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2018年3月 2日 (金)

日本ペイント取締役選任議案にみる取締役会としての公正性・透明性

日本ペイントHDさんの株主提案への対応については、ずっと以前から注目をしておりましたが、あまりブログなどで論評する方もおられず寂しい思いをしておりました(笑)。ガバナンス関連の重要課題を含む大事件だと思うのですが・・・。塗料大手の大株主(40パーセント保有)さんが株主提案をすれば、株主総会での議決権行使比率がだいたい85%から90%とみると、会社側としても「委任状争奪戦になれば勝ち目なし」と判断するのも当然かと思います。委任状争奪戦が企業価値に及ぼす影響を考えますと、会社側も「大人の対応」をされたものと受け止めるべきでしょう。

ただ、そうはいっても会社側としては(支配権を維持するために)どこかで妥協案を探りたいでしょうから、たとえば株主が推薦する社外取締役5名のうち3名を会社側から候補者として提案して、6(会社側)対4(大株主側)くらいの候補者比率で話がまとまるのかな・・・と予想しておりました。しかしながら、大株主側は譲らなかったようで、結局、(社内1、社外5という大株主側提案による)取締役が過半数を占める形に会社側の議案が修正されたようです。定款上、日本ペイントHDさんの取締役数の上限は10名なので、現在の社外取締役さん2名が今月の株主総会で退任されるそうです(本日の日本ペイントさんの適時開示より)。

大株主さんのほうは「会社の乗っ取りではない。社外取締役は、我々大株主のために行動するのではない。あくまでも株主共同利益の向上のために行動するのである。また、経営執行部のモニタリングを果たせるだけの十分な見識を持った方々であり、株主全体のための監督責任を果たすのである」と説明されています。「乗っ取り」と聞くと、短期で株式を売却する、自社のために利益を搾取するといった悪いイメージが先行しますが、良い「乗っ取り」もあるかもしれません。長期で株を持ち、プロパーの経営者とともに経営方針を作っていく、ということもありえます。「たしかに乗っ取りだが、これは良い乗っ取りなのだ。何が悪い」といった説明方法もあるような気もします。

私も、基本的には大株主さんのおっしゃることに異論はございません。社外取締役の方々も、素晴らしい経営感覚、リーガルマインドをお持ちであり、文句のつけようのない人選ではないかと。ただ、一気に5名ということは完全に大株主側が支配権を持てる立場になるのですから、誰がみても「これは会社の乗っ取りではないか」と考えるでしょう。現在も立派な社外取締役さんが2名いらっしゃるわけで(私個人としては、現在の2名の方々も、経歴として申し分のない方々ですし、これまでも大株主さんの存在する中で利益相反状況を排除するために忠実義務を果たしてこられた経験は大きいと思います)、なぜこの方々ではダメなのか、5名とも大株主が推薦される方々のほうがなぜ優越するのか、そのあたりの説明がなされないかぎり、「乗っ取りではないか」といった見方は払しょくされないものと思います。

そしてもう一点忘れてはならないのがコーポレートガバナンス・コードとの関係です。個々の社外取締役さんが、株主共同利益のために尽力されることは、忠実義務の一環として大切なことだと思います。しかしガバナンス・コードは「取締役会」も名宛人になっており、たとえば原則4-3、補充原則4-3①あたりでは、取締役会は、経営幹部の選任・解任について、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである、支配株主等の関連当事者と会社との間に生じうる利益相反を適切に管理すべきである、とされています。おひとりおひとりの取締役さんは「忠実義務を果たします」と言われますが、一気に大株主側が過半数を取得した取締役会に、社長会長の選任・解任の公正性、大株主と会社との利益相反の適切管理を期待できるのでしょうか。

「このような業績評価基準があり、その基準をクリアしなければ社外取締役は社長にも会長にも解任の動議を出します」といった明確な条件があれば別ですが、そうでもないかぎり、この利益相反の適切管理というのは今回の流れの中ではどうも理解しにくいところです。日本ペイントさんが原則4-3あたりを「コンプライ」しているのであれば、なぜこのコードに抵触しないのか、取締役会の実効性評価のひとつとして説明すべきではないかと思うところです。

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