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2017年8月17日 (木)

海外子会社不正とコード・オブ・コンダクト(行動準則)の活用

東芝さんの有報に付された「限定付き適正意見」の意義について、コメント欄がたいへん盛り上がっておりますが(笑)、昨日も東京衡機さんの訂正有報に会計監査人から「限定付き適正意見」が付されました(東芝事件をきっかけに今後流行の兆しでしょうか?)。いずれにしても海外子会社不正の防止や実態把握というのは上場企業にとっての重大な課題です。

今朝(8月16日)の日経「私見卓見」では清原健弁護士による「企業不正、実践的な行動準則で防げ」なる見出しの小稿が掲載されており、海外子会社不正対策に関する渉外弁護士らしい一次情報満載のご意見を拝読できました。ACFE(米国公認不正検査士協会)の調査結果も紹介されており、効果的な行動準則を整備・運用している企業は、そうでない企業よりも不正を早期に発見しており、また不正による業績への影響も軽微とのこと(この点は私もきちんと調べておきたいと思います)。

富士フイルムさん、ユニ・チャームさん、東京衡機さんなど、このところ相次いで海外不正(不適切会計)案件が開示されていますが、海外企業が活用しているコード・オブ・コンダクト(行動準則」を日本企業も活用すべき、と清原弁護士が提言されておられます。同氏が指摘しておられるように、日本企業の行動規範はどうも倫理規定の域を超えておらず、したがって規範の実効性を評価するところまではまったく考えられていないのが日本企業の実態かと。

実際に海外企業の行動準則を読むとおわかりのとおり、カルテルや贈賄・汚職、労働法、開示規制や偽造文書作成防止など、かなり具体的かつ明確な規定ぶりが目立ちます。清原弁護士によれば、これらは法的な裏付け(たとえば違反行為への罰則を定める連邦量刑基準)が背景にあるからだそうです。たしかに日本企業の場合には「そういえばうちの会社って行動規範はどんなものだったかな」といったレベル、つまり「置物」「飾り物」のような存在になってしまっています。ところが海外企業の場合には、行動準則の実効性を一定期間ごとに自社で評価をするわけで、そこでは「整備」よりも「運用」に光が当たっているものと思われます。当然のことながら、全役職員が、ビジネスの現場において常に行動準則を意識することになります。

私も、いままで行動準則の実効性をきちんと評価している企業にお招きいただいた経験がありますが、そのすべての企業に共通しているのが「過去にカルテルもしくはFCPAで巨額の制裁金、損害賠償金を支払った企業」です。痛い目に遭ったときの社長さんはすでに退任していたとしても、その社長さんの「肝いり」で始まったカルテル、海外贈賄防止ガイドラインの実践が、法務担当者を中心に脈々と受け継がれているというものです。どうしても(必要に迫られて)社員が不正リスクに遭遇してしまうことを前提として、「自分がいま遭遇しているのかどうか、わからないときにはどうすべきか」「遭遇してしまった場合には、何をすればよいのか」、二層、三層のガイドラインによって詳細に行動準則が示されています。

「痛い目に遭ってはじめてわかる」というのも理解できるのですが、具体的な法令違反行為を防止するためだけではなく、むしろ誠実な企業としての組織風土を醸成するための具体的なツールとして、コード・オブ・コンダクトの実効性を高める工夫が必要ではないでしょうか。

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コメント

中国において「企業の姓は党」運動が行われ、中国外企業の中国子会社にも中国共産党の指導に従う文言を定款に記載するよう要求してるようなので、それ絡みの案件が出ないか今後心配なところです。

投稿: 車酔い | 2017年8月28日 (月) 20時37分

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