイドライン(ソフトロー)によって企業実務に浸透していくことが期待されます。

今後は各地方公共団体において、本ガイドラインを踏まえた内部規程の策定、改正等を行うことになりますが、各地方公共団体から消費者庁へは数百に及ぶ意見や質問が寄せられたそうで、消費者庁としてはすでに丁寧に回答を終えたそうです。したがって、今後は各自治体で速やかに制度の整備、改善、職員の皆様の研修が進むものと予想されますので、企業のコンプライアンス経営実践への影響も、かなり大きいはずです。

8月 1, 2017 公益通報者保護制度検討会WG | | コメント (0) | トラックバック (0)