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2017年10月18日 (水)

神鋼品質データ偽装事件の責任は神鋼だけが負うべきなのか?

本日(10月17日)の日経朝刊一面に、神戸製鋼所さんの品質データ偽装が数十年も前から社内で続いていたことが報じられていました。また、一昨日のエントリーの図表でも「私の関心事」としてお示ししましたが、数十年も続いていたとすると、データ偽装に手を染めていた人、知っていて放置していた人が経営幹部になっている可能性が高いことも報じられています。ではなぜ、今回はこのような不祥事を自主的に公表する気になったのでしょうか。まだまだ今回の件については外からはうかがい知れない真実がありそうです。

ところで、神鋼さんは米国司法当局が(同社米国子会社が保有する)関係書類の提出を要求してきたことを明らかにしました。DOJからの書類提出要請や関係者の呼び出しは、他社事例でもときどき行われているので(DOJの捜査を公開しない企業が多いだけなので)現時点ではそれほど大きな問題ではないと思います。ただ「あ、うん」の呼吸が通じないDOJが動くことは、日本企業にとっての「不都合な真実」が明るみに出る可能性があるため、神鋼さんだけの問題で済ませることができるのかどうか、といったことも、新たな関心の対象になってきました。

この「不都合な真実」との関係で、一番気になりましたのが「トクサイ」なる言葉が社内で使われていたと各紙が報じている点です。トクサイとは「特別採用」の社内隠語ですが、これは今回初めて報じられたものではなく、昨年の神鋼さんのグループ会社で発生したJIS規格偽装事件でも取り上げられた言葉です。昨年7月11日の日経ビジネスの記事に基づくものですが、規格を外れてはいるものの、安全性に問題がない商品は、安い価格でブランド品が手に入るということで取引先にも納品されていました。つまり、この「トクサイ」という言葉は、品質には問題がないけれども、取引先から要求されていた規格を外れてしまった商品について、相手方も規格外であることを知って販売される場合の慣習から生まれたもの、とされています。ただ、いつしか品質が基準に達していない場合でも、神鋼グループ会社では「強度に関するトクサイ」といった言葉で納品対象になっていったそうです。

一方、本日(10月17日)の毎日新聞ニュースでは、約40年も前から「トクサイ」という用語は社内で一般的に使われており、神鋼さんは取引先の了解を得られないままにトクサイ品を出荷していたと報じられています。ただ、このように「トクサイ」商品の出荷が悪質なものであったとすると、40年もの間、社内不正が発覚しなかったとみるのはかなり不自然です。むしろトクサイ品は取引先も知っていながら販売するもの、ただ品質に関するトクサイというものが時代の流れの中で現場に浸透していった、とみるのが自然ではないでしょうか。

ところで、今回の件で疑問が湧くのは「取引先も品質データが偽装されていることを知っていながら取引をしていたのではないか」ということです。もちろんすべての取引先というわけではありませんが、神鋼さんに納期を守ってもらうことは、取引先担当者にとっても強い関心事であり、「知らなかったこと」にしておいて、取引を円滑に済ませていたところもあるのでは、という疑問が湧きます。だからこそ神鋼社内で「強度のトクサイ」といった隠語が使われるようになったのではないかと。もしそのような事実があるとすれば、取引先企業が今度は不祥事企業の仲間入りとなります。「トクサイ」という言葉が使われていたとなると、どうしても昨年の不祥事のケースと同様ではないのか、取引先(少なくとも取引先の担当者)にも「許されるトクサイ」と「許されないトクサイ」に関する認識はあったのではないか、と考えてしまいます。

上記はあくまでも私自身の邪推にすぎません(この点、モノづくりの観点から真因に迫ろうとされる楠木さんのコメントがとても有益ではないかと思います)。しかし、考えられることだとすれば、そのような可能性についても調査委員会は調査の必要性があります。しかし、もしそのような事実が判明したとしても、神鋼さんとしては「他社には絶対に迷惑はかけられない」という意識が働きますので、調査結果の開示には強く抵抗すると思います(そこで調査委員の胆力が試されるのではないでしょうか)。過去にも不祥事は一社の不正では完結しない、という事例は嫌というほど見てきました。そういった意味では、取引先は本当に被害者なのか、不正に加担していた事実はないか、世間的には批判されるような疑問かもしれませんが、(DOJが動き出した以上)私はそこまでスコープを広げて調査を実施すべきと考えます。

10月 18, 2017 コンプライアンス経営 |

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コメント

>なぜ、今回はこのような不祥事を自主的に公表する気になったのでしょうか。

記事内容とは異なりますが、ひょっとして過去数十年(創業以来??)続けられてきた「不正」についてよく知らない、外部から来た役員が過去の経緯を知らないゆえに発表してしまったのかもしれませんね。どちらにせよ、社外取締役や他社からの転職者の存在が大きかったのでしょう。

トクサイなるものが生じうるのは、購入者側が事実上受け入れ時検査が困難である製品を作っている場合ですね。電子機械や医薬品業界では起こりえないとまでは言いませんが、まず考えにくいです。何せスペックインいる原料中間製品を納品しても、最終製品に不具合があった場合には改善を要求される世界ですから。。

投稿: 機野 | 2017年10月18日 (水) 09時08分

山口先生。時々ブログを拝見して勉強させていただいております。私も新聞報道でトクサイに関する報道を見て気になっておりました。「特別採用」という言葉は、「商慣習」のレベルに位置付けられるものではなく、通常、事業会社間で締結する取引基本契約書において検収、瑕疵担保条項の一環として明文の規定が定められています。従って、仮に安全性には問題がない製品であったとしても、取引先との合意のないまま、仕様を満たしていない製品であることを知らせないままに、特別採用条項があることを奇貨として、正規品として納入したことが契約上許されるのか、不正競争防止法や景品表示法その他の法令違反しているか、が問われるべき核心ではないかと思われます。

投稿: 取引法の弁護士 | 2017年10月18日 (水) 09時16分

上の私のコメントに関しまして、一部訂正いたします。
申し訳ありません。

誤)何せスペックインいる原料中間製品
正)何せスペックインしている原料・中間製品

投稿: 機野 | 2017年10月18日 (水) 11時21分

企業の取引には民需だけでなく「官需」もあります。
納品先が国(日本だけでなく外国も)や行政機関である場合です。
その際はデータ改ざんなどの不正により被害を受けた「顧客」と監督官庁が同一となることもあります。
よって公益通報における行政通報段階での通報先が、なんと「お客様」であるという事態になります。
そうであれば通報を受けた監督官庁は、通報だけでなく自分たちが「被害」も受けているわけだから、調査がサクサク進むのかと思いきや。。。あながち、そうとも言えません(「邪推」ではなく、実際に苦悩したことがあります)。
「どうしてわからなかったんだ?!」と上位機関やマスコミに突っ込まれるのは、企業だけでなく監督官庁も同様ですし、過去の「しがらみ」という文化(日本独自では無いと思いますが。。。)のせいもあるでしょう。
「取引先は本当に被害者なのか?」という視点は考えたくないのですが、日本を良くするためには必要でしょう。
企業に内部資料提出を要求する米国司法(捜査)当局の姿勢と比較すると、私は日本の行政は「通報者に内部資料提出を要求する」風潮があるように思います(これも「邪推」だけではありません)。

幾野様のコメントにあるように「他社からの転職者の存在」が不正発覚に果たす役割は大きいと思いますが、「社内での異動」により、異動先の幾星霜の不正を発見することもあります。
このときに古株の上司や長年その部署に従事する社員との「闘い」が勃発するのは哀しいことです。
血を吐きながら続ける哀しいマラソンです。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年10月18日 (水) 23時37分

今日の報道ではトクサイについて正確な理解に立った記載となったようです。

投稿: 取引法の弁護士 | 2017年10月20日 (金) 09時21分

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