横断的監査を実行できる内部監査部門に期待する
昨日(9月26日)の日経朝刊「私見達見」に、長く金融機関で内部監査に従事されてきた吉武さんの論稿「内部監査を組織変革の起点に」が掲載されていました。日本企業において内部監査の重要性が認識されつつあるものの、現実には経営者に「コストセンター」と言われる内部監査部門の苦悩にも触れておられ、多くの内部監査人の共感を得られたのではないでしょうか。
私もときどき本業で内部監査担当者の方とご一緒しますが、監査役監査と違って「組織の壁」を痛感します。いくら社長直轄チームといえども、本気で不正調査に乗り出しても「●●部門の担当役員の了解を得ておかないと・・・」といったところで調査がストップします。「ええ!?お伺いを立てている場合じゃないでしょ!そんなことしてたら口裏合わせされちゃいますよ!証拠だって削除されちゃうし・・・」と申し上げるのですが、「いや、不正を見つけることができなかった時のことを考えますとね・・・・笑」
監査役さんは組織横断的な監査はあたりまえですが、内部監査部門はどうもそうはいかないようです(もちろん、経営者のチカラで横断的監査も平気で行える企業もありますが)。このあたりは内部監査が機能することで会社が良くなる・・・といったイメージを全社的に持っていただく必要があると思います。最近は30代の将来有望な社員が内部監査を数年担当する、といったキャリアパスを実現してストーリーの「見える化」に尽力している企業も増えていますが、そういったことも全社的に内部監査部門への協力体制を向上させるためには必要ではないかと。
上場後、不正会計事件で強制捜査を受け、半年後に上場廃止となったエフ・オー・アイ社の事例では、何度も東証に「紙爆弾」(内部告発)が投げ込まれましたが、これも判決文によれば同社の内部監査担当者だったそうです。私が過去に内部告発の支援をした方々の中にも、内部監査、内部管理担当者が何人かいらっしゃいました。ホント、監督官庁やマスコミは内部監査部門の告発にはよく耳を傾けてくれます(もちろん重要な証拠を握っているから、ということもあるのですが)。ただ、共通して言えることは「内部監査部門の方々は、こんな不正をしていては会社は持たない」といった真摯な姿勢で告発に至るということです。
「会社を良くする」ための内部監査には職業的懐疑心が必要です。ただこの「懐疑心」というのは「不正ありき」といった性悪説の探索的監査ではなく、現場を信頼したうえでの懐疑心です。いわば不正を見つけるのではなく、不正の兆候を見つける、内部統制の穴を見つける、組織の病理現象に気づく、といったところを目指すべきではないでしょうか。上で述べた通り、いくら内部監査部門が不正調査にまい進しても組織の壁があります。有事における本格的な調査は監査役さんや会計監査人、法務部門に任せざるをえないとしても、そもそもイエローゾーンがどこにあるのか、それはなぜなのか、他人に共感をもってもらえるような活動が必要ではないでしょうか。
そのためには、やはり日常の(病理現象を発見するための)横断的な監査ができる環境が整備される必要があると思います。
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コメント
「内部監査担当者」による「内部告発」というのは、結局、「内部調査」では不正を解明できないと判断したというか、調査の過程で現場が信頼できなくなったうえでの苦渋の決断としての(紙爆弾)発射なのでしょうね。
監査役や法務部門のことも信用できなくなったのですかね。
経営陣に直談判、「対話」の選択肢もあると思うのですが、「圧力」が凄いことは想像できます。
「握っている重要な証拠」が監督官庁やマスコミは動かせても、自身が所属する企業の経営陣を動かせなかった苦痛と後悔は辛いとしか言えません。
ところで東京弁護士会主催の「熟議!公益通報者保護法」というシンポジウムが11月16日に開催されます。
山口先生がよく御存じの総合コンプライアンス法律事務所、郷原信郎先生もパネリストとして出席されますので楽しみにしています。
東京の弁護士で企業の社外監査役の方にも参加をお誘いしています。
投稿: 試行錯誤者 | 2017年10月 1日 (日) 10時28分
いつもブログを楽しみに拝見しております、ありがとうございます。
日経の論稿を拝見いたしました、吉武先生の内部監査に対する熱い思いがあり、何度かご講演を聞かせていただいたことを思い出しました。
内部監査人が研鑽を積み、向上心を持って日々精進することは大切ですが、旧日本軍ではないですが、精神論だけではいかんともしがたい現実があることも事実です。
まともなCEO・まともなCFO・まともな監査役これらの3つの全てが欠けた場合、どんなに優秀な(東芝のような)内部監査部門であっても、もはや内部からは手の打ちようがありません。これらに対峙するのは、戦車に竹槍で挑むようなもので、あっという間に討ち死にしてしまうでしょう。
東芝の調査報告書に記載されていたが、内部監査部門が事件発覚の数年前に監査範囲から会計監査を外したのは、苦肉の策だったように見えます。
東洋ゴムの事件で明らかになったように不祥事が外部への告発で発覚した場合、隠蔽を図る取締役らは、告発しそうな従業員リストを作ることさえある。それが実態でしょう。
大企業の経営を揺るがす不祥事の再発防止策として内部監査部門の強化を掲げられることが多いが、大半は形式的に書きやすいからそのよう形式だけ書いているのであって、不祥事調査報告書公表後、東証などへ改善報告書を会社が作成するタイミングにおいては、不祥事の関与者が経営中枢で力を持ち続けたままであるため、本気で再発防止を検討した結果として記載しているわけではないと思われます。
そもそも、経営を揺るがすような不祥事の原因は(代表)取締役など業務執行取締役が主導もしくは容認、監査役や監査委員が黙認ないしは見なかったふりをしていることが原因であり、そのような原因に対する対策でということであれば、取締役会の機能不全を解消することや各取締役の再教育、取締役会事務局の機能強化や監査等委員に業務執行取締役と利害関係の無い弁護士や会計士を選任し、その配下に手足となる従業員をつける等の対策になるはずではないでしょうか。
論考の前半に記載されていた"内部監査部門が不正を見抜けずに不祥事が表面化した例も多い"との見解には賛成しかねます。なぜならば、経営者不正に直面した内部監査部門が行動した結果、不祥事を内部で処理できた場合は公表されず、不祥事を内部で処理できなかった場合、内部監査部門が外部と連携した結果不祥事が表面化しても会社の誰かがSESCや監査法人に情報提供したことまでしか明確にならないことが多い、どちらかといえば、監査役や監査法人よりも内部監査部門が不正を見抜いたうえで行動をして公表されなかったケースの方が多いのではないだろうか。
内部監査を組織変革の起点にするためには、内部監査の地位向上が欠かせません。
取引所自主規制法人さんはTargetやTD-netを通じて内部監査部門とコミュニケーションを強化してみてもよいのではないでしょうか。監査法人さんは、会社との監査契約書において、会社側の窓口として経理部門トップだけでなく内部監査部門トップを特定する条項を入れるなど、内部監査部門をカウンターパートとして重視する姿勢を強化してはどうでしょうか。
投稿: TK | 2017年10月 1日 (日) 13時23分
やや話は違いますが、下記に引用しますニュースを読んで
頭を殴られたような気分になりました。
そう、忘れておりました。内部監査部門が「経営者の指示を受けて、
或いは自らの判断で、不正の隠ぺいを主体的に行う」という可能性を。
特殊なケースのようでいて、実は大企業や役所でも内々に行われている
なのかもしれません。内部で正しく処理をして公表しなかったのなら
ともかく、不正を隠ぺいし資料を焼却し、あまつさえ当事者、被害者の
口封じまで行っているとなると…。でも確かに警察組織内の不正って
内部で処理してまず揉み消しますよね(~_~;)。このOBはおそらく古巣で
行われているのと同じ手法を使ったのでしょう。
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つまるところ、完璧な方法、手段、ルール、人間、組織などは存在しえない
わけであって、相互に適切なレベルの猜疑心を持ち合い、あらゆる可能性を
意識しておく必要があるということではないでしょうか。
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以下NHKニュースより
「障害者暴行事件 県警OB 調査担当の立場利用し証拠隠滅か」
10月5日 4時37分
宇都宮市の障害者支援施設で入所者が暴行された事件で、事件に関する内部調査の文書を廃棄したとして逮捕された職員で県警OBの2人は、施設を運営する法人で今回の事件の内部調査を担当していたことが施設側への取材でわかりました。警察は、調査担当の立場を利用して証拠隠滅を図った疑いがあると見て調べています。
宇都宮市に本部のある社会福祉法人「瑞宝会」の職員で、いずれも栃木県警OBの手塚通容疑者(69)や齋藤博之容疑者(58)は、ことし4月、障害者支援施設で、知的障害のある入所者の男性が元職員らから暴行された事件を受けて行われた内部調査の文書を廃棄したとして、証拠隠滅の疑いで4日に逮捕されました。
手塚容疑者ら2人は、6年前から8年前にかけて県警を辞めたあとこの社会福祉法人に再就職し、現在は内部統制を担当するCSR推進部に所属し、今回の暴行事件で職員への聞き取りを行うなど、内部調査を担当していたことが施設側への取材でわかりました。
廃棄された文書には、入所者の男性が元職員らから暴行を受けた際の目撃証言が記載されていたと見られています。
警察は、手塚容疑者らが調査担当の立場を利用して、証拠隠滅を図った疑いがあると見て調べています。
投稿: 機野 | 2017年10月 5日 (木) 10時13分