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2017年11月 7日 (火)

企業が高額不動産を購入する際の内部統制について

昨日はゲートキーパーとしての会計士さんのお話でしたが、本日はゲートキーパーとしての弁護士さんに関連するお話です。今年8月、大手ハウスメーカーである積水ハウスさんが、五反田のマンション用地を購入するにあたり地面師に遭遇し、支払った63億円余りが回収困難になっている、と報じられました。不動産取引が活発化するなかで、最近は地面師による被害が頻発しているようです。

当ブログは「ビジネス法務」を取り扱っているので、あくまでも不動産を購入する法人側の視点でお話しますが、判例時報の最新号(2343号)に、売主(地面師)側に弁護士が関与している高額不動産の売買において、買主が売主側弁護士作成に係る本人確認情報を信頼して被害を被った場合に、売主側弁護士の損害賠償義務は認められるものの、買主側にも本人確認義務の懈怠があったとして4割の過失相殺が認められた判決(地裁判断)が掲載されていました(東京地裁平成28年11月29日)。

売主が権利証(登記識別情報通知)を紛失しているとはいえ、買主側に弁護士が関与していることを信頼して(弁護士が本人確認を行ったことの証明書を提出して)安心して取引を行ったとしても、被害者である買主側に4割もの過失が認められる・・・との判断は、おそらくナットクできない方も多いのではないでしょうか。これが大きな企業が買主であれば、被害額について買主側企業の役員の善管注意義務を問われる「提訴リスク」につながるおそれがあります。

ところで、上記判決を読みますと、買主側として注意すべき点がいくつかあるように思いました。ひとつは売主側弁護士が本人確認情報を作成する場合の注意義務は、私法上の注意義務ではなく、あくまでも不動産登記法上の「ゲートキーパーとしての」注意義務だという点です。つまり、登記申請代理人として弁護士が関与するケースでは、真正所有者の所有権を保護することが資格保有者としての公法上の義務であり、取締法規上の行為規範だということです(だからこそ不動産登記法160条には虚偽の本人確認情報を提供した資格保有者の罰則規定があります)。したがって、資格保有者には真正な所有者に対する注意義務は発生しても、取引相手方である買主に対する注意義務は直接的には発生しない、ということになります(ただ、裁判所は「そうはいっても、相手方関与弁護士が提供した確認情報を買主が信頼するのが通常であろうし、そのことの予見可能性が弁護士側にも認められるので、本件では民事上の不法行為責任は発生する」としています-この点は上記裁判は現在控訴中なので、控訴審でどうなるかはわかりません)。

そしてもうひとつが、取引に関与した弁護士とはいっても、当該弁護士は不動産取引の代理人を務めるものではなく、あくまでも「立会人」であり、売主側の登記申請(法務局に対する)の代理業務だけを行っていた、という点です。もし売主側弁護士が、売買契約の代理人も務めていたとなれば、買主側の本人確認義務も免除されていた(売主側代理人弁護士の買主に対する注意義務違反も容易に認められた)と思われますが、弁護士の関与が私法取引上は「立会人」にすぎないために、買主側が本人確認の責任は果たさねばならない、と判断されています。

これだけ地面師の暗躍の脅威が報じられている現在、不動産を購入する法人の取締役は、地面師による詐欺被害を予見する必要があります。つまり高額不動産の購入時に地面師被害に遭わないように、買主側企業としては自己責任を果たす必要がありますが、登記識別情報通知が存在しないケース、とりわけ売主側に弁護士が関与しているケースでは、当該弁護士が不動産取引における売主を代理しているのか、登記申請のみ資格者として代理しているのか(契約については立会人にすぎないのか)という点を確認しておく必要があります。もし弁護士が単なる立会人にすぎない、というケースであれば、本人確認のための対策を買主側でも検討することが不正リスクを低減させるための内部統制の構築義務として法的に求められると考えます。

最後に(ここからは個人的な見解ですが)上記判例の事案では、買主側の不動産紹介者の報酬が5000万円、売主側の仲介者手数料が750万円であるにもかかわらず、損害賠償義務を負った弁護士の報酬は、わずか30万円でした。「あまり経験がない」ということで、この弁護士さんは何度も拒否したのですが、それでも関係者から執拗にお願いをされたので受けた仕事であり、また「急いで取引をしたい」といった関係者の無理な日程調整にも、必死になって時間調整をして間に合わせたのですから、たしかに不注意な点はいくつか指摘できるものの、おそらく「誠実な弁護士」「依頼者に優しい弁護士」だったと思います(ちなみに関係者から申し立てられた当該弁護士さんに対する懲戒請求について、単位会、日弁連とも請求を棄却しています)。

でも、ゲートキーパーとしての弁護士の業務であるがゆえに、お金の問題は別として「確認作業が完了しないので、契約締結が延期になってもしかたがない。これはお国のための業務だからどうしようもない」といった冷酷かつ毅然とした態度が必要だったと思います(まあ、そのような弁護士さんだったら、そもそも地面師らが依頼しないのかもしれませんが・・・)

11月 7, 2017 民事系 |

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