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2017年9月 8日 (金)

内部通報を促進する企業風土を形成するにはストーリーが必要である

中国の通信機器メーカーである華為技術(Huawei)社は、社内の技術開発上の不正に関する内部通報者(報道では内部告発となっていますが、社内通報ですね)について職位2階級の昇進をさせたうえで、CEOの社内広報として

我々は職員および幹部が真実を語ることを奨励すべきだ。真実には正確なものと不正確なものがあるので、各組織がそれを採択すべきかどうかは問題ではないが、風紀を変える必要はある。真実は組織の管理を改善するのに役立つが、嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる。 よって、会社は梁山広氏(社員番号00379880)のランクを即日2つ昇進させ16Aとし、そのほかの昇進や一般査定に影響しないものとする。自らの職位を選べ、研究所での仕事を許諾。鄧泰華氏の保護下に置かれ、打撃や報復を受けないものとする

と述べたそうです。Huawei社がこうした内部通報や対策を一般世間に公開した点に関して、社内および中国国内から多数の賞賛の声が寄せられている、とのこと。元々日本よりも中国では内部通報や内部告発は活発ですが、それでもCEOが内部通報を奨励し、目に見える形で通報者への報償を実施するとなると、従業員への強いメッセージになると思います。

「社内の嘘はコストである」・・・、これはいい表現ですね。かつて帝人さんの長島社長(現相談役)が、同社徳山工場における不祥事に関する内部通報がヘルプラインに届いた際、同社長が通報者に「あなたのおかげで帝人は救われた。ありがとう」とおっしゃったのは有名な話。おそらくこのようなストーリーがなければ、企業風土はなかなか変わらないように思います。

ただ、このストーリーは「いい話」ばかりではありません。9月1日以来、FNNニュースや日経さんで報じられているように、ゼネコンの清水建設さんにおいて「福島第1原発の廃炉に向けた工事で、清水建設のJV(共同企業体)の責任者が作業員の人数を水増しして架空請求した疑いがある問題で、清水建設本社が2016年、内部通報を受けたものの、本格的な調査を行っていなかったことがわかった」と報じられています。もちろんFNNに告発した方が、この内部通報者と同一かどうかは定かではありませんが、すでに清水建設さんは、自治体に対しても、「情報共有にミスがあったことが原因で」過剰請求していたことを報告されたようです。

当ブログでは過去に何度も申し上げているとおり、内部通報への対処が不適切な場合には、通報者は第三者に対して通報(つまり内部告発)するようになります。日本の内部通報者の多くは、自身の私利私欲のために会社を脅して金銭を要求するタイプの方はあまり多くはありません。自身が誇れる会社でありたい、地域から尊敬される会社でいてほしい、会社が好きだからこそ許せない、といった気持ちから内部通報をされる方が圧倒的に多いのです。だからこそ、会社が何もしない(動かない)となると、誠実な気持ちで監督官庁やマスコミへ内部告発を行います。企業が自主的に不正を申告すれば、監督官庁も企業と一緒に善処方を考えてくれるのに、内部告発による場合だと、監督官庁も「騙された」立場になりますので企業に対して容赦はしません(この差はとても大きいのです)。

このような「悪い話」のストーリーも、実は内部通報制度を企業に根付かせる要因にもなります。ただ、やっぱり「悪い話」はお勧めできません。労働者通報に関する行政機関の通報対応ガイドラインは、国も地方自治体も出そろいましたので、今後はますます従業員の方々による内部告発が容易になり、外部への情報提供は増えることが予想されます。内部告発リスクに備えるためにも、不正(もしくはその兆候)を見つけたら迷うことなく社内通報すべし、といった組織文化を醸成すべきだと思います。

 

9月 8, 2017 内部通報制度 |

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コメント

山口先生 おはようございます。 いつも貴重な情報を発信いただきましてありがとうございます。 帝人徳山工場(事業所)についてインターネットで検索しましたら、国会図書館デジタルコレクションに論稿がありました。帝人株式会社 星野邦夫様による、「2.一企業における相談通報制度の仕組みと運営状況について」の18頁には「帝人グループの最近の事件・事故と通報」の7件が掲載されています。同社自身が七転八倒して、もがき苦しみながら事故の処理をなされたものとご推察いたします。同工場(事業所)では、当該事案の後の2年半後にも、徳山事業所不正経理事件(2006年9月)が発生しています。現在進行形で、企業自身が正しい方向へ向かうということを社員・役員へ向け、道標を示しているんだと思いました。

投稿: サンダース | 2017年9月 8日 (金) 06時52分

一昨日9月6日の内閣府消費者委員会第256回本会議にて、第5次消費者委員会委員長に麗澤大学大学院教授の高巖様が選出されました。
高様が自己紹介の中で「公益通報者保護法制定」に関わったことを話されました。
埼玉弁護士会所属の池本誠司消費者委員会委員長代理も、今後は「企業のコンプライアンス」にも踏み込んでいくことを話されていました。
消費者委員会で「公益通報者保護法改正」が審議される可能性が出てきたように感じました。

私が「上司に通報し脅されてヘルプライン(後日、コンプライアンス・ホットラインと改称)への通報を妨害され」→
「有形無形の不利益を受け」→
「当該東証一部上場企業社長や社外取締役に通報してもダメ」→
「東京弁護士会に相談して監督省に通報しようとしたら問題の一部発覚」→
「私が監督省の調査に全面協力」→
「監督省から当該企業に電話し(目的は情報漏洩ではなく私の名誉回復を慮ってのことです)、私は当該企業から威迫による口封じ」→
「内閣府と電話相談し、さまざまな行政機関と相談するよう示唆される」→
「実際に行動する(消費者庁が「公益通報者保護法の所管官庁であると知る)」→
「当該企業の社長交代」→
「社外取締役、社外監査役に恐る恐る連絡再開する」→
「行政からは有形無形の支援・協力を受ける」。。。つづく

以上の経緯が当該企業の問題解決、コンプライアンス向上、「公益通報者保護法改正」に繋がってゆく「ストーリー」となってゆくことを願うばかりです。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年9月 8日 (金) 09時37分

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