社外取を活用する日本とCEOが活用される米国
本日(9月26日)、日経ビジネス・オンラインに掲載された「ニュースを斬る~社外取を活用する日本とCEOが活用される米国」を読みました。シンガポール経営大学の好川教授と大阪市立大学の山田教授による研究レポートの分析結果に基づくご論稿です。社外取締役の志向について、米国では「組織外期待対応」が中心ですが、日本では組織内外期待のバランス志向を目標としているというもので、ガバナンスの現実をとらえているものと思います。
今後の課題として①社外取締役の役割と責任に関する研修・教育と経営者に対する啓もう活動、②社外取締役が内外の期待ギャップに板挟みにならないための工夫、③様々なバックグラウンドをもった社外取締役を配置すること、を掲げている点にも共感します。この①から③はそれぞれが関連しているものと思います。たとえば期待ギャップに板挟みにならないためには、社外取締役と経営者とのコミュニケーションが必須ですし、そういったコミュニケーションは属性の多様化があるからこそ前向きに取り組めるようになるものと考えます。
しかし、本当に日本企業の社外取締役が「組織外期待対応型」を理解できるかというと、まだまだそこまでは難しいのではないかと感じています。なんといっても会社法の壁です。取締役会は社長の監督機関であると同時に重要な業務執行の決定機関であり、「みんなで決める」ことを(会社法上は)前提としています。つまり、取締役会は純粋な経営執行部の監視・監督機関ではありません。独立社外といえども、社内取締役の方々と一緒に意思決定に関わるわけですから、法制度上はどうしても組織内期待対応型にならざるをえないと思います(このあたりは東大の藤田教授の論稿において問題提起がなされていたかと記憶しています)。できるだけ理想に近づけるために、取締役会の審議事項を絞ることも考えられますが、実際の役員会では、そんなに毎回「会社の基本方針に関わる議題」が出てくるようにも思えません。
そしてもうひとつが(先日も当ブログで述べましたが)社外取締役に対する「提訴リスク」の低さです。D&O保険は「提訴リスク」よりも「敗訴リスク」に関する話題ですが、なんといっても日本企業では株主代表訴訟の数が希少です。日本企業の取締役さんは被告として提訴されることが本当に少ないのです。先日のエントリーにて、どなたかがコメントされておられますが、よほどの企業不祥事でも発生しないかぎり、日本の一般株主、機関投資家は、ガバナンスに問題があるとすればさっさと売り抜けて会社との関係を断ち切ってしまうだけです。株主代表訴訟を提起して、いつまでも会社との関係を維持しようとするメリットがあまり株主にはみられないのが現状ではないでしょうか(もちろんタテマエでは中長期的な企業価値を向上させることに株主も関心を持つべき、とはいえますが・・・)。そう考えますと、社外取締役がどこまで株主の代弁者としての行動に配慮するのか、ホンネでは組織外期待対応型へのインセンティブに乏しいように感じます。
本論稿では、社外取締役の「選ばれ方」にも注目していますが、この点も(今は社外取締役の数を増やしたり、属性の多様化に配慮することのほうが優先課題ですが)今後の課題かもしれません。ただ(前にも述べましたが)、大阪に本社を置く老舗上場会社の定時株主総会において、いわゆる「相互社外取締役」(A社の会長がB社の社外取となり、B社の会長がA社の社外取となる)の選任議案にほとんど反対票は集まりませんでした(昨年のことです)。招集通知にきちんと「相互社外取」であることが開示されていても、株主の関心はその程度です。最近は機関投資家による議決権行使結果の個別開示が進んでいますが、そのような圧力と対話によって、社外取締役も評価されるようになれば変化の兆しも見えてくるかもしれませんね。
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