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2017年12月21日 (木)

不祥事防止、発見に向けた創業者(創業家)の役割

今年は年末まで「企業不祥事が次々と報じられる一年」となりました。当ブログでも、会社法改正等、ガバナンス改革関連の話題を書きたいと思っておりましたが、どうしても不祥事関連の報道に反応してしまいました。

今年も役員セミナー等で多くの会社にお招きいただきましたが、セミナーの前後で、不祥事関連の話題を中心に創業者、創業家の方々とお話する機会が多かったように思います。オーナー経営者として経営の最前線にいらっしゃる創業者だけでなく、ビジネスの第一線はプロパー経営者に任せて「文化の伝承」だけに従事される創業者ともお話をしました。さらに本業でも創業家の方々の(諸々の?)お手伝いが多い一年でした。

創業者、創業家の力が強い企業では「経営トップの暴走を食い止めにくいガバナンス」が形成されているがゆえに不祥事は発生しやすいのではないか(不正リスクが高いのではないか)・・・と言われています。組織ぐるみの不祥事のリスクということでみれば、たしかに正しい一面もあると思いますが、最近世間を騒がせる不祥事は創業者、創業家の力の強い会社では発生しないのではないかと考えています。なぜなら、創業者、創業家は「組織のバランス」を慎重に見極められるからです。

どの事例とは申しませんが、工程ラインを止める、車両の運行を停止する、新規上場を延期することには勇気が必要です。多大な関係者に迷惑をかけ、多大なコストを必要とする以上、声を上げる人にはそれなりの覚悟と責任が求められます。おそらく、自分と家族の生活がかかっている一般の社員が自力でこの覚悟と責任を負担することは至難の業です。だとすれば、営業や研究開発、経営企画にモノが言えない品質管理や内部監査、法務や経理部門といった組織のバランスを変える必要があります。

業績と経営効率の向上が求められる企業において、創業家や創業者の重要な役割は、この組織間の力学上のバランスを図ることだと思います。「おかしい」と思えばラインを止める、運行を中止する、新規上場を延期する、という行動を執行部門のトップに進言することは、なによりもこの組織間のバランスがとれていなければむずかしい。ラインを止める覚悟と責任は、すくなくとも品質管理・保証部門や経理法務部門の組織全体で背負う必要があると思います。

「おまえら、法務の●●課長が『調査の必要がある』と言うとるんや!納期間に合わんのやったら謝ってこい!調べるほうが先や!」とオーナー経営者が怒鳴れば、これがひとつのストーリーになります。これでやっと法務や監査部門が「おかしい」と声を上げる土壌が生まれます。もちろん、この「おかしい」と声を上げた担当者が自身のスキル(社内の根回しなど、組織力学上のスキル)を磨かなければ評価されないことは当然です。しかし「声を上げても何も変わらない」といった組織風土だけは変えなければ、同じような不祥事は何度も繰り返されるでしょう。

上場、非上場にかかわらず、こういった「組織バランス」を慎重に見極めている創業者(創業家)が多いことに、最近気づきました。現在日本では2000名以上の組織内弁護士(企業内弁護士)がいらっしゃいますが、(これは独断と偏見かもしれませんが)オーナー色の強い企業で勤務している組織内弁護士の方々は、責任が重い代わりに大きな権限をもって仕事をされているように感じます。格付け会社がESG指標を評価基準に採用する時代となり、また内部通報制度の充実がSDGsの目標8および12に資すると消費者庁が宣言する時代です。どうすれば不祥事に強い組織となるのか・・・、これも企業価値の向上につながる課題ではないでしょうか。

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コメント

山口先生 おはようございます。今年の出来事は、社会の転換期なんだとおぼろげながらに思っておりました。不祥事のてんこ盛りでした。『あと3CM』も仰天ニュースでした。本日のテーマで頭の中が整理出来ました。SDGsの目標8および12については年末に勉強いたします。山口先生 1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

投稿: サンダース | 2017年12月21日 (木) 05時33分

 まったく同感です。覚悟と責任が違う、ということで。建前を本音に近づけるには、企業理念を体現した創業家の威光が必要なのかもしれません。あるいはその理念を忠実に継承して実現している、本物のカリスマ経営者か。
 創業家にせよカリスマ経営者にせよ、環境は常時変わっているので、その覚悟が暴走したり、萎えたりしたときが危機でしょうけど。少なくとも、内部監査、品質保証、車両保守の担当者の声を増幅する、パワーアンプであってほしいものです。

投稿: 芝と竹馬 | 2017年12月21日 (木) 08時58分

 まあねえ、創業家やカリスマ社長が威光を盾に暴走して潰れるような潰れ方をする企業は既に潰れてるでしょうからねえ(汗)。
 某一族みたいに創業家が代替わりしたりすると、その都度危機に晒されたりもしますので(有能さって残念ながらあまり遺伝しなかったりしますし、また妙な入れ知恵を入れてくる人間が関与して来たりしますし)、創業家を頼るのはホントほどほどにしませんとね。あくまでも人治ではなく法治が基本です。

投稿: 機野 | 2017年12月21日 (木) 14時42分

皆様、ご意見どうもありがとうございます(来年もよろしくお願いいたします)。先日、同族会社(大会社)の創業家の方々が集まる会に出席する機会がありました。日本の経営環境に関する話題とともに、創業家ガバナンスに関する悩みなどが語られておもしろかったです。他のオーナー創業家はどうしているのか、みなさん勉強熱心でした。でも機野さんがおっしゃるように、そういったところに「妙な入れ知恵を入れてくる人たち」がいらっしゃるのは気がかりでしたね(笑)。私の気のせいかもしれませんが・・・(あっ、私もその部類だったりして・・・)

投稿: toshi | 2017年12月28日 (木) 11時26分

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