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2017年8月27日 (日)

退任社長は「相談役」にならずに「常勤監査役」になるという選択肢

今週は火曜日(8月22日)から金曜日(25日)まで、毎年恒例の日本監査役協会の新任監査役等研修(合宿)に講師として参加してまいりました。ご参加された企業はA日程・B日程合計250社ということで、皆様お疲れ様でした。風光明媚な滋賀県長浜のホテルでの研修ですが、湖上からやってくるゲリラ豪雨にはたいへんな恐怖を感じました(^^; ミサイルカトオモッタ・・・

今年も多くの新任監査役、監査等委員、監査委員の方々と意見交換ができて、たいへん有意義な時間を過ごしました。経営執行部の知り合いの方が数名、監査役に就任されておられてビックリしました。また、規模の大きな上場会社や金融機関を中心に、内部監査部門の改革が進んでいる会社が増えていることも初めて知りました(この話はまた別エントリーにてご紹介したいと思います)。

ここ数年、私は事例を通しての監査役等の有事対応に関する研修(双方向のグループ研修)を担当しているのですが、なかなか社長にモノが言えない監査役等の悩みを感じていただけそうな事例をかならずひとつ取り上げております。今年も、そういった悩ましい事例をみなさんでお考えいただいていたのですが、受講された監査役さんのおひとりが、とても立派な対応について自信をもって回答されたことに少し感動をおぼえました。

「素晴らしい回答です!監査役のカガミといえそうな神対応ですね!でも、ホントにそのような対応を社長を目の前にしてできますか?」

と、私はその監査役さんに対してすこしイジワルに質問したのですが、その方は少しムッとされて「はい、もちろん社長に向かって、今と同じ意見を堂々と述べます!」とのお答え。

「いやいや実に立派な会社ですね。おそらく社長さんが監査業務をリスペクトしている雰囲気を持った会社さんなのでしょうね。監査役さんが大事にされている会社を知ってうれしく思いました」

と、私は(監査役さんの人格・識見を褒めることはせずに)その会社の監査環境を褒めるようなことを申し上げました。

その後、懇親会で、この新任監査役さんとお話する機会があったのですが、先の新任監査役さんから

「先生、さきほどは偉そうな物言いで失礼しました。実はね、先生。私、前職はこの会社の代表取締役社長だったんですよ(笑)。●年ほど社長でした。いや、これは正直にお話しておかないと先生に失礼じゃないかと思いましてね(笑)」

(私)「エエ!?ほんまですか!?Σ( ̄□ ̄lll) ・・・でも、それって究極の自己監査ですよね・・・笑」

「はい、先日、子会社監査に行って、子会社の社長に『おまえ、これなっとらんやないか!』と指摘したら、子会社の社長から『いや、これは親会社の前の社長から指示されたことですよ!』と反論されて往生しました(笑)」

・・・・・なるほど。ということは親会社の現社長さんは元部下ということですね。だから、厳しいことも平気で社長に要求できる、と。しかし(かなり大きな上場会社さんですが)元社長が退任後に常勤監査役に就任する、というケースはさすがに日本の上場企業では珍しいのではないでしょうか。

そういえば以前、三菱重工業さんが監査等委員会設置会社に移行する際に、退任される副社長さんが、初代の常勤監査等委員に就任する、という話題を当ブログでも取り上げまして、あるガバナンスに詳しい方から「自己監査は監査不全の温床、最悪!」としてご異論をいただきました。また、東芝さんの第三者委員会報告書においても、東芝の元CFOだった監査委員長の方の「いまさら騒いでも執行部は困るだけだから、見なかったことにしましょう」といった発言が記されていたことにも残念な気持ちになりました。

たしかに「自己監査」(自分が決定した業務執行を自分で客観的に監視・検証できるか)によって監査機能が低下してしまう、というのは実例もあるので(ガバナンスの実効性という意味では)問題はあることは認めざるをえません。ただ、ここぞという場面で社長が監査役の意見を飲むかどうかは、平時における監査環境に依拠するところが大きいと思います。そういった意味では、退任した社長さんが監査役に就任する、というのは究極の監査環境ではないかと。とくに、社外取締役や社外監査役と組むことで、絶大な監査権限を行使できるような気がします。

最近、相談役制度の功罪といったことがよく話題になり、相談役を廃止して退任社長さんは他社の社外取締役になるべき、といった議論が展開されています。でも、ここは大いに異論が出るところですが、いっそのこと退任された社長さんは監査役に就任してみるという選択肢も考えてみてはいかがでしょうか?社内において監査役をみる目が大きく変わるかもしれません(もちろん会計監査人との連携にも影響が出そうですね)。

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コメント

自己監査に対しての株主訴訟判決がゆるめだったり、リソー教育や東芝の問題が自己監査の結果という訳でもないとはいえ、代表取締役の常勤監査就任は、リソー教育や東芝なんかが不適切会計が数年に渡るケースが目立つのや常勤監査が不正隠蔽に関与する場合を考えると冗談じゃないとしか言い様な話です。


指名委員会設置会社や監査等委員会設置会社が常勤が義務でない点や海外の監査役制度とってる国に常勤監査というものが当たり前なのか?という点を考えると常勤監査役の義務付けは必要なのか?という感じですが

自己監査は監査役や監査委員が法定員数ギリギリの会社が監査でない社外取締役を補欠監査役候補に選任しておいて、監査役欠員の際に、社外取締役が取締役辞任して監査になる程度で抑えといた方がいいかと

投稿: 車酔い | 2017年8月27日 (日) 13時10分

申し訳ありませんが、山口先生の本稿のご提案には違和感を感じます。先輩や元上司にあたる前社長が「常勤監査役」に就いたら、現社長は過去の人事・決定・施策を否定したり軌道修正する動きを取りにくくなります。相談役は便益を提供していれば黙っていますが、常勤監査役は「立場上の発言」にかこつけて、意向を強要する機会が増える気がします。存在感の薄い「相談役」の方がまだまし、というのが企業関係者の感覚ではないでしょうか。

投稿: 笹本雄司郎 | 2017年8月28日 (月) 08時51分

一般論、機能論としては前社長が常勤監査役になるというのは違和感があります。正に、「究極の自己監査」だと思います。

とは言え、山口先生がお目にかかられた常勤監査役の方は、役割を果たすという強い責任感と意志を持って社長から「常勤監査役」に就任されたのだろうと感じます。
それでなければ、わざわざ日本監査役協会の新任監査役等研修に合宿で参加されるとは思えませんから。そしてその思いが山口先生になにかしら伝わったのではないかと推察いたします。

投稿: Henry | 2017年8月29日 (火) 09時13分

私のかねてからの持論は、監査役は取締役経験者であるべしと言うものです。部長級からいきなり監査役に就任しても、経験したこともない取締役を監査できるはずがないと思うからです。かつて監査役が盲腸のように扱われ「監査役」が「閑散役」と揶揄されていた頃には、「あいつは功績はあったが取締役にするにはいまいちだから監査役にでもしておくか、監査役にしかできないな」という「でもしか監査役」が多かったと聞きます。しかし、ガバナンスの要として法的にも期待されるようになりつつある現在、少なくとも大企業や公開企業では取締役経験者が監査役になるという流れが定着してきたのではないかと、私は思います。私自身も専務取締役管理本部長から常勤監査役になりまして、一年目は「自己監査」的なやり難さを感じたものですが、監査役協会のセミナーなどを通じて監査役について理解を深めれば深めるほど、やりがいのある面白い職務だと思えるようになりました。社長から監査役になられた方は多くはないと思いますが他にも例がないわけではなく、法の立てつけからすれば社長も一取締役、監査役になっても決しておかしくないと思います。却って「自己監査」を理由に監査役候補から取締役を外してしまっては、監査役の活躍を期待できないとさえ思うぐらいです。

投稿: 瀬戸三矢 | 2017年8月29日 (火) 13時55分

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