« ダンロップスポーツ社(東証1部)の第三者委員会委員長を務めました。 | トップページ | 平成28年度の優れた第三者委員会報告書表彰について »

2017年9月 1日 (金)

東芝の臨時株主総会-監査委員会の修羅場・土壇場・正念場?

サッカー日本代表、W杯出場おめでとうございます!(社外ではありますが、いちおうサポーティングカンパニーの取締役なので、これだけは冒頭言わせてください 笑)

さて先日、17年3月期の有価証券報告書を無事(?)提出された東芝さんですが、議決権行使の基準日が7月31日と決まっておりますので、9月~10月には臨時株主総会が開催されることになります。ここまでの監査の話題は、金商法ルールに従った財務諸表監査、内部統制監査の話が中心でしたが、次は会社法ルールに従った計算書類の監査の話が出てきますね。

財務諸表監査では、(ありえない!といった意見も出ておりますが)限定付適正意見が付されましたので、計算書類についてもPwCあらた監査法人さんは限定付適正意見を述べることになると思います。ただそうなりますと、会社法監査は監査委員会との協働作業となりますので、そこにかなりやっかいな問題が浮上してきます。つまり会社法上の計算書類の監査については、会計監査人の監査の方法および(方法に問題があれば)結果については監査委員会による相当性審査が待っています。

「PwCあらたさんの限定付適正意見はおかしい」と監査委員会が判断すれば、そのような意見を監査委員会は監査報告で示すことになります。たしか現在の監査委員会は東芝さんの執行部の判断を是認していると思われますから、会計監査人とは判断を異にすると思います。またPwCあらたさんは東芝さんの内部統制報告書について「不適正意見」を述べていますので、財務報告内部統制の構築という取締役の業務執行を「違法」と判断するのか、それとも「適法」と判断して、とくに監査報告書では何も触れないのか、という点も問題となります。

まずこのあたりの監査委員会の決断をどうするのか、とても興味があります。次に、監査委員会には会計監査人の選任に関する議案上程権がありますが、そもそも監査委員会が「会計監査人の判断はおかしい」と考えているのであれば、PwCあらたさんを会計監査人として再任することはありえないはずです(再任期限は今回の臨時総会か、あるいは来年の定時総会かはわかりませんが)。にもかかわらず、PwCさんを再任するとなると、これもまたどういった理屈で再任する(つまり議案を上程しない)のか、大問題ではないでしょうか。

また、東芝さんは会計監査人が存在する取締役会設置会社なので、計算書類に無限定適正意見が付されない場合には臨時株主総会において計算書類を確定させるための株主の承認決議が必要になります(通常は「報告」で足ります)。計算書類は株主のためだけでなく、金融機関をはじめ会社債権者の利益のためにも確定させる必要があるので、株主にはきちんと判断する責任があります。したがって株主の方々は「なぜ会計監査人は限定付適正意見を述べたのか、その意見になぜ監査委員会は異議を述べているのか、各監査委員の意見は一致しているのか」ということに疑問を抱くのが当然です。したがってきちんとした会計監査人と監査委員会からの意見陳述が求められるのではないでしょうか。

会計監査人に意見陳述義務が生じるためには、株主総会における「会計監査人出席要求決議」が必要なので可能性は低いと思いますが、株主は自分たちのためだけでなく、会社債権者のためにも計算書類を承認すべきかどうかを判断する責任があるので、たとえ陳述義務がないとしても、守秘義務を解除して説明すべきではないかと。そこで会社法上、会計監査人を監督する立場にある監査委員会はどのような法的意見を述べるのでしょうか。

このように考えますと、この秋に開催される東芝さんの臨時株主総会は、監査委員会や会計監査人にとってはかなり難しい対応を迫られることになりそうです。まあ、財務諸表には限定付、計算書類には無限定適正意見、といった「ウルトラC」の意見を表明することができるのであればかなりクリアできるのかもしれませんが(このあたり、法律や会計に詳しい方々はどのように理屈を考えるのでしょうか・・・・)。

|

« ダンロップスポーツ社(東証1部)の第三者委員会委員長を務めました。 | トップページ | 平成28年度の優れた第三者委員会報告書表彰について »

コメント

山口先生 おはようございます。本日の冒頭のご挨拶はいいですね。つい先日は、あっち向いてホイ状態のJーアラートに行政も市民も大混乱でした。昨晩は、サッカーファンだけでなく全国のスポーツファンも今まで見たこともない動きをする新メンバーに大声援を送っていたんでしょうね。DJポリスもご苦労様でした。ところで、WH社(関連関係者?)の通報者によって、東芝の収束直前に様々な混乱が起きました。この通報は、慌ただしく「正しい方向」へ向かう端緒となる情報提供だったんだという理解でよろしいのでしょうか?後半終了間際に値千金の2点目の駄目押しになったのであれば、どのようなお立場の方(例えば、インハウスの州登録のAttorneyやUSCPAの方?)が、通報されたのかも気になるところです。上記の例であれば、米国プロフェッショナルの職業倫理上の意識がさせたのかも気になるところです。または、WH社の使用人だったのでしょうか?いずれにせよ、海を渡って届いた通報であれば、興味は尽きません?当該通報がプロフェッショナルの方の神対応だったということであれば、山口先生、是非もう一冊続編も上梓いただければと心より願っております。出来る、出来ない(やると刑事罰)とヤラナイとでは大きな差だと思いました。

投稿: サンダース | 2017年9月 1日 (金) 09時17分

あのー、仮に「PwCあらたを会計監査人として再任しない」という結論を監査委が出したとしても、他に引き受け手があるでしょうか。監査能力もさることながら、短期間に3つ目の別組織が新たに監査するというリスクというか核爆弾を(火中の栗を拾う、なんてレベルのものじゃないでしょう)受け容れる大手、準大手があるとは思えません。つまり、再任したくなくても再任してはならなくても再任せざるを得ません。

「東芝守って会計制度滅ぶ」ような地獄の悲喜劇を一刻も早く幕引きすべきなのですが、まるで(話題の)応仁の乱のような当事者意識のない混乱に終わりは見えません。

投稿: 機野 | 2017年9月 1日 (金) 13時30分

機野さまの書かれる通りで、PwCあらたに代わる監査法人を見つけられるとは思えないので、監査委員会としては、「いろいろ問題はあるのだが、あと1年は、あらたで行かざるを得ないので、再任する。」という理由で議案は出ないように思います。もう少し積極的な理由としては、「会社としては、2017年に認識したのだが、それを押し通せるだけの証拠を提示できなかったので、監査人の疑いを晴らせなかった原因の一部は会社にもある」ということで、忸怩たる思いはあるけれども再任ということかと。会社にまったく問題はないとまで言い切ってしまうと、引っ込みがつかないし、会社に問題があるというと、善管注意義務や監査委員会は仕事してたのか?という話になっちゃうでしょうから。という意味では、針の穴を通すような芸術的な「限定付き適正意見」という落としどころを自ら捨てることはないのではないかと思います。

投稿: ひろ | 2017年9月 1日 (金) 15時00分

正確な情報がわかりませんが、報道等から、①監査委員会は、修正をしなかった経営陣の判断を支持している。②監査人を変更するつもりはない。の2つを前提とすると、折り合いをつけるロジックは、次の2つでしょうか?
A案:監査人の監査結果を相当と認めない。監査人を再任する理由は、対立するポイントがなくなったので、当期の監査について、相当ではない監査結果となる可能性は低いためである。or 他に引き受けてくれる監査人がいない。
B案:監査人の監査結果を相当と認める。自分達とは、意見は違うけれども、それは監査人の仕事が不適切だったことは意味しない。

B案は分かりづらいかもしれませんが、違う主体がやる以上、意見が最終的には合わない時もあり得る、と言うことは、認識しておかなくてはいけません。そうではないと、独立した第三者が監査をする意味がないことになります。

私は、我が国の監査 に関する認識が、成熟するためにも、監査委員会がB案に近い見解を表明することを期待しています。

投稿: Beaver | 2017年9月 2日 (土) 22時08分

内部統制報告書監査の不適正意見は、「「財務諸表監査」の「限定付適正意見の根拠」に記載した重要な虚偽表示が存在する」という一事を根拠としているので、当期に損失を認識することが正しいという前提に立つ限り、財務報告内部統制の構築について取締役の職務執行に法令定款違反はないという結論になるはずです。つまり、東芝の会計処理が正しいと監査委員会が判断するのであれば(すなわち、無限定適正意見が正しいので、会計監査人の監査の結果は相当ではないと意見表明する限り)、それが論理的帰結です。あらた監査法人の内部統制報告書監査の結論の根拠は、「工事契約に関連する損失652,267百万円を当連結会計年度の連結損益計算書の非継続事業からの非支配持分控除前当期純損失(税効果後)に計上したが、当該損失のうちの相当程度ないしすべての金額は前連結会計年度に計上されるべきであった」という会計処理に関する判断のみに支えられていることを見過ごすべきではないと思われます。
 なお、会社法監査において、あらた監査法人としては、無限定適正意見を表明するわけにはいかないでしょうから、なぜ、不再任を議題としないのかという点について、監査委員会としては説明しなければならないものとおもわるのはご指摘の通りでしょう。
 株主総会の議場において、会計監査人の出席を求める決議がなされるのではないかと楽しみにしています。そして、どのように、あらた監査法人が説明するのか、監査委員会がどのようにのべるのか興味は尽きません。

投稿: 通りすがり | 2017年9月 3日 (日) 10時10分

 監査委員会は「限定付相当意見」を述べる事になるのでしょうか、小生が監査委員ならばそう致します。いずれにしろ、此処まで来た東芝で、求められているのは、右か左かではなく、判断の根拠となった事実への意見開示でしょうから。
 (遅くなりましたが)近畿会での先生のセミナーは大変面白かったです。会場も熱心に聞き入っていると感じました。「熱盛!!」・・有難う御座います。

投稿: 一老 | 2017年9月 4日 (月) 10時58分

皆様、本当に有益なご意見をいただき、厚くお礼申し上げます。ホンネのところは機野さんのおっしゃるとおりかとは思いますが、そこをなんとか理屈で埋める必要があるのではないかとも考えますので、どう対応すべきか、皆様のご意見をもとにもう少し検討させてください(別に私自身が監査委員ではありませんのでそこまで真剣になる必要はないのですが・・・)。
監査委員会の「限定付き相当意見」ですか・・・。監査役協会の基準にそのようなものがありましたっけ?少なくとも「監査役監査実施要領」には記載がないのですが、またこちらも考えてみます。

投稿: toshi | 2017年9月 4日 (月) 12時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 東芝の臨時株主総会-監査委員会の修羅場・土壇場・正念場?:

« ダンロップスポーツ社(東証1部)の第三者委員会委員長を務めました。 | トップページ | 平成28年度の優れた第三者委員会報告書表彰について »