取引先社員による内部告発の脅威-大手ゼネコン役員辞職
本日(12月11日)ある会合で、新刊の拙著をお読みになった方から「以前出された本よりも読みやすくなったが、『内部通報』と『内部告発』の区別はわかりにくい。せめて『内部告発』は『外部告発』と表記すべきだ。そうすれば内部通報との区別もイメージしやすい」とのご意見をいただきました。外部第三者への社員による情報提供は「内部告発」という用語が一般的に使われているのですが、一般の方に向けた本であれば、たしかにイメージしやすい表記をすべきだったかもしれませんね(法律上の用語でもないので、今後は検討いたします)。
さて、当ブログの本日の話題はといえば、間違いなく多くのマスコミで取り上げられているこちらの記事になってしまいます(清水建設、執行役員辞職。下請け業者に実家の雪下ろしさせ・・・毎日新聞ニュースより)。最初に報じたのが毎日新聞ニュースでしたが、テレビニュースでは、多くの下請け事業者の社員が清水建設執行役員の方の実家に集まり、雪下ろしではなく「草むしり」をしている映像が映し出されておりました。報道では「マスコミからの照会により社内調査を進め、本件が発覚した」とありますが、テレビニュースには下請業者社員の方が(顔ボカシをして)インタビューに応じておられたので、まちがいなく内部告発(外部告発)でマスコミに情報が提供されたものです。
大手ゼネコンさんの不祥事といえば、偽計業務妨害罪容疑で捜査が進行している談合や賄賂といった事例が思い浮かびますが、(もちろん競争不正という意味ではとても違法性は高いのですが)「会社のためにやった」という意味では、日本人はやや寛容なところがあると思います。しかし「実家の草むしり、雪下ろしを下請け業者にやらせた」というのは私利私欲のための優越的地位の濫用であり、社会的批判はとても強いものとなるはずです。当該下請け業者の資本金が3億円以下なのかどうか不明ですし、ゼネコンさんが法人として利益(役務の提供)を得たわけではないので、下請法違反には該当しないのかもしれません。しかし、この下請け業者さんは福島の除染作業を請け負って100億円もの売上を計上していたそうですから、ゼネコンさんが見返りに業務を委託していたのではないか・・・といった疑惑を持たれてもしかたのない行為です。
本事件に関連するネット掲示板を読んでおりますと「ゼネコンと下請けの関係からすれば、こんなの日常茶飯事だろ」「告発した社員は下請け業者から解雇されるだろうな、余計なことしたんだから」といった書き込みが散見されます。もし、本当に掲示板の書き込みが正当な意見だとすれば、ゼネコンさんの社内調査は(税金が使われている受託事業である以上)かなりスコープを拡大する必要があると思います。また、清水建設さんのヘルプライン(内部通報規程)では、おそらく取引先社員による内部通報も許容しているはずですから、当該下請け業者社員による内部通報の有無も調査すべきです(もちろん、このような不適切行為が「公益通報」に該当しないとしても、下請け業者への報復的な取引制限については民事上問題になりうるものと考えます)。
かりに「こんなのゼネコンの世界ではあたりまえ」であったとしても、世間の常識とかけ離れていれば告発の脅威にさらされます。人手不足の折、今後は同様の不祥事発覚がさらに増えるものと思われますが、社内で問題行為を早期に発見するためにも内部通報制度を充実する必要があります。
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コメント
本題ではないので申し訳ありませんが、冒頭の用語について。
「告発」は法律用語だと思いますが、辞書でも「被害者以外の人が検察官や警察官に犯罪の事実を申し出ること」(手元の三省堂国語辞典、金田一京助編)とありますので、内部者が行う告発を「内部告発」と表現することは妥当だと思います。「内部告発」を「外部告発」に変えてしまったら、外部者が行う告発は単なる告発でもいいのですが却って紛らわしくなってしまうのではないでしょうか?今の「内部告発」が分かりにくいのであればせめて「内部通報」に対する類似概念として「外部通報」にしてもいいのですが、やはり「通報」と「告発」では字句から受ける印象(覚悟?)が違うような気がします。
投稿: 瀬戸三矢 | 2017年12月13日 (水) 11時37分
瀬戸さん、ご意見ありがとうございます。一般向けの使用を重視するか、法令用語との整合性を重視するか、というからも用語の使い方に差が出てきそうですね。参考にさせていただきます。
投稿: toshi | 2017年12月20日 (水) 01時04分