利益相反行為への関与と企業年金損害との因果関係を認めた判決
この6月に施行が予定されているコーポレートガバナンス・コード改訂2018(案)では、自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業自身が取組むことを要請しています。最終受益者たる従業員の資産を預かる立場として、スチュワードシップ・コードへの署名を促し、併せて事前規制による基金の健全性確保を図ろうというものだと理解していますが、司法が関与する事後規制という意味でも重要と思われる判決が出たようです。
4月13日(金)日経新聞の夕刊(社会面)によりますと、年金基金(九州石油業厚生年金基金-すでに解散)が、同基金の資産を運用していたファンドの元社長を被告として争っていた損害賠償請求訴訟において、元社長の損害賠償責任を認める控訴審判決(東京高裁)が出ました。当該年金基金には年金コンサルタントが助言をしていたそうですが、このコンサルタントに、「うちのファンドに資産を預けてもらえるように助言してくれれば、その資産額に応じてフィーを払う」と同ファンドが約束し、実際にも当該コンサルタントの助言によって多額の基金が預けられました。しかしながら、その運用結果として260億円以上の損失が基金に発生したそうです。控訴審では、ファンドの元社長による「(コンサルタントの)利益相反の助言への関与」について故意の不法行為が成立するとして157億円の賠償義務を認められています(ただし、請求額は1億円とのこと)。
基金側の代理人は「今回の判決は、ファンドや年金コンサルタントに警鐘を鳴らしたものといえる」と述べておられます。なお、利益相反行為は年金コンサルタントが行ったものであり、その利益相反の助言に関与したものとしてファンドの元社長さんの不法行為が認めらていますが、ファンド自身への損害賠償請求は棄却されているようです(ちなみにファンドとしては「双方代理」の事実を年金基金側には伏せていたそうです)。元社長の行為に対する違法性判断を含め、いろいろと論点はありそうで、そもそも「双方代理」については行政処分をもって事後規制を図るべきとの意見もありそうです。
本件では利益相反行為を助長した関係者個人の民事賠償責任が認められたところに大きな意義があるだけでなく、役員個人による利益相反行為の関与(助長行為)と基金の損失・損害(157億円)の間に相当な因果関係が認められた、という点にも興味が湧きます。何度も繰り返し、当該ファンドへの資金移動があり、その都度コンサルタントへの報酬が支払われたようなので、どういった理屈で因果関係が認められたのか、ぜひとも判決文を読んでみたいところです。
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コメント
企業年金基金の
独立性については山口先生もおっしゃるようにCGコードの
見直しのテーマです。私どもの実践コーポレートガバナンス
研究会では下記の提言を考えています。
企業年金基金のガバナンスと運用の専門性が問われていると考えます。私ども実践コーポレートガバナンス研究会では今回のガバナンス・コード改訂案に対して下記のような提言を考えています。
「年金基金がアセット・オーナーとしての責務をはたすには企業年金基金自身のコーポレートガバナンスの確立が必要である、その為には年金運用委員会に独立社外委員を入れることをベスト・プラクティスとして推奨する。具体的にはGPIFのように監督機関として経営委員会を位置付け、それには社外委員を入れることを検討する。」
投稿: 門多、実践コーポレートガバナンス研究会 | 2018年4月16日 (月) 11時01分