上場会社のCEO解任手続きの明示はむずかしい・・・と思う
4月30日の日経法務面特集では、近時のコーポレートガバナンス・コート改訂の目玉であるCEO解任手続の明示、および明示された手続の遵守(コード補充原則4-3②、同4-3③)について解説記事が掲載されていました。業績不振であるにもかかわらず、経営トップが居座り続けるような事態を回避し、日本企業のトップ人事の透明性を海外投資家にも説明しやすくする、ということが目的で改訂されるようです。
ただ、記事によりますと、この改訂4-3を上場企業が遵守することを前提として、「どう表記したらよいのかわからない」と、担当者が困惑している事情も紹介されています。某社の例として法令違反ある場合や著しい業績不振が認められる場合、といったことが指針として開示される予定のようです。しかし、そもそも業績不振が明らかな段階になって初めて解任・・・というのは遅すぎるわけでして(笑)、コードが改訂される趣旨は「たとえ業績が良くても、資本コストを考えない経営を続けている人を解任せよ」ということなので、このままだとコンプライしていますと言いながら、実質はコンプライ(遵守)していない(コードの解釈を誤る)、という規則違反(東証ルール違反)に陥る上場企業が増えるばかりになりそうです。
取締役の解任には正当理由が必要である(正当理由ない場合は損害賠償義務が会社に発生する)と会社法が明文で規定していますが、代表取締役の解職についてはそのような規定はありません。このあたりの説明は、代表取締役任用契約の存否、という会社法上の争点にも関わりますので明確には言えませんが、取締役会はいつでも代表取締役を自由に解職できる、というのが会社法の立場と考えられます。このような会社法の趣旨からみれば、代表取締役の解職指針を決めて、取締役会はこれに従え、というのも、やや問題がありそうです。もちろんコード策定者からすれば、会社法の趣旨を尊重したうえで、あえて指針を定めることは何ら問題ない、とおっしゃるはずです。しかし、解職される代表取締役からすれば「指針を作ったのだから、当社では代表取締役の解職事由を制限する合意があったと言える。だから、私の解職理由をきちんと指針に従って説明せよ」と抗弁を出すことも予想されます。当然裁判になれば長期化します。つまり、経団連さんの指摘するように「本来自由であるべき解職制度を硬直化してしまう」ことは大いに問題です。
「当社は改訂されたコード4-3②および③には従いません。当社はダイバーシティ(意見の多様化)を重視するため、取締役の多様な意見を代表者の選解任に反映させるためには、選解任にかかる一律の指針を設けないことが適切と判断いたしました。なお、コード4-3②および③の趣旨については賛同いたしますので、その趣旨は取締役会の実効性評価を適切に行うこと、取締役の指名、報酬に関する評価に社外取締役が関与することで実現してまいりたいと思います」
という形でエクスプレインするくらいが、ちょうど企業実務にも適しているのではないでしょうか。
機関投資家の皆様にとっても、上場会社がコンプライできないことを無理やり「コンプライしています」と宣言するよりも、詳細な理由の下で説明を受け、その説明内容の実現を対話を通して監視する道が確保されるほうが、よっぽど「形式から実質へ」と企業統治改革が進んでいることを実感できるのではないかと。
| 固定リンク
コメント
山口様の当ブログを十年ほど前に拝見して以来、初めてコメントさせて頂きます。その後私は病等で…久し振りの拝見拝読の上記内容に、僭越ながら大拍手、です。特に「そもそも〜遅過ぎる〜」の所は◎かと。
上場企業のCEOさん達とは縁遠い人生なれど、未だに幾多の不祥事が後を絶たない昨今、インテグリティやCSR、SRIを経て、日本/世界により良い世の中を構築しようとされている方々の足を引っ張る現状を打開する策として「ESG投資」の拡充に期待する一人です。ブログ閲覧者の末席に、今後もおいて頂ければ嬉しく思います。
投稿: にこらうす | 2018年5月 3日 (木) 13時41分
解職指針を定めたら、取締役会の解職が硬直的になってしまうとのことですが、「取締役会は、たとえば、以下に掲げる事由が生じた場合、あるいは生じる可能性がある場合、代表取締役の解職の必要性について検討する。前項の規定は、その他の理由による取締役解職指針の解職の検討を妨げるものではない」ということではダメなのでしょうか?
投稿: アーノンクール | 2018年5月22日 (火) 18時58分
「その他の理由による取締役解職指針の解職の検討」なる意味がちょっとわからないので、お答えになっているかどうかわかりませんが、要は「法律家が手続違反だけでなく、解任理由まで難癖つけて出てきてほしくない」というのが経済団体さんの本意ではないかと。たとえばアーノンクールさんのおっしゃることは一つの方法かと思います。ただ、そうなりますと、取締役の方々の社長解職検討が(指針とはいえ)善管注意義務のひとつとして明確に示されることになるのかな、と思います。その点を覚悟したうえでの指針作り、ということであれば、そういった手法もとりえるのではないかと。
投稿: toshi | 2018年5月23日 (水) 17時37分