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2017年12月 5日 (火)

経営陣の処分と任意の指名・報酬委員会の役割

12月6日はNHKの受信料請求事件の最高裁大法廷判決が出ますね。ビジネス法務に直接関係があるというわけではありませんが、放送法の合憲性に関する判断はとても興味深いところです。放送と通信の垣根がなくなりつつある現状について最高裁が言及するのかどうか、判決をじっくり読みたいですね。

さて本日はひさりぶりのガバナンス関連のお話です。最近は不祥事が発覚しますと、社内調査委員会や第三者委員会が事実調査をして、「このような不祥事を発生させたのは、ガバナンスが機能していなかった」と指摘されることが多いですね。そこで調査委員会報告の結果を受けて、代表取締役の降格(取締役へ)や3カ月間減俸30%といった社内処分が発表されますが、これって任意の指名委員会や報酬委員会を設置している会社ではどうしているのでしょうか?

今年7月の東証の調査では、東証1部上場会社の3割以上が任意の指名・報酬委員会を設置しているそうで、そのような設置会社の半数近くでは委員の過半数を独立社外取締役が占めているそうです。ただ委員会の開催は年1回程度の会社が多いようで「本当に委員会が機能しているのだろうか」との疑問も生じます。

ところで、会計不祥事を発生させてしまった東証1部の某企業(指名・報酬委員会設置済)では、社内調査委員会を設置して調査結果を公表したのですが、社長や他の経営陣の減給にあたり、指名・報酬委員会を開催すべきかどうか、役員間で議論されたそうです。社内には懲罰規程に基づく懲罰委員会があり、そこで審議すべきなのか、それとも降格や減給を含め、新たに設置した指名委員会、報酬委員会で審議すべきなのか、たしかに迷うところかもしれません。

もちろん任意の委員会を設置した理由は、後継者計画に従って次期社長を選任するため、報酬決定に対する取締役会の監督の実効性を高めるためというものであり、ガバナンス・コードの要請もそのような点にあることは間違いありません。しかし不祥事が発生した場合の社内処分も指名・報酬に関わる問題ですから、独立社外取締役が過半数を占める委員会にて審議する実益もありそうです。結局、その会社では、懲罰規程に基づく審議経過の客観性を指名・報酬委員会が事後的に担保する、といった形で指名・報酬委員会が関与したそうですが、本当にそれでよかったのかどうかはわかりません(実質的にはすでに決定されたことを追認したにすぎない、ということになりそうです)。

企業不祥事といっても「法令違反」が認められないケースもあること、社内処分は案件ごとに自浄作用の発揮の一環として行われるものであること、経営陣の処分については利益相反状況が認められることなどを考えますと、私は指名・報酬委員会が積極的に関与するほうがステイクホルダーへの説明がつきやすいようにも思うのですが、いかがでしょうか。こういったことも含めて(実施宣言をした上場会社では)コードの運用責任が果たされるべきと考えます。

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コメント

経営者による不祥事を起こした企業は、社外取締役の機能不全も含むガバナンスの欠陥を抱えているものと理解されますので、不祥事発覚後に新たに独立社外取締役に就任した方で構成する委員会で審議しなければ、形だけ、なんちゃってになってしまう気がします。
不正に深く関与していた取締役が管理部門を掌握していたなら、自分達に牙を剥く独立社外取締役を選任議案に含めるようなことは、しないでしょう。
指名報酬委員会を設置していない、役員関与不祥事会社では実務でどうしているのでしょうか、監督官庁や日本取引所自主規制法人に役員処分案を開示前に打診して、軽い処分案から順に見せて落としどころを探っていたりするのでしょうか。興味深いです。

投稿: たか | 2017年12月 5日 (火) 20時15分

報酬を払うときの委員会が重要なら、返してもらうこともきっと重要なので、委員会見限にしないとバランスが取れないでしょう。「クロ-バック」(不祥事発生等を理由とした報酬返還請求権)が海外では話題になっていて、その問題の議論も必要なのですが、その手前の段階なので、日本は遅れている(検討した上で敢えて導入しない、というわけではないようなので)と言われてしまうのですね。

投稿: Kazu | 2017年12月 6日 (水) 17時34分

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