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2018年3月29日 (木)

米国の内部告発法は決して「内部告発奨励制度」ではない

三菱マテリアルさんのHPに特別調査委員会の最終報告書が公表されましたね。かなりショッキングな内容であり、多くの経営者の方にもぜひお読みいただきたいところです。

また、品質偽装問題を生じさせてしまった企業にとって気がかりな記事が本日(3月28日)の日経朝刊に掲載されていました。「米、車欠陥の内部告発制度 タカタ元社員が1号に」との見出しで、米国の自動車公益通報者法が紹介されていました。同法に基づいて、日本のタカタ社のシートベルトの不具合を告発した2名の社員に、1億円以上の報奨金が出されることが決まった、とのこと。今後は日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーにも矛先が向けられ、新たな脅威になるといった論調でした。

タカタ社の事例を契機に成立、施行された米国の自動車公益通報者法ですが、従業員による不正申告によって企業が約1億円以上の制裁金を課された場合(和解も含みます)、当該従業員には10%から30%の報奨金が付与される仕組みになっています。通報者は日本企業の従業員でも構いませんし、通報事実は施行前(2015年12月以前)の不正に関する情報でも構いません。日本国内での不正でも、当該自動車(自動車部品)が米国内で使用されているのであれば対象になります。

通報者には自動車メーカーだけでなく、部品メーカーや販売会社、そしてそれらの下請け業者も含みますので、日本企業にも相当の脅威となることは間違いないと思います。ただ、だからといって米国の内部告発保護法が「内部告発奨励法」かというと、それは間違いだと思います。上記の記事では紹介されていませんが、たとえば自動車公益通報者法の条文をよく読みますと、公益通報者が保護され、また報奨金をもらえる条件として「先に会社の内部通報制度を利用して、それでも会社が是正措置を講じなかった場合」とされています。つまり、内部通報制度をしっかりと整備し、また運用していれば、内部告発者が多額の報奨金をもらえる可能性は低い、ということになります。

ただ、企業の内部通報制度が整備されていたとしても、7つほどの例外(通報制度を活用せずとも内部告発ができる場合)が定められていますので、具体的にどのような内部通報制度を整備、運用していればよいのかは、法文をチェックしておく必要があると思います。つまり、「いい加減な内部通報制度ではダメ。通報者の秘密を守り、通報者に不利益な処分をあたえないことが保証されている制度でなければならない」ということがわかります。最近の米国における内部告発関連の法制度は、社内通報を重視する傾向が強いのではないかと思われます。したがって、日本企業の対策としても、まずは自社の内部通報制度をしっかりと構築し、従業員に信頼されるような運用を心がけることが第一ではないでしょうか。

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2018年3月27日 (火)

報告書の全文公表と弁護士秘匿特権の放棄

今朝(3月26日)の日経法務面に「訴訟対応か説明責任か-不祥事調査の全文公表で『秘匿特権』の放棄も 企業の新たな課題に」といった見出しの特集記事が掲載されています。そこでは神戸製鋼さんと東芝さんの第三者委員会報告書のジレンマが取り上げられていますが、(偉そうに語るわけではありませんが)当ブログの2015年7月21日のエントリーにて、すでにこの問題を取り上げておりまして、ただ、当時はあまり皆様に注目されておりませんでした(笑)。

このたびの神戸製鋼さんの場合は、すでにDOJから書類調査要請があり、またクラスアクションも提起されている状況なので、訴訟リスクという観点からは全文公表を控えるということもあり得ます(なお、第三者委員会は設置されているわけですから、独立公正な立場での調査に応じているのであれば弁護士秘匿特権は放棄されているのではないか・・・という根本的な問題は残っているように思いますが・・・)。ただ、だからといって他社事例でも保守的に考えると神戸製鋼さんと同様の対応が無難、とまでは言えないように思います。

先のエントリーを書いた当時、私は「東芝事例は第三者委員会報告書制度の限界ではないか」・・・とも思いましたが、最近は「訴訟対応か説明責任か」といったような明確な二分論はあてはまらず、やりようによっては調和(バランスをとること)も可能ではないかと考えています。なぜなら、不祥事の原因究明の本旨は「関係者の責任追及」ではなく、再発防止に向けた不祥事発生の「根本原因」に向けられるようになったからです。

もちろんディスカバリーが問題となるような不正事案は、経営者が関与していたり、組織ぐるみの不正が行われていた場合ですが、会社が説明責任を尽くす必要があるのは「中長期の企業価値を向上させるにふさわしい企業の品質」の有無です。最近の調査委員会は、企業の品質を見極めるために「根本原因」つまりガバナンス、内部統制、そして組織風土(コンプライアンス意識の有無)に光を当てて説明をしなければならないわけで、そこでは秘匿しなければならない個々の役員の事情よりも、いわゆる「組織の構造的欠陥」を解明することに力点が置かれる傾向にあります。したがって、全く訴訟リスクがないとまでは申しませんが、秘匿特権が保護する内容と第三者委員会が調査をする内容とでは少し違うのではないかと考えています。

第三者委員会制度というのは、あまり諸外国にみられる制度ではなく、一番近い制度を持つカナダでも、調査をするのは裁判官だとある研究者の方からお聞きしました。したがって、果たして弁護士秘匿特権や弁護士作成書面(プロダクツ)に該当するのかどうか、たしかに微妙な問題を含んではおりますが、訴訟の数が極端に少ない日本ならではの利点もあるわけでして、「公表したくない」という企業側の後ろ向きの姿勢を正当化するような使われ方だけは「企業の品格」を疑われることになりますので回避すべきと思います。

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2018年3月26日 (月)

エフオーアイ損害賠償請求訴訟の控訴審判決ほか(最近の話題)

土曜日(3月24日)の日経朝刊記事には2度驚きました。すでに当ブログでは何度も報じておりましたエフオーアイ事件の裁判ですが、控訴審判決が出て、みずほ証券さんの損害賠償責任が否定されたそうです。もうひとつのエフオーアイ裁判(エフ社の架空売上の発覚を妨げた取引先従業員の法的責任を認めた判決)も影響したのかもしれませんが、「みずほ証券がエフ社の取引先への調査で販売実績を確認しており、通常要求される注意義務を尽くしていた。したがって相当な注意を払ったが有価証券届出書の虚偽記載を知ることはできなかった」と判断された、とのこと。

本件はエフ社の従業員による内部告発(取引所、監査法人等への情報提供)によって調査が開始されたものですが、当該告発が調査にどのような影響を及ぼすものなのか、とても関心を寄せています。ぜひまた控訴審判決の全文を読んでみたいところです。本件には東京の大手法律事務所の皆様がたくさん関与されていますので、またコソっと要旨だけでもお教えいただければありがたいです・・・笑

そしてもうひとつの驚きが同じ社会面に掲載されていたリニア工事の捜査に関する記事でした。たしか経済紙にあった風評ネタではJR東海による地検への告発が捜査の発端のように書かれていましたが、実は大手ゼネコン社員による地検への告発が発端だったのですね。いや、これは私も存じ上げませんでした。昨年に改訂された「従業員からの通報に関する国の行政機関のガイドライン」では、行政機関が捜査の端緒として「内部告発による」という点も秘匿されることになりましたので、この点が明らかになったのは意外です。

告発をした社員がどのような意図で情報を提供したのかはわかりませんが、果たして当該告発社員に代理人弁護士がついていたのかどうか、どれほどの社内証拠を持ち出して地検捜査の協力をされたのか、といったところが、また内部告発に関連する話題としては興味があります(おそらくこのあたりの事実は絶対にオモテには出てこないと思いますが)。上記の日経記事でも取り上げられているとおり、最近は日本版司法取引への関心が高まりつつあります。しかし、私的にはむしろ「国の行政機関向けガイドライン」の改訂によって、従業員の行政機関への内部告発が飛躍的に活用しやすくなっている点のほうが企業には大きなリスクになっているのではないかと感じております。

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2018年3月22日 (木)

JICPAジャーナルに「職業倫理」に関する連載寄稿を掲載いただきました。

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6月1日から施行される日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合意制度)について、最高検は司法取引に関する運用指針の通達を出したそうですね。国民から信用される制度にするために、慎重な運用を図る、とのことだそうです。財政経済関係犯罪に関する適用にも大きな影響が出そうですね。

最近、本業の関係で海外機関投資家の方々と「日本企業の不祥事対応」に関する意見交換をする機会が増えました。そこで感じるのはプロの職業人と呼ばれる人にはスキルと同時にエシックス(倫理)も必要、という視点です。とりわけ経営者との対話では、数字に表れない「職業倫理」に注目している、ということを聞かされます。そういえば3月で青学を退職される八田進二先生も、「会計プロフェッション」と「経理屋」との違いはスキルではなく、職業倫理にあるということを最新のご著書「会計。道草・寄り道・回り道」でも書いておられました。

ということで(?)、JICPAジャーナル(会計・監査ジャーナル)の最新号(4月号)より、「精神論ではなく、実践論としての職業倫理を考える」という論稿を毎月掲載していただくことになりました。第1回は「職業倫理に基づいて行動できるほど人間は強くない」とのタイトルで、職業人の非倫理的行動を見つめて、これを冷静に受け止める大切さを書かせていただきました。

仕事柄、会計士さんと接する機会が多く、会計不正事案の原因究明や再発防止策を一緒に検討するのですが、会計士さんがクレッシーの法則を用いて「動機」「機会」「正当化根拠」にキレイにまとめておられる図表を見て、いつも思うことがあります。

「生まれ育ってきた環境を捨象して、こんなにキレイに人間の行動を分析できるのだろうか・・・」「アメリカ人の作った法則が、文化の異なる日本人のホワイトカラーの分析にも役に立つのだろうか・・・」

短時間に効率よく不正の原因究明をしなければならないのであれば、クレッシーの法則も有用かもしれませんが、組織の根本原因を究明して組織不正の再発防止に有用な提言をするのであれば、もっと理性では割り切れない行動に至った「(日本人の習性に由来する)人間の弱さ」を見つめる必要があるのではないでしょうか。そんなことを考えながら書いております。おそらくご異論・ご批判も頂戴するような内容ですので、またご一読いただき、お友達や同僚の皆様といろいろとご議論いただければ幸いです。

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2018年3月20日 (火)

第三者委員会の公正性・中立性を担保するもの

相変わらず外部調査委員会の仕事で忙しくしております。なかなか本気モードのブログが書けずに申し訳ございません<(_ _)>

さて、本日(3月19日)の日経朝刊法務面「法務トーク」では、「調査委員会選び 社外役員主導で」と題して、久保利弁護士のご意見が掲載されていました。久保利氏は、企業不祥事が発覚した企業では、東証の企業不祥事対応のプリンシプルに従った行動がとられていることが多い、しかし「第三者委員会」といっても「名ばかり委員会」にすぎず、現役経営者に選ばれたにすぎないものも多い」と指摘しています。

私も、諸事情から2017年に公表された社内調査委員会、社外調査委員会の報告書およそ40本ほどを2月に精査しましたが、そのうち独立調査委員会報告書といいながらも、どうみても中立性や公正性に疑問を持たざるを得ないものが相当数含まれているように思いました。とりわけ久保利弁護士も指摘しておられるように、「この委員会の構成員はどのようなプロセスで選定されたのか」といったところが不透明なものが多いですね。

内容については触れることはできませんが、現在、私が委員長を務めております外部調査委員会については、私自身が社外取締役(指名委員会等設置会社の4名の社外取締役)全員の面接を受け、社外取締役4名から推薦を受けて取締役会で選任されました。ちなみに各委員も個別に社外取締役の面接を受けて社外役員の信任を得て選任されています。だからといって、素晴らしい調査ができる、というわけではありませんが(そんな甘いものではない)、少なくとも調査における中立性、公正性は十分に担保されているものと思って業務を遂行しています。

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2018年3月15日 (木)

社長の「重過失」責任を問うことはかなり難しい-ユッケ食中毒事件東京地裁判決

本日(3月14日)の朝日新聞(東京版)朝刊に、2011年に発生した(5人が亡くなった)富山のユッケ食中毒損害賠償請求訴訟の地裁判断(東京地裁)が報じられていました。被告は会社、社長、そして店長となっています。会社は賠償責任を認められましたが(もともと争わず?)、争っていた社長さんには「重過失」が認められず、賠償請求は棄却されたそうです。12年前のシンドラーエレベータの死亡事故に関する高裁判決では、本日、当時の社長さんに逆転無罪の判決が出たそうですが(ただし主として事実認定の問題)、いずれの判決でもご遺族の方々にとっては無念な結果となりました。

上記朝日の記事によりますと、当時、生食の提供が禁じられていたわけではなく、また肉の表面を削り取る国の衛生基準が周知されていたわけではない、との理由で重過失は認められなかったそうです。社内の内部統制として、国の基準に沿うように徹底していなくても、社長に重過失(著しい注意義務違反)があったとは言えない、という結論です。事実関係や法律上の主張等を正確に確認したいので判決全文を読んでみたいです。

私は当時、こちらのエントリー(ユッケ食中毒事件に伴う規制強化とコンプライアンス上の苦悩)等にて、いくら食肉に関する衛生基準が厳格化されても、規制の実効性は乏しいのではないか、と疑問を呈しておりましたが、なるほど重過失の有無を問うような場面では、社長さんの民事責任を追及しやすくなる、という意味で実効性はあるようにも思えます。ただ、日本システム技術最高裁判決では、社長さんの内部統制構築義務違反について重過失は否定されましたので、なかなか実業会社の経営トップの損害賠償判決を(内部統制構築義務違反を根拠に)勝ち取ることはむずかしいですね。

 

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2018年3月13日 (火)

週刊エコノミストに論稿を掲載いただきました。

P_20180312_113039なかなかしっかりとしたエントリーが書けない状況ですので広報のみさせていただきます。本日発売の週刊エコノミスト(3月20日号)に、「企業法務-他人の犯罪申告で刑を減免」と題する論稿を掲載いただきました。

タイトルからおわかりのとおり、6月の施行を控えた日本版司法取引の課題(問題点)をご紹介した論稿です。詳しい方には物足りないかもしれませんが、司法取引の概要をご紹介し、最後に内部通報制度や内部告発への影響について触れました。

連邦量刑ガイドラインのような「予測可能性」を担保する制度が導入されないと、被疑者側としても使いにくいかなぁ・・などと最近は思っております。また、記事ではほとんど触れることができませんでしたが、弁護士倫理上の問題点もいろいろと山積しているのではないかと思います(関与する方々にとってはマニュアルのない世界だけに慎重な対応が必要になりそうですね)。

ご興味のある方は、ご一読くだされば幸いです。

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2018年3月12日 (月)

3月総会の注目点-「モノ言う株主」とSSコード

3月の定時株主総会のシーズンということもありまして、「モノ言う株主」の方々の動きが活発になってきましたね。帝国繊維、アルパイン、GMOインターネット等、5~10%を保有する機関投資家からの株主提案に、どれだけの賛同票が集まるのか注目されます(※ アルパインさんは3月総会ではありませんが・・・)。指針の改訂といったポピュレーション・アプローチだけでなく、ピンポイントで企業に狙いを定めて改革の実効性を高めようとするハイリスク・アプローチの威力がいよいよ試される時期が到来したようです。

株主提案を行っている各機関投資家が、他の株主の方々の賛同を得られるよう、提案の理由をHP等でわかりやすく解説しているのが特徴的です。スチュワードシップ・コードの改訂によって、運用機関は議決権行使結果の個別開示が求められますので、「なぜ機関投資家の提案に賛同しなかったのか」といったことも合理的に説明しなければならず、このあたりの影響を、おそらく6月総会を控えた企業も注目しているのではないでしょうか。SSコードの改訂は、「モノ言う株主」の戦術にも変化をもたらすことになりそうですね。

なかでも機関投資家の提案としては取締役の任期を1年とするための定款変更議案や株式の持ち合い解消を促すような意見表明については今後ボディブローのように効いてくるのではないかと。力ずくで株主提案をごり押しして通すのではなく、何年かかけて機関投資家の推薦する社外取締役を複数名派遣し、インサイダーで経営に共同参画する(情報の非対称性を解消する)、という手法も増えてくるものと思われます。先日の日本ペイントさんのような事例が増えてきますと、ガバナンス・コードを「形だけ」コンプライしている多くの上場会社の行動にも多大な影響が出てくるはずです。

3月の定時株主総会では、単純に株主提案が通るかどうか、ということよりも、(集団的エンゲージメントが推奨される中で)株主提案に賛同する運用機関の票がどれだけ集まるか、という点に関心を向けておきたいと思います。

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2018年3月 7日 (水)

外部調査委員会委員長に就任いたしました

本日は書きたいネタがたくさんありましたが、なかなか時間がとれませんでした。

さて、私事ではございますが、本日リリースのとおり、証券コード6464社の不適切行為に関する外部調査委員会の委員長に就任いたしました。今年1月から2月にかけて、某上場会社の特別調査委員会の委員長を拝命し(ただし報告書は非開示)、ようやく解決したところでしたが、今度は開示案件となります。自動車部品に関する事案であり、公正独立の立場で調査を行うことへの重責を感じます。

深夜に至るまで、委員や関係者の皆様との協議に忙殺されますので、またブログの更新が滞ることが予想されますが、けっして病気とか、私自身の不祥事(?)によるものではございませんので、あらかじめ言い訳をしておきます(なお、できるかぎり短いものでも更新できるように努力はしたいと思います)。

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2018年3月 5日 (月)

リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?

すでに多くのマスコミで報じられているとおり、リニア工事談合事件において逮捕者が出る事態となりました。課徴金減免申請(自主申告)をしている2社からは逮捕者が出ていないことから、リニエンシー制度の活用の有無によって検察の対応も分かれたとの推測(あくまでも推測です)も出ています。

ただ、3月4日の毎日新聞ニュースによりますと、リニエンシーを活用した大林組、清水建設の役職員の方々も立件の予定、とされています。つまり公取委の調査開始前にリニエンシーを活用した(様式第2号による報告書を提出した)ものではないとして、課徴金の免除まではもらえず、減額にとどまる(つまり刑事告発を見送る、というわけではない)ものと推測されますね。検察による偽計業務妨害罪容疑の捜索・差押えが先行していたから、ということでしょうか。

さて、今回のリニア工事談合への検察の捜査手法を眺めますと、昨年12月のこちらのエントリーでも予想したように、今年6月から施行される日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合議制度)を先取りしたものではないか、といった観測がますます現実味を帯びているように思えます。元検事の著名な弁護士の方も、3月4日の産経新聞ニュースの記事で解説をされています。もちろん独禁法事件については公取委の告発権限もありますので、検察独自で判断できるわけではありませんが、捜査や公判に協力的な姿勢を示す役職員には、身柄拘束に関しては慎重な対応を心掛ける・・・といった実務を定着させるための試金石になっているように思います。

先の毎日新聞ニュースでは、談合の事実を否認して逮捕された方の後任の方が「談合はあった」と供述している、と報じています。談合を認める供述を開示した時期と逮捕の時期との前後関係は明らかではありませんが、いずれにしても身柄拘束の可能性を仄めかして捜査協力を求めた可能性はあると思いますし、今後の経済財政関係犯罪への司法取引の威力を垣間見るような出来事です。

逮捕者が出た2社については東京都が指名停止とするそうですから(こちらのニュース参照)、リニエンシー制度の活用に関する経営判断は、企業業績に大きなものとなります。企業の取締役、監査役にとって、今後リニエンシーを活用するかどうか、司法取引に応じるかどうかの判断には、大きなリーガルリスクが伴うことになりそうですね。

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2018年3月 2日 (金)

日本ペイント取締役選任議案にみる取締役会としての公正性・透明性

日本ペイントHDさんの株主提案への対応については、ずっと以前から注目をしておりましたが、あまりブログなどで論評する方もおられず寂しい思いをしておりました(笑)。ガバナンス関連の重要課題を含む大事件だと思うのですが・・・。塗料大手の大株主(40パーセント保有)さんが株主提案をすれば、株主総会での議決権行使比率がだいたい85%から90%とみると、会社側としても「委任状争奪戦になれば勝ち目なし」と判断するのも当然かと思います。委任状争奪戦が企業価値に及ぼす影響を考えますと、会社側も「大人の対応」をされたものと受け止めるべきでしょう。

ただ、そうはいっても会社側としては(支配権を維持するために)どこかで妥協案を探りたいでしょうから、たとえば株主が推薦する社外取締役5名のうち3名を会社側から候補者として提案して、6(会社側)対4(大株主側)くらいの候補者比率で話がまとまるのかな・・・と予想しておりました。しかしながら、大株主側は譲らなかったようで、結局、(社内1、社外5という大株主側提案による)取締役が過半数を占める形に会社側の議案が修正されたようです。定款上、日本ペイントHDさんの取締役数の上限は10名なので、現在の社外取締役さん2名が今月の株主総会で退任されるそうです(本日の日本ペイントさんの適時開示より)。

大株主さんのほうは「会社の乗っ取りではない。社外取締役は、我々大株主のために行動するのではない。あくまでも株主共同利益の向上のために行動するのである。また、経営執行部のモニタリングを果たせるだけの十分な見識を持った方々であり、株主全体のための監督責任を果たすのである」と説明されています。「乗っ取り」と聞くと、短期で株式を売却する、自社のために利益を搾取するといった悪いイメージが先行しますが、良い「乗っ取り」もあるかもしれません。長期で株を持ち、プロパーの経営者とともに経営方針を作っていく、ということもありえます。「たしかに乗っ取りだが、これは良い乗っ取りなのだ。何が悪い」といった説明方法もあるような気もします。

私も、基本的には大株主さんのおっしゃることに異論はございません。社外取締役の方々も、素晴らしい経営感覚、リーガルマインドをお持ちであり、文句のつけようのない人選ではないかと。ただ、一気に5名ということは完全に大株主側が支配権を持てる立場になるのですから、誰がみても「これは会社の乗っ取りではないか」と考えるでしょう。現在も立派な社外取締役さんが2名いらっしゃるわけで(私個人としては、現在の2名の方々も、経歴として申し分のない方々ですし、これまでも大株主さんの存在する中で利益相反状況を排除するために忠実義務を果たしてこられた経験は大きいと思います)、なぜこの方々ではダメなのか、5名とも大株主が推薦される方々のほうがなぜ優越するのか、そのあたりの説明がなされないかぎり、「乗っ取りではないか」といった見方は払しょくされないものと思います。

そしてもう一点忘れてはならないのがコーポレートガバナンス・コードとの関係です。個々の社外取締役さんが、株主共同利益のために尽力されることは、忠実義務の一環として大切なことだと思います。しかしガバナンス・コードは「取締役会」も名宛人になっており、たとえば原則4-3、補充原則4-3①あたりでは、取締役会は、経営幹部の選任・解任について、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである、支配株主等の関連当事者と会社との間に生じうる利益相反を適切に管理すべきである、とされています。おひとりおひとりの取締役さんは「忠実義務を果たします」と言われますが、一気に大株主側が過半数を取得した取締役会に、社長会長の選任・解任の公正性、大株主と会社との利益相反の適切管理を期待できるのでしょうか。

「このような業績評価基準があり、その基準をクリアしなければ社外取締役は社長にも会長にも解任の動議を出します」といった明確な条件があれば別ですが、そうでもないかぎり、この利益相反の適切管理というのは今回の流れの中ではどうも理解しにくいところです。日本ペイントさんが原則4-3あたりを「コンプライ」しているのであれば、なぜこのコードに抵触しないのか、取締役会の実効性評価のひとつとして説明すべきではないかと思うところです。

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2018年3月 1日 (木)

企業不祥事の予防と対応のプリンシプルは「車の両輪」

「新幹線台車亀裂事件」では新事実が公表され、先日の宇部興産さんに続き、川崎重工業さんの「物づくり」の品質が問われています。3月6日には神戸製鋼さんの調査報告書が公表されるとのことで、またそちらの話題も取り上げたいのですが、本日は2月21日に日本取引所からリリースされました「上場会社における企業不祥事予防のプリンシプル(案)」について、すこしだけ持論を書かせていただきます(もちろんパブコメ募集中なので、今後正式版は若干修正されるかもしれません)。以下は、個人的見解にすぎません。

ちょうど2年前の2016年2月に公表されました「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」については、不祥事が発覚した多くの上場会社の行動規範として確立したと言っても過言ではありませんね。有事に至った上場会社が、公表前に東証と相談をするわけですが、そこで「対応プリンシプル」が参照されるわけです。会計不正であれば監査法人のレビューや意見にも影響が及ぶわけですから無視することもできません。

ただ、有事が現実化した上場会社とは異なり、「予防のプリンシプル」は平時の上場会社の行動指針ですから、上場会社にとっては「指針に沿った行動をとるインセンティブ」がなかなか思い浮かびません。「たしかにプリンシプルにはいいことが書いてあるけど、ウチはコンプライアンス意識は高いし、そもそも不祥事は起こらないし・・・」というのが経営者のホンネではないでしょうか。

そこで「予防のプリンシプル」の前文に「対応と予防のプリンシプルは車の両輪」と解説されていることに注目すべきです。実は「予防のプリンシプル」に沿った組織づくり(とくに運用面)に尽力している上場会社には「それなりに」メリットがあります。たとえば「費用対効果」の側面です。

どんなに体制を整備しても不幸にして不祥事は発生します。しかし、その会社が「予防のプリンシプル」に準拠した体制作りに尽力していた場合には、「(経営者の関与は認められず)企業不祥事は判明した不祥事だけであった」との説明にステイクホルダーの理解が得られます。しかし準拠した体制作りを怠っていた場合には、「発覚した不祥事は氷山の一角にすぎず、他にも類似案件がたくさんあるのではないか」との疑惑を払しょくできません。これは投資者保護の視点から検討される上場維持の審査、改善報告書の審査にも影響します(もちろん内部管理体制の評価基準と『あるべき方向性』を定めたプリンシプルとは異なりますが、親和性は高いはずです)。最終的には企業の信用は回復されるかもしれませんが、そこに至るまでの時間や費用には格段の差が生じます。

さらに、(講演等で毎度申し上げているとおり)オリンパス事件、東芝事件以降、金融庁審査、東証審査、監査法人の監査、いずれの場面においても、関心の対象は実業を持った企業で起きた不祥事の「根本原因の究明」に移っています(5~6年前までの「ハコ企業」「フトドキモノ企業」の排除に当局の関心が向いていた時代と比較してみてください)。そこで、予防のプリンシプルに沿った企業行動がなされていれば、この「根本原因の究明」についても(ガバナンスに問題があるのか、業務プロセスや統制環境といった内部統制に問題があるのか、それとも組織風土としてのコンプライアンス意識に問題があるのか)深堀りができ、投資者保護に向けた実効的な再発防止策の検討も可能になると思います。一方、予防のプリンシプルに沿った企業行動がとられていない場合には、根本原因に関する合理的な説明が困難となり、第三者委員会のやり直しや行政調査を余儀なくされる事態に発展します。

以上は、予防のプリンシプルに準拠するメリットの一例であり、実はもっと多くのメリットがあります(とりわけ経営陣のリーガルリスクに関わるメリットなども、対応するためのインセンティブになりえます。そのあたりは、また講演等で解説させていただきます)。ただ、上記のようなメリットは、日本取引所が「車の両輪」と解説する意味合いを如実に示すものではないでしょうか。

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