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2017年12月29日 (金)

年末年始に読みたい-企業不祥事調査報告書のおススメはズバリこれ!

日産自動車、亀田製菓、東レ、ミクシィ、三菱マテリアルと、連日のように企業不祥事に関する調査報告書が開示されています。また、神戸製鋼の第三者委員による調査は2月まで続行されるようで、年末にかけて多くの調査委員会報告書がマスコミの話題になりました。12月28日には、某社(証券コード2388)において、不適切会計事案に関する第三者委員会報告書をもとに、会計監査人が「限定付適正意見」を表明する事態に発展しています(限定付適正意見は今年3件目でしょうか、監査法人も限定付適正意見を表明することに躊躇がなくなるかもしれませんね)。

そのような中で、あまりマスコミでは取り上げられていませんが、たいへん秀逸であり、皆様にご一読をお勧めしたいのが12月27日にリリースされたJA全農神戸食肉偽装事件に関する特別調査委員会報告書です。JA全農の常勤監事さん等が委員に含まれているので日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会とはいえません。しかし「中立公正な立場でJA全農を取り巻くステイクホルダーへの説明責任を果たす」といった委員の思いが報告書の読み手にも伝わってきます。ちなみに食肉偽装事件の概要は、こちらのニュースをご参照ください。

なぜ「おススメ」かといいますと、お読みいただくとおわかりのとおり、認定事実、原因分析、再発防止に向けた提言等すべてとてもわかりやすい文章で「一般の方に向けて」書かれています。一読すれば、ほぼ事件の全容が頭に入ります。とくに委員の質問とヒアリング対象者の回答、全社アンケートへの社員の回答例がとても効果的に使われていて、JA全農におけるコンプライアンス経営の課題が明確に浮かび上がってきます(この手法は当該委員長の好みの問題かもしれませんが、他社が題材としてコンプライアンス経営を学ぶうえではとても参考になります)。

JA全農神戸直営レストランにおいて、料理長が「神戸牛フィレ」と偽って「但馬牛フィレ」を長年使っていた(偽装していた)わけですが、発覚はJA全農への第三者(と思われる)による情報提供だったそうで、残念ながら内部通報は確認されませんでした。JA全農神戸では、実はそれなりに内部通報制度は機能していたようです。ではなぜ本件では機能しなかったのか、そこにスコープをあてて、料理長の不正を知りつつ何も言えなかった関係者の証言を詳細に紹介しています(この手法はたしか日本交通技術社の海外贈賄事件の報告書やゼンショー労働環境改善に関する報告書などでもみられたような・・・)内部通報制度を機能させるための提言についても傾聴に値する内容であり参考にさせていただこうかと思っております。

料理長がなぜ偽装に手を染めたのか、その動機についても、また不正を正当化する理由についてもリアルです(このリアル感は、他社にも参考になると思います)。さらに「監査制度がなぜ機能しなかったのか」という点も重要なポイントです。報告書を読むかぎり、少しの努力で料理長の不正は見抜くことができたように感じます。職人に対する遠慮があることや、監査人に職業的懐疑心が欠けていること等から、簡単に見抜くことができそうな不正でも(この言い方は多分に「後出しジャンケン」なので、あまり好みませんが)見抜くのが困難であることがわかります。JA全農神戸が本件偽装事件を起こした最大の原因は、実はこの監査の脆弱性にあったのではないか、と委員による指摘がなされていますが、その意見の前提となる「いかに容易に見抜けたか」という点の説明が実に巧い(ここも参考にさせていただきます)。

委員の方も、報告書の最後に「この事件を機会に、全農でも本報告書を教材として使っていただきたい」と書かれていますが、他社でも十分に教材として活用できるものと思います。しかし報告書を読んでいて、こんなにお腹がすいてきたりヨダレが落ちそうになるのは初めてでした(^^;。神戸牛にしても但馬牛にしても、関西人にとってはまさに「垂涎のブランド」なのです。

※※※

今年のエントリーはこれでおしまいです。今年も拙ブログを御愛読いただき、ありがとうございました。本日も、関与している事件で「ギョッ!」とすることが発生して、到底「仕事納め」にはなりませんでしたが、とりあえず(強制終了で?)来年に持ち越しです。本当にジェットコースターのような一年でしたが、ブログを書く時間が「ひとときの息抜き」となりました。来年も健康に留意しつつフル回転で本業に没頭いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。では、皆様良いお年をお迎えください<m(__)m>

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のぞみ34号台車亀裂事件-JR東海運行責任者への称賛こそ重要

12月11日に発生した「のぞみ34号台車亀裂事件」ですが、台車の亀裂が発見されたことで新幹線開業以来初めての「重大インシデント」として取り扱われています。マスコミは、なぜJR西日本の関係者が新大阪駅で緊急検査をしなかったのか、安全性軽視の姿勢は福知山線事故以来変わっていないのではないか、と批判をします。

社員間の情報伝達ミス、JR東海への引継ぎミスは批判されても当然であり、一歩間違えれば大惨事につながりかねなかったことを考えますと、再発防止策を真剣に検討しなければならないことは誰も否定しません。重大な事件を契機に、可能な限り亀裂に至ったプロセスを分析することも(私は専門家ではないのでどこまで可能なのかはわかりませんが)必要なのでしょう。ただ、私がこの事件において一番関心を抱いたのは、名古屋駅での緊急検査および運行休止を決断したJR東海の運行関係者の姿勢でした。

のぞみ34号が京都駅を出発した時点で、13号車付近で異臭を感じた(JR東海の)車掌さんがいらっしゃったそうです。とくに乗客からの苦情もなかったようですが、「異臭」から新幹線ダイヤを大幅に狂わせてでも緊急検査が必要と判断したことに躊躇はなかったのでしょうか。さらに名古屋駅の緊急検査で判明したことは床下のオイル漏れでした。その時点でも台車の亀裂までは発見していませんが、乗客約1000名を別の列車に移して運行を止める行動にも躊躇はなかったのでしょうか。

異臭の原因はたいしたことではなかったとなれば、「人騒がせな緊急検査で多くの乗客が迷惑を受けた」「ダイヤの混乱を生じさせた」と言われ、「本当に異臭がしたのか?」「車掌の疲れが原因だったのではないか?」と逆に責められる可能性もあるでしょう。しかし、私は台車の亀裂が見つからなかったとしても、このJR東海の車掌さんの行動こそ称賛されるべきであり、また「ダイヤを混乱させ、結果としてたいした故障が発見されずとも、乗客の安全のために新幹線は止めるべし」とするJR東海の組織風土こそ重要だと考えます。

毎度申し上げるとおり、こういった発想には副作用が伴います。「たいした故障でもないのに新幹線が頻繁に遅れて乗客に迷惑だ」「一部の新幹線の検査で東京から博多まで全ての列車が迷惑する」「こんなに故障が多いとなれば安全神話も昔の話、世界への売り込みもできなくなるだろう」などと揶揄されることになります。しかしどんなに整備を万全にしたところで事故は100%防止できるものでもなく、また人的ミスも同様です。だとすれば(間違っているかもしれないけど、みんなのために警告を出そう、という意味で)「オオカミ少年」を許容する寛容さを社会に求めることまでは無理だとしても、せめて鉄道会社自身としては組織風土として構築しておかねばならないと考えます。

重大な事件の発生を踏まえて、JR西日本では「運転停止判断のための緊急時のルール作り」「亀裂を感知するセンサーの設置」「目視だけに頼らない事前検査体制の整備」といったことが再発防止策として実施されることになると思います。しかし、いくら体制を整備しても、人間は有事を有事として捉えることには限界があります(人は常に平時でいたいというバイアスが働きます)。おそらく危機に直面した社員にマニュアル通りに合理的な判断を求めることはむずかしい場面があると思います。

だとすれば、「乗客の安全を最優先とした判断は、たとえ結果が間違っていても称賛する」といったメッセージが求められるのではないでしょうか。JR西日本の組織風土に問題があるとすれば、そのようなメッセージをいかにして社員の方々に浸透させることができるか、そこに光を当てることが有用ではないかと。いろいろとご異論もあろうかとは思いますが、短期的に見れば企業の利益を損ねる行為かもしれませんが、長期的にみれば企業の競争力(ひいては新幹線の国際的信用力)を高めることにつながると思います。

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2017年12月28日 (木)

東レ有識者報告書の教訓-「働き方改革」は企業不祥事を誘発する

内部通報の外部窓口を担当していて、最近通報が増えていると感じるのが幹部社員の長時間労働です。昨日(12月26日)の毎日新聞ニュースでも、ジタハラ(時短ハラスメント)によって自動車販売会社の店長さんが過労自死に至った、との疑惑に関する報道がありました。来年は、ジタハラはさらに深刻な問題として取り上げられるようになりそうです。

ところで本日、東レ(子会社)品質検査データ改ざん事件に関する有識者報告書が公表されましたので、さっそく全文に目を通しました。外部有識者による報告書ですが、第三者委員会ではないので、自ら改ざんに関する事実認定や原因分析を行ったわけではありません(社内調査やその後の対外対応に至った会社行動が妥当だったかどうかを検証することが目的だそうです)。しかし、上記報告書によって社内調査の詳細、東レ社としての原因分析の結果等が判明したので、事件の内容がとても理解できました。

いろいろと参考になる記述がありましたが、とりわけ目を引いたのが東レハイブリッドコード社における品質保証室長(改ざんした2名の室長)の勤務状況でした。同社では(当時)品質保証室は社長直轄部署で、部長待遇の室長1名と6,7名の品質保証部社員で構成されていたそうです。そして品質保証部社員の方々は、ほとんど定時に帰るのですが、社員が算出したデータをもとに品質検査証明書を作成するのが室長の役目とのことで、深夜まで仕事をされていたそうです。ときどき「これって規格外の品質ではないか?」と思い、製造部門に連絡をしても「それはアナタの部署の検査方法に問題があるんだろ!もう一回検査してみろよ!」と拒絶されることもあったようです。

組織間の力学バランスの歪みが不正の要因だったものと私は考えていますが、上記有識者報告書を読んだかぎりでは、「このような不正はどこの組織でも起きる。とりわけ働き方改革を『システム』として採用している企業はかなり危ない」と感じました。部下に残業をさせず、定時に帰らせることに中間管理職が気を遣うことになれば、これまで以上に幹部職は仕事を抱えます。納期を守ることや他の部署に迷惑をかけないことのほうが不正に手を染めることよりも大切と思えてきます。もちろん品質に関する法令に違反するわけでもなく、また消費者や相手方にも迷惑をかけないのだから・・・といった「正当化根拠」、自分だけで不正を完結できるといった「機会」も要因ですが、やはり動機・プレッシャーの要因が一番大きいはずであり、今後は働き方改革への対応が拍車をかける気がします。

国を挙げての「働き方改革の推進」ですが、経営管理部門が現業部門にシステムを押し付けるだけでは不祥事の芽になってしまいます。人を増やす、納期を遅らせる、仕事量を減らす、といった「事業の効率性のジレンマ」とどう折り合いをつけるか・・・、つまりシステムではなく経営判断の一環として取り組む姿勢がなければ同様の不祥事はかならずどこの企業でも増えるものと予想します。究極的には社員の「個」の力を高める方向で対応するのか、それとも組織力を高める方向で対応するのか、おそらく社長の決断が必要であり、社長は「働き方改革」の難題から逃げないことが求められるのではないでしょうか。

東レ有識者報告書では、規格から大きく逸脱していたデータについて、品質保証室長は改ざんに至っていなかったとして、「安全性には問題なかった」と結論付けています。ただ、調査対象となった期間内に、どれだけの規格外データ報告案件があり、そのうちのどれだけが廃棄処分となったのか定量的な調査結果は示されていませんでした(この点は、とても重要なポイントだと思いましたが・・・ひょっとすると企業秘密に関わる事実なのかもしれません)。もし、品質保証室が他の部署に何も言えない雰囲気が存在していたのであれば、検査方法に問題があったとして、そのまま不問に付している可能性もあり、安全性確認にやや疑問が残ります。また、品質保証室長に与えられていた「権限内の修正行為」と「改ざん行為」との区別もあいまいです。いろいろと素朴な疑問は湧いてきますが、ただ上記有識者報告書は、他社でも発生する不祥事への教訓を多く含むものと言えます。

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2017年12月27日 (水)

企業法務2018年の展望(会社法務A2Z)

すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、本日(12月26日)より日経ビジネスオンライン記事として、「謝罪の流儀2017 残念ながら御社でも不祥事は起きます」なるタイトルで、当職へのインタビュー記事が掲載されました(取材当時は、某社の支配権争いの交渉が佳境だったので、かなり表情が疲れているように思います 笑)。近時の企業不祥事への意見だけでなく、私なりのコンプライアンス経営への見方等、語らせていただきましたので、ご興味のある方はご覧いただければ幸いです。

P_20171226_214441_400_4 さて、もうひとつお知らせでございます。会社法務A2Z(第一法規)2018年1月号の特集「企業法務(テーマ別)2018年の展望」におきまして、「危機管理・不祥事対策」を執筆いたしました。この企画は毎年A2Z誌では好評だそうですが、今年も担当させていただきました(なんとなく、同じ人が同じテーマで担当しているような気がしますが・・・)。もちろん2017年の展望とは内容はかなり異なります。2017年はかなり「展望」が当たっていたと思いますが、2018年はどうなりますか(笑)、法務に関わるご担当者の皆様にはお読みいただきたいと存じます。

今年は29日まで、まだまだ仕事が続きます。弁護士の視点から、とてもおもしろい仕事が多いので、また守秘義務に反しない範囲で(少し落ち着いたら)ブログ等で紹介できるかもしれません。

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2017年12月25日 (月)

来年こそ高まるか-公益通報者保護法の改正に向けた機運

12月24日の日経朝刊におきまして、ひさしぶりに公益通報者保護法の改正に関する記事が掲載されました。内閣府の公益通報者保護制度の実効性向上に向けたプログラム(工程表)では、来年法改正の予定とされていますが、消費者庁としてはやはり2019年を目標にしているようです。このたびの法改正は企業や監督官庁にも大きな影響を及ぼすはずなので、経済団体や関係省庁との折衝が続くものと思われます。

ただ、私は⑴ガバナンス改革が進む中で、ガバナンス構築の目的として「CSR経営の推進への配慮」ということが語られるようになってきたこと、⑵最近の一連の無資格検査事例、品質検査データ改ざん事例においては内部通報制度が機能していなかっために内部告発やSNSへの書き込みが不祥事発覚に寄与したこと、⑶リニア工事不正受注事例において、リニエンシー制度が機能し、経営者にとって他社よりも早く正確な情報収集が重要であることが改めて認識されるに至ったこと等から、公益通報者保護法の改正への機運は経済団体でも高まるものと予想しています。

とくに最近は、グループ企業における不正情報が親会社に届かないことで、親会社が致命的な信用低下を招く事案が目立ちます。これだけ戦略的なM&Aが増えていますので、いくらグループ・ガバナンス、企業集団内部統制に配慮したとしても、かならず不祥事は発生します。だからこそ、発生した不祥事をどれだけ早く親会社が察知するか、そこがグループ全体の企業価値向上のためには不可欠の施策であり、内部通報制度の充実や公益通報者保護法の法改正への対応に関心を向けるべきです。

日経記事では、公益通報できる「通報者の範囲の拡大」や行政通報(内部告発)に関する消費者庁窓口の一元化について紹介されていますが、実際には法改正が予定されている項目はたくさんあります。また、記事には掲載されていませんが、企業が内部通報制度を適切に運用することを促すためのインセンティブ作り(認証制度、表彰制度)も進められています。2018年は、法改正に向けたワーキング・グループ等の活動がさらに活発になると予想されますが、どうか今後の審議内容(公益通報者保護制度の実効性を高めるためのシステム作り)について、多くの方々に関心をもっていただければと願っています。

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2017年12月21日 (木)

不祥事防止、発見に向けた創業者(創業家)の役割

今年は年末まで「企業不祥事が次々と報じられる一年」となりました。当ブログでも、会社法改正等、ガバナンス改革関連の話題を書きたいと思っておりましたが、どうしても不祥事関連の報道に反応してしまいました。

今年も役員セミナー等で多くの会社にお招きいただきましたが、セミナーの前後で、不祥事関連の話題を中心に創業者、創業家の方々とお話する機会が多かったように思います。オーナー経営者として経営の最前線にいらっしゃる創業者だけでなく、ビジネスの第一線はプロパー経営者に任せて「文化の伝承」だけに従事される創業者ともお話をしました。さらに本業でも創業家の方々の(諸々の?)お手伝いが多い一年でした。

創業者、創業家の力が強い企業では「経営トップの暴走を食い止めにくいガバナンス」が形成されているがゆえに不祥事は発生しやすいのではないか(不正リスクが高いのではないか)・・・と言われています。組織ぐるみの不祥事のリスクということでみれば、たしかに正しい一面もあると思いますが、最近世間を騒がせる不祥事は創業者、創業家の力の強い会社では発生しないのではないかと考えています。なぜなら、創業者、創業家は「組織のバランス」を慎重に見極められるからです。

どの事例とは申しませんが、工程ラインを止める、車両の運行を停止する、新規上場を延期することには勇気が必要です。多大な関係者に迷惑をかけ、多大なコストを必要とする以上、声を上げる人にはそれなりの覚悟と責任が求められます。おそらく、自分と家族の生活がかかっている一般の社員が自力でこの覚悟と責任を負担することは至難の業です。だとすれば、営業や研究開発、経営企画にモノが言えない品質管理や内部監査、法務や経理部門といった組織のバランスを変える必要があります。

業績と経営効率の向上が求められる企業において、創業家や創業者の重要な役割は、この組織間の力学上のバランスを図ることだと思います。「おかしい」と思えばラインを止める、運行を中止する、新規上場を延期する、という行動を執行部門のトップに進言することは、なによりもこの組織間のバランスがとれていなければむずかしい。ラインを止める覚悟と責任は、すくなくとも品質管理・保証部門や経理法務部門の組織全体で背負う必要があると思います。

「おまえら、法務の●●課長が『調査の必要がある』と言うとるんや!納期間に合わんのやったら謝ってこい!調べるほうが先や!」とオーナー経営者が怒鳴れば、これがひとつのストーリーになります。これでやっと法務や監査部門が「おかしい」と声を上げる土壌が生まれます。もちろん、この「おかしい」と声を上げた担当者が自身のスキル(社内の根回しなど、組織力学上のスキル)を磨かなければ評価されないことは当然です。しかし「声を上げても何も変わらない」といった組織風土だけは変えなければ、同じような不祥事は何度も繰り返されるでしょう。

上場、非上場にかかわらず、こういった「組織バランス」を慎重に見極めている創業者(創業家)が多いことに、最近気づきました。現在日本では2000名以上の組織内弁護士(企業内弁護士)がいらっしゃいますが、(これは独断と偏見かもしれませんが)オーナー色の強い企業で勤務している組織内弁護士の方々は、責任が重い代わりに大きな権限をもって仕事をされているように感じます。格付け会社がESG指標を評価基準に採用する時代となり、また内部通報制度の充実がSDGsの目標8および12に資すると消費者庁が宣言する時代です。どうすれば不祥事に強い組織となるのか・・・、これも企業価値の向上につながる課題ではないでしょうか。

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2017年12月20日 (水)

リニア工事不正受注事件の摘発は日本版司法取引の試金石となるか?

19日のNHKニュースによりますと、リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で、大林組さんが大手ゼネコン4社による不正な受注調整を認めたそうです。そして同社は、談合などの違反行為を自主申告すれば課徴金が減免される制度(リニエンシー制度)に基づいて、公正取引委員会に違反を申し出ていたことが関係者への取材で判明した、とのこと。

本事件は大林組さんへの偽計業務妨害容疑での捜査を端緒として、タテに伸びるのか(不正競争防止法違反容疑)、ヨコに伸びるのか(独禁法違反容疑)とても関心を持っておりました。私は(JR東海担当者が情報を漏らした、との報道から)タテに伸びるものと思っておりましたが、どうもヨコに伸びていくような展開になりましたね(となりますと、たいへん大きな不祥事事件に発展する可能性が高いです)。大手ゼネコン4社の役員の皆様方にとってはかなり厳しい状況になってきたようです。

役員の民事責任との関係でいえば、もし独禁法違反の事実が公取委で認められた場合、課徴金は数十億円に上るとみられていますが、リニエンシーによって課徴金が減免されます(ただし減免の対象は「事業者」です)。これはゼネコン各社の役員の株主代表訴訟リスクと大きく関係します(住友電工株主代表訴訟参照)。役員の方々のところへ、談合に関する自社の関与情報が届くのが遅くなり、タッチの差で課徴金減免を得られなかったとなりますと、「内部統制システムの構築義務違反」(どちらかといえば、整備よりも運用に関する任務懈怠でしょうか)に問われる可能性が出てきます。

また、役員の刑事責任との関係でいえば、談合に参加した社員の供述によって経営トップの関与がどれだけ立証できるか、という点が注目されます。すでに大林組さんの場合には副社長クラスの方の供述がとられているようですが、他社さんではどうなのでしょうか。

マスコミではリニエンシー制度の適用についての報道が目立ちますが、私は来年6月3日までに施行される改正刑事訴訟法上の「協議・合意制度」(日本版司法取引)の試金石になりそうな事案だと考えています。これまでも事実上の司法取引は行われていましたが、同制度が施行されますと部下である実行者を起訴しないことを条件に、上司(経営幹部)の関与について(部下に)真実を証言させるということが法的に認められることになります。たとえば司法当局がカルテル摘発に動いたにもかかわらず全容解明が進まない場合に、この協議・合意制度によって役職員の積極的な証言が得られれば一気に全容解明が進むことが考えられます。

もし、今回の事例が大規模なカルテル摘発を目的とするものであるならば、来年6月までに施行される改正刑事訴訟法の適用をにらんだものではないでしょうか。ちなみに2015年12月3日の最高裁判決(被告人・被疑者に不利益な刑事訴訟法の改正条文に関する遡及適用は、憲法39条が禁止する遡及処罰に該当しない)からすれば、このたびのリニア不正受注事件の捜査にも日本版司法取引の適用はありうると思われます。

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2017年12月18日 (月)

グループガバナンスの難しさを痛感する亀田製菓子会社会計不正事件

第2クールを迎えた経産省「コーポレートガバナンスシステム研究会(CGS研究会)」では、いままでエアーポケットだった(とされる)グループガバナンスを中心課題として審議されるそうです(12月8日の第2クール第1回提出資料参照)。日本の会社法は単体企業を基礎とした利害調整規範として規定されていますので、法律家が企業集団のガバナンスを議論することはなかなか難しいのが実態です。

12月13日(木)の日経朝刊(経済教室)では「子会社管理 成功の秘訣は?」と題して、経営学者でいらっしゃる若林直樹氏(京大教授)の論稿が掲載されていました。グループ経営の巧拙を、親会社のコストとベネフィットから分析する手法はとても説得力があり、親会社の経営陣に説明する際にはコーポレートファイナンスの見地からの解説のほうが納得感があるのではないかと思います。

さて、先週金曜日(12月14日)、亀田製菓さんの海外子会社の会計不正事件について、外部調査委員会の報告書が公表されました。子会社の経理部長が棚卸在庫を過大に計上して原価を下げ、過剰な利益を計上していたというもので、不正会計事案としてはどこにでもありそうな内容です。ただ、本報告書は親会社である亀田製菓さんが「なぜ早期に子会社不正を見抜けなかったのか」、親会社のグループガバナンスへの取り組みを詳細に分析しており、とても興味深いものになっています。「なぜ経理部長が自身の判断で不正に手を染めたのか」といった理由についても、逡巡の末に答えを出しているところは誠実です。報告書もとてもわかりやすい文章で整理されていますので、グループガバナンスに関心のある方にはお勧めの報告書です。

僭越ながら、私が本報告書を高く評価する点は、他の第三者委員会報告書ではあまり触れられていない「監査の問題点」を詳細に解説しているところです。親会社の内部監査、監査役監査、そして子会社の会計監査人監査の問題点について(法的責任を追及する意図ではない、と前書きされているものの)かなり詳細に追及しており、「もし監査が十分になされていれば、2014年の時点で不正を発見することができたのではないか」「しかし、子会社監査に費やしうる人的資源や物的資源を考えれば、やむをえない面もある」といったところ、理想ではなく現実論に立脚した評価がなされています。これは私の感想ですが、海外子会社の会計監査人と親会社の会計監査人との意思疎通がさらに密であれば、会計不正を早期に発見できたのではないかとも思えます(ただ、本報告書では、当該子会社の売上規模からすると、親会社会計監査人からみると重要子会社とは言えなかったとのこと)。

このたびの「グループガバナンスの難しさ」との関係でいえば、本報告書は親会社の海外子会社管理に関する「関連部署間の連携不足」を指摘しています(報告書66ページ参照)。海外事業部門が主たる管理をしているが、部門間の縦割り慣行によって問題点の共有がなされていなかった、という点は私の経験からみても「どこの会社でも指摘できる」発生要因だと思います。海外事業部門の力が強い組織だと、監査部門はどうしても「○○さんを通さないと質問できない」といった亀田製菓さんと同じ悩みを抱きます。コーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②にもあるように、平時から有事を想定した取り組み(不正疑惑が発生した場合の社内ルールの策定等)を進めることが大切ではないかと思います。

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2017年12月15日 (金)

リニア工事不正受注事件への適用法令は偽計業務妨害罪か?

法務省HPにアップされました「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を読みましたが、予想していた以上にワクワクしますね(笑)。もちろん、あくまでも「たたき台」なので法改正と直結しませんが、こんなところに専門家の方々の関心(政府の関心?)が向けられている・・・と思うと「改正が必要とされる背景事情を含めて、もっと勉強しなくちゃ!」といった前向きな気持ちになります。あっそうそう、日弁連を通じて出していただいた私の改正案(株主総会における検査役選任権を取締役、監査役への付与する旨)は跡形もありませんね(笑)。せっかく優秀な先生方に、理屈が通るように修正していただいたのに申し訳ございません<m(__)m>。法務省のご意見はしっかり受け止めましたので、次の機会にまたがんばりましょう(#^.^#)・・・以下本題。

12月11日のエントリー「ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)」の冒頭で少しだけ触れておりますリニア新幹線工事に関する不正受注事件ですが、予想どおり(?)大林組さんの不正受注の背景には工事発注側のJR東海さんの関与(価格情報の漏えい)があったと伝えられています。たとえば14日の朝日新聞ニュースでは

大林組幹部が東京地検特捜部に対し、発注元のJR東海側から非公表の工事価格を聞いたことを認めていることが、関係者への取材でわかった

と報じられています。

ところで、そうなりますと素朴な疑問が湧いてきます。偽計業務妨害罪における「偽計」とは、一般には人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤,不知を利用する違法な手段を指していますが、そもそもJR東海さんは、工事価格の漏えいを認識しているわけですから欺罔されたり、錯誤に陥っているわけではありません。したがって偽計業務妨害罪は成立しないのではないか、といった疑問です。上記朝日新聞ニュースも、そのあたりに少し触れています。

特捜部は、大林組の行為が、民間企業の公正な発注業務を妨げた偽計業務妨害の疑いにあたるとみて調べているが、JR東海の情報漏洩が組織ぐるみの場合、同容疑が適用されないとする専門家もいる

とのこと。なるほど、JR東海の担当社員が会社とは関係なく工事価格を漏らしたということであればJR東海さんは被害者ということで偽計業務妨害罪が成立するが、組織ぐるみで工事価格を漏らしたと評価される場合には同罪は成立しない、といった意見も成り立ちうる、ということのようです。ということは、大林組さん(もしくは役職員)側からすれば、「JR東海さんの幹部は価格情報の漏えいを認識していた」と主張すれば偽計業務妨害罪を免れることができるのでしょうか?

あまり刑事法は詳しくありませんが、大林組さんが同業他社と受注調整をしていた場合には偽計業務妨害罪を適用すべきですが、JR東海さんが関与しているような場合にまで安易に同罪は適用できないのではないかと思うところです。むしろ先日のエントリーで書いたように、不正競争防止法の共犯として立件するほうが適切な気もしますが、いかがなものでしょうか。工事価格情報をJR東海さんの営業秘密として、会社に損害を発生させることを認識しながら受注業者に漏えいした点、漏えいされた営業秘密を活用した点を犯罪行為として捉える、というものです。偽計業務妨害であれば、組織犯罪処罰法による加重要件を付加しないかぎり法人を処罰できませんが、不正競争防止法違反であれば両罰規定によって法人の犯罪も問うことが可能です。

しかしこういった領域に捜査当局がメスを入れる・・・ということになりますと、他のJVでも同様の行為が見つかってしまって工事が停滞してしまうおそれがありますね。結局「見せしめ」的な捜査になってしまうのでしょうか。。。

 

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2017年12月14日 (木)

地面師詐欺事件と売主側に関与した専門家の法的責任-最高裁の判断下る

積水ハウスさん、アパホテルさんの事件報道をもとに、このところずっと注目しておりました地面師詐欺における専門家責任(弁護士過誤)に関する裁判についてのご報告です。こちらの経済系ジャーナル記事でも取り上げられているとおり、本人確認情報を提供した弁護士の法的責任に関する判断が、一審と二審では分かれておりました。一審では本人確認をした弁護士が敗訴したものの、控訴審ではその責任を否定する逆転判決が出されておりました。ちなみに、私が11月に取り上げたエントリーはこちらこちらです。

そして本日(12月13日)、事件関係者の方からご報告いただきましたが、地面師詐欺の被害者(なりすまし本人からの不動産買主)による上告受理申立てを棄却する最高裁決定が12日付けで出されたそうです。新証拠が上告人から提出されていたようですが、やはり私の予想どおり「なりすまし本人」に本人確認情報を提供した弁護士の過失(ミス)は最高裁で否定されたことになります。なお、本件裁判については、訴訟代理人から判例時報社に判決文が持ち込まれているようなので、追って逆転判決となった控訴審判決、そして昨日の最高裁決定が判例時報に掲載されることになるものと思います。

地面師詐欺事件で専門家責任が容易に認められるようになりますと、ゲートキーパーとしての法律専門家としての仕事を誰もやりたがらなくなり、また一部の悪質な法律家の暗躍の場を拡大することになってしまって、地面師詐欺被害を増幅しかねないといった危惧を抱いておりましたので、私個人としては結論には納得しております(なお、本件では真の所有者から当該弁護士に対する損害賠償請求訴訟も提起されていますが、こちらは未だ裁判係属中だそうです)。

ただ一方で、これまでのエントリーで述べているように、たとえ売主側に法律専門家の関与があるとしても、とりわけ買主が法人の場合には売主確認に関する内部統制システムを適切に整備・運用する必要があるということが言えそうです。ほしい物件であればあるほど、「相手方が本人であってほしい、いや、本人に違いない」といったバイアスが買主側に働いてしまうので、冷静に売却を決定するためのプロセスをあらかじめ社内ルール化しておく必要がありそうですね。

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2017年12月12日 (火)

取引先社員による内部告発の脅威-大手ゼネコン役員辞職

本日(12月11日)ある会合で、新刊の拙著をお読みになった方から「以前出された本よりも読みやすくなったが、『内部通報』と『内部告発』の区別はわかりにくい。せめて『内部告発』は『外部告発』と表記すべきだ。そうすれば内部通報との区別もイメージしやすい」とのご意見をいただきました。外部第三者への社員による情報提供は「内部告発」という用語が一般的に使われているのですが、一般の方に向けた本であれば、たしかにイメージしやすい表記をすべきだったかもしれませんね(法律上の用語でもないので、今後は検討いたします)。

さて、当ブログの本日の話題はといえば、間違いなく多くのマスコミで取り上げられているこちらの記事になってしまいます(清水建設、執行役員辞職。下請け業者に実家の雪下ろしさせ・・・毎日新聞ニュースより)。最初に報じたのが毎日新聞ニュースでしたが、テレビニュースでは、多くの下請け事業者の社員が清水建設執行役員の方の実家に集まり、雪下ろしではなく「草むしり」をしている映像が映し出されておりました。報道では「マスコミからの照会により社内調査を進め、本件が発覚した」とありますが、テレビニュースには下請業者社員の方が(顔ボカシをして)インタビューに応じておられたので、まちがいなく内部告発(外部告発)でマスコミに情報が提供されたものです。

大手ゼネコンさんの不祥事といえば、偽計業務妨害罪容疑で捜査が進行している談合や賄賂といった事例が思い浮かびますが、(もちろん競争不正という意味ではとても違法性は高いのですが)「会社のためにやった」という意味では、日本人はやや寛容なところがあると思います。しかし「実家の草むしり、雪下ろしを下請け業者にやらせた」というのは私利私欲のための優越的地位の濫用であり、社会的批判はとても強いものとなるはずです。当該下請け業者の資本金が3億円以下なのかどうか不明ですし、ゼネコンさんが法人として利益(役務の提供)を得たわけではないので、下請法違反には該当しないのかもしれません。しかし、この下請け業者さんは福島の除染作業を請け負って100億円もの売上を計上していたそうですから、ゼネコンさんが見返りに業務を委託していたのではないか・・・といった疑惑を持たれてもしかたのない行為です。

本事件に関連するネット掲示板を読んでおりますと「ゼネコンと下請けの関係からすれば、こんなの日常茶飯事だろ」「告発した社員は下請け業者から解雇されるだろうな、余計なことしたんだから」といった書き込みが散見されます。もし、本当に掲示板の書き込みが正当な意見だとすれば、ゼネコンさんの社内調査は(税金が使われている受託事業である以上)かなりスコープを拡大する必要があると思います。また、清水建設さんのヘルプライン(内部通報規程)では、おそらく取引先社員による内部通報も許容しているはずですから、当該下請け業者社員による内部通報の有無も調査すべきです(もちろん、このような不適切行為が「公益通報」に該当しないとしても、下請け業者への報復的な取引制限については民事上問題になりうるものと考えます)。

かりに「こんなのゼネコンの世界ではあたりまえ」であったとしても、世間の常識とかけ離れていれば告発の脅威にさらされます。人手不足の折、今後は同様の不祥事発覚がさらに増えるものと思われますが、社内で問題行為を早期に発見するためにも内部通報制度を充実する必要があります。

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2017年12月11日 (月)

ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)

大林組さんの入札不正(偽計業務妨害容疑)事件が報じられていますが、今後どんな展開になっていくのでしょうかね?不正競争防止法違反事件に発展するのでしょうか、それとも共犯事件に発展するのでしょうか。今後の特捜部の捜査に関心が集まりますね(以下本題です)。

日本の上場会社で敵対的買収防衛策が話題に上るようになって10年が経過しましたが、同じく不祥事対応の重要性が真剣に語られる契機となったダスキン事件株主代表訴訟大阪高裁判決の確定からまもなく10年が経過します(最高裁決定は平成20年2月12日)。

法令違反の有無・・・という点では少し状況が異なりますが、近時の品質検査データ偽装問題でも、「安全性に関する問題は確認されていないが、安全性に関わる社内ルール違反の行動が認められた場合に、当該違反行為を公表すべきかどうか」という点が議論されています。「SNSに書き込みがあったから公表した」「神戸製鋼所が公表したことを参考にして公表した」「経産省から強く公表を勧められたので公表した」等、さまざまな理由が(社長さんの記者会見で)述べられていますが、おそらく社内の経営陣の皆様からすれば「この程度でなんで公表しなければいけないのか」といった心境ではないかと思います。

ただ、11年前のダスキン事件大阪高裁判決では、同社の取締役会での「積極的には公表しない」といった判断が善管注意義務違反とされました。違法添加物の入った「大豚まん」をすべて販売してしまい、販売終了後2年ほどが経過し、健康被害も出ていない状況のなかで、「過去に違法添加物の入った豚まんを売ってしまいました」と公表しないこと(あるいは公表の要否をきちんと判断しなかったこと)について、大阪高裁は取締役、監査役11名に総額5億7000万円の損害賠償を命じました(平成20年には最高裁でも高裁判決が維持されています)。

当該ダスキン事件株主代表訴訟判決については、取締役の内部統制構築義務や危機に直面した取締役への経営判断原則の適用といった論点がありますが、平成13年当時の取締役会と同29年の取締役会では、裁判所の考え方も異なるでしょうし、またコンプライアンス経営に関する社会状況も異なることから、ダスキン事件判決の(今日の企業社会における)射程距離についてあらためて考え直す必要があるのではないかと思っております。

詳細はまた具体的な事例などを交えながら述べたいと思いますが、私なりにダスキン事件判決から考えることは、①内部統制は整備面よりも運用面に議論が移っていることを法的にどう考えるべきか、とりわけ有事行動への「信頼の原則」の適用をどう考えるか、②不祥事発覚時に社内調査や第三者調査が行われることが慣行となりつつあるが、当該調査結果について裁判所はどこまで依拠できるか、③企業としては、どのような場合に(過去の)不祥事を公表することが法的義務とされるのか、「公表基準」なるものを策定した場合には、当該基準に従った行動をとれば善管注意義務を尽くしたことになるのか、④監査役や社外取締役等の非業務執行役員は、たとえ結果として違法行為を阻止できなくても、どこまでの行動をとれば善管注意義務を尽くしたと評価されるのか、といったあたりでしょうか。

いずれもダスキン事件に関する事実にヒントが隠されていると思います。おいおい、最近の事例などをもとに論点への考え方をまとめてみることにします。

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2017年12月 8日 (金)

拙著「実効的な内部通報制度」がアマソン(ビジネス法入門)で1位になりました。

2日続けての自分ネタで恐縮ですが、12月7日の昼過ぎから現在(8日午前1時)まで、拙著「企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度」がアマゾンの「ビジネス法入門」ランキングで1位になりました。皆様、どうもありがとうございます!皆様がご覧になる時刻にはすでに落ちていると思いますが、ともかく1時間毎に更新されるランキングで12時間ほど首位をキープできたのは素直にうれしいです。

これまでも1位になったことはありましたが、今回のようにジワジワと上昇して1位になるのは初めてです。良くも悪くも(?)、多くのビジネスパーソンの皆様に評価していただけたのかもしれません。ありがたいことに、経済雑誌でもご紹介いただけるようですが、企業不祥事がいろいろと報じられている現状と無縁ではないと思います。

本業と忘年会のために、ブログを書く時間がなかなかとれませんので、このようなご報告だけで本日は失礼いたします<(_ _)>

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2017年12月 7日 (木)

国家公務員倫理研修の講師を務めさせていただきました。

本業と講演でかなり忙しい時期でして、ブログの更新もなかなか進まない状況です。放送法の合憲性が争われた受信料訴訟に関する最高裁判決を含め、書きたいネタが山積しておりますので、またまとめてアップしたいと思います。

本日は人事院・国家公務員倫理審査会主催の研修(国家公務員倫理法に基づく研修)の講師として、200名以上の官僚の方々向けにお話をさせていただきました(霞が関プラザホール)。国会の会期中にもかかわらず、本当に多数の皆様にお越しいただき、ありがとうございました。このような機会は間違いなく一生に一度なので(笑)、私自身の弁護士としての経験をもとに、「公務員倫理はかくあるべし」という意見をはっきりと申し上げました。

終了後は裁判員制度の立ち上げにご尽力された池田審査会会長(元福岡高裁長官)や、立花委員(人事官)、前田委員(資生堂相談役)とも少しだけ意見交換をさせていただきましたが、さすがにこの場で前田委員に東芝の6000億円増資の件についてご質問する勇気はありませんでした(^^;;

あの「ノー○ンしゃぶしゃぶ事件」以降、国家公務員の方々の過剰接待問題があまり報じられなくなったのも、この審査会が「グレー案件」に積極的に関与するようになったから・・・ということのようで、私自身も企業のコンプライアンス経営支援に参考となる意見をいただき、とても勉強になりました。

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2017年12月 5日 (火)

経営陣の処分と任意の指名・報酬委員会の役割

12月6日はNHKの受信料請求事件の最高裁大法廷判決が出ますね。ビジネス法務に直接関係があるというわけではありませんが、放送法の合憲性に関する判断はとても興味深いところです。放送と通信の垣根がなくなりつつある現状について最高裁が言及するのかどうか、判決をじっくり読みたいですね。

さて本日はひさりぶりのガバナンス関連のお話です。最近は不祥事が発覚しますと、社内調査委員会や第三者委員会が事実調査をして、「このような不祥事を発生させたのは、ガバナンスが機能していなかった」と指摘されることが多いですね。そこで調査委員会報告の結果を受けて、代表取締役の降格(取締役へ)や3カ月間減俸30%といった社内処分が発表されますが、これって任意の指名委員会や報酬委員会を設置している会社ではどうしているのでしょうか?

今年7月の東証の調査では、東証1部上場会社の3割以上が任意の指名・報酬委員会を設置しているそうで、そのような設置会社の半数近くでは委員の過半数を独立社外取締役が占めているそうです。ただ委員会の開催は年1回程度の会社が多いようで「本当に委員会が機能しているのだろうか」との疑問も生じます。

ところで、会計不祥事を発生させてしまった東証1部の某企業(指名・報酬委員会設置済)では、社内調査委員会を設置して調査結果を公表したのですが、社長や他の経営陣の減給にあたり、指名・報酬委員会を開催すべきかどうか、役員間で議論されたそうです。社内には懲罰規程に基づく懲罰委員会があり、そこで審議すべきなのか、それとも降格や減給を含め、新たに設置した指名委員会、報酬委員会で審議すべきなのか、たしかに迷うところかもしれません。

もちろん任意の委員会を設置した理由は、後継者計画に従って次期社長を選任するため、報酬決定に対する取締役会の監督の実効性を高めるためというものであり、ガバナンス・コードの要請もそのような点にあることは間違いありません。しかし不祥事が発生した場合の社内処分も指名・報酬に関わる問題ですから、独立社外取締役が過半数を占める委員会にて審議する実益もありそうです。結局、その会社では、懲罰規程に基づく審議経過の客観性を指名・報酬委員会が事後的に担保する、といった形で指名・報酬委員会が関与したそうですが、本当にそれでよかったのかどうかはわかりません(実質的にはすでに決定されたことを追認したにすぎない、ということになりそうです)。

企業不祥事といっても「法令違反」が認められないケースもあること、社内処分は案件ごとに自浄作用の発揮の一環として行われるものであること、経営陣の処分については利益相反状況が認められることなどを考えますと、私は指名・報酬委員会が積極的に関与するほうがステイクホルダーへの説明がつきやすいようにも思うのですが、いかがでしょうか。こういったことも含めて(実施宣言をした上場会社では)コードの運用責任が果たされるべきと考えます。

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