青学の八田進二教授はホントのマジシャンだった(というお話)
日本内部統制研究学会、ACFE(公認不正検査士協会)ほか、様々な団体でお世話になっております八田進二教授(青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科)が、今年3月で退官されるそうです。先日(1月27日)、八田教授の最終講義が行われたそうで、残念ながら聴講できませんでしたが、この本はいち早く入手し、とりいそぎ読了いたしました。
「会計。道草 寄り道 回り道」 (八田進二著 泉文堂 2,200円税別)
本書は、これまで八田先生が会計・監査の専門誌「税経セミナー」「アカウンタンツマガジン」「JFAELジャーナル」「青山アカウンティングレビュー」等で連載していたご論稿に、現時点版としての解説文を加えた「八田ワールド」の集大成です。「教育者たる者は、むずかしいことをわかりやすく伝えなければならない」という八田先生の言葉どおり、会計・監査の問題点・課題がわかりやすく書かれています。会計・監査の世界を、時間軸を通して鳥瞰できる本にはなかなか出会うことはないため、文句なしおススメの一冊です。ちなみに東日本震災時の社会貢献活動の一環として、こちらのご著書を48名の会計研究者名「AKB48(Accounting Knowledge Board48)」で出版され、(ごく一部の方から)ウケておりましたので、(それに気を良くされたのか)本書のタイトルも(2012年当時の連載タイトルの転用ですが)おそらく「モーニング娘。」あたりに由来するのではないかとひそかに推測しております。
八田教授といえば、どうしても「内部統制」というイメージが強いのですが、グローバルな視点から「会計士は会計テクニシャンになるな!会計プロフェッションたれ!」というメッセージを繰り返し発信され、公認会計士の職業倫理について長く研究を続けてこられたことを本書で知り、たいへん感銘を受けた次第です(まさに職業倫理は精神論ではなく、職業的懐疑心を実践するための研究対象なのですね)。本書のタイトルも「監査。」ではなく「会計。」です。世間では八田教授の辛口の意見が定評ですが、職業倫理や職務への誠実性に裏付けられた意見だからこそ世間的にも賛同者が多く、また企業の社外取締役や社外監査役を数多くお務めになるなど、企業実務の方々からも高い支持を得ておられたものと思います。
本書は全章で56話から成り、それぞれ3頁以内の小稿で構成されているので、どこからでも興味の湧くテーマから読み進められます。私は会計監査の話題に関する最新事情について「八田先生ならどう考えているのだろう」といった興味で読み進めておりました(たとえば監査報告書の透明化・長文化についても、ご意見を述べておられます)。また職業倫理を研究することの意義(倫理は「エチケット」なのか?)なども、勉強になりますし、そこから派生して、最近の話題「会計監査とAI問題」へのご意見なども、将来の会計専門職を担う方々には、とても勇気を与えるものとなるはずです。そしてなんといっても「会計の原点に戻れ!」ということで、会計とは説明責任を尽くすことである、というご主張が何度も出てきます(だから「監査法人」という名称も「会計法人」と変えるべきだ、とのこと)。
ところでこのブログのタイトルですが・・・、それは本書をお読みになればわかります。私は最初にお会いしたときから「あのヒゲはどうもウサンクサイなぁ」と感じておりましたが、実は本当にマジシャンだったのですね(笑・・・最近は写真のようにヒゲはなくなっておりますが・・・)。※ 本写真は八田先生の最終講義の様子です。青学専門職大学院のFBから引用させていただきました。
内部統制ブームのころ、八田先生は会計監査の世界を飛び越えて、法曹界にも太いパイプを築かれました(私も、そのころお声をかけていただいた一人です)。いままで会計監査の世界と法律の世界が一緒になって研究をする、ということはなかったのではないかと。最近では「第三者委員会格付委員会」の委員にも就任されています。そういったところが道草をされ、寄り道をされ、そして回り道をされてきた八田先生の(余人をもって代えがたい)パーソナリティだと確信しています。青学を去って、これからどのような要職におつきになるのか存じ上げませんが、これからも会計監査の世界、法律の世界、そして企業実務の世界に対して、温かくも厳しい意見を送り続けていただきたいと思います。また、できれば八田先生に続く、いや、超えるような会計プロフェッションを、これからも育てていかれることを切に希望しております。
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