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2017年11月29日 (水)

品質検査データ偽装事件の発覚経過を機関投資家はどうみるか?

今朝(11月28日)の日経朝刊「迫真」が、神戸製鋼所品質データ偽装事件を詳細に報じています。先週の週刊エコノミストの拙稿で、私が疑問を呈した二つのポイントについて、見事に記事で明らかになっていました。ひとつは公表に至った経過です。予想どおりだったのは、偽装を知った顧客が他の取引先にも偽装の事実を告げて、取引先からの問い合わせが殺到した、とのこと。意外だったのは、経産省が公表を迫っていた、ということです(日産さんの無資格検査問題の影響もあったそうです)。

そしてもうひとつが、本当に公表する意思があったのか、という点ですが、やはり社長さんは「ここまでの話やないんやけど・・・」といった感想を抱いていたとのこと。偽装の記者会見よりも、(事業にとってもっと大切な)世界鉄鋼協会の年次総会に出席することのほうを優先的に考えておられたそうです。これ、私も「ごもっとも」と思います。取引先には偽装の事実を誠実に告げて「これからは気を付けてください」と言われて一件落着していたのです。おそらく会社の経営幹部のすべてが社長同様「ここまでの話ではないんとちがう?」といった感想をお持ちだったはずです。だからこそ、神鋼事件を契機に多くの会社で調査を行い、たとえ品質データ偽装が判明したとしても、なかなか公表にまで至らないと思うのです。

本日、グループ会社における品質検査データ偽装を明らかにした東レさんにしても、ネット掲示板に品質検査データ偽装のうわさが流れ、取引先からの問い合わせがあったこと、先行する神戸製鋼さんの件が世間的に重大な事件を受け止められていることから公表に踏み切ったそうです(東レの社長さんは「神戸製鋼の件がなければ、当社でも発表は考えられなかった」と述べておられます)。これからも同様の発覚経過をたどって公表に踏み切る企業が出てくるものと予想します。なお、世間では今回の一連の品質検査データ偽装は「法令違反ではない」と評価しているようですが、こちらのエントリーでも述べたように、私は法令違反の可能性が高く、それほど軽視されるべきものでもないと考えます。

ところで、このような問題が発覚すると、当然に当該企業の株価は下がるわけですが、私は「組織ぐるみ」でないかぎり、またステイクホルダーに多大な損害が発生しないかぎりは機関投資家の企業評価自体は下がらないとみています。要はこのような不祥事発生への経営陣の関与、不祥事発覚時の経営陣の対応が全てであり、「この社長の言動に表と裏がないか」というところが機関投資家の注目点ではないでしょうか。

企業にとっては不祥事対応は「リスク管理」かもしれませんが、機関投資家にとっては不祥事対応は「企業倫理」とりわけトップの倫理観のほうが重視されると考えています(それにしても社内の常識と社外の常識がこれほどまでにズレが生じた例は珍しいのではないでしょうか)。今回の一連の品質データ偽装事件は、コンプライアンス経営とは何か、あらためて見つめ直す機会になりました。

有事対応に従事する者としては、企業がリスク管理として捉えてくれればお金になりますが、企業倫理を訴えてもお金になりません(笑)。しかし機関投資家の方々は、有事に至った経過や有事の経営トップの発言内容から、経営者の倫理観に着目する傾向が強いというのが私の感想です。「あとで株主代表訴訟に耐えられない」とか「その発言は取引先や行政に迷惑がかかる」さらには「どういった場合に公表すべきか、その判断ルールを社内で策定すべき」といったリスク管理的感覚でモノを言うのではなく、経営者が心底から他人に迷惑をかけるやり方で儲けない、といった気持ちがあるのかどうか、そこを知りたいのが機関投資家だと思います。

もちろん、これは自分の過去の失敗経験からの意見であり、統計調査に基づくものではないので仮設の域を超えるものではありません。ただ、稼ぐ力を取り戻すことが大事な世の中なのであれば、「走りながら考えるコンプライアンス」を実践するために、機関投資家のコンプライアンス経営への考え方を理解することも重要ではないかと思います。

11月 29, 2017 コンプライアンス経営 |

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コメント

エントリーの本質的な論点よりも(凄く)細かい点に目がイッて申し訳ありませんが、「常識の【ズレ】」という文言に嫌な記憶があるので、引っかかってしまいました。
上司への通報、社長(経営トップ)・会長への通報、コンプライアンス・ホットラインとの面談、社外取締役・社外監査役への再度の通報を経て、私が密室で被通報者から投げかけられた「(徐々に組織の上層部に通報してゆく)あなたの常識は一般とはズレている」(厳しい口調で。。。)という言葉にトラウマがあります。
退室後、冷静に考えれば、通報者に言い掛かりをつけて経営トップへの通報を妨害する「口封じ」なのですが、複数の相手に催眠商法的に揶揄されると、その場では怖いというか辛いものがあります。
経営トップの「倫理観」というのは目に見えないものなので(一緒にゴルフすると分かるんですかね?)、経営トップとの面会がないまま、通報はしないという「念書」まで書かされそうになって、過去には難渋しました。

山口先生の、過去の失敗経験から「学ぶチカラ」を見習って善処いたします。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年11月29日 (水) 21時07分

 「偽装の記者会見よりも、(事業にとってもっと大切な)世界鉄鋼協会の年次総会に出席することのほうを優先的に考えておられたそうです。」という下りを読んで、海外の学会に出席することを優先した財前教授(白い巨塔)を思い出しました。その後の財前教授は医療過誤訴訟と新任教授としての仕事などを抱えてついに・・・・となりました。
 何が自らの本分か(今回は、顧客以外のことを優先したのではないか?)を考えるきっかけになってもらえばと思います。

投稿: KAZU | 2017年11月30日 (木) 16時53分

試行錯誤者さん、KAZUさん、いつもありがとうございます。
そうですね、内部通報者の支援をしておりますと、試行錯誤者さんの感覚はよくわかります。社員を攻める側も「常識とのずれ」を持ち出すことはよくありますね。いまも同じような事案をかかえておりますので、戒めとしたいと思います。

投稿: toshi | 2017年12月 1日 (金) 00時17分

山口先生、いつもありがとうございます。
明日12月5日は名古屋ドラゴンズおひざ元で消費者庁民間事業者ガイドライン説明会ご講演と思います(大相撲の話題も?)。
消費者庁殿には講演録公開をよろしくお願いします。
来年の福岡ホークス、札幌ファイターズ地元での説明会ご講演も御担当されるのでしょうか?
私が東北イーグルスの市場に予約した「企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度」は、『たくさんの方に御注文いただいています!!』とのことで、まだ入手できていませんm(--)m

投稿: 試行錯誤者 | 2017年12月 4日 (月) 20時04分

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