GWにおススメの調査委員会報告書-雪印種苗・品種偽装事件
(二日続けての委員会報告書ネタになりますが)品質問題を発生させた企業の調査委員を二つ兼務していることもありまして、研究目的で雪印種苗さんの「種苗法違反等に関する調査報告書」を一日かけて読みました。「全文開示版」と「簡略版」がリリースされていまして、全文版は240頁、簡略版でも130頁、いずれも読了しました。
新聞でも報じられているように、委員会報告書が開示された4月27日、雪印種苗(メグミルクさんの100%子会社)の社長さんが辞任をされましたが、今後の第三者委員会報告書のモデルになるのではないかと思うほどに秀逸な報告書です。もともと種苗法違反(商品の表示に関する規制違反)の事実を独立した第三者によって解明していく、ということだったのですが、二度にわたる内部告発が指摘していた「品種偽装」の疑惑が浮かび上がり、最終的には社長さん(当時の専務)が品種偽装の隠蔽に関わっていたことまでが刻銘に描かれています。まさにデジタル・フォレンジックがなければ社長さんの関与は認定できなかったのでありまして、DFの威力をまざまざと見せつけられる内容になっています。
最初の内部告発(2014年)が新聞社に届いたため、新聞記者が動くのですが、会社は当該記者への対応に万全を期して、なんとか記事化されることを防ぎます(内部告発が直ちに新聞ネタにはならない現実がわかります)。しかし、二度目の内部告発(2017年11月)が業界団体のところへ届くと、今度は農水省から報告要請を受けることになります。ここで種苗法違反の事実調査目的で設置された第三者委員会が、過去2回の(品種偽装疑惑解明のための)社内調査委員会の問題点を厳しく指摘し、「社内調査委員会の結果には依拠できない」としてフォレンジックおよび独自ヒアリングによる本格調査に移行します。監査役が社内調査のヒアリング記録を改ざんしたり、取締役が親会社(雪印メグミルク社)の社外役員の調査を妨害したり、さらには親会社に虚偽報告を行います。この報告書を読みますと、いかに社内調査委員会というものが脆弱であるか、思い知らされます。
「10年ほど前にはたしかに不正が行われていたが、雪印事件をきっかけに不正は止めている」という子会社の調査事実(本当はその後も品種偽装が続いていたのですが)を親会社が知ったとき、親会社はステイクホルダーのために、また全グループのために、不祥事を公表すべきか否か。本件では不祥事を公表しない、という方針を親会社も了承するのですが、(子会社から虚偽報告を受けていたとしても)親会社として、過去のグループ会社の不正をどこまで公表すべきか、とても悩ましい問題ではあります。本件でも、子会社から相談を受けた親会社は、いったん公表すべきでは?との意見を表明するのですが、その後は子会社調査の結果を受けて「非公表」という方向性を承認するのですが、このあたりは有事の経営判断とも関連するグループ会社管理の在り方として議論したいところです。
本報告書は大きく分けて「種苗法違反」に関する報告と「品種偽装」に関する報告に分かれますが、ゴールデンウイークにお時間のある方には、ぜひとも「品種偽装」の部分(第三章以下)について、フォレンジックで浮かび上がった関係者メールの生々しいやりとりが描かれている「全文開示版」の通読をおススメいたします。この報告書を読んで監督官庁がどのように動くのか、社長退任というガバナンス上の対応が、今後のステイクホルダーの動きにどう影響が出るのか、とても興味深いところです。それにしても内部告発の威力はすごい(私個人の感想ですが、会社も第三者委員会委員も、誰が告発したのかはわかっていたのではないでしょうか)。このような結果にならないためにも、内部通報制度を機能させる必要があります。
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