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2017年12月29日 (金)

のぞみ34号台車亀裂事件-JR東海運行責任者への称賛こそ重要

12月11日に発生した「のぞみ34号台車亀裂事件」ですが、台車の亀裂が発見されたことで新幹線開業以来初めての「重大インシデント」として取り扱われています。マスコミは、なぜJR西日本の関係者が新大阪駅で緊急検査をしなかったのか、安全性軽視の姿勢は福知山線事故以来変わっていないのではないか、と批判をします。

社員間の情報伝達ミス、JR東海への引継ぎミスは批判されても当然であり、一歩間違えれば大惨事につながりかねなかったことを考えますと、再発防止策を真剣に検討しなければならないことは誰も否定しません。重大な事件を契機に、可能な限り亀裂に至ったプロセスを分析することも(私は専門家ではないのでどこまで可能なのかはわかりませんが)必要なのでしょう。ただ、私がこの事件において一番関心を抱いたのは、名古屋駅での緊急検査および運行休止を決断したJR東海の運行関係者の姿勢でした。

のぞみ34号が京都駅を出発した時点で、13号車付近で異臭を感じた(JR東海の)車掌さんがいらっしゃったそうです。とくに乗客からの苦情もなかったようですが、「異臭」から新幹線ダイヤを大幅に狂わせてでも緊急検査が必要と判断したことに躊躇はなかったのでしょうか。さらに名古屋駅の緊急検査で判明したことは床下のオイル漏れでした。その時点でも台車の亀裂までは発見していませんが、乗客約1000名を別の列車に移して運行を止める行動にも躊躇はなかったのでしょうか。

異臭の原因はたいしたことではなかったとなれば、「人騒がせな緊急検査で多くの乗客が迷惑を受けた」「ダイヤの混乱を生じさせた」と言われ、「本当に異臭がしたのか?」「車掌の疲れが原因だったのではないか?」と逆に責められる可能性もあるでしょう。しかし、私は台車の亀裂が見つからなかったとしても、このJR東海の車掌さんの行動こそ称賛されるべきであり、また「ダイヤを混乱させ、結果としてたいした故障が発見されずとも、乗客の安全のために新幹線は止めるべし」とするJR東海の組織風土こそ重要だと考えます。

毎度申し上げるとおり、こういった発想には副作用が伴います。「たいした故障でもないのに新幹線が頻繁に遅れて乗客に迷惑だ」「一部の新幹線の検査で東京から博多まで全ての列車が迷惑する」「こんなに故障が多いとなれば安全神話も昔の話、世界への売り込みもできなくなるだろう」などと揶揄されることになります。しかしどんなに整備を万全にしたところで事故は100%防止できるものでもなく、また人的ミスも同様です。だとすれば(間違っているかもしれないけど、みんなのために警告を出そう、という意味で)「オオカミ少年」を許容する寛容さを社会に求めることまでは無理だとしても、せめて鉄道会社自身としては組織風土として構築しておかねばならないと考えます。

重大な事件の発生を踏まえて、JR西日本では「運転停止判断のための緊急時のルール作り」「亀裂を感知するセンサーの設置」「目視だけに頼らない事前検査体制の整備」といったことが再発防止策として実施されることになると思います。しかし、いくら体制を整備しても、人間は有事を有事として捉えることには限界があります(人は常に平時でいたいというバイアスが働きます)。おそらく危機に直面した社員にマニュアル通りに合理的な判断を求めることはむずかしい場面があると思います。

だとすれば、「乗客の安全を最優先とした判断は、たとえ結果が間違っていても称賛する」といったメッセージが求められるのではないでしょうか。JR西日本の組織風土に問題があるとすれば、そのようなメッセージをいかにして社員の方々に浸透させることができるか、そこに光を当てることが有用ではないかと。いろいろとご異論もあろうかとは思いますが、短期的に見れば企業の利益を損ねる行為かもしれませんが、長期的にみれば企業の競争力(ひいては新幹線の国際的信用力)を高めることにつながると思います。

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コメント

確かにおっしゃる通りで、博多から京都まで無事に走ってきた車両を名古屋で運転停止にするのは勇気が必要だったと思います。なぜ、停止できたのかにもっと注目してあげたい気がします。運転指令所が車掌が変だと言うのだから変なのだと現場重視で動いたのか、車掌が異臭だけでなく感じたものをきちんと伝えたのか。あるいは伝達の量や質ではなく、「これは運行停止すべきです」と結論を明確に伝えたのか。マニュアルも大事なのですが、現場の肌勘って軽視されないような再発防止策へと進んでほしいと思います。正常化バイアスを乗り越えるのは、肌勘なのかマニュアルなのか? これは、監査の失敗の場合にも考えるべき話だと思っています。台車の亀裂は、起きたままに事象が伝達されますが、監査の場合には、マニュアル通りなら通過するように経理部その他が飾って出てくるわけですから。

投稿: ひろ | 2017年12月29日 (金) 12時06分

JR西日本が「運行してもよい」としているものをJR東海側で「停止する」という判断に至る点もたしかに取り上げるべきですね。どうしても結果(重大インシデント)だけをみて原因分析したくなるのですが、本当にたいしたことがなかったという結果だったとしても、「ウチの判断は正かったのだ」と言えるのは、現場での勘を尊重できる組織風土なのか、それとも原理・原則を尊重するマニュアルの存在なのか、そのあたりを議論すべきと思いますね。

投稿: toshi | 2017年12月29日 (金) 12時19分

先生のブログ、いつも興味深く拝見しています。
本件ですが、JR西の指令員には、運転打ち切りを避けたいという強いプレッシャーがあったのではないかと推察します。新大阪で運転を打ち切った場合に生じる旅客の後続列車への振り替えなどによる影響、しかも、それが自社ではなくJR東海へ大きな影響を与えること考えると、楽観的シナリオへついつい誘導されてしまったのではないでしょうか。これに比較すると、名古屋での運転打ち切りの決断は、JR東海自社内で完結するのでハードルが低かったのではないかと思います。今回のJR西の判断は明らかな誤りですが、このような心理的な面からも分析が必要なように思います。
各地で鉄道会社をまたぐ直通運転が日常的にされている現状から、私も本事例は他山の石とすべきものと、今後の調査を見守っています。

投稿: 鉄道屋 | 2018年1月 4日 (木) 12時17分

みなさまのご意見と一緒で何故名古屋で、問題の新幹線を止める事ができたのかの実態を調査し、今後に生かす事は重要と考えます。

名古屋駅でJR東海の車掌さんが緊急検査を提案したとして、組織がそれを受け入れる体制でなければならなかった。

各個人の仕事、業務を他の人が信頼し、その人も信頼に応える働きをし、特に事故防止については、妥協を許さない雰囲気下にあるのが理想であり、マニュアル以前に、そのような職場作りを目指す事が、従来においては、最重要視されていたように本ブログ記事で気づかされたように思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2018年1月 4日 (木) 15時50分

以下の二つのことを考慮する必要があると思います。

・JR西日本の乗務員は新大阪で点検するように要請した。(指令所職員はそれを聞き逃した。)
・JR東海の乗務員も京都で気づいたにも関わらず名古屋まで運行した。

投稿: 東海の鉄ちゃん | 2018年2月 5日 (月) 15時10分

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