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2018年5月31日 (木)

魅力のある経営者OBは「社外取締役」の器に収まらないのでは?

ガバナンスにとても熱心な企業の元社外取締役さんが「インサイダー取引容疑」で逮捕されたそうです。「ほれみい、M&Aや新規事業戦略の情報を社外役員に流したらこないなるねん!」と、また社外役員制度が批判されそうな話題ですね。逮捕された方は元経営者ということで、インサイダー・リスクについては人一倍理解しておられるはずで、私にはちょっと信じがたいところですが・・・

さて、私の尊敬する経営者OBの方々が、いずれも会社法上の社外取締役ではなく、非常勤業務執行取締役をされていることは前に申し上げました(たとえば3年前のエントリー「ガバナンス改革-非常勤役員と社外役員、その差は・・・」をご参照ください)。みなさま、経歴からみれば社長時代にきちんと結果を残してこられた方ばかりで、多くの会社から「社外取締役に」とのお声がかかったのですが、すべて断り、業務執行にこだわって非常勤業務執行取締役に就任されました。

先日、カルビー社のCEOの方が、RIZAP社のCOO(最高執行責任者)に就任されることが決まったと報じられておりましたが、会長就任を要請されたにもかかわらず、執行にこだわられた、とのことで、「そうだよね~。本気で他社のために、と思うなら、絶対業務執行やりたいよね~。」と改めて感じた次第です。

日本の上場会社の取締役会には「会話」はあっても「対話」はあまり感じられないように思います。お互いに意見が異なる人達が集まって、意見がぶつかり合って、そこですり合わせをして新たな意見を形成する(意見をぶつけた人たちみんなの勝利)という感覚があまり感じられません。結局、社長と意見を異にする人(たとえば社外役員)との「どっちの意見が通るか」みたいな感覚で議論がなされて、最終的に「まぁ、ご意見としては尊重いたします」「ここは〇〇さんの顔を立てて」といった形で、どっちかの意見が最終的に通る。最後は「とりあえず私の意見は議事録に残しておいてくださいね」といったことで議論が終わってしまう。

なので、ダイバーシティ(多様性)とか執行と監督の分離などといっても、そもそも意見をすり合わせる文化がないので実効性がみえてこないと思います。社長の選解任権の「見える化」は、たしかに実効性を高めるための手段ではありますが、もともと「意見をすり合わせる文化」がないので役には立たないように思います。取締役会の構成員の多様性や、モニタリングモデルが有効なのは、まずなによりも「自分とは異質な価値観や考え方を尊重して、違和感を持ちつつも、どこかですり合わせて妥協する勇気」を生む土壌が必要だと考えます。たとえば最近のガバナンス改革の場面では「ああ、昔とは時代が変わったんだ」と、前向きにガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを受容しつつも、「でもやっぱりコードはおかしいから、正直に『おかしい』と公言したほうがいいぞ」と考えるところから始めるべきではないかと。また、そういった会社だからこそ「株主との建設的な対話」が有用なのだと思います。

このたびの会社法改正の審議の中でも、一定の範囲であれば社外取締役の業務執行を認めるべきである、との意見が出されています。ただ、業務執行機関から独立した立場を堅持するならば、やはり「対話」の土壌は形成されない。非常勤ながら社長と一緒に、同じ目線で業務執行をやる、リスクを請け負う・・・といった土壌があるからこそ、社長も自分の意見を曲げてでも話を聞こう・・・といった「対話」が可能になるのではないでしょうか。「いくら社外取締役になっても、他社の役になんか立たないよ」と断言される経営者OBの方々は、監督の実効性など日本では何の意味もないと認識していることから、(非常勤でもいいから)社長と一緒になって業務執行にタッチする選択に至るのではないか、と考えております。

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2018年5月28日 (月)

社員に司法取引に応じることを禁止することはできるか?

先週の企業法務の話題はGDPR(EU一般データ規則)でもちきりでしたが、今週はなんといっても日本版司法取引の施行(6月1日)ではないでしょうか。日曜日(5月27日)の日経朝刊「ニュースフォーキャスト」でも、日本版司法取引の導入に関する特集記事が掲載されていました。当ブログでも、ずいぶんと前から改正刑事訴訟法に関するエントリーを書いてきましたが、3月に最高検の「運用に関する考え方」(法律のひろば2018年4月号に掲載)が策定されて以降は、とりあえず静観しよう、と考えるに至りました。

そうはいっても、今朝の日経記事にあるように、企業の関心がとても高いようです。大手法律事務所には「社内規定で社員が司法取引に勝手に応じないよう義務付けることはできるか」といった問い合わせが絶えないそうです。検察官から司法取引を提案される場合もあるでしょうし、また、会社自身から社員に司法取引を勧められる場面もあるでしょうし、逆に企業または社員自身が「他人の犯罪」として司法取引に巻き込まれることもあるので、いかなる場面を想定して「禁止を義務付ける」のか、少しわかりにくいのですが、企業として、日本版司法取引にどう対応すべきか、逡巡しているところが多いと思います。

ところで「社員が司法取引に勝手に応じることを禁止することを社内規則で定める」ということは果たして可能なのでしょうか?これは私の勝手な意見でありますが、社員には(労働契約上)会社に対する信用秩序維持義務がありますので、会社の信用毀損につながりかねない司法取引の協議を行うことについては、これを禁止するということもあながちおかしなことではないと思われます。ただ、①司法取引の対象となる財政経済犯罪には、租税法違反や贈収賄関連犯罪を除き、ほとんどの経済犯罪が公益通報の対象となり、②かりに公益通報の対象事実ではなくても、必要不可欠な行為の範囲内であれば公益のために企業利益を損なうこともやむをえないこと、などから、社員の債務不履行については違法性が阻却されることも多いと思われます。したがって、たとえ禁止規定を設けたとしても、それは訓示規定(努力規定)にすぎず、罰則をもって強制することはできない(むしろ企業が社員に対して不法行為責任を負う)のではないでしょうか。

本当に「司法取引に応じることを禁止したい」ということであれば、内部通報制度の実効性を高めて、企業不正の事実をいかにして早期に情報収集するべきかを考えるほうが、企業にとっては適切ではないかと考えます。なお、(これは広報ですが)日本版司法取引の運用に関する最高検の考え方が示されたことを前提に、企業がどのようなスタンスで司法取引制度に臨むべきか、近日発売の経済誌で4000字程度の拙稿を掲載いただく予定なので、またご関心がありましたらそちらをお読みいただければと。

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2018年5月25日 (金)

当職が委員長を務める外部調査委員会の報告書がリリースされました。

本日午後4時、当職が委員長を務めております外部調査委員会報告書が開示されました。

一部不適合製品の出荷に関する外部調査委員会報告書(全文開示版)

東証「企業不祥事対応のプリンシプル」、同「企業不祥事予防のプリンシプル」の趣旨を最大限尊重しながら、中立公正な立場から、ステイクホルダーへの説明責任を果たすために2カ月半、調査、審議を行いました。

内容の評価は、読まれた方の判断に委ねることにします。ただ、他の2名の委員をはじめ、本調査に関わった総勢30名の弁護士、公認会計士、フォレンジック事業者の皆様、そして(厳しい判断が予想されたにもかかわらず)調査に全面的に協力していただいた当社役職員の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

来週から、ようやく「普通の忙しさ」に戻りますので、ブログのほうも通常どおり更新できるのではないか、と思っております。

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2018年5月24日 (木)

経産省CGS研究会中間整理が実務に及ぼす影響について

日大さんが、ようやく第三者委員会を立ち上げるそうですね。本日(5月23日)、私のコメントが読売新聞や日経(WEB版)に掲載されましたが、取材を受けたときに「一刻も早く外部の委員による調査委員会を設置したほうがいい」と力説いたしました(読売新聞のほうでは明確に「第三者委員会」とは掲載されていませんが・・・)。NHKさんからの取材にも「皆さん方の過熱報道から関係者を守るためにも、とりあえず冷静な第三者による調査が必要だと思います」と回答しました(それが原因だったのか、ニュースでは私の意見は全く取り上げられませんでした)。

相変わらず本業が忙しく、ブログを書く時間がとれませんので、簡単なコメントのみで失礼いたします。5月18日に経産省CGS(コーポレートガバナンス・システム)研究会から公表されました「第2期中間整理-実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」は、なかなかスグレモノで、実務に参考になりそうですね。ちょうど1年前に策定されたCGSガイドライン(指針)のフォローアップ版が今年3月に公表されましたが、このたびの中間整理は、その結果や近時のガバナンス・コード改訂の流れを読み取り、次のフォローアップのための課題をまとめたものだそうです。ガイドラインのターゲットをポピュレーションアプローチで捉えるか、それともハイリスク・アプローチで考えるか、といった議論もなされていて(たとえばこちらのエントリーを参照ください)、「形式から実質へ」と、ガバナンス改革が深化する流れが把握できます。

とくに、ガバナンス・コードへの対応を真剣に考えておられる上場会社さんの実務にはかなり参考になるのではないかと思います。たとえば任意の指名委員会や報酬委員会を設置している上場会社さんも増えていますが、社外取締役だけでなく社外監査役も積極的に委員として関与すべきかどうか、たとえ委員で関与することが適切でないとしても、オブザーバーとして関与することに問題はないか(むしろ積極的に関与すべきではないか)・・・といったことは、社外取締役の数が増えている会社さんを中心に悩んでおられる点でして、この中間整理を参考にされてはいかがでしょうか。

コーポレートガバナンス・コードにコンプライしているといいながら、実はコードの解釈を誤っているのでは?との危惧感が2か所ほど登場する点もおもしろいですね。私個人の考えとしては、相当多くの上場会社さんで東証規則違反(コンプライしています、と言いながら、実はコンプライしていない)が起きていると確信をしております(笑)。まあ、そのサンクションは東証からペナルティを受けるというものではなく、株主との対話による是正、といったあたりが考えられると思うのですが。

また時間ができましたら、CGS中間整理の内容について、いろいろと個人的な意見を述べたいと思います。

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2018年5月21日 (月)

日本年金機構サイバー攻撃事件に思う個人情報管理のむずかしさ

本日は薬師寺にて、毎月恒例の弥勒縁日の法要に行ってまいりました。執事長から参集者に対して「すでにご承知のとおり、管主が人の道に反する行動をとり、たいへん申し訳ありませんでした。本人は責任をとって退山されました」と、不祥事の経緯を丁寧に説明されていました。週刊誌の記事が発端でしたが、こういった宗教法人でも適時適切な危機管理は(組織の信用回復のために)不可欠だと改めて認識した次第です。

危機管理といいますと、5月19日の日経朝刊社会面に、「年金機構へのサイバー攻撃、容疑者不詳のまま書類送検へ」との見出しで、ひっそりと2行ほどの記事が掲載されていました。2015年に発生した日本年金機構のサイバー攻撃事件については、私も事件解明に関与しましたので、今回の記事はとても残念です。事後規制が効かないだけに、企業としては、今後さらに事前予防が重要になると思います。

私はあまり情報セキュリティーには詳しくありませんが、詳しくない人間でも、事前予防のための重要な施策については検討しておくべきです。PCやサーバーに入り込まれた原因は、ホントに初歩的なセキュリティ保護のミス(ひとりひとりの心がけ、といっても良いかと)だからです。攻撃する側は長期戦でじっくりと攻めてきますが、情報管理の簡単なマナーさえ毎日励行していれば防ぐことができると思います。でも、ときどき仕事が忙しかったり、私的な都合で貸与パソコンを利用したりして例外を許容すると(相手が長期戦だけに)侵入されてしまうことになります。もうこのあたりは「多少、業務の効率性を犠牲にしてでも安全性を重視しよう」といった思想で動いている企業も増えてきたのかもしれません。

また、当時も書きましたが、ちゃんとしたセキュリティ会社さんとのお付き合いが大切かと(笑)。「大丈夫です。とくに問題ありませんでした」と診断されて安心しているうちに侵入者が活動を開始していた、といったシャレにならない事態がありましたので、「お医者さん選び」と同じだと痛感しました。

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2018年5月19日 (土)

JICPAジャーナルに「職業倫理」に関する連載記事(3回目)が掲載されました。

P_20180518_212712_400FACTA6月号(最新号)のオリンパス関連の記事ですが、本日公開のオンライン版と「合わせ技」でスゴイことになっていますね。「中国深圳のデジカメ工場を閉鎖するのはこういった理由があるから」ということで、「なるほど・・・たしかに」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

しかし、これだけの内部文書がFACTAに届く・・・というのは、相当人数による内部告発が行われている、ということでしょうか。弁護士成果物が開示されていますので、弁護士秘密特権侵害のようにも見えますが、真摯な目的による告発は公益通報者保護法によって違法性が阻却される、ということにもなりそうで・・・(たしかに今のO社の状況では内部通報者に不利益が及ぶ可能性があり、告発者が保護される要件を満たしてしまうのかもしれません)、うーーーん、本件は書きたいことがヤマほどありますが、諸事情によりこれ以上のコメントは差し控えます。

さて、第一法規「会計・監査ジャーナル」の連載論稿は、今回が3回目(最終回)となります。「精神論ではなく、実践論としての職業倫理を考える-実践に活かす職業倫理(ミクロとマクロの視点)」というテーマで、最終回は職業倫理を活かす具体的な場面を考えてみました。企業が事業戦略を遂行する場面において、心理的なバイアスや成功体験、知らず知らずのうちに公正なプロセスを欠いてしまう業務執行判断など、「性弱説」に立って不正を予防もしくは早期に発見しようという心がまえを解説しています。人間の弱さを認め直し、弱い自分をどうコントロールするか・・・というところの実践例は、日常のお仕事にも活用いただけるのではないかと考えております。ご興味がありましたらご一読くださいませ。

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2018年5月16日 (水)

内部通報制度の認証制導入に期待する

消費者庁公益通報者保護制度の実効性向上検討会報告書において提言されていました「内部通報制度の認証制度」ですが、5月12日の日経朝刊一面で「今年の9月ころに実施される予定」と報じられていました(サンダースさんがコメント欄でご紹介されているので、私も少しだけ書かせていただきます)。民間事業者による自主的な取組を促進するための施策として、消費者庁でも検討されてきた制度ですね。ISOでも新たな指針として検討されているそうです(これは知りませんでした)。

この制度は、消費者庁による民間事業者向けガイドラインを参考に、実効性の高い内部通報制度を整備して、コンプライアンス経営の推進に積極的に活用する企業を認証する、というものです。民間の第三者評価機関が、40項目程度の審査基準をもとに評価・認証するようですね。認証を受けた民間事業者側は、取得を積極的にアピールすることで、自浄能力の高さ、製品やサービスの安全性を社会に広報していただくことを想定しています。

ここからは私の個人的な意見ですが、この認証制度が大企業向けなのか、というとそうではなく、中小企業にも認証の機会を付与すべき、ということです。民間事業者向けガイドラインは、小さな事業者でも参考にしていただくことを念頭に置いていますので、中小企業の実情も踏まえて、前向きに取り組んでいる事業者の方々も認証される資格はあるはずです。なので、認証評価基準の運用は弾力的であるべきです。

つぎに、いったん認証を受けた後に「ほったらかし」では意味がない、という点です。継続研修制度や認証更新制として、整備よりも運用を重視した認証制度にすべきです。認証を受けたにもかかわらず、不正が起きたから認証取消し・・・といったものではなく、たとえ不正が起きたとしても自浄能力を発揮することに寄与すれば「優れた制度」として認められるべきですし、また形だけ整備していたとしても、実際に運用されている形跡がみられない、ということでしたら認証を取り消す、といった仕組みが必要かと思います。

そして最後になりますが、認証を受けた企業の取組みを、できるだけ公共財として周知すべきです。とくに、中小企業の内部通報制度については創育工夫の余地が多いはずです。様々なアイデアで優れた内部通報制度を整備・運用している事業者がいらっしゃれば、できるだけ他社の参考にもしていただければと。なお、老婆心ながら、(制度が実施される前に)行政法に詳しい方に、こういった認証の付与、取消といったことの法的性質について、きっちり学んでおいたほうが良いかなぁと思いますね。

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2018年5月14日 (月)

コンプライアンス・リスクの格付けが始まるそうで。。。

5月13日の日経ニュースによりますと、東京商工リサーチさんが5月14日から国内外の企業の法令順守(コンプライアンス)リスクを算出するサービスを始めるそうです。40以上の国・地域の約3万5000件以上の制裁リストやメディア情報をもとに、法令順守に違反しているリスクを100段階で格付けする、とのこと。法令順守リスクなる概念は初めて知りました。

東証「企業不祥事予防のプリンシプル」に対応して、予防のための取組みの開示を準備されている企業が出てきていますが、このようなコンプライアンス・リスクが格付けの対象になりますと「なにがなんでも隠しちゃえ!」「バレたらバレたで、そん時に考えよう」といった企業も増えてくるような気がします。まぁ、そういった企業はマイナスポイントが大きく付く・・・といったことになるのかもしれませんが。

しかし、日本企業の場合、「法令順守」に問題がある企業は、むしろ「取引先に迷惑をかけてはいけない」との思いから自社に不正リスクを抱えてしまうことも多いわけでして、一概に法令順守リスクが高い企業=「おつきあいしたくない企業」とも言えないのではないかと。むしろ、こういった格付けの判断基準となるハードロー違反よりも、判断基準からはずれるソフトローを無視する企業のほうが「おつきあいしたくない企業」だったりするような気がします。

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2018年5月11日 (金)

KAM導入(監査基準の改訂)で監査役等の存在感は高まるか?

ゴールデンウイークも関係なく外部調査委員会の仕事で働き続けておりまして、なかなかブログを更新する時間がとれません(もうすこしお待ちください)。なので、ブログを書きたいネタだけのご紹介です。中身はほとんどありません(笑)。

5月8日、金融庁・企業会計審議会監査部会は「監査基準の改訂について(公開草案)」を取りまとめ、公表しています。紹介文に、

我が国の監査プロセスの透明性を向上させる観点から、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める案が取りまとめられました

とありますとおり、監査報告書の長文化(監査上の主要な検討事項を新たに記載する)を実施する、ということで監査基準が改訂されるようです。金融庁の内部告発本と称される「金融庁の基礎知識」の中で、筆者が(先行する英国のロールスロイス社の例を引用しながら)「いの一番で長文化を始めたロールスロイスさん、笑いものになっちゃったし、そんなにたいした制度でもないですよ、証券アナリストの人たちが絶滅するくらいかな・・」と指摘されていますので、私もやや疑心暗鬼なところもありますが、ともかくKAMの制度化には期待をしております。

普段なら、部会の議事録からキッチリと読んでいるのですが、残念ながらまだ読めておりません。ただ、ざーっと草案を眺めておりますと、会社法上の機関である監査役等(監査役、監査等委員、監査委員)の皆様が重要な役割を担うことがわかります。

(3)経営者及び監査役等の責任

経営者には、財務諸表の作成責任があること、財務諸表に 重要な虚偽の表示がないように内部統制を整備及び運用する 責任があること、継続企業の前提に関する評価を行い必要な 開示を行う責任があること  監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること

7 監査上の主要な検討事項

1 監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から 特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに、 当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に 重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として 決定しなければならない。

ということで、監査役等の今後の監査報告書における重要な責任が明記されるようになるようですね(草案段階ですが)。監査役等ときちんと連携をした、ということも、監査人の責任欄に記載することにもなるようです。金商法上の監査報告書にも「監査役等の責任」が明記される意味は(今後、いろいろな理由から)大きいかもしれません。

内部統制報告制度、不正対応監査基準にも監査役等は登場しておりましたが、監査報告書に統括責任者として監査役等が明記されるわけで、ぜひとも経営者の皆様に(これを機会に?)財務報告プロセスへの監査役等の関与がきわめて重要であることを認識していただければと(まぁ、こんなときにかぎって指名委員会等設置会社の監査委員(元)の方がインサイダー取引疑惑で監視委員会から強制調査されている、といったニュースが飛び込んできたりするのがナントも・・・ですが)。

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2018年5月 8日 (火)

ESG投資のE(環境)は商売のタネと考えるべきでは?

41xbaqer7hl_sx353_bo1204203200_ニッセイアセット・マネジメント社の井口譲二さんから、財務・非財務情報の実効的な開示なる新刊書を献本いただきました(どうもありがとうございます)。副題にもあるように、ESG投資に対応した企業報告の例なども紹介されていて、非財務情報報告、ESG投資への企業対応の現状を知るにはたいへん参考になる一冊です。

別冊商事法務さんは、有益な資料を専門家が整理をしてコメントを加える、といったスタイルが多いように感じます。しかしこの本は、井口さんの個人的な知見・経験に基づく解説が多くて良いですね。欧米企業や団体、機関投資家の考え方なども、井口さんのわかりやすい解説を拝読して初めて理解したところもあります。

ところで、これは私の(素人考えによる)独断にすぎませんが、ESG投資がさかんになる中で、どうもE(環境)への企業の取組みが、CSR(社会的責任)と結び付けて紹介されている例が多いように思いますが、もっと商売と結びついているのではないか・・・と感じております。むしろESGの中で一番ビジネスと関連性が深いのがE(環境)ではないでしょうか。

最近のVWの排ガス規制違反への刑事、民事の厳しい制裁をみれば明らかですが、環境対応は企業のリスク管理(コンプライアンス)の重要な要素です。また環境規制を「排出権取引」の発想からみていきますと、環境対策のアドバンテージは、企業の収益とも密接な関係に立つはずです。2040年までに英国ではガソリン車は走行できなくなる、HVもダメ・・・といったニュースが出ていましたが、環境問題とはあまり縁がないような企業が持っている多様な技術について、有益な取引の材料になる可能性が高まるのではないかと。つまり、E(環境)というのは事業戦略の攻めにも守りにも大きな影響を及ぼすものであり、そこを説明できるKPIを企業が上手にプレゼン(開示)しなければならないのではないかと思うのです。

ESG投資という視点において、「環境に優しい製品を作っています」とか「廃棄物ゼロ(リサイクル)を目指しています」といった事業戦略を売りにすることも大切ではありますが、この会社は10年後も生き残ることができるような(環境を売りにする会社が欲しがるような)技術を持っています、環境規制に違反して叩かれるような要素は当社のビジネスにはありません、といった「現実の商売のアピール」こそ、E(環境)によって評価されるべきではないのかなぁと考えております。従業員の方々にも「へえ、そうなんだ。ウチの会社の商品って、社会の役に立ってるんだぁ」と、承認欲求を満たしてもらえそうな工夫が求められているのではないかと。

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2018年5月 4日 (金)

法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用(その2)

いつも有益な情報をいただいております「いたさん」さんから教えていただいたのですが、日本公認会計士協会さんが、4月6日、監査・保証実務委員会研究報告第32号「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」を公表されたようです。少し長いですが、ようやく拝読させていただきました。

『本研究報告は、平成28年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言「―会計監査の信頼性確保のために―」において、「内部統制報告制度の運用状況については必要な検証を行い、制度運用の実効性確保を図っていくべき」とされたことを踏まえて、内部統制報告制度について所期の目的を達成するような運用が定着しているのかどうかについて検討を行い、その結果を取り纏めたもの』とのこと。

ようやく訂正内部統制報告書の運用に内在する課題についても光があたりましたね。私は2013年10月に「法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用」なるエントリーを書きましたが、ようやくそこで問題提起していたことが、日本公認会計士協会さんでも取り上げていただけることになったようで、少しうれしい気分です。最初にこの問題をブログで取り上げて、もう10年ほどですね。

このように考えますと、そもそもリスクを開示せよ、としている金商法の適用において、経営者も監査法人も法令違反の状態にあると言わざるを得ません。制度施行から5年が経過して、この点について誰も疑問を抱かないということは、まさに上場会社のすべてが、そして監査を担当するすべての監査法人が思考停止状態にあると言えます。ちなみに今年3月に出版しました拙著「法の世界における会計監査」の中でも、この問題について疑問を呈しましたが、これまで、この点についてはどなたからもご異論をいただいておりません。

ずいぶん上から目線で偉そうな物言いをしていますが(笑)、それだけ当時は内部統制報告制度の運用に危機感を抱いていた・・・ということでご容赦ください(いまは当時ほどの情熱が・・・)。<m(__)m>いま読み返してみて、当時と今と、私の意見は全く変わっておりません。

いずれにしましても、会計不正が発覚した企業において訂正内部統制報告書が提出される場合に、訂正の理由を経営者が詳細に開示するとなりますと、経営者の法的責任が問われるリスクは高まるでしょうね。日本の内部統制報告制度ではダイレクトレポーティングを採用していないわけですが、それでも会計監査人のリーガルリスクも考えられるわけです。会計士の皆様方が、この研究報告で課題とされていることを実践していただくことに期待します。まさに職業倫理に裏打ちされた会計プロフェッション、そして財務報告サプライチェーンにおける「ゲートキーパー」としての役割だと思います。

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2018年5月 1日 (火)

上場会社のCEO解任手続きの明示はむずかしい・・・と思う

4月30日の日経法務面特集では、近時のコーポレートガバナンス・コート改訂の目玉であるCEO解任手続の明示、および明示された手続の遵守(コード補充原則4-3②、同4-3③)について解説記事が掲載されていました。業績不振であるにもかかわらず、経営トップが居座り続けるような事態を回避し、日本企業のトップ人事の透明性を海外投資家にも説明しやすくする、ということが目的で改訂されるようです。

ただ、記事によりますと、この改訂4-3を上場企業が遵守することを前提として、「どう表記したらよいのかわからない」と、担当者が困惑している事情も紹介されています。某社の例として法令違反ある場合や著しい業績不振が認められる場合、といったことが指針として開示される予定のようです。しかし、そもそも業績不振が明らかな段階になって初めて解任・・・というのは遅すぎるわけでして(笑)、コードが改訂される趣旨は「たとえ業績が良くても、資本コストを考えない経営を続けている人を解任せよ」ということなので、このままだとコンプライしていますと言いながら、実質はコンプライ(遵守)していない(コードの解釈を誤る)、という規則違反(東証ルール違反)に陥る上場企業が増えるばかりになりそうです。

取締役の解任には正当理由が必要である(正当理由ない場合は損害賠償義務が会社に発生する)と会社法が明文で規定していますが、代表取締役の解職についてはそのような規定はありません。このあたりの説明は、代表取締役任用契約の存否、という会社法上の争点にも関わりますので明確には言えませんが、取締役会はいつでも代表取締役を自由に解職できる、というのが会社法の立場と考えられます。このような会社法の趣旨からみれば、代表取締役の解職指針を決めて、取締役会はこれに従え、というのも、やや問題がありそうです。もちろんコード策定者からすれば、会社法の趣旨を尊重したうえで、あえて指針を定めることは何ら問題ない、とおっしゃるはずです。しかし、解職される代表取締役からすれば「指針を作ったのだから、当社では代表取締役の解職事由を制限する合意があったと言える。だから、私の解職理由をきちんと指針に従って説明せよ」と抗弁を出すことも予想されます。当然裁判になれば長期化します。つまり、経団連さんの指摘するように「本来自由であるべき解職制度を硬直化してしまう」ことは大いに問題です。

「当社は改訂されたコード4-3②および③には従いません。当社はダイバーシティ(意見の多様化)を重視するため、取締役の多様な意見を代表者の選解任に反映させるためには、選解任にかかる一律の指針を設けないことが適切と判断いたしました。なお、コード4-3②および③の趣旨については賛同いたしますので、その趣旨は取締役会の実効性評価を適切に行うこと、取締役の指名、報酬に関する評価に社外取締役が関与することで実現してまいりたいと思います」

という形でエクスプレインするくらいが、ちょうど企業実務にも適しているのではないでしょうか。

機関投資家の皆様にとっても、上場会社がコンプライできないことを無理やり「コンプライしています」と宣言するよりも、詳細な理由の下で説明を受け、その説明内容の実現を対話を通して監視する道が確保されるほうが、よっぽど「形式から実質へ」と企業統治改革が進んでいることを実感できるのではないかと。

 

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