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2017年10月 2日 (月)

日産の無資格検査事件-「安全性に問題なし」言及のジレンマ

日産自動車さんで新規登録車の最終検査を認定外の自動車検査員が行っていたとして、リコール問題に発展しています。朝日新聞の記事によりますと、国交省の抜き打ち検査によって発覚したとありますが、定例のパトロール検査だったのか、それとも内部告発があったのかは不明です。ちなみに、今年から消費者庁と各行政庁との間で、労働者通報に関する行政機関ガイドラインを遵守する申し合わせがなされ、そもそも内部告発があったのかどうかも秘密にすることになりました(そうしないと内部告発者が特定されるおそれがあり、会社から不利益処分を受けるからです)。いずれにしても、日産さんにとっては、道路運送車両法上の保安基準を満たさない車両が見つからない以上は「法令違反」には該当しないにもかかわらず、大きな不祥事に発展してしまいました。

事実関係は第三者委員会の調査結果を待たなければ確かなところはわかりませんが、とりあえず日産さんとしては「補助者といえども検査をしているので車両の安全性には問題ありません」と大きな声で言いたいですよね。オーナーさんや販売店の混乱を回避するためにも、危機対応としては「とにかく安全です」とリリースしたいところです。しかし、これがそんな簡単でもないと思います。

「安全です」と言ってしまえば、それではなぜ国交省の通達(新車の最終検査は社内で認定した自動車検査員が責任をもって行うこと)があるのか、それは安全性の確保のためではないか、といった道路運送車両法の趣旨を真っ向から否定することになります。以前、同じような事件を担当したときに、監督官庁さんから「それを言っちゃおしまいでしょ。過剰規制ってワケ?お上にケンカ売るってこと?」ということで、安全性に関する発言はコソっとしか言えませんでした。また、世間からは「無資格者が検査しても安全ですからどうかご安心ください」って、そんな気持ちで仕事してるんだから、会社ぐるみで故意で無資格検査を放置していたということですよね?と批判を受けることもありそうです。

ただ「安全性については回答できません」とも言えないでしょうね。そんなことを言ったら販売停止に追い込まれますし、第一、一回目の車検を控えている「販売から3年未満の自動車オーナー」を混乱させることになります。ここはなんとか「安全性」に関する話題を、「とりあえず安心」を顧客の皆様にもたらすストーリーに変える努力が日産さんには必要かと。あと、こんなことを申し上げると「弱気」に聞こえるかもしれませんが、ともかく国交省と二人三脚で消費者、顧客の皆様の不安を除去するために全社挙げて対象車両を特定する以外には方法はないと思います。検査員、補助検査員とも、すでに退職している方もたくさんおられるので、ずいぶんたいへんな作業だとは思いますが。

記者会見で「なぜこうなったのか、いつからこうなのか、わからない・・・・」と経営陣の方がおっしゃっていましたが、現場の社員の方々にとっては安全性も大切ですが、納期を守るというお客様への誠実性も大切です。中にはルールを知らなかった社員の方もいらっしゃったのかもしれませんが、実際には誠実な社員の方々が、決してやってはいけない「安全と商売を秤にかける」ことをやってしまったのではないかな・・・、と推測いたします。現場の社員の方が疑問に感じて、内部告発に向かう典型的なパターンのような気もします。

10月 2, 2017 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

皆が、意識せずに、思いこんでしまった。思いこみに陥ってしまった。ということなのかと想像します。

素人からすれば、車検証が発行されるのは、検査をした結果の合格証であり、車検証が道路運送車両法により発行されている以上は、検査についても何らかの法的縛りがあると考える。勿論、日産のような大メーカーの場合は、会社の管理体制・検査体制がしっかりしていれば、個人の資格は問題にしないこともあり得るので、素人が触れるには難しい問題があるとは思います。

今回の問題の場合、調査結果を待たなければ分からないが、もしかしたら相当以前に遡ってしまう事がありうる。全工場ということで、期間的な問題のみならず、どう説明するかという問題もあると思う。しかし、真実を、そのまま発表するのが、信頼性回復の方法であると私は思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2017年10月 3日 (火) 15時30分

私も本件は社外を含む調査委員会が、どこまでスコープを広げて調査を行うか、という点はとても重大な課題だと考えています。「真実をそのまま発表すべき」との点は同意です。ただ、どこまで真実に迫れるか・・・というところに限界があるようにも思います。
本来ならば行政(みなし公務員)が行うべき検査を、行政が信頼して日産に委託していたところでの不正なので、行政がどこで矛を収めるかという点にも注目しています。

投稿: toshi | 2017年10月 3日 (火) 15時51分

日産は三菱の燃費検査問題のときには、OEM供給を受ける被害者の立場にも見えましたが、このときに自社の検査問題にまで広げて調査しなかったのでしょうか?
内部通報があって分かったけれど公表しなかったのでしょうか?
他の自動車メーカーも横並び調査をすると思いますが、検査印(検査済み装置への検査者を明示する不滅インキでの番号印捺印)偽造、検査報告書記名偽造は自動車に限りません。
私が通報した例では正社員が検査したと偽って、実際は下請け社員が検査することを指摘し、正社員と下請けの工賃の違いを搾取する観点で通報したのですが(本質的な問題は全然別ですが書けません)、そもそも検査者を偽る時点で、正規な検査ができていないのだからコンプライアンス違反だったということですね。
監督省庁や社外取締役・監査役との相談内容にも追加します。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年10月 4日 (水) 18時57分

たしか日経BP社「不正の迷宮」では、三菱の技術者から日産の技術者が馬鹿にされて、その反動で三菱の不正を暴いた・・・といったことでしたね。今回はどんな経緯だったのでしょうか。会見で「内部通報はなかった」と説明されていましたが、実際のところ内部告発の存否は不明だと思います。
それにしても、行政はかなり日産に厳しいようで、未検査者の押印があったことまで公表しているようですね。今後、日産はかなり厳しい立場に立たされるようです。

投稿: toshi | 2017年10月 4日 (水) 23時29分

 非正規社員が増え過ぎて、自動車検査員の資格を持った正社員が必要な人数だけ確保できなくなっていたのではないかと想像します。ようは、正規社員と同じ仕事をしているのに非正規社員としての待遇しかなく、同時に必要な資格を取得する機会を持てなかったということかと。
 非正規社員を正社員化して、給与も引き上げて、それで利益が出なくなったら市場から退出するべきであり、俯瞰すれば給与カットで企業生命を保っていたという誤魔化しが露呈したということかと思います。日本企業の労働者構造に直結する事件だと考えます。

投稿: ひろ | 2017年10月 5日 (木) 09時32分

直ちに安全性への影響はありません、って言えばいいんです

政府お墨付きの回答ですよ

あまり厳しく対応すると自分たちに返って来ますからね

投稿: んじゃ | 2017年10月13日 (金) 04時11分

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