魅力のある経営者OBは「社外取締役」の器に収まらないのでは?
ガバナンスにとても熱心な企業の元社外取締役さんが「インサイダー取引容疑」で逮捕されたそうです。「ほれみい、M&Aや新規事業戦略の情報を社外役員に流したらこないなるねん!」と、また社外役員制度が批判されそうな話題ですね。逮捕された方は元経営者ということで、インサイダー・リスクについては人一倍理解しておられるはずで、私にはちょっと信じがたいところですが・・・
さて、私の尊敬する経営者OBの方々が、いずれも会社法上の社外取締役ではなく、非常勤業務執行取締役をされていることは前に申し上げました(たとえば3年前のエントリー「ガバナンス改革-非常勤役員と社外役員、その差は・・・」をご参照ください)。みなさま、経歴からみれば社長時代にきちんと結果を残してこられた方ばかりで、多くの会社から「社外取締役に」とのお声がかかったのですが、すべて断り、業務執行にこだわって非常勤業務執行取締役に就任されました。
先日、カルビー社のCEOの方が、RIZAP社のCOO(最高執行責任者)に就任されることが決まったと報じられておりましたが、会長就任を要請されたにもかかわらず、執行にこだわられた、とのことで、「そうだよね~。本気で他社のために、と思うなら、絶対業務執行やりたいよね~。」と改めて感じた次第です。
日本の上場会社の取締役会には「会話」はあっても「対話」はあまり感じられないように思います。お互いに意見が異なる人達が集まって、意見がぶつかり合って、そこですり合わせをして新たな意見を形成する(意見をぶつけた人たちみんなの勝利)という感覚があまり感じられません。結局、社長と意見を異にする人(たとえば社外役員)との「どっちの意見が通るか」みたいな感覚で議論がなされて、最終的に「まぁ、ご意見としては尊重いたします」「ここは〇〇さんの顔を立てて」といった形で、どっちかの意見が最終的に通る。最後は「とりあえず私の意見は議事録に残しておいてくださいね」といったことで議論が終わってしまう。
なので、ダイバーシティ(多様性)とか執行と監督の分離などといっても、そもそも意見をすり合わせる文化がないので実効性がみえてこないと思います。社長の選解任権の「見える化」は、たしかに実効性を高めるための手段ではありますが、もともと「意見をすり合わせる文化」がないので役には立たないように思います。取締役会の構成員の多様性や、モニタリングモデルが有効なのは、まずなによりも「自分とは異質な価値観や考え方を尊重して、違和感を持ちつつも、どこかですり合わせて妥協する勇気」を生む土壌が必要だと考えます。たとえば最近のガバナンス改革の場面では「ああ、昔とは時代が変わったんだ」と、前向きにガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを受容しつつも、「でもやっぱりコードはおかしいから、正直に『おかしい』と公言したほうがいいぞ」と考えるところから始めるべきではないかと。また、そういった会社だからこそ「株主との建設的な対話」が有用なのだと思います。
このたびの会社法改正の審議の中でも、一定の範囲であれば社外取締役の業務執行を認めるべきである、との意見が出されています。ただ、業務執行機関から独立した立場を堅持するならば、やはり「対話」の土壌は形成されない。非常勤ながら社長と一緒に、同じ目線で業務執行をやる、リスクを請け負う・・・といった土壌があるからこそ、社長も自分の意見を曲げてでも話を聞こう・・・といった「対話」が可能になるのではないでしょうか。「いくら社外取締役になっても、他社の役になんか立たないよ」と断言される経営者OBの方々は、監督の実効性など日本では何の意味もないと認識していることから、(非常勤でもいいから)社長と一緒になって業務執行にタッチする選択に至るのではないか、と考えております。
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