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2017年11月 6日 (月)

「ゲートキーパー」としての会計士に期待する-違法行為対応指針の新設

東芝事件への教訓として、監査法人改革や監査報告書の透明化(長文化)といった話題が取り上げられていますが、私個人としてはJICPAが「違法行為への対応に関する指針」を新設することも監査実務にとって重要ではないか・・・と感じております。すでに公開草案は公表されており、11月6日が意見募集期限となっています。

この対応指針は国内的な政策として新設されるのではなく、今年5月のこちらのエントリーで書きましたように、国際倫理規程の新設に合わせて日本でも「倫理規程」として新設されるものです。「もっと不正を見つけなければならない」といった新たな行為規範ではありませんが、「不正を知った時にどうすべきか」といった「有事に直面した会計監査人」の行為規範が示されています。

もちろん、これまでも会計不正への対応については平成25年の「不正リスク対応基準」があり、JICPA監査基準委員会報告書240「財務諸表監査の不正」なる規則が存在します。ただ、このたびの違法行為の対象となる「法令違反」の中身についてはかなり広いものとされています。不正、汚職、証券市場・証券取引、情報保護、環境保護に関連する法令違反が例示されていますが、もっと広く消費者保護関連の法令違反なども、企業の業績に重大な影響を及ぼす可能性があればこれに含まれるものと思われます。近時の日産さんの無資格審査(車両運送法違反の可能性)や神鋼さんのデータ偽装問題(詐欺や不正競争防止法違反の可能性)が、株価や業績に大きな影響を及ぼしていることからみても、この「法令違反」は広く捉えられるべきです。

また違法行為だけでなく、「その疑い」に気づいた場合にも対応が求められる、ということですから、たとえ調査の結果として「グレー」のままであったとしても(クロとは認定されなかったとしても)対応が要請されるものと考えられます。「法令違反の有無」や「心証形成」といった会計士さんが専門職としてのスキルによってコントロールが難しい領域がこの指針に含まれていることから、最近の不動産取引に関与する弁護士と同様、ゲートキーパーとしての役割が会計士さん方に期待されることになるものと思われます。

いまから10年ほど前、「ゲートキーパー法」が法制化される案が浮上した際、私も大阪弁護士会によるデモ行進に参加して反対運動をしました(最終的には自主ルールで落ち着きました)が、弁護士には監督官庁が存在しないがゆえにできたことです。会計士さんのように監督官庁が存在する専門職の場合、たとえ「倫理規程」であったとしても、かなり実務には影響が出るのではないかと。会計監査人への内部告発事案はよく目にするところですが、会計不正だけでなく、性能偽装や海外カルテル、競争法違反といった不正に関する通報がなされた場合には、会計監査人がこれに誠実に対応する必要性が高まるものと思われます。

日本公認会計士協会監査基準委員会報告書250、「財務諸表監査における法令の検討」、先に述べた同報告書240「財務諸表監査における不正」等、すでに法律専門家との相談や連携に関する(会計士協会の)研究会報告はいくつか出されていたと思いますが、そのあたりは法律家のほうも、勉強しておく必要がありそうですね。

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