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2018年1月22日 (月)

「名ばかり第三者委員会」への警鐘と私的な改善提案

年末年始と、誠に興味深い仕事をさせていただいております。関係者の皆様が拙ブログをご覧になっておられると思いますので慎重な物言いをしなければいけませんが、①某社の経営権争いに関する事案(もうすぐ和解により終結予定)、②筆頭社外取締役としての指名・報酬に関わる委員会活動、③某社の不適切行為に関する特別調査委員会委員長(調査中)などなど。そんな中、病院で検査も受診せねばならず、なかなかブログネタを整理する時間がございません。なので、週末の夜にコメント程度の更新をしておきたいと思います。

1月18日(木)の読売新聞「論壇」にて、久保利英明弁護士が執筆された「名ばかり第三者委員会 企業の損失」が、いろいろなところで話題になっております。企業不祥事が発生した際、信用を失いかけた企業自身が調査をするよりも、中立公正な第三者が調査をするほうが事実関係、原因究明等の信頼性が高まる(説明責任を尽くせる)ということで、10数年前から「第三者委員会」が設置されるようになりました。しかし、現実には経営者から依頼を受けて、まさに企業に降りかかった火の粉を払うためのリスク管理目的で(経営者の免責を目的として)調査を行う、いわゆる「名ばかり第三者委員会」が散見されることは、拙ブログでも何度か取り上げてきたところです。

最近は「第三者委員会格付け委員会」のような私的な団体によって第三者委員会報告書の質の評価もなされるようになりましたが、久保利弁護士が嘆いておられるように、一般の方々には「名ばかり委員会の問題点」があまり認識されていないように思います(私自身も騙されそうになることがあるので偉そうなことは言えませんが・・・)。株主代表訴訟やクラスアクション等の企業裁判が少ない日本では、第三者委員会が発表した不祥事の事実、原因は、まるで裁判所の認定事実であるかのように信用され、誤った企業評価につながるおそれが多分にあります。この点は、誰かが警鐘を鳴らさなければならないのです。私自身も、調査の依頼者が企業の役員だとしても、消費者の安全や従業員の雇用など、全ての利害関係人のために「第三者委員会報告書」が存在する、と考えることがとても重要(長い目で見れば、企業価値を高めるために有益)だと考えています。

ただ、「名ばかり委員会」の弊害を除去するためには、事後規制(たとえば報告書の格付けによる評価活動)には限界があると思います。マスコミも、たとえ「名ばかり」であったとしても、その認定事実や原因に依拠して報道せざるをえず、その後、社内処分が公表されたころには社会的批判も終息してしまうのが常です。格付け委員会が評価をしたころには、世間は次の不祥事に注目しています。したがって、不祥事を起こした企業の経営者は「とりあえず平身低頭で、世間からの批判をかわせばなんとかなる」と考えるようになり、そのために「火の粉を振り払うことを目的とした名ばかり委員会」がもてはやされることになります。

そこで、2016年2月に東証が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」をあらためて思い起こすべきと思います。同プリンシプルには「第三者委員会を設置する際には、委員の選定プロセスを含め、その独立性・中立性・専門性を確保するために、十分な配慮を行う。」とありますが、むしろ「第三者委員会を設置する場合には、委員選定のプロセスを開示しなければならない」とすべき、というのが私の提言です。私は毎年多くの委員会報告書を読みますが、そこに委員として記載されている弁護士や会計士のお名前から、「ああ、この先生は、この会社の顧問法律事務所に在籍しているわけではないけど、たしか出身事務所(以前勤めていた事務所)だよな」といったことがわかります(かなり独立性・中立性に疑問が残ります)。せっかく社外役員がいらっしゃるにもかかわらず、委員選定プロセスに全く関与していないケースも散見されます。

信用できる報告書とそうでない報告書を(一般の方のレベルで)見分けるためには、事前規制の手法を用いて、少なくとも「第三者委員会」と称する場合には、その委員選定のプロセスを一般の方々にわかるように開示することが必要です。

もし、第三者委員会設置を決断することに迷いがあるのであれば、「非開示」の可能性を残したままで「プレ調査」を専門家に委ねるということも、東証「不祥事対応のプリンシプル」の趣旨に合致していると思います(プレ調査であるにもかかわらず、これを第三者委員会調査のように開示することは先の懸念を生じさせます)。たとえば監査役と会計監査人との連携の一環として、このような「独立・中立性のある法律や会計の専門家を中心としたプレ調査」を行い、「開示」の要否を検討し、「経営者としての覚悟」をもってもらうというシステムも一考に値するように思います。プレ調査の結果として疑義が残る場合には、潔く第三者委員会による調査を行うことを、経営者は決断すべきです。

日本公認会計士協会の倫理規則が改定され、会計監査人が広く不正対応に関わる時代になる今こそ、会計監査人は第三者委員会とそれ以外の調査委員会を峻別して活用し、「第三者委員会の役割を明確にする」ということも、事前規制の手法として検討すべきではないでしょうか。

 

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