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2017年10月30日 (月)

ISS議決権行使助言方針の改訂案とガバナンス改革の行方

野村證券のシニアストラテジストの方の論稿「自己資本利益率(ROE)の分析」(資料版/商事法務2017年8月号30頁以下)を拝読しますと、昨年あたりから日本企業(JPX500クラス)が北米地域にはかなわないものの、ほぼ欧州企業とは同じレベルのROEであることがわかります(2016年度で比較すると、欧州9.3、日本9.2、北米は14.4)。

先週公表された「伊藤レポート2.0」では、ここ6年間ほどのROE平均値で現状が分析されているので、まだ欧米企業との差があるように感じますが、実際には日本企業は(ROE比較では)欧州、東南アジア、オセアニアの企業と肩を並べるほとになり、株価上昇傾向とは別に「政府主導によるコーポレートガバナンス改革」には一定の効果が出ているということがいえそうです。

さて、来年にコーポレートガバナンス・コードの改訂を控え、有識者によるフォローアップ会議も一年ぶりに再開されましたが、2年目となる「形式から実質へと向かうガバナンス改革」の行方が気になるところです。そして、このあたりを先取りしていると思われるのがISSさんの議決権行使助言方針の改訂(案)です。10月26日に、2018年度の方針改定案が公表されましたが、「なるほど、ほぼ予想どおりの流れかな」と感じました。

ひとつは「指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化」です。昨年からISS(日本法人)さんは「なんちゃって監査等委員会」を問題視して「監査等委員会設置会社には社外取締役が最低4名は必要」との方針改訂を検討されていました。しかし、証券コード3690さんのように「監査役さん方が全員横滑りして取締役監査等委員になったけど、自社のガバナンスに合致するように、取締役会が中心になって役員構成を激変させた」実例も出てきているので、上場会社の自助努力に少し期待してみようとされていました。しかしながら、一年たってもなかなかガバナンス改革の自助努力には期待できる状況にはならないといったところから、今回は(予定通り)構成要件の厳格化を図るようです(具体的には、1年間の猶予期間を設定した2019年2月以降、取締役会の3分の1以上を社外取締役が構成していなければ、役員選任議案に反対票を推奨するそうです)。

そしてもうひとつが「買収防衛策の総継続期間要件の導入」です。買収防衛策の賛成推奨の基準として、最初に買収防衛策を導入してからの総継続期間が3年以内であることを助言方針としています。いままで継続期間要件というものは存在していなかったので、各企業があたりまえのように防衛策を更新していましたが、これに警鐘を鳴らす、といった意味があります(これまでも買収防衛策の導入、更新の議案にはISSさんが反対推奨意見を出しておられたものが多かったように思います)。かつて買収防衛策といえばヘッジファンドさんの(過度の?)ショートターミズムからの防衛といった意味合いが強かったのですが、最近は持続的成長を支援するアクティビストの役割が周知されるようになり、その活動の舞台を広げるための方針改訂と推測します。

今年になってスチュワードシップ・コードが改訂され、アセットオーナーと運用機関との連携や対話が増え、さらに運用機関相互の協調行為が促進されました。そこで機関投資家は、上場会社のガバナンス(とりわけ改革のための自助努力)に相当のプレッシャーをかけることができるものとISSさんは想定しているように思います。上場会社全体にプレッシャーをかけるのではなく、監査等委員会設置会社(約800社)、買収防衛策導入会社(約500社)をピックアップして、ピンポイントでプレッシャーをかけて、アクティビストの対話や提案行為を促す、アセットオーナーを含めた機関投資家の協調行為を促す、議決権行使結果の個別開示やESG投資の普遍化によって協調行為へのインセンティブを高める、といったところでしょうか。「形式から実質に向けたガバナンス改革」2年目は、日本企業の「横並び主義」をどのように上手に活用するか、といったところがガバナンス改革積極派の腕のみせどころかと。

さて、そうなるとガバナンス改革の行方は「取締役会改革」から「株主総会改革」へと本格的に関心が移るものと予想します(会社法改正の論点も、インセンティブ報酬制度といった問題もありますが、株主総会関連、ディスクロージャー関連が中心になるのでは?)。今後の注目点は①機関投資家の威力を半減させている政策保有株式(株式持合い制度)が切り崩されるかどうか、②スピンオフ税制に続く「選択と集中(事業ポートフォリオ)」を促進する税制改正が実現するかどうか、③「働き方改革」を通じて労働力の流動化対策の実効性が確認できるかどうか、といったところではないでしょうか。そしてガバナンス改革の議論をしている時に、大きな企業不祥事が起きますと、突然「守りのガバナンス」の議論が始まることも忘れてはなりません。

10月 30, 2017 コーポレートガバナンス・コード |

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コメント

ニュースに接したときに、「こんなはずじゃなかった」とうろたえて再び監査役設置会社に戻る「なんちゃって監査等委員会設置会社」が続出するのではないか、と思いました。本質を理解して監査等委員会設置会社に移行した会社さんだけが、社外取締役を増員して居残り、社外役員の増員を避けようとして形だけ監査等委員会設置会社に移行した会社さんは後戻りするような気がします。モニタリングボードを志向する会社は監査等委員会設置会社になり、引き続きマネージングボードで行きたいと思う会社は監査役設置会社のままでいく、と言う本来の意味での機関選択が始まるような気がします。さて、どれほどの会社さんが監査等委員会設置会社に残るのかどうか?

投稿: 瀬戸三矢 | 2017年10月30日 (月) 13時30分

 某セミナーで監査等委員会設置会社について、著名な多くの方と違う角度から講演させていただきました。
 不真面目な会社が多くを占める制度なので、個人的には反対ですが、まじめな会社もあります。そういったまじめ・不まじめの指標としては、社外取締役の人数が結構相関性があるので、悪くない基準かなと思っています。

投稿: KAZU | 2017年10月30日 (月) 22時26分

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