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2017年11月 9日 (木)

会計監査人から受領する資料の事前配布ってアリなのか?

(9日 17:15 追記)

一昨日の「地面師」ネタはずいぶんと反響がありまして、11月9日午前1時現在、ココログの人気記事ランキング5位という、とんでもないアクセスになりました(法務ブログではありえない?)。おかげさまで(?)、当該事件の複数の関係者の方からご連絡をいただき、有益な情報を得たり、お叱りを受けたりしております(笑)。本日もアパグループさんが地面師被害に遭遇したと報じられていますが、とても興味深いジャンルの事例なので、また性懲りもなく続報を書きたいと思っております。(追記:9日17時現在、人気記事ランキングは29位に落ちました。人気ブログランキングは相変わらず13位です)

さて、会計監査人の交代を端緒としてKDDIさんの海外子会社で会計不正が発覚した(その内容がパラダイス文書から判明した)、といった事例が朝日新聞、毎日新聞で報じられています。業務の停滞を招くとして、ローテーション制度の導入には上場会社の反対意見が強いようです。しかし、こういった事例が明らかになりますと、やはり監査法人の交代制導入も会計不正の抑止・早期発見のためには必要です、といったご意見(金融庁の思惑?)も世間的には説得力を帯びてくるような気もいたします。

ところで会計不正の抑止・早期発見という趣旨では、ガバナンス・コードでも実施が要請されている「監査役等と会計監査人との協働」にも注目が集まるところです。両者のコミュニケーションをどのように深化させるべきか、多くの会社で模索されています。とりわけ最近は、監査役、監査等委員の方々に会計監査人側から配布される資料の多さには目を見張ります。

まず「監査計画概要説明書」ですが、これはKAM(監査上の重要事項)がわかりやすく説明されていたりして、コミュニケーションには不可欠な資料です。会計監査人と経営執行部間でどのようなやりとりがあるのか理解するためにも有用です。また、会社法監査における会計監査人の選任権、報酬同意権を行使するために「会社計算規則131条に基づく監査役等への通知事項説明書」のチェックも必要ですね。

ただ、最近はそのうえで今年3月施行の監査法人版ガバナンス・コードに基づく「監査品質向上への取組説明書」(これがとても立派な資料です)が交付されて詳細な説明がなされます。さらに(CPAAOBの指導に基づく)監査法人の5段階成績表「品質管理のシステムに対する外部レビュー、検査の結果及び対応状況について」も配布されて、会計監査人側から説明がなされます(いちおう、成績表は監査役さん限り、ということで対外的には開示不可とされています)。まあ、説明というよりも、なんでこんな成績だったのかを懇切丁寧に釈明するという「言い訳」に近いものかもしれません。たとえば監査法人と監査役等との報告会ということで1時間を予定しているとすれば、これだけの資料について監査役等への説明だけで1時間以上は必要です。

しかし、「報告会」とはいえ、今回の監査役等と会計監査人との協働では、企業側の事業リスクや会計不正リスク(もしくはそのようなリスクが顕在化することを示唆する懸念事項)について、監査役等から会計監査人へ十分な説明が必要です。とくに今後「監査報告書の透明化、長文化」が制度化されるとなりますと、会社側の経営統括責任者は監査役等ということになるので、会計監査人も監査役等から十分な事情を聴きだす必要があります。そうであれば、会計監査人と監査役等とのコミュニケーションは、原則としてギブ&テイクの関係で進めなければなりません。

そこでひとつ提案ですが、報告会の際に会計監査人から配布される膨大な資料については、できれば監査役側に事前に配布されるようなシステムはとれないのでしょうか。監査法人の成績表まで含めて、監査役等は事前に読み込んでおいて、できるだけ効果的な質問ができるような準備を監査役等もすべきだと思います。会計監査人側からの定型的な事項の説明についても、監査役等のメンバーに変更がない場合には思い切って割愛してもよいのではないでしょうか。

監査役等が抱く懸念事項を説明されることで、会計監査人の監査対象が広がり、監査報酬も増額する必要が出てきますと、あまり会計監査人からも好まれるものではないかもしれません。ただ、そういった双方向のコミュニケーションが実現することがガバナンス・コードの実質化であり、そういった時代になったことを監査役等から社長に説明をして、監査報酬の増額も(普通に、日常的に)ありうることを説得すべきだと思います。ガバナンス・コード4-4、同補充原則3-2①についてはほぼ100%の上場会社がコンプライ宣言しているはずです。「実施します、実施してます」と宣言している以上、きちんと運用しなければ開示違反、会社法違反(法令違反)になるのではないかと。

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コメント

私のやっている限りにおいて、実際の監査実務上は以下のようにやっていますので、山口先生のおっしゃる「事前配布」に該当するかどうかはわかりませんが、モノによっては早めの入手は可能かとは思います。正直あまり読んでいただいている実感はありませんが。
・監査計画概要書は年度の早いタイミングでお渡しし、説明する(早い会社では前期末の金商法監査の結果報告時点、遅いところでも第1四半期ないし第2四半期のレビュー結果の報告時点で同時にやっています。)
・会社計算規則131条に基づく監査役等への通知事項説明書については、上記監査計画概要説明の際に同時に配布、説明
・品質監査に関する外部検査の結果通知も基本的には上記と同時。その後の更新があれば、そこから直近の報告会等(上場企業であれば最低でも四半期ごとのレビュー結果の報告会がありますので)で配布、説明
・「監査品質向上への取組説明書」は、法人が発行した後の直近の報告会等で配布、概要説明
・監査計画概要説明後の重要な監査計画の変更等の説明は、変更後最初の報告会等で配布、説明
少なくとも四半期に1回はお会いしているので、その場での質問は難しくとも、次回のミーティングで質問される等は可能と考えられます。
一方で、報告会等の前の配布(例えば1週間前までに事前配布)等は、モノにもよりますが私はあまりやっていません。結果報告書などは監査のスケジュール上、どうしてもギリギリになってしまいますので。。。

投稿: 匿名公認会計士 | 2017年11月10日 (金) 09時28分

匿名公認会計士さん、ご教示いただきありがとうございます。ご回答を読みますと、尽力されている会計士の方もいらっしゃるということ、しかし会計士、監査役双方の「意気込み」がないと「協働」はむずかしいのかなあと理解いたしました。あと、たしかに四半期ごとに報告会をやっていれば、前回の件での質問・・・というのは(その気になれば)事前配布に近い感覚でできそうですね。

投稿: toshi | 2017年11月10日 (金) 21時31分

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