報告書の全文公表と弁護士秘匿特権の放棄
今朝(3月26日)の日経法務面に「訴訟対応か説明責任か-不祥事調査の全文公表で『秘匿特権』の放棄も 企業の新たな課題に」といった見出しの特集記事が掲載されています。そこでは神戸製鋼さんと東芝さんの第三者委員会報告書のジレンマが取り上げられていますが、(偉そうに語るわけではありませんが)当ブログの2015年7月21日のエントリーにて、すでにこの問題を取り上げておりまして、ただ、当時はあまり皆様に注目されておりませんでした(笑)。
このたびの神戸製鋼さんの場合は、すでにDOJから書類調査要請があり、またクラスアクションも提起されている状況なので、訴訟リスクという観点からは全文公表を控えるということもあり得ます(なお、第三者委員会は設置されているわけですから、独立公正な立場での調査に応じているのであれば弁護士秘匿特権は放棄されているのではないか・・・という根本的な問題は残っているように思いますが・・・)。ただ、だからといって他社事例でも保守的に考えると神戸製鋼さんと同様の対応が無難、とまでは言えないように思います。
先のエントリーを書いた当時、私は「東芝事例は第三者委員会報告書制度の限界ではないか」・・・とも思いましたが、最近は「訴訟対応か説明責任か」といったような明確な二分論はあてはまらず、やりようによっては調和(バランスをとること)も可能ではないかと考えています。なぜなら、不祥事の原因究明の本旨は「関係者の責任追及」ではなく、再発防止に向けた不祥事発生の「根本原因」に向けられるようになったからです。
もちろんディスカバリーが問題となるような不正事案は、経営者が関与していたり、組織ぐるみの不正が行われていた場合ですが、会社が説明責任を尽くす必要があるのは「中長期の企業価値を向上させるにふさわしい企業の品質」の有無です。最近の調査委員会は、企業の品質を見極めるために「根本原因」つまりガバナンス、内部統制、そして組織風土(コンプライアンス意識の有無)に光を当てて説明をしなければならないわけで、そこでは秘匿しなければならない個々の役員の事情よりも、いわゆる「組織の構造的欠陥」を解明することに力点が置かれる傾向にあります。したがって、全く訴訟リスクがないとまでは申しませんが、秘匿特権が保護する内容と第三者委員会が調査をする内容とでは少し違うのではないかと考えています。
第三者委員会制度というのは、あまり諸外国にみられる制度ではなく、一番近い制度を持つカナダでも、調査をするのは裁判官だとある研究者の方からお聞きしました。したがって、果たして弁護士秘匿特権や弁護士作成書面(プロダクツ)に該当するのかどうか、たしかに微妙な問題を含んではおりますが、訴訟の数が極端に少ない日本ならではの利点もあるわけでして、「公表したくない」という企業側の後ろ向きの姿勢を正当化するような使われ方だけは「企業の品格」を疑われることになりますので回避すべきと思います。
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