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2018年5月28日 (月)

社員に司法取引に応じることを禁止することはできるか?

先週の企業法務の話題はGDPR(EU一般データ規則)でもちきりでしたが、今週はなんといっても日本版司法取引の施行(6月1日)ではないでしょうか。日曜日(5月27日)の日経朝刊「ニュースフォーキャスト」でも、日本版司法取引の導入に関する特集記事が掲載されていました。当ブログでも、ずいぶんと前から改正刑事訴訟法に関するエントリーを書いてきましたが、3月に最高検の「運用に関する考え方」(法律のひろば2018年4月号に掲載)が策定されて以降は、とりあえず静観しよう、と考えるに至りました。

そうはいっても、今朝の日経記事にあるように、企業の関心がとても高いようです。大手法律事務所には「社内規定で社員が司法取引に勝手に応じないよう義務付けることはできるか」といった問い合わせが絶えないそうです。検察官から司法取引を提案される場合もあるでしょうし、また、会社自身から社員に司法取引を勧められる場面もあるでしょうし、逆に企業または社員自身が「他人の犯罪」として司法取引に巻き込まれることもあるので、いかなる場面を想定して「禁止を義務付ける」のか、少しわかりにくいのですが、企業として、日本版司法取引にどう対応すべきか、逡巡しているところが多いと思います。

ところで「社員が司法取引に勝手に応じることを禁止することを社内規則で定める」ということは果たして可能なのでしょうか?これは私の勝手な意見でありますが、社員には(労働契約上)会社に対する信用秩序維持義務がありますので、会社の信用毀損につながりかねない司法取引の協議を行うことについては、これを禁止するということもあながちおかしなことではないと思われます。ただ、①司法取引の対象となる財政経済犯罪には、租税法違反や贈収賄関連犯罪を除き、ほとんどの経済犯罪が公益通報の対象となり、②かりに公益通報の対象事実ではなくても、必要不可欠な行為の範囲内であれば公益のために企業利益を損なうこともやむをえないこと、などから、社員の債務不履行については違法性が阻却されることも多いと思われます。したがって、たとえ禁止規定を設けたとしても、それは訓示規定(努力規定)にすぎず、罰則をもって強制することはできない(むしろ企業が社員に対して不法行為責任を負う)のではないでしょうか。

本当に「司法取引に応じることを禁止したい」ということであれば、内部通報制度の実効性を高めて、企業不正の事実をいかにして早期に情報収集するべきかを考えるほうが、企業にとっては適切ではないかと考えます。なお、(これは広報ですが)日本版司法取引の運用に関する最高検の考え方が示されたことを前提に、企業がどのようなスタンスで司法取引制度に臨むべきか、近日発売の経済誌で4000字程度の拙稿を掲載いただく予定なので、またご関心がありましたらそちらをお読みいただければと。

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コメント

司法取引に応じて逮捕は免れたとしても、会社として法に触れた事を行ったことは間違いないので「当社では、諭旨解雇など懲戒処分します」と打ち出しておけば、牽制にはなるのではないでしょうか?。

投稿: 素朴な疑問者 | 2018年6月 4日 (月) 18時05分

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