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2017年9月25日 (月)

盛り上がってきた?-有償新株予約権の会計処理問題

昨年10月、当ブログにおいて「有償ストックオプションの会計処理問題-会計基準によって事実は作られる?」なるエントリーをアップしておりましたが、最近の東洋経済の9月23日号や今月号のFACTAでも取り上げられているように、この話題がずいぶんと盛り上がってきたようです。

従業員等に対して、確定条件付き有償新株予約権を付与する取引については「従業員ががんばることを期待しての新株予約権の発行なので、将来の報酬として費用計上が必要」とするASBJ(企業会計基準委員会)の公開草案が出されたことは(当ブログにお越しの皆様には)すでにご承知のとおりです。ところが、この有償新株予約権は10年以上前から「投資」として発行されているものであり、従来から金融商品としての会計適用指針17号に従って処理されていました。そこで「いまごろ株式報酬費用として認識すべし、とはとんでもない!」と、経済団体を含め、上記公開草案には多数の反対意見が出されています。具体的には今年7月10日までのパブコメにおいて反対は200通以上、賛成はわずか6通とのこと。

昨年10月のエントリーのコメント欄でも述べましたように、私は「部外者」なので、反対にも賛成にも与するものではありませんが、以前、社外取締役として報酬委員会に関与していたことや「法と会計の狭間に横たわる問題」を取り扱った書籍の著者として、本件にはとても興味はあります。以下は、そんな会計素人の個人的な意見にすぎませんが、日本公認会計士協会に「出入禁止」とならない範囲で(?)ひとことだけコメントさせていただきます。

そもそも「これまで確定条件付き有償新株予約権を付与する取引について、どのような会計処理をすべきか、かならずしも明らかではなかった」というところを関係者が認めるのか、認めないのか・・・というところが大問題ではないかと。反対派の方は「こっちが正しい、あっちは誤り」といった主張をされている方が多いように思うのですが、10年前の長銀事件最高裁判決でも述べられているように、法の世界と違って会計の世界は(先日の東芝事件における新日本さんとPwCさんの意見相違にみられるように)「こっちも正しいけどあっちも正しい」が成り立ちうる世界です(2日ほど前に出版された細野祐二さんの新刊書の中にも、「公正なる会計慣行はひとつとは限らない」との記述がありますね)。したがってASBJ側としては、ボクシングの防衛戦と同じように「五分五分」「ドロー」に持ち込めば新たな基準を「公正妥当な会計基準」にすることができるので反対派とケンカはする必要はありません(だから公開草案でも、反対派には理由を求めていますが、賛成派には理由は求めていません)。以前の取扱いも条件付きで認めます・・・といった妥協案さえ示しておけばOKといったところでしょうか。

要は「これまで基準が明らかでなかったところ」に新たに基準を開発する(解釈指針を示す)わけですから、いろいろと反対意見はあったとしても基準さえ作れば、(公正妥当なものとして)ASBJのお墨付きのある会計基準が金商法会計、会社法会計の基準になりうるものと思います。したがって、反対派としては「有償新株予約権の付与に関する取引への会計基準は、これまで明らかではなかったとは言えない、すでに会社法や金商法上の『公正妥当な会計基準』は存在していた」と主張する必要があるのではないかと。そうであるならば、今度はASBJ側が「なぜ公正妥当な会計慣行・会計基準を変更しなければならないのか」その理論的な根拠と変更を必要とする社会的背景についての説明が求められることになると思います(そこで初めて、今回の200通を超える反対意見の理由が活きてくるのではないでしょうか)。

これまでの実務の取扱いの集積(とくに付与価格を低額に抑えるために確定条件は相当厳しい条件になっていますので、応募しない従業員が多数存在するのが現実ですが、それでも「株式報酬」といえるのか、大手監査法人は何の異議もとどめずに「有償新株予約権の付与は投資」として適正なものと認めてきた歴史をどうとらえるのか)からみて、すでに公正なる会計慣行、公正妥当な会計基準は存在すると言えるのかどうか、もし言えるとすればASBJの会計処理方針とこれまでの会計慣行は併存しうるのか、それともASBJの公権的な解釈が唯一の会計慣行になるのか、このあたりは法律家の意見も必要ではないでしょうか(なんといっても違法配当や有価証券報告書の虚偽記載といった司法判断の対象となるところなので)。

ちなみに、企業会計法の権威的学者といえば、やっぱりY教授がすぐに思い浮かびます。しかし今回は諸事情により(?)、Y教授がご発言できない立場にあるのかもしれませんが、独り言ですが、こういう時こそY教授のご意見をお聴きしたいところです。

9月 25, 2017 企業会計 |

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コメント

大幸薬品が、中止の可能性があるリリースを出しましたね。
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1514582
そんなに苦労してまで、かつ、元々リーガルには報酬該当性が否定し切れていないのに、
拘る理由がどこにあるのか、聞きたいです。

投稿: Kazu | 2017年9月27日 (水) 18時48分

Kazuさん、ご紹介ありがとうございます。この大幸薬品さんのリリースを読むと、有償新株予約権の内容、とりわけ会計処理の課題がよくわかりますね。参考にさせていただきます。

投稿: toshi | 2017年10月 1日 (日) 11時14分

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