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2017年12月15日 (金)

リニア工事不正受注事件への適用法令は偽計業務妨害罪か?

法務省HPにアップされました「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台(1)」を読みましたが、予想していた以上にワクワクしますね(笑)。もちろん、あくまでも「たたき台」なので法改正と直結しませんが、こんなところに専門家の方々の関心(政府の関心?)が向けられている・・・と思うと「改正が必要とされる背景事情を含めて、もっと勉強しなくちゃ!」といった前向きな気持ちになります。あっそうそう、日弁連を通じて出していただいた私の改正案(株主総会における検査役選任権を取締役、監査役への付与する旨)は跡形もありませんね(笑)。せっかく優秀な先生方に、理屈が通るように修正していただいたのに申し訳ございません<m(__)m>。法務省のご意見はしっかり受け止めましたので、次の機会にまたがんばりましょう(#^.^#)・・・以下本題。

12月11日のエントリー「ダスキン事件株主代表訴訟判決確定から10年(あらためて考えること)」の冒頭で少しだけ触れておりますリニア新幹線工事に関する不正受注事件ですが、予想どおり(?)大林組さんの不正受注の背景には工事発注側のJR東海さんの関与(価格情報の漏えい)があったと伝えられています。たとえば14日の朝日新聞ニュースでは

大林組幹部が東京地検特捜部に対し、発注元のJR東海側から非公表の工事価格を聞いたことを認めていることが、関係者への取材でわかった

と報じられています。

ところで、そうなりますと素朴な疑問が湧いてきます。偽計業務妨害罪における「偽計」とは、一般には人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤,不知を利用する違法な手段を指していますが、そもそもJR東海さんは、工事価格の漏えいを認識しているわけですから欺罔されたり、錯誤に陥っているわけではありません。したがって偽計業務妨害罪は成立しないのではないか、といった疑問です。上記朝日新聞ニュースも、そのあたりに少し触れています。

特捜部は、大林組の行為が、民間企業の公正な発注業務を妨げた偽計業務妨害の疑いにあたるとみて調べているが、JR東海の情報漏洩が組織ぐるみの場合、同容疑が適用されないとする専門家もいる

とのこと。なるほど、JR東海の担当社員が会社とは関係なく工事価格を漏らしたということであればJR東海さんは被害者ということで偽計業務妨害罪が成立するが、組織ぐるみで工事価格を漏らしたと評価される場合には同罪は成立しない、といった意見も成り立ちうる、ということのようです。ということは、大林組さん(もしくは役職員)側からすれば、「JR東海さんの幹部は価格情報の漏えいを認識していた」と主張すれば偽計業務妨害罪を免れることができるのでしょうか?

あまり刑事法は詳しくありませんが、大林組さんが同業他社と受注調整をしていた場合には偽計業務妨害罪を適用すべきですが、JR東海さんが関与しているような場合にまで安易に同罪は適用できないのではないかと思うところです。むしろ先日のエントリーで書いたように、不正競争防止法の共犯として立件するほうが適切な気もしますが、いかがなものでしょうか。工事価格情報をJR東海さんの営業秘密として、会社に損害を発生させることを認識しながら受注業者に漏えいした点、漏えいされた営業秘密を活用した点を犯罪行為として捉える、というものです。偽計業務妨害であれば、組織犯罪処罰法による加重要件を付加しないかぎり法人を処罰できませんが、不正競争防止法違反であれば両罰規定によって法人の犯罪も問うことが可能です。

しかしこういった領域に捜査当局がメスを入れる・・・ということになりますと、他のJVでも同様の行為が見つかってしまって工事が停滞してしまうおそれがありますね。結局「見せしめ」的な捜査になってしまうのでしょうか。。。

 

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